療養病棟でも「看護必要度」を導入すべき、介護医療院の多くが「スタッフの確保」に苦労―日慢協・武久会長、介護医療院協会・鈴木会長
2021.10.15.(金)
介護療養等から介護医療院へ転換した施設について、介護報酬の【移行定着支援加算】終了が大きく影響し「収益上、転換してよかった」との回答は減少しているが、総合的には「転換してよかった」との回答が多い―。
介護医療院の多くは「スタッフの確保」に苦労しており、またLIFEデータベースへのデータ提供には非常に積極的である―。
ところで、同じ医療行為は、急性期病棟でも慢性期病棟でも同じ評価であるべきであり、療養病棟においても「医療区分」による患者評価を廃止し、「重症度、医療・看護必要度」で患者状態を評価すべきである―。
日本慢性期医療協議会の武久洋三会長と日本介護医療院協会の鈴木龍太会長が10月13日に定例記者会見を行い、このような状況報告を披露するともに、提言を行っています。
目次
介護医療院、移行定着支援加算の終了で収益は減少したものの、概ね高評価
2018年度の介護報酬改定で、▼医療▼介護▼住まい―の3機能を併せ持つが新たな介護保険施設「介護医療院」について、単位数や人員・設備に関する基準が設定されました。「介護療養」や「4対1以上の看護配置を満たせない医療療養」の設置根拠が消滅することを受け、移行・転換先候補の1つとして創設されたものです。
介護医療院協会では、会員・非会員を含めた介護医療院を対象に定期的なアンケート調査を行っており、今般、今年(2021)年6月の調査結果が公表されました。
まず「介護医療院を開設して良かったか否か」について見てみると、次のような状況が明らかになりました。
▽介護医療院を開設(転換等)して「収益上、良かった」が50.3%(2020年度に比べて10ポイント近く減少)、「収益上、悪かった」が17.2%(同9ポイント近く増加)
▽介護医療院を開設(転換等)して「総合的に良かった」が64%(同7ポイント減少)、「総合的に悪かった」が3%(同2ポイント増加)
「良かった」が減っている背景として、鈴木・介護医療院会長は「2021年度の介護報酬改定で当初予定どおり【移行定着支援加算】が終了したこと」をあげます。
【移行定着支援加算】は、介護療養や医療療養などから転換した介護医療院において「最初に転換した日から起算して1年間に限り、『1日につき93単位』を算定できる」ものです。算定期間上限が1年であり、また加算が2021年度介護報酬改定で終了したため、「収益上のメリットが小さくなった」ことは事実でしょう。現に、入所者単価(1日当たりの介護給付費算定額)を見ると、I型(機能強化型介護療養並みの人員配置)では2020年:1万5802円→2021年:1万5162円(640円減)、II型(転換老健並みの人員配置)では2020年:1万3220円→2021年:1万2651円(569円減)となっています。
ただし、鈴木・介護医療院協会会長は「開設・転換等して悪かったとの回答はほとんどなく、新制度の成功例と言える」と評価しています。
多くの介護医療院でスタッフの確保に苦労、LIFEへは積極的に参加
また、アンケート調査からは、次のような状況も明らかになっています。
▽現場で苦労している事項としては、▼看護師・介護士・ケアマネジャーなどの確保(69.6%)▼抑制ゼロ対策(62.3%)▼地域交流・地域貢献(コロナ感染症の影響が大きいと思われる、58.0%)▼生活施設としての環境整備(41.3%)―などがあげられる
▽併設病院の多く(56.8%)で看護助手(介護スタッフ)についての処遇改善を行っており、85.7%は病院の持ち出しで財源を確保している
介護医療院のみならず、医療・介護サービスについては「人材確保」が最大のテーマとなります。処遇改善を含めた各種の加算でどこまで効果が出ているのか、十分に検証するとともに、「ほかの手立て」についても考えていく必要があります。来年度(2022年度)からは、人口の大きなボリュームを占める、いわゆる団塊世代が75歳以上の後期高齢者になりはじめ、2025年度には全員が後期高齢者となります。医療・介護ニーズが今後、飛躍的に増加していくことから、そうしたニーズに応えられるだけのマンパワーをどう確保していくのかを早急に検討し、策を講じなければなりません。
