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診療報酬改定セミナー2024 新制度シミュレーションリリース

勤務医の時間外労働上限「2000時間」案、基礎データを精査し「より短時間の再提案」可能性も―医師働き方改革検討会

2019.1.22.(火)

 2024年4月からの「勤務医の時間外労働上限」として、▼原則として年960時間・月100時間未満▼救急医療機関など地域医療確保のために必要な特例水準として年1900-2000時間程度以内―としてはどうか、との提案が厚生労働省からなされています(関連記事はこちら)。
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 1月21日に開催された「医師の働き方改革に関する検討会」(以下、検討会)の議論を受け、この上限時間の提案内容が短縮される可能性も出てきました。

1月21日に開催された、「第17回 医師の働き方改革に関する検討会」

1月21日に開催された、「第17回 医師の働き方改革に関する検討会」

 

超過重労働者(上位10%)の時間外労働短縮が最優先事項

 厚労省の提案は、勤務医の10%程度が「脳・心臓疾患の労災認定基準における時間外労働の水準」の2倍となる年間1920時間を超えて労働を行っている(さらに1.8%の勤務医は、「脳・心臓疾患の労災認定基準における時間外労働の水準」の3倍となる年間2880時間超)実態がある中で、こうした超過重労働(上位10%)を「まず1900-2000時間程度以内に抑えよう」との考えに基づくものです。

勤務医の4割は年間960時間超の、10.5%は1920時間超の、1.8%は2880時間超の過重労働をしている

勤務医の4割は年間960時間超の、10.5%は1920時間超の、1.8%は2880時間超の過重労働をしている

医師働き方改革検討会1 190111
 
 併せて、「1900-2000時間」の上限設定が可能な医療機関は相当程度「限定」されると見込まれることから、多くの勤務医においては、「原則」(年960時間・月100時間未満)遵守が求められる(つまり労働時間の短縮を進む)ことになります。

しかし、この「勤務時間の実態」の中には、これまでの検討会論議で「労働と峻別する『研鑽』」や「新たな基準に基づき労働とならない『宿日直』(いわゆる寝当直など)」に該当するものなども含まれると考えられます(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。この点、1月21日の検討会では、岡留健一構成員(日本病院会副会長)や山本修一構成員(千葉大学医学部附属病院院長)、渋谷健司副座長(東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学教室教授)ら多数の構成員から「データの精緻化」を求める声が多数出され、厚生労働省も「個票に遡って精緻化する」考えを示しています。

「研鑽」等の切り分け(精緻化)がなされれば、勤務時間の実態は一定程度「短くなる」と推測されます。つまり、上位10%の労働時間が「1920時間以上」よりも短くなる可能性があるのです。すると、「上位10%の過重労働者について、労働時間時間短縮を行う」ために提案されている「1900-2000時間程度以内の上限」も短縮される可能性が出てくるのです。今後の検討会論議および厚労省提案に注目が集まっています。

「2000時間」は36協定締結でも越えられない「上限」である

勤務医の時間外労働に関する「厚労省提案」を再確認すると、次のような内容となっています(関連記事はこちら)。

(A)勤務医に適用される上限の原則を「年960時間・月100時間未満」と設定する(ただし、▼連続勤務時間28時間以内▼9時間以上の勤務間インターバル確保―などの追加的健康確保措置1を努力義務とし、上限超過勤務医に対する▼医師による面接指導▼面接結果を踏まえた就業上の措置(ドクターストップ)—などの追加的健康確保措置2を義務とする)

(B)医師養成には10年程度の時間が必要で、すぐに「全医療機関でA水準とする」ことは地域医療確保が困難になることから、救急医療機関など対象医療機関を限定して、「月1900-2000時間程度以内」の特例上限(「地域医療確保暫定特例水準」)を設定する(ただし、追加的健康確保措置1・2のいずれも義務とする)
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 1月21日開催の検討会では、厚労省提案をベースに、上述した「基礎データの精緻化」のほか、非常に充実した意見交換が行われました。その中で、まず確認されたのは「B基準の1900-2000時間」は、「当該医療機関においてすべての医師が2000時間の時間外労働を強いられる」わけではないという点です。この点について労働法制の研究者である荒木尚志構成員(東京大学大学院法学政治学研究科教授)や福島通子構成員(塩原公認会計士事務所特定社会保険労務士)らは、「1900-2000時間などの数字は、いわゆる36協定を結んでも超過できない時間外労働の上限である」ことを強調。B基準の対象医療機関で「1900-2000時間の上限」が設定されたとしても、当該医療機関の勤務医が「必ず1900-2000時間の時間外労働を行わなければならない」ものではありません。「1900-2000時間」を超える時間外労働が、「一切、許されない」ことになるのです。多くの委員は、「数字が独り歩きし、勤務医には2000時間の時間外労働が強いられるとの誤解が多い」ことを心配しています。

