GemMed | データが拓く新時代医療 > 医療・介護行政全般 > 2019年4月末までに1342件の医療事故、院内調査スピードは再び増し74.8％で調査完了―日本医療安全調査機構

2019年4月末までに1342件の医療事故、院内調査スピードは再び増し74.8％で調査完了―日本医療安全調査機構

2019.5.10.（金）

医療・介護行政全般

　今年（2019年）4月に医療事故調査・支援センター（以下、センター）に報告された医療事故は34件。2015年10月の医療事故調査制度発足から累計1342件の医療事故が報告され、うち74.8％の1004件で院内調査が完了している。センターへの遺族からの相談件数は96件となり、国民全体に制度が浸透してきているが、「制度への正しい理解」が依然として大きな課題である―。

　日本で唯一のセンターである「日本医療安全調査機構」が5月9日に発表した「医療事故調査制度の現況報告（4月）」から、こういった状況が明らかになりました（機構のサイトはこちら）。

1 2019年4月の医療事故報告件数、外科・消化器科・循環器内科で各5件
2 センターへの相談件数は累計6929件、国民の正しい理解が依然として課題
3 センターへの調査依頼は新たに1件、89件の依頼中20件でセンター調査完了

2019年4月の医療事故報告件数、外科・消化器科・循環器内科で各5件

　すべての医療機関等（病院、診療所、助産所）には、院長などの管理者が予期しなかった「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産」のすべてをセンターに報告する義務が2015年10月から課せられています【医療事故調査制度】。事故の原因を調査・分析して「再発防止策」を構築し、医療現場に広く共有していくことを目的とする制度です。

すでにセンターでは重大事故について詳細を分析した結果を提言としてまとめ、順次公表しています（2019年4月までに8つの提言）。
（1）中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第１報―
（2）急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析
（3）注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析
（4）気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析
（5）腹腔鏡下胆嚢摘出術に係る死亡事例の分析
（6）栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析
（7）一般・療養病棟における非侵襲的陽圧換気（NPPV）及び気管切開下陽圧換気（TPPV）に係る死亡事例の分析
（8）救急医療における画像診断に係る死亡事例の分析

　
　医療事故調査制度の概要は、次のように整理できます（関連記事はこちら）。

▼医療事故の発生を確認した管理者（院長など）は、速やかにセンターへ事故発生の旨を報告する
↓
▼事故が発生した医療機関が自ら事故原因を調査【院内調査】し、調査結果をセンターに報告する
↓
▼当該医療機関は、調査結果に基づいて事故の内容や原因を遺族に説明する（調査結果報告書の提示までは義務付けられていない）
↓
▼センターで事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを練る

医療事故調査制度の概要、「院内調査」を第一に行い、「医療事故調査・支援センター」がそれを補完する格好で調査が行われ、再発防止策に結びつける

　　
　我が国唯一のセンターに指定されている日本医療安全調査機構は、毎月、医療事故報告の状況を迅速に公表しています（前月の状況はこちら、前々月の状況はこちら）。今年（2019年）4月には、新たに34件の医療事故が報告され、制度発足からの累計報告件数は1342件となりました。

　今年（2019年）4月に新たに報告された事故34件は、すべて病院からのものでした。制度発足からの累計では、病院から1266件（事故全体の94.3％）、診療所から76件（同5.7％）となっています。

　今年（2019年）4月に新たに報告された事故を診療科別に見ると、▼外科5件▼消化器科5件▼循環器内科5件▼内科4件▼心臓血管外科3件―などで多くなっています。制度発足からの累計を見てみると、▼外科227件（同16.9％）▼内科166件（同12.4％）▼消化器科113件（同8.4％）▼整形外科107件（同8.0％）―などという状況です。
医療事故の現況（2019年4月）1　190509
　

センターへの相談件数は累計6929件、国民の正しい理解が依然として課題

　センターに報告しなければならない医療事故は、医療機関内で生じたすべての死亡・死産事例ではありません。前述したように、死亡・死産事例のうち「院長などの管理者が▼予期せず▼医療に起因し、または起因すると疑われる—もの」に限定されます。例えば火災などに巻き込まれ瀕死の状態で救急搬送された患者が、適切な治療を施したにも関わらず死亡してしまった場合には、一般に「死亡が予期」され、そもそも医療事故に該当しないと考えられるため、センターへの報告は必要ありません。ただし、そうした患者であっても、明らかな処置上のミスなどで通常の過程とは異なるプロセスで死亡した場合には、「予期しなかった」ものとしてセンターへの報告が必要となってきます。

　医療現場では「患者が死亡したが、報告すべき医療事故に該当するのか？」「初めて事故を報告するが、センターへどのように報告すればよいのか？」といった疑問が生じることがあるでしょう。また遺族の中には、「家族が医療機関で死亡したが、医療事故として報告されていない。事故を隠蔽しようとしているのか？」との疑念をもつ方もいらっしゃるでしょう（関連記事はこちらとこちら）。

　こうした疑問・疑念を放置すれば制度の信頼が失墜しかねないため、センターでは相談対応を行っています。今年（2019年）4月には、新たに184件の相談がセンターに寄せられ、制度発足からの累計では6929件にのぼっています。

　今年（2019年）4月に寄せられた新たな相談の内訳は、▼医療機関から80件▼遺族などから96件▼その他・不明8件―でした。

　医療機関からの相談内容を見てみると、最も多いのは「報告の手続き」に関するもので49件（医療機関からの相談の57.6％）。次いで「院内調査に関するもの」18件（同21.2%）、「報告すべき医療事故か否かの判断」8件（同9.4%）となっています。

　一方、遺族などからの相談内容では「医療事故に該当するか否かの判断」が78件（遺族などからの相談の77.2％）にのぼっています。ただし、こうした該当性に関する相談の中には「制度開始前の事例」「生存事例」など、そもそも報告対象とならないものも含まれています。相談件数の増加状況からは「制度は国民に浸透しつつある」と見ることができますが、依然として「正しい理解」が重要課題と言えるでしょう。
医療事故の現況（2019年4月）3　190509
　

センターへの調査依頼は新たに1件、89件の依頼中20件でセンター調査完了

　冒頭に述べたとおり、医療事故調査制度の目的は「再発防止」にあります。再発防止のためには、事故が生じた医療機関等自らが調査を行い、自院の体制や手続き・ルールなどに問題がなかったかを検証する過程で「院内の課題」を発見し、そこから防止策構築に繋げることが重要と考えられ、「まず事故が発生した医療機関が、自ら原因究明に向けた調査【院内調査】を行う」ことが求められます。

　今年（2019年）4月に新たに院内調査が完了した事例は30件で、制度発足からの累計では1004件となりました。これまでに報告された全1342件の医療事故のうち74.8％（前月から0.3%増加）で院内調査が完了しています。院内調査のスピードが再び速まっています。
医療事故の現況（2019年4月）2　190509
　
　なお、遺族側には「院内調査の結果に納得できない」「院内調査が遅すぎる。何かを隠しているのではないか」との思いも生じることでしょう。また、診療所や助産所など小規模施設では「自前で院内調査を実施することが難しい」ケースもあると思われます（医師会や病院団体などの支援団体によるサポート体制あり）。