▽2021年度介護報酬改定で単位数・対象サービスともに大きく拡大されたLIFE(従前のリハビリに関するVISITデータベースと、状態や栄養などに関するCHASEデータベースとを統合運用)について、今年(2021年)6月時点で52.7%が届け出を開始し、30.1%が届け出の準備を行っている(近く8割超の介護医療院がLIFEに参加)
▽看取りに関するカンファランスは相当数行われているが、本人がそこに参加するケースはごくごくわずかである(カンファランス全体の1.5%)
「看取りカンファランス」について鈴木・介護医療院協会会長は「いわゆるACPは本人の参加が必須であるが、平均要介護度が4以上の入所者では困難である」と状況を説明するとともに、「本人の参加しない看取りカンファランスと、本人が参加するACPとはきちんと分けて考えていく必要がある」ともコメントしています。
ACPは、「自分が人生の最終段階で受けたい医療・ケア、受けたくない医療・ケア」を、医療等の専門家、家族、親しい友人らと、繰り返し話し合う(可能であればそれを文書にしておくと共有可能となる)プロセスです。考え方は常に変わるため「繰り返し話し合う」ことが重要ですが、鈴木・介護医療院協会会長の指摘どおり要介護度の高い入所者ではこのプロセスどおりの意思確認は難しいのが実際です。より早い時点、つまり要介護度が高くない状況、さらには要介護状態になる前から、家族、友人、医療関係者と「自分の最期はどうありたいか」をフランクに話し合える「環境」を整えていくことにも期待が集まります。
またLIFEへの積極的な参加は、「多くの介護医療院が、科学的に裏付けられたサービスの質向上に力を入れている」ことを裏付けるものと言えます。
同じ医療行為は、急性期でも慢性期でも「同じような評価」がなされるべきではないか
また、日本慢性期医療協会の武久会長は、2022年度診療報酬改定に向けた論議の中で「療養病棟における中心静脈栄養」が問題視されている点を踏まえ、「医療区分(療養病棟における患者の重症度を評価する指標)制度を廃止、重症度、医療・看護必要度に統一すべき」との考えを示しています。
武久・日慢協会長は、「ICU用の重症度、医療・看護必要度」「HCU用の重症度、医療・看護必要度」「一般病棟用の重症度、医療・看護必要度」「医療区分」のそれぞれで評価項目が異なっていることを疑問視。武久・日慢協会長は、ICUなどの高度急性期医療、急性期一般病棟などの急性期医療、療養病棟をはじめとする慢性期医療のいずれであっても「医療行為の評価」は同じであるべきで、病棟・病室の種類によって「同じ医療行為をしても、評価が異なる」状況は好ましくないと強調しています。
【関連記事】
療養病棟の死亡退院率の高さは患者状態から見て必然、逆に半数は「軽快退院」している点の評価を―日慢協、武久会長・池端副会長
リハビリの包括評価、疾患別リハビリ料の点数差解消など進めよ―日慢協・武久会長、橋本副会長
回リハ病棟におけるリハビリの効果測定、「FIM利得」から「BI利得」への切り替えを―日慢協・武久会長
コロナ宿泊療養施設での医療提供容認、急性期病院・後方病院・自治体の3者連携を強化せよ―日慢協
多臓器病変患者に適切な医療を行うため、医師臨床研修・新専門医研修を再編し「総合診療医」養成を―日慢協・武久会長
コロナ感染症の急性期段階から適切な栄養・水分管理を、データ提出拡大で介護保険は大きく様変わり―日慢協・武久会長
介護報酬でも「コロナ患者の診療」評価を行い、医療機関による介護施設への感染防止策支援の充実を―日慢協・武久会長
新型コロナの退院基準を満たした患者は早急に後方病床に転院を、療養病床でもコロナ患者を積極的に受け入れる—日慢協・武久会長
新型コロナ患者に対応する「一般病棟以外の病棟」にも何らかの支援を―日慢協・武久会長
介護医療院の大多数が「開設してよかった」、早期に介護医療院へ転換せよ―日慢協・武久会長、介護医療院協会・鈴木会長
特定行為研修を修了した看護師、在宅医療や介護の場でこそ力を十二分に発揮できる―日慢協・武久会長
