介護医療院の大多数が「開設してよかった」、早期に介護医療院へ転換せよ―日慢協・武久会長、介護医療院協会・鈴木会長
2020.12.3.(木)
介護療養等から介護医療院へ転換した施設の6割超が「収益上、転換してよかった」と、また同じく7割超が「転換は、総合的に考えて良かった」と答えている。介護療養の3割弱は「設置期限が切れる2023年度以降も介護療養に残る」と考えている、との調査結果もあるが、早期に「介護医療院への転換」に向けて動くべきである―。
日本慢性期医療協議会の武久洋三会長は、12月1日に定例記者会見を行いこのような考えを改めて示しました。
もっとも現行の介護医療院制度には改善点もあり、今後、国に要望・提言を行っていく考えを、日本介護医療院協会の鈴木龍太会長とともに明らかにしています。
介護医療院の6割で「収益上、良かった」、7割で「総合的に良かった」との声
「介護療養」や「4対1以上の看護配置を満たせない医療療養」について、設置根拠が消滅することから、2017年の改正介護保険法で「介護医療院」が創設され、2018年度の前回介護報酬改定で単位数や人員・設備に関する基準が設定されました。▼介護▼医療▼住まい―の3機能を併せ持ち、「医療ニーズの高い重度の要介護者を受け入れる施設」として大きな期待を集めていますが、「まず設置根拠の消滅する介護療養や医療療養などからの転換を進める」ことが重視されています(転換の場合には総量規制から除外されている)。
介護医療院協会では、毎年、会員施設に対しアンケート調査を行っており、今般、2020年度の調査結果が公表されました。
介護医療院の開設には、▼介護療養から転換する▼医療療養から転換する▼その他の病棟から転換する▼新設する―などさまざまなルートがありますが、多くを占めるのは「介護療養からの転換」です。
今般のアンケート調査では、「介護医療院を開設して良かったか否か」について質問。その結果、次のような状況が鈴木・介護医療院協会会長から報告されました。
▽介護医療院を開設(転換等)して「収益上、良かった」が61%、「収益上、悪かった」が8%
▽介護医療院を開設(転換等)して「総合的に良かった」が71%、「総合的に悪かった」が1%
▽介護医療院開設で良かった点として、▼【移行定着支援加算】が取得できた▼収益が増加した▼介護療養の経過措置廃止への心配がなくなった▼助成金による改修・新築が行えた―などが多くあがっている
【移行定着支援加算】は、介護療養や医療療養などから転換した介護医療院において「最初に転換した日から起算して1年間に限り、『1日につき93単位』を算定できる」ものです。算定期間上限が1年であるため、期間が切れた施設が「収益上、悪くなった」と回答しているのではないか、と鈴木・介護医療院協会会長は分析。
また、社会保障審議会・介護給付費分科会において「【移行定着支援加算】は当初期限どおり、2021年3月で終了する(算定できなくなる)」方向が固められつつあります。このためメリットがやや小さくなる可能性もありますが、武久・日慢協会長は「総合的に考えて、介護医療院の開設が良かったとの声が多い。【移行定着支援加算】は終了するが、『自治体側の事務手続きの遅れで開設が2021年4月以降となるケースについては、申請を起点に加算の算定を可能としてほしい』旨の要望を厚生労働省に行っている。少しでも長く【移行定着支援加算】を算定できるよう、例えば、年内に自治体に『介護医療院開設に向けた相談に行う』などしてほしい」と述べ、多くの介護療養に「介護医療院への転換」を進めてほしいと強く呼びかけました。
ACP、高齢者が意思表示できる急性期や回復期の時点からの実施を
また、アンケート調査からは次のような点も明らかになっています。
▽今年(2020年)6月以降の開設が伸び悩んでいる(上述のとおり【移行定着支援加算】が満年度算定できなくなることが背景か・・・)
▽単価(入所者1人当たり、1日当たりのサービス費収益)は、I型(機能強化型介護療養並みの人員配置が必要)では1万5802円、II型(転換老健並みの人員配置で良い)では1万3220円
▽入所者の「入所前の居場所」は、I型・II型ともに「自院の回復期リハ、地域包括ケア、急性期の病棟」、「他院の回復期リハ、地域包括ケア、急性期の病棟」が多いが、II型では前者の比率が著しく高くなる(介護医療院への入所は、診療報酬上「在宅復帰」と扱われるため、これら病棟からの入所が多い)
▽退所は、I型・II型ともに「死亡」が最も多いが、一部に「自宅」「自宅系老人施設」に復帰している(適切な治療、医学管理やリハビリテーションが行われ在宅復帰している)
▽ACPの実施は非常に低調である
▽多くの施設が【介護職員処遇改善加算】・【特定処遇改善加算】を取得しており、併設病院でも、病院の持ち出しで処遇改善を独自に行っている
▽苦労している点として、▼スタッフ(看護師、介護士、ケアマネジャーなど)の確保▼抑制ゼロの実施▼生活施設としての環境整備―などがあがっている
このうちACPの実施率の低さが注目されますが、鈴木・介護医療院協会会長は「介護医療院の入所者の平均要介護度は、I型で4.3、II型で4.1と非常に重度で、すでに『自分の意思表示を行えない』状況なことから、厳密なACPの実施は難しい。ACPの実施は、より早期に、意思表示を行える『急性期病棟や回復期リハビリテーション病棟に入院している時点』や『かかりつけ医が関与する地域包括ケアの提供時点』から行う必要がある」と提言しています。
ACPは、「自分が人生の最終段階で受けたい医療・ケア、受けたくない医療・ケア」を、医療等の専門家、家族、親しい友人らと、繰り返し話し合う(可能であればそれを文書にしておくと共有可能となる)プロセスです。考え方は常に変わるため「繰り返し話し合う」ことが重要であり、鈴木・介護医療院協会会長の指摘どおり「早い時点から、医療等関係者や家族、友人と話し合う」環境を制度上も整えていくことが期待されます。
また、処遇改善については、「介護医療院の介護スタッフについて処遇改善」を行う場合、賃金バランスを確保し、スタッフ感で「不満感、不信感」が生まれないように、「同一施設内の他のスタッフについての処遇改善」や「同一グループ内の他のスタッフについての処遇改善」を検討することも必要となってきます。今般の調査では、多くの医療法人等が「自腹(持ち出し)で処遇改善バランスをとっている」ことが明確になっています。
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