2019年12月に医療事故が35件、整形外科と消化器科で各5件など―日本医療安全調査機構
2020.1.14.(火)
昨年(2019年)12月に医療事故調査・支援センター(以下、センター)に報告された医療事故は35件。2015年10月の医療事故調査制度発足から累計1607件の医療事故が報告され、このうち79.2%の1272件で院内調査が完了している。一般国民へも制度が浸透してきているが、依然として「正しい理解」が重要課題―。
日本で唯一のセンターである「日本医療安全調査機構」が1月10日に公表した「医療事故調査制度の現況報告(12月)」から、こうした状況を明らかになりました(機構のサイトはこちら)。
2019年12月の医療事故報告件数、整形外科と消化器科で各5件
2015年10月から、すべての医療機関等(病院、診療所、助産所)において、管理者(院長など)が予期しなかった「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産」のすべてをセンターに報告する義務が課せられました【医療事故調査制度】。事故の原因・背景を調査・分析して「再発防止策」を構築。それを医療現場に広く共有し、医療安全の確保を目指す制度です。
医療事故調査制度の概要は、次のように整理できます。
▽管理者(院長など)は、医療事故の発生を確認した際、速やかにセンターへ事故発生を報告する
↓
▽事故が発生した医療機関で、自ら事故原因を調査【院内調査】し、調査結果をセンターに報告する
↓
▽当該医療機関は、調査結果に基づいて事故の内容や原因を遺族に説明する(調査結果報告書の提示までは義務付けられていない)
↓
▽センターで事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを練る
センターでは重大事故について詳細を分析した結果を、これまでに9つの提言としてまとめています。
(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―
(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析
(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析
(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析
(5)腹腔鏡下胆嚢摘出術に係る死亡事例の分析
(6)栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析
(7)一般・療養病棟における非侵襲的陽圧換気(NPPV)及び気管切開下陽圧換気(TPPV)に係る死亡事例の分析
(8)救急医療における画像診断に係る死亡事例の分析
(9)入院中に発生した転倒・転落による頭部外傷に係る死亡事例の分析(関連記事はこちら)
また我が国唯一のセンターである日本医療安全調査機構は、毎月、医療事故報告の状況を公表しています(前月の状況はこちら、前々月の状況はこちら)。昨年(2019年)12月には、新たに35件の医療事故が報告され、制度発足からの累計報告件数は1607件となりました。
昨年(2019年)12月に新たに報告された医療事故35件の内訳は、病院から34件、診療所から1件でした。制度発足からの累計では、病院から1517件(事故全体の94.4%)、診療所から90件(同5.6%)となっています。
昨年(2019年)12月に新たに報告された事故を診療科別に見ると、▼整形外科:5件▼消化器科:5件▼外科:3件▼内科:3件▼循環器内科:3件―などで多くなっています。制度発足からの累計を見ると、▼外科:264件(同16.4%)▼内科:203件(同12.6%)▼整形外科:136件(同8.5%)▼循環器内科:128件(同8.0%)▼消化器科:126件(同7.8%)―などで多くなっています。
センターへの相談件数は累計8304件、一般国民の正しい理解が依然課題
センターへ報告しなければならない医療事故は、医療機関内で生じたすべての死亡・死産事例ではありません。前述のとおり、死亡・死産事例のうち「院長などの管理者が、▼予期せず▼医療に起因し、または起因すると疑われる—もの」に限定されます。
例えば、火災に巻き込まれ、極めて重度の熱傷を負った被害者が救急搬送され、適切な治療の甲斐もなく死亡してしまったケースなどでは、一般に「死亡が予期」されることからセンターへの報告は必要ないでしょう。ただし、そうしたケースでも明らかな処置上のミスなどがあり通常の経過とは異なるプロセスで死亡した場合には、「予期しなかった」医療事故としてセンターへの報告が必要となってくるでしょう。
もちろん、どこまでが「予期された」医療事故なのかの判断は難しく、医療現場では「患者が死亡したが報告すべき医療事故に該当するのだろうか?」という疑問、また「初めての医療事故で、センターへどのように報告すればよいのか分からない」といったケースも生じることがあります。一方、遺族の中には「家族が医療機関で死亡したが、医療事故として報告されていないようだ。事故を隠蔽しようとしているのではないか?」との疑念をもつ方もおられるでしょう。
こうした疑問・疑念を放置することは制度の信頼性を揺るがしてしまうため、センターでは相談対応を行っています。昨年(2019年)12月には新たに194件の相談がセンターに寄せられ、制度発足からの累計では8304件となりました。昨年(2019年)12月に新たに寄せられた相談の内訳は、▼医療機関から:88件▼遺族などから:93件▼その他・不明:13件―でした。
医療機関からの相談内容を見ると、最も多いのは「報告の手続き」に関するもので58件(医療機関からの相談全体の54.2%)。次いで「院内調査に関するもの」22件(同20.6%)、「報告すべき医療事故か否かの判断」13件(同12.1%)などとなっています。医療現場において制度が正しく浸透してきていることが伺えます。
一方、遺族などからの相談内容を見てみると、「医療事故に該当するか否かの判断」が83件(遺族などからの相談全体の82.2%)と圧倒的多数を占めています。相談件数の多さを見ると国民に制度が浸透してきていることが確認できますが、「制度開始前の事故事例」「生存事例」など、そもそも報告対象とならないものに関する相談も含まれており、一般国民の「正しい理解」がやはり重要な課題として残っています。
センターへの調査依頼は新たに遺族から2件
前述のとおり、医療事故調査制度の目的は「再発防止」にあります。効果的な再発防止のためには、事故が生じた医療機関等自らが事故の内容や背景を調査し、自院の体制・手続き・ルールなどに問題がなかったかを検証する中で「自院の課題」を発見し、そこから防止策構築に繋げることが重要と考えられています。このため「まず事故が発生した医療機関が自ら原因究明に向けた調査【院内調査】を行う」ことが求められています。
昨年(2019年)12月に新たに院内調査が完了した事例は43件で、制度発足からの累計では1272件となりました。これまでに報告された全1607件の医療事故のうち79.2%(前月から1.0ポイント増)で院内調査が完了しています。
なお、遺族側には「院内調査結果に納得がいかない」「院内調査が遅い。何かを隠そうとしているのではないか」との疑念が生じることがあるかもしれません。一方で、診療所や助産所などの小規模施設では、「自前で院内調査を実施することが難しい」ケースもあるでしょう(医師会や病院団体などの支援団体によるサポート体制あり)。そこでセンターでは「遺族や医療機関等からの調査依頼を受け付ける」体制を整備しています。ただし「センターが最初から調査する」のではなく、「院内調査が時期・内容ともに適切に実施されたのか」という観点で調査を行うことになります。
昨年(2019年)12月にセンターへ寄せられた調査依頼は2件あり、いずれも遺族等からのものでした。制度発足からの累計調査依頼件数は114件(遺族から94件・82.5%、医療機関から20件・17.5%)となり、またセンター調査の進捗状況を見ると34件で調査が終了しています(前月から1件増加)。
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