2022年度診療報酬改定に向け「回復期リハビリ病棟」のリハビリについて包括評価を検討せよ―日慢協・武久会長
日慢協が武久会長を再任、2022年度診療報酬改定で「慢性期DPC」や「急性期病棟での介護・リハ職配置」など目指す
2020年度診療報酬改定、「中途半端な自称急性期病院」は急性期1から滑り落ちていく―日慢協・武久会長
急性期病棟にもリハビリ専門職を配置し、ADL改善効果を正面から評価せよ―日慢協・武久会長
看護必要度「A1・B3」継続し、高度急性期から慢性期まで「重症患者の受け入れ評価」の整合性確保を―日慢協・武久会長
老健施設の「在宅復帰率向上」と「稼働率向上」とをどう実現するか、好事例を分析―日慢協
急性期病棟へ介護福祉士配置し、排泄自立支援等で「寝たきり・要介護状態」防止せよ―日慢協・武久会長
看護師は「高度な看護業務」に特化し、病院病棟の介護業務は介護福祉士に移管せよ―日慢協・武久会長
介護医療院への転換手続き簡素化、移行定着支援加算の算定可能期間延長を―日慢協・武久会長
終末期医療、総合診療と介護を一体提供できる慢性期病棟、介護医療院、在宅医療が担うべき―日慢協・武久会長
病床稼働率の著しく低い病院、国の補助でダウンサイジングや機能転換を促進せよ―日慢協、武久会長・池端副会長
医療保険リハビリを受けるため「要介護等認定を辞退する」高齢者が現れないか危惧―日慢協、武久会長・橋本副会長
25対1の医療療養、介護医療院よりも「20対1医療療養」への転換望む―日慢協・武久会長
介護医療院の整備に向け「小規模介護保険者の集約化」や「移行定着支援加算の期限延長」などが必要―日慢協・武久会長
療養病棟の3割は看護必要度30%以上、2024年度同時改定に向け「一般・療養病棟の統合」を―日慢協・武久会長
病院建物は「社会的資源」、建築等の消費税は8%の軽減税率とせよ―日慢協・武久会長
4.3平米の一般病床、2024年度までに「廃止」または「大幅な減算」となろう―日慢協・武久会長
「看護師の特定行為」実施の拡大に向けて、日看協に全面協力―日慢協・武久会長
地域包括ケア病棟の在宅復帰先から老健施設を除外、ベッド稼働率が如実に悪化―日慢協・武久会長
「特定行為研修を修了した看護師」のスキルアップ・地位向上に向けた協会を設立―日慢協・武久会長
日慢協が武久会長を再任、「高度慢性期医療」の提供を目指す
医療療養から介護医療院へ転換進めるため、介護保険も「都道府県化を保険者」とせよ―日慢協・武久会長
一般病棟の長期入院患者、療養病棟入院基本料でなく「特別入院基本料」を算定せよ―日慢協・武久会長
25対1医療療養の5割超が20対1医療療養へ、介護療養の5割弱が介護医療院Iの1へ―日慢協調査
慢性期病院、介護療養から新類型への転換やリハ機能充実で大幅収益改善も―日慢協・武久会長
回復期リハ病棟1の「実績指数37」要件、摂食や排泄リハ推進のメッセージ―日慢協・武久会長
回復期リハ病棟のリハ専門職を急性期病棟に派遣し、早期リハを目指せ―日慢協・武久会長
療養病棟の死亡退院率を「半減させよ」―日慢協・武久会長
療養病床の入院患者に居住費相当の自己負担を求めるのは「理由なき差別」―日慢協・武久会長
一般・療養の区分を廃止し、連続的な診療報酬上の評価を―日慢協・武久会長
特養ホームでの適切な医療提供や、医療機関からの訪問看護の評価充実を―日慢協
人工呼吸器装着患者などに高度な慢性期医療を担う「慢性期治療病棟」を2018年度改定で創設せよ—日慢協
病棟看護師の大半は薬剤師などの病棟配置に期待、入院基本料での評価が必要—日慢協・武久会長
薬剤師など多職種の病棟配置、看護師と併せて入院基本料の中で評価せよ―日慢協・武久会長
急性期病院における栄養・水分補給の充実で、回復期・慢性期の入院期間短縮を—日慢協・武久会長
2018年度の同時改定でリハビリ革命を、急性期早期リハは報酬を2倍に引き上げよ―日慢協・武久会長
軽度な後期高齢入院患者は療養病棟などへ転院し、年間3兆円超の医療費縮減を行うべき―日慢協・武久会長
介護療養からの新たな転換先、現在の介護療養よりも収益性は向上する可能性―日慢協試算
リハビリ能力の低い急性期病院、入院から20日までに後方病院に患者を送るべき―日慢協・武久会長