医療事故調査、事故全体の7割超で院内調査が完了しているが、調査期間は長期化傾向―日本医療安全調査機構
2019.3.29.(金)
医療事調査告制度が2015年10月にスタートしてから2018年末までに1234件の医療事故が報告され、うち73.6%で院内調査が完了している。都道府県別に「人口100万人当たり事故報告数」を見ると、2017年に続き、2018年も宮崎県が最多となっており、要因分析が待たれる―。
日本で唯一の医療事故調査・支援センターに指定されている日本医療安全調査機構が3月20日に公表した2018年の「医療事故調査・支援センター 年報〈事業報告〉」から、こうした状況が明らかになりました(機構のサイトはこちら)。
目次
大規模病院ほど1床当たり事故件数が多く、要因分析が待たれる
2015年10月から、すべての医療機関において、院長など管理者が予期しなかった「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産」のすべてを、医療事故・調査支援センター(以下、センター)に報告することを義務づける「医療事故調査制度」が始まりました。「責任追及」ではなく、「事故の原因を究明していく中で『再発防止』策を構築する」ことが制度の主目的です(関連記事はこちら)。
医療事故調査制度の大きな流れは、▼管理者が医療事故を確認した場合、速やかにセンターに事故報告の旨を報告する → ▼当該医療機関で事故原因の調査【院内調査】を行い、その結果をセンターに報告する → ▼当該医療機関が、調査結果に基づいて事故の内容や原因について遺族に説明する(調査結果報告書などを提示する必要まではない) → ▼センターが事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを練る—と整理できます。
センターは精力的に「再発防止策」を検討しており、これまでに(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析(5)腹腔鏡下胆嚢摘出術に係る死亡事例の分析(6)栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析(7)一般・療養病棟における非侵襲的陽圧換気(NPPV)及び気管切開下陽圧換気(TPPV)に係る死亡事例の分析—という7つの再発防止策を公表しています。
また医療事故報告の状況も毎月、迅速に公表。今般、2018年・1年間の状況を年報としてまとめられました。
まず、報告された医療事故の件数を見ると、2018年の1年間で377件、1か月平均で31件強(31.4件)の報告がある計算です。前年(370件)に比べ7件・1.9%の増加となりました。
377件の事故報告を病床規模別に分類すると、▼300-399床:75件(全体の19.9%)▼100-199床:52件(同13.8%)▼400-499床:50件(同13.3%)▼200-299床:35件(同9.3%)▼500-599床:34件(同9.0%)▼600-699床:30件(同8.0%)―などで多くなっています。100-499床の病院で、2018年に報告された医療事故の56.2%(前年に比べ3.8ポイント増)を占めています。無床のクリニックからも、2018年には4件(前年に比べ1件減)の医療事故が報告されました。
また「1床当たりの報告件数」で見てみると、平均は「0.23件」(前年に比べ0.01件増)ですが、▼800-899床:1.1件(同0.29件増)▼700-799床:0.52件(同0.11件減)▼600-699床:0.43件(同増減なし)▼900床以上:0.41件(同0.07件減)▼500-599床:0.38件(同0.02件減)―となっています。大規模病院で死亡事故が多く、また800-899床で前年に比べて大幅に事故が増加している状況が伺えます。報告すべき医療事故は「予期しなかった死亡事例」であり、「大規模病院で重症患者を多くうけれいている」ことがこの背景にあるとは考えにくく、詳細な分析が待たれます。
人口100万人当たりの医療事故、2017年に続き、2018年も宮崎県が最多
制度発足(2015年10月)から2018年12月までに報告された事故は合計1234件となります。これを都道府県別に「人口100万人当たり報告件数」として見ると、全体平均では3.0件ですが、▼宮崎県:6.2件(前年に比べて0.7件減)▼京都府:5.0件(同1.1件増)▼熊本県:4.9件(同0.6件増)▼三重県:4.8件(同0.6件減)―などで多く、▼宮城県:1.5件(同増減なし)▼山梨県:1.5件(同0.1件減)▼高知県:1.7件(同1.1件増)▼大阪府:1.8件(同0.3件減)▼山口県:1.8件(同0.2件増)―などで少なくなっており、地域間の格差があることが分かります。宮崎県は、2017年も「群を抜く最多」であったことから、その要因を早急に分析し、対策を立てる必要がありそうです。
