日慢協が武久会長を再任、「高度慢性期医療」の提供を目指す
2018.6.21.(木)
日本慢性期医療協会が6月21日に通常総会を開催し、武久洋三氏(博愛記念病院院長、徳島県)を会長に再任しました(6期目)。また、副会長には、▼中川翼氏(定山渓病院名誉院長、北海道)▼安藤高夫氏(医療法人社団永生会理事長、衆議院議員、東京都)▼矢野諭氏(多摩川病院理事長、東京都、新任)▼池端幸彦氏(池端病院院長、福井県)▼橋本康子氏(医療法人社団和風会理事長、香川県)—を選出しています(5名中2名が新任)。
ベースを20対1医療療養におき、地域包括ケア病棟と介護医療院とのケアミクス目指しては
総会後に記者会見に臨んだ武久会長は、日慢協が今後2年間で進める10項目の「2018行動宣言」を発表しました。理事会で承認が得られたものです。
(1)高度慢性期医療の確立
(2)地域包括ケア病棟機能の取得と地域貢献
(3)人間力回復リハビリテーションの徹底
(4)在宅医療への積極的関与と支援
(5)低栄養と脱水、認知症に対する理解と実践
(6)病院・診療所の機能分化と連携
(7)総合診療医機能の強化と多職種連携
(8)重度障害者に対するQOLの維持向上
(9)介護医療院転換への積極的関与
(10)「寿命100歳時代」に向けた医療・介護の一体化
まず(1)の「高度慢性期」とは聞きなれない言葉ですが、武久会長は「急性期病院での不十分な栄養管理などによって▼低栄養▼脱水▼腎不全▼心不全—などの因子が複雑に絡み合い、『王道の治療』を施しえない患者に対し、適切な栄養・水分補給はもとより、傷病の治癒・日常生活への復帰を目指して提供する医療」である旨を説明。多臓器を対象とした「総合的な医療提供」が求められることから(7)とも、「十分な栄養・水分補給により体力を回復すること」が求められるため(5)とも、さらに「日常復帰」を目指すことから(3)とも密接に関連します(関連記事はこちら)。
武久会長は、従前より「急性期病院から慢性期病院に転院する患者の多くは、低栄養・脱水状態となっており、慢性期病院では治療の前に栄養・水分補給をしなければならない」ことを問題視(関連記事はこちら)。今般、提唱する高度慢性期医療について「(険しさで名高い)奥穂高岳の稜線を歩くように、少しでも判断を間違えれば大変なことになってしまう難しい医療だ。しかし、こうした患者に最適な医療を提供し、日常復帰をなしえた場合には、患者・家族にとっても、医療提供側にとっても大きな喜びとなる。こうした医療提供を日慢協は行っていく」と強調しています。
また(2)では、今般の2018年度診療報酬改定で【地域包括ケア病棟(病室含む)】において「地域からの入院患者を積極的に受け入れ、在宅復帰を促す」機能をより高く評価するような見直しが行われた点にも触れ(関連記事はこちら)、「日慢協会員病院(1100程度)の中で地域包括ケア病棟を届け出ているところは100施設未満であり、まだまだ少ない。『地域の在宅高齢者が急性増悪した場合などは、一般病院ではく、我々、日慢協会員の慢性期病院が対応するんだ』との意識を高め、今後、100施設、200施設と地域包括ケア病棟の届け出病院が増えていくような取り組み」との考えを示しました。
武久会長は、近く地域包括ケア病棟・介護医療院ともに10万床規模になると見通し、「ベースを20対1の療養病棟に置いたうえで、その一部を機能強化して地域包括ケア病棟とし、また一部を『看取り機能』等を強化した介護医療院にする」形が、慢性期病院の「当面、目指す姿」であると考えているようです(関連記事はこちら)。
なお、介護医療院については「小規模な町村では介護保険料の高騰を危惧し、医療療養からの転換が難しい」との課題が指摘されていますが、武久会長は「近く、厚生労働省から一定の方針が示されるのではないか」と期待を寄せました(関連記事はこちら)。
また、(3)は武久会長が従前より提唱してきた「在宅で安定した生活を送れるよう、排泄と接触のリハビリテーションに力を入れる」構想を、より推進するものです(関連記事はこちら)。
こうした点に力を入れることで、地域の診療所医師や患者から信頼を得ることで「地域包括ケアシステムの構築」が進むとの考えも強調しています。
慢性期などpost acute機能を持つ病院が中心となり、「街づくり」にまで関与せよ
なお、こうした日慢協の方針に関連して、通常総会の中で特別講演を行った産業医科大学の松田晋也教授は、▼高齢化が進行する中では、急性期だけでなく、地域の「慢性期医療の確保」が極めて重要となり、地域医療構想調整会議で慢性期医療提供者も積極的に発言すべきである▼慢性期などpost acute機能を持つ病院を中心とした「街づくり」を考えていく必要がある―旨を提言しています。後者に関しては、例えば「病院が、地域の高齢者が通えるレストランなどを作ることで、▼家からレストランまでの歩行で筋力強化▼レストランで会話することで認知機能の維持▼バランスのとれた食事による栄養管理—を実現できる」と実例を交えて説いています。
また松田教授は【SCR】(地域における年齢調整後のレセプト出現率)という指標を用いることで「地域の医療提供体制」を客観視し、今後の方向性を考えてはどうかとも提言しています。SCRは、全国平均のレセプト出現率に比べて、地域でのレセプト出現率が高いか低いかを見るもので、例えば「外来のSCRが100を超えていれば、全国に比べて外来患者が多く、診療所も充実している」「在宅医療のSCRが100に届かなければ、全国に比べて在宅医療提供体制が不足している」などと判断できます。その際、在宅医療の充実に向けて「新規参入が期待できるのか」「新規参入が期待できない場合、既存の慢性期病院等の活用が可能なのか」などと検討することができます。
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