2019年6月末までに1420件の医療事故、院内調査スピードがさらに加速し75.4%で調査完了―日本医療安全調査機構
2019.7.16.(火)
今年(2019年)6月に医療事故調査・支援センター(以下、センター)に報告された医療事故は40件。2015年10月の医療事故調査制度発足から累計1420件の医療事故が報告され、うち75.4%の1070件で院内調査が完了している。制度の課題としては、依然として「一般国民側の正しい理解」があげられる―。
日本で唯一のセンターである「日本医療安全調査機構」は7月9日に「医療事故調査制度の現況報告(6月)」を公表し、こうした状況を明らかにしました(機構のサイトはこちら)。
目次
2019年6月の医療事故報告件数、循環器内科で7件、内科で6件、外科で5件
2015年10月より、すべての医療機関等(病院、診療所、助産所)に対して、院長などの管理者が予期しなかった「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産」のすべてをセンターに報告する義務が課せられています【医療事故調査制度】。事故の原因・背景を調査・分析して「再発防止策」を構築し、医療現場に広く共有していくことを目的とする制度です(関連記事はこちら)。
すでにセンターでは重大事故について詳細を分析した結果を提言としてまとめ、順次公表しています(2019年6月までに9つの提言)。
(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―
(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析
(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析
(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析
(5)腹腔鏡下胆嚢摘出術に係る死亡事例の分析
(6)栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析
(7)一般・療養病棟における非侵襲的陽圧換気(NPPV)及び気管切開下陽圧換気(TPPV)に係る死亡事例の分析
(8)救急医療における画像診断に係る死亡事例の分析
(9)入院中に発生した転倒・転落による頭部外傷に係る死亡事例の分析
医療事故調査制度の概要は、大きく次のように整理できます(関連記事はこちら)。
▼医療事故の発生を確認した管理者(院長など)は、速やかにセンターへ事故発生の旨を報告する
↓
▼事故が発生した医療機関が自ら事故原因を調査【院内調査】し、調査結果をセンターに報告する
↓
▼当該医療機関は、調査結果に基づいて事故の内容や原因を遺族に説明する(調査結果報告書の提示までは義務付けられていない)
↓
▼センターで事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを練る
我が国唯一のセンターに指定されている日本医療安全調査機構は、毎月、医療事故報告の状況を迅速に公表しています(前月の状況はこちら、前々月の状況は こちら)。今年(2019年)6月には、新たに40件の医療事故が報告され、制度発足からの累計報告件数は1420件となりました。
今年(2019年)6月に新たに報告された事故40件の内訳は、病院から37件、診療所から3件でした。制度発足からの累計では、病院から1340件(事故全体の94.4%)、診療所から80件(同5.6%)となっています。
今年(2019年)6月に新たに報告された事故を診療科別に見ると、▼循環器内科:7件▼内科:6件▼外科:5件―などで多くなっています。制度発足からの累計では、▼外科:236件(同16.6%)▼内科:176件(同12.4%)▼消化器科:114件(同8.2%)▼整形外科:115件(同8.1%)▼循環器内科:115件(同8.1%)―などという状況です。
センターへの相談件数は累計7269件、国民の正しい理解に向けた対応が必要
センターへの報告が義務付けられている医療事故は、医療機関内で生じたすべての死亡・死産事例ではありません。上述したように、死亡・死産事例のうち「院長などの管理者が▼予期せず▼医療に起因し、または起因すると疑われる—もの」に限定されます。例えば交通事故の被害者が瀕死の状態で救急搬送され、適切な治療の甲斐なく死亡してしまったケースなどでは、一般に「死亡が予期」され、センターへの報告は必要ありません。ただし、そうした患者であっても、明らかに処置上のミスなどがあり通常の経過とは異なるプロセスで死亡した場合には、「予期しなかった」ものとしてセンターへの報告が必要となってきます。
もちろん、どこまでが「予期された」ものなのかは微妙なところであり、医療現場では「患者が死亡したが、報告すべき医療事故に該当するのか?」という疑問、また「初めて事故を報告するが、センターへどのように報告すればよいのか?」といった疑問が生じることがあるでしょう。
一方、遺族の中には「家族が医療機関で死亡したが、医療事故として報告されていない。事故を隠蔽しようとしているのではないか?」との疑念をもつ方もいらっしゃるでしょう。 こうした疑問・疑念の放置は制度の信頼性を失わせてしまうため、センターでは相談対応を行っています。今年(2019年)6月には、新たに170件の相談がセンターに寄せられ、制度発足からの累計では7269件にのぼっています。
今年(2019年)6月に新たに寄せられた相談の内訳は、▼医療機関から:82件▼遺族などから:78件▼その他・不明:10件―でした。
医療機関からの相談内容を見てみると、最も多いのは「報告の手続き」に関するもので56件(医療機関からの相談の62.2%)。次いで「院内調査に関するもの」18件(同20.0%)、「報告すべき医療事故か否かの判断」12件(同13.3%)などとなっています。医療現場においては、制度の趣旨や内容が相当程度浸透し、理解も進んでいることが分かります。
一方、遺族などからの相談内容をみると、「医療事故に該当するか否かの判断」が58件(遺族などからの相談の73.4%)と圧倒的多数を占めています。ただし、こうした医療事故該当性に関する相談の中には「制度開始前の事例」「生存事例」など、そもそも報告対象とならないものも含まれています。「制度の正しい理解」が依然として重要な課題となっています。
センターへの調査依頼は新たに3件、95件の依頼中21件でセンター調査完了
上述のとおり、医療事故調査制度の目的は「再発防止」にあります。再発防止のためには、事故が生じた医療機関等自らが調査を行い、自院の体制や手続き・ルールなどに問題がなかったかを検証する過程で「院内の課題」を発見し、そこから防止策構築に繋げることが重要と考えられ、「まず事故が発生した医療機関が、自ら原因究明に向けた調査【院内調査】を行う」ことが求められます。
今年(2019年)6月に新たに院内調査が完了した事例は36件で、制度発足からの累計では1070件となりました。これまでに報告された全1420件の医療事故のうち75.4%(前月から0.5ポイント増加)で院内調査が完了しています。院内調査のスピードがさらに上がっています。
なお、遺族側には「院内調査の結果に納得がいかない」「院内調査が遅すぎる。何かを隠しているのではないか」との思いが生じることもあるでしょう。一方で、診療所や助産所など小規模施設では「自前で院内調査を実施することが難しい」ケースもあると思われます(医師会や病院団体などの支援団体によるサポート体制あり)。
そこでセンターでは、「遺族や医療機関等からの調査依頼を受け付ける」体制も整備しています。ここでは「センターが最初から調査する」のではなく、「院内調査が時期・内容ともに適切に実施されたのか」という観点での調査が中心となります。
今年(2019年)6月に、センターになされた調査依頼は3件で、すべて遺族等からの依頼でした。制度発足からの累計調査依頼件数は95件(遺族から77件・81.1%、医療機関から18件・18.9%)です。センター調査の進捗状況を見てみると、21件で調査が終了しています(前月から1件増加)。
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