また、最多の宮崎県と最少の宮城県・山梨県との間には、4.1倍の格差があります(前年の11.5倍に比べて格差は大幅に縮小)。
事故発生報告から院内調査結果報告までの期間は延伸
次に、「事故発生から院内調査結果報告までの平均期間」(333.9日で、前年から69.2日延伸)を「事故発生から発生報告まで」と「発生報告から院内調査結果報告まで」とに分けて見てみると、前者は58.4日(前年に比べて15.8日延伸)、後者は275.5日(同53.4日延伸)で、後者の「発生報告から院内調査結果報告まで」の期間が延びているようです。
院内調査には一定程度の時間がかかりますが、制度発足以降、ノウハウが蓄積されてきている点を加味すれば、徐々に「院内調査期間」は減少していくものと考えられます。期間延伸の背景に何があるのか、この点も分析が待たれます。
なお、事故発生から院内調査までの期間が12か月以上を要しているケース(75件)について、その理由を見てみると、▼制度の理解不足(18件)▼遺族への調査結果の説明やその後の対応に時間を要した(17件)▼報告書の作成に時間を要した(11件)▼外部委員の派遣までに時間を要した(9件)―などが多く、外部(医師会や病院団体、大学病院など)による更なる支援が求められそうです。
院内調査のスピードは増加傾向に
前述した「医療事故報告の流れ」のとおり、調査は「まず、事故を報告した医療機関で行う」ことが求められます。調査の中で「院内の体制やルール、遵守状況などに問題がある」ことなどに自ら気づくことで、効果的な再発防止策(普遍的な再発防止策ではない)につながると考えられるからです。
2018年に完了した院内調査は361件で、制度発足からの累計では908件となりました。2018年12月までに報告された1234件の医療事故のうち、73.6%で院内調査が完了しています。前年から20.1ポイントの大幅上昇となっている点には好感が持てます。
また、調査において「解剖」や「Ai(Autopsy imaging:死亡時画像診断)」を行っているケースは、2018年には解剖:39.6%(前年から1.8ポイント増)、Ai:32.1%(同3.7ポイント減)となりました。
さらに外部委員の院内調査への参加状況を見ると、2018年は85.6%で参加があり、前年から1.0ポイント減少してしまいました。
センターへの調査依頼、2018年は遺族から20件、医療機関から3件
医療事故調査制度のベースは「事故が発生した医療機関での院内調査」となりますが、遺族や医療機関からセンターに調査を依頼することも可能です。遺族が院内調査の結果等に納得できない場合や、小規模な医療機関で十分な調査体制を整えられないようなケースが考えられます。ただし、院内調査が適切に行われているかという視点の調査です。
センターへの調査依頼件数は2018年には23件あり、前年から16件減少しました。内訳は、遺族から20件(依頼全体の87.0%)、医療機関から3件(13.0%)となっています。遺族からの依頼割合が、前年に比べて4.9ポイント増加しました。
調査依頼の理由を見ると、遺族は「院内調査結果(治療や死因など)に納得できない」が圧倒的です。
遺族からの相談内容は「事故か否かの判断」で、報告対象外が半分超
なお、医療事故調査制度の報告対象は「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡または死産」のうち「管理者が予期しなかったもの」とされていますが、現場では判断に迷うケースも少なくありません。
このためセンターには数多くの相談が寄せられます。2018年・1年間になされた相談件数は1989件で、前年に比べて56件・2.9%増加しました。1か月当たりの相談件数は平均で166件弱。うち医療機関からが819件(全体の44.8%で、前年から7.9ポイント低下)、遺族などからが976件(同55.2%)という状況です。遺族などからの相談は「報告対象の判断」が圧倒的ですが、制度発足前の死亡事故(報告対象ではない)も半数超あり、制度への正しい理解が求められます。
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