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データヘルス改革で、国民には「質の高い医療・介護を受けられる」メリットが―厚労省・データヘルス改革推進本部

2018.7.30.(月)

 保健・医療・介護データを、セキュリティを十分に確保した上で有機的に連結し、AI(人口知能)等を活用して解析することで、国民一人ひとりに最適な医療・介護提供を行うことが期待できる。2020年度から具体的なサービス提供を開始するために、2018年度・19年度にどういった準備を進めるかを明確にし、進捗状況等をしっかり確認していく必要がある―。

 厚生労働省は7月30日に「データヘルス改革推進本部」を開催し、こういった情報を再確認・共有しました(関連記事はこちらこちら)。

7月30日に開催された、「第4回 データヘルス改革推進本部」

7月30日に開催された、「第4回 データヘルス改革推進本部」

 

例えばがんゲノム情報を集積・解析することで、最も適した治療法選択などを目指す

 公的医療保険制度・公的介護保険制度が整備されている我が国においては、膨大な量の健康・医療・介護データが存在します。これらセキュリティを確保した上で有機的に結合し、分析することで健康・医療・介護施策の飛躍的発展を行う「データヘルス改革」が厚労省を中心に進められています。

この一環として厚労省は、昨年(2017年)7月に、▼国民の健康確保のためのビッグデータ活用推進に関するデータヘルス改革推進計画▼支払基金業務効率化・高度化計画—の2つの重要計画が策定。前者のデータヘルス改革推進計画に関しては、次の8つのサービス提供を行う考えを打ち出しました(関連記事はこちらとこちら)。
(1)がんゲノム医療の提供
(2)AIの活用
(3)保健医療記録提供
(4)健康スコアリング
(5)科学的介護データ提供
(6)救急時医療情報共有
(7)データヘルス分析関連サービス
(8)乳幼児期・学童期の健康情報提供

データヘルス改革によって、8つの新たなサービスを提供しようと厚労省は考えている

データヘルス改革によって、8つの新たなサービスを提供しようと厚労省は考えている

 
 7月30日に開催されたデータヘルス改革推進本部では、「これらデータヘルス改革で国民がどのようなメリットを享受できるのか」をより明確にするとともに、各サービスの具体的な工程表が示されました。

 前者の「データヘルス改革のメリット」については、ともすれば「医療費等の適正化を狙うもの」との指摘がなされますが、主眼は「医療や介護の質向上」を目指すものです(もちろん、結果として効率的な医療・介護提供がなされ、医療費適正化に結びつくことも考えられる)。厚労省は、次のようなメリットを例示しています。
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▼(1)のがんゲノム解析や(2)のAI活用により、「個々の患者に最も適切な治療法の選択」(個別化医療の実現)、「画期的な抗がん剤等の開発」などが期待され、「がんとの闘いに終止符を打つ」ことを目指す

▼(3)の保健医療記録提供や(6)の救急時医療情報共有により、患者が異なる病院間で受診したデータを共有し、効果的・効率的な医療提供を目指す(例えば、A病院の検査データなどをB病院で活用し、重複検査を避けたり、高度専門的な医療技術を持つ病院の助言を得て、全国で質の高い医療サービス提供を可能とする)

▼(5)の科学的介護データ提供や(7)のデータヘルス分析関連サービスによって、「○○の状態に陥った要介護者には、●●サービスを週に▲回程度提供することが、自立支援に効果的である」といった知見を確立し、より効果的・効率的な介護サービス・認知症ケア・重症化予防などを目指す

▼(4)の健康スコアリングや(8)の乳幼児期・学童期の健康情報提供により、乳幼児期の健康情報を一元管理することで、健康増進、傷病のリスク軽減などを目指す

 こうした「メリット」を国民が十分に把握することで、「自身のデータ利活用」の必要性も適切に理解することができるでしょう。積極的な周知・普及啓発がこれまで以上に求められます。

集積された画像診断データをAI活用して解析し、迅速・適切な診断も可能に

 上記8つのサービスは、概ね「2020年度の稼働」を目標としています。この実効性を確保するために厚労省は、各サービスについて具体的な工程表も明らかにしました。非常に詳細なため、ポイントを絞って眺めてみましょう。

 まず(1)「がんゲノム医療の提供」では、「Aという遺伝子変異の生じたがん患者にはαという抗がん剤を、Bという遺伝子変異のある患者にはβとγという抗がん剤を併用投与することが効果的である」といった知見(蓄積中)を踏まえ、適切な治療法選択を可能とするものです。官民学をあげて「がんゲノム医療提供」を実現するため、これまでに▼遺伝子情報のデータベースを構築・管理する「がんゲノム情報管理センター」(国立がん研究センターに設置)の設置▼がんゲノム医療を牽引していく中核的な医療機関として「がんゲノム医療中核拠点病院」の指定▼中核拠点病院と連携する「がんゲノム医療連携病院」の指定―などが行われ、今般、さらに「自らパネル検査(網羅的な遺伝子検査)の解釈ができる『がんゲノム医療拠点病院(仮称、47都道府県に設置)』の指定」に向けた検討が進められています。今後、順次、中核拠点病院などの拡大等が進められます(関連記事はこちらこちらこちら)。

がんゲノム医療は、医療機関や患者・国民、研究機関、企業などが参画する「コンソーシアム」(共同事業体)によって推進される

がんゲノム医療は、医療機関や患者・国民、研究機関、企業などが参画する「コンソーシアム」(共同事業体)によって推進される

 
また(2)の「AIの活用」は、▼ゲノム医療▼画像診断支援▼診断・治療支援▼医薬品開発▼介護・認知症▼手術支援―の6領域を中心として、「AIの実装」や「研究者などが利活用できるAI開発用クラウド環境の整備」を行います(関連記事はこちらこちら)。