 
こうした前提に立って検討会議論を眺めてみると、大きな争点となっているB基準(1900-2000時間程度以内)については、やはり賛否両論が出ています。

 まずB基準への反対意見や懸念事項を見てみましょう。

 例えば森本正宏構成員(全日本自治団体労働組合総合労働局長)は、「医療機関の体制等が大きく変わらずに(つまり業務量が縮減等しない)1900-2000時間の上限を設定すれば、『上限である2000時間程度の時間外労働』となる勤務医がかえって増加してしまう」可能性を指摘。また片岡仁美構成員(岡山大学医療人キャリアセンターMUSCATセンター長)は、「B水準の対象医療機関では、事実上、『長時間勤務が可能な医師』しか勤務できないことになりはしないか。これでは、医師が集まらず、結果として地域医療提供に悪影響が出る可能性も考えられる」との考えを示しました。

 さらに、1月11日の前回会合で厚労省提案に一定の理解を示した千明構成員(青葉アーバンクリニック総合診療医)も、「医療現場には『サービス残業が増えるのでは』『医師が辞めてしまう』といった不安・懸念があるようだ」と述べています。

もっとも、こうした反対意見等の中には、上述したような「B水準の対象医療機関では、全医師が2000時間程度の時間外労働を強制される」といった誤った前提に立ったものも少なくない点に留意が必要です。

 
一方、馬場武彦構成員(社会医療法人ペガサス理事長)や岡留構成員らは、「地域医療を守りながら勤務医の働き方改革を進めていくためには、まずABの水準でスタートするしかない。地域医療が崩壊してしまっては遅い。まず厚労省提案でスタートし、タスクシフティングなどを進めながら、B水準の短縮を検討していくべきである」との考えを強調しています。厚労省提案では、B水準(1900-2000時間)は2024年4月から救急医療機関など対象医療機関を限定してスタートしますが、労働時間短縮の取り組みを進めて、「上限時間の短縮」も行い、一定期間後(2036年3月まで)には廃止する(つまり、全医療機関において時間外労働の上限はA水準(年960時間・月100時間未満)を目指す)との考えも示されています。
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上述したデータの精緻化(その結果を踏まえて厚労省提案が修正される可能性もある)を踏まえ、「上限水準」に関する議論はまだ続きます。

働き方改革を進めるには、地域での医療連携、さらには「医療機関の集約」も必要

どのような「時間外労働の上限」を設定しても、実際の「勤務医の労働時間短縮」(タスクシフティングなど)が進まなければ、「絵に描いた餅」に終わってしまいます。また、上述したような「医師の健康確保措置」(連続勤務時間の上限設定など)を十分に行わなければ、やはり地域医療は疲弊・崩壊してしまいます。

こうした観点から、例えば裵英洙構成員(ハイズ株式会社代表取締役社長)や城守国斗構成員(日本医師会常任理事)は「医療機関単独で働き方改革を進めるには限界がある。地域で『働き方改革』に向けた連携(例えば人材の融通や、共同教育など)を進める必要がある」と指摘。さらに、地域連携を進めた先には、「医療機関・医療機能の集約化」が選択肢の1つとして出てきます。1つの医療機関に勤務する医師数が多くなれば、個々人が負担しなければならない業務量を一定程度小さくすることが可能なためです。今後、地域医療構想の実現とも関連して、「医療機関の集約化」が地域で進んでいくと考えられます。

 
また、裵構成員は、勤務医の超過重労働が生じている原因について、例えば「地域の医療提供体制に問題があるのか」「個別病院のマネジメントにあるのか」「当該医師個人の理由なのか」「患者・国民の医療へのかかり方に問題があるのか」を探り、それを踏まえた対策をとることも必要と訴えています。

 
一方、村上陽子構成員(日本労働組合総連合会総合労働局長)は、健康確保措置について「2024年4月を待たず、即座に実施すべき」と提案。とくに「医師による面談」(面談の結果、心身に不調等が認められる場合には、勤務制限(ドクターストップ)を行うなど)について、「厳格な義務として、未実施医療機関には罰則を設ける必要がある」と訴えています。この点、地域によっては「面談を行う、当該医療機関から独立性の認められる医師」の確保が困難なケースもあると考えられますが、馬場構成員は「医療機関の中で、医師や看護師等でチームを組み、勤務医等の健康を守る」といった取り組みを進めてはどうかと提案しています。

 
なお、村上構成員は「連続勤務時間の上限28時間」等について、「勤務医の健康や医療安全の確保が可能となるのか、根拠はあるのか」と質問。これに対し厚労省は「現時点では、当直明けに午前中の勤務のみで帰宅できる医師はそう多くはいないと思う。当直の翌日も時間外労働をしているのが実態だろう。そうした過重労働をまず是正したい。ACGME(雨以下における医師卒後臨床研修プログラムを評価・認証する団体)でも連続勤務時間の上限を28時間に設定している」と説明しました。
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B水準(1900-2000時間)とともに、「まず、『超過重な労働』を是正しよう」という考えに基づくものと言え、この「連続勤務時間上限28時間」の達成も、多くの医療現場では相当の工夫・努力が必要と考えられます。

今後、健康確保措置についても「より具体的な提案」が厚労省からなされる見込みです。

 
 
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