7月30日のデータヘルス改革推進本部では、この6領域のうち「画像診断支援」について、日本病理学会のデータベースに格納される8万件の画像データをAIを用いて解析し、医療現場にフィードバックしていく具体的な構想が紹介されました。蓄積された膨大な画像診断データをもとに、「○○の所見は、●●疾病の疑いがある」といった診断補助をすることで、迅速かつ適切な診断に結びつくと期待されます。
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なお、これまで「医療機器メーカーへ、正解(教師)付きの画像データ提供」(例えば、画像データとともに、「この部分に乳がんの所見がある」といった正解を付す)を2020年度から実施する予定でしたが、2019年度からに前倒しする考えも明らかにされました。

 
一方、(3)保健医療記録提供と(6)救急時医療情報共有は、膨大な診療・検査等データを、全国の医療機関が共有し、診療等に活用することを可能とするものです。現在、地域によってネットワークが構築・稼働しているところもありますが、核となる部分を「全国共通」仕様とし、いわば「日本全国単位のデータ共有ネットワーク」を目指します。すでに、実証事業が始まり、そこで得られた課題などをもとに、▼運用は誰が担うか▼費用負担をどう考えるか▼セキュリティ確保を初めとする技術的課題にどう応えるか―などを詰め、2020年度後半から本格稼働する予定です((6)の救急時医療情報共有は、より迅速に2019年度半ばからの本格稼働予定)(関連記事はこちら)。
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 また(4)の「健康スコアリング」は、まず保険者(健康保険組合や協会けんぽ)に対し「貴保険者では、他の保険者に比べて特定健診や特定保健指導の実施率が良い(悪い)」などといったデータ提供を始め(2018年度から稼働予定)、将来的には事業主(企業)に対して「貴社では、他の企業に比べて特定健診などの実施率が良い(悪い)」といったレポートを提供するものです。

 生活習慣病の罹患者、さらに重症化しQOLが大きく低下する人が増加する中では、より多くの国民が特定健診等を適切に受診し、自身の健康状況を客観的に把握し、必要な特定保健指導等を踏まえて、生活習慣を改善していくことが極めて重要です(医療費増加はもちろん、患者自身のQOL低下につながってしまう)。この点、厚労省は「国民が特定健診などを受診する機会を確保するには、企業や保険者の協力が不可欠」と考えており、こうしたレポートを提供することで「協力を促す」狙いがあります。
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また(5)の「科学的介護データ提供」に関しては、例えば、「脳卒中の後遺症で四肢に麻痺が生じ、自立歩行が困難となった要介護者には、●●リハビリを週に●回程度提供することで、杖を用いれば歩行距離が大幅に延び、さらに継続することで屋内であれば自由歩行が可能となる」といった知見を得て、効果的・効率的な介護提供を目指します。

このため、厚労省の「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」で、新たな介護保険のデータベース(CHASE、介入や状態に関するデータを格納)の仕様等が固められました。本年度(2018年度)後半から具体的なデータベースの設計・開発が始められ、2020年度から本格運用となる予定です(関連記事はこちら)。

塩崎前厚労省が未来投資会議(2017年4月17日)に提示した「科学的介護の実現」に関する資料。検討会では当面、朱色の太い点線で囲った「新たに取得してくデータ」を詰めていくことになる

塩崎前厚労省が未来投資会議(2017年4月17日)に提示した「科学的介護の実現」に関する資料。検討会では当面、朱色の太い点線で囲った「新たに取得してくデータ」を詰めていくことになる

 
さらに(7)の「データヘルス分析関連サービス」では、各種ある公的な医療・介護等に関するデータベースのデータを連結可能とし、そこからさまざまな知見を得ることを目指すものです。厚労省は「医療・介護データ等の解析基盤に関する有識者会議」において、まずNDB(National Data Base:医療レセプトと特定健診に関するデータベース)と介護DB(介護保険総合データベース:介護レセプトと要介護認定に関するデータベース)の連結に向けて、▼データ収集・利用目的に関する法規定の整備▼第三者提供の枠組みの制度化▼課題の整理―などの方向性が固められました。今後、▼難病データベース▼小児慢性特定疾患データベース▼DPCデータベース―などとの連結について、「そもそも連結が必要か」「連結を行う場合の課題にどう対処するか(例えばNDBでは匿名化データが格納されているが、難病データベースでは実名データが格納されている)」などを詰め、2020年度から連結や利活用拡大を行う予定です(関連記事はこちらこちら)。

 
また(8)の「乳幼児期・学童期の健康情報提供」では、▼子ども時代に受ける健診▼予防接種―などの個人の健康履歴を一元的に管理し、「成長した後」「転居した後」などにも利活用できるような体制を目指すものです。例えば、今春(2018年春)には「はしか」(麻疹)が一部地域で流行しましたが、その際「自分は何回、予防接種を受けたのか」が把握できない人も多かったのではないでしょうか。今般の仕組みが完成、稼働すれば、将来的には総務省のマイナポータルを活用し、「私は1回しか予防接種を受けていないので、医療機関を受診しよう」と判断することなどが可能になるかもしれません(過去の情報をどこまで格納するのかなどの問題もある)。今年度(2018年度)後半から、文部科学省と厚労省が連携し「乳幼児健診情報」と「学校健診情報」の連携等に向けた研究が積極的に勧められます。
 
 
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