特定行為研修を修了した看護師、在宅医療や介護の場でこそ力を十二分に発揮できる―日慢協・武久会長
2020.11.10.(火)
特定行為研修を修了した看護師、在宅医療や介護の場でこそ力を十二分に発揮できるが、包括的指示を行う医師の理解が十分に進んでいない。まず、特別養護老人ホームにおける「特定行為研修を修了した看護師」配置を介護報酬で評価するとともに、医師(配置医や連携するクリニック医師)の理解を進めてもらうことが重要である―。
日本慢性期医療協会の武久洋三会長らは、11月6日にオンラインでの記者会見を開催し、こうした考えを強調しました。
特定行為研修を修了した看護師、医師の関与が少ない場面で力を発揮
一定の研修(特定行為に係る研修、以下、特定行為研修)を修了した看護師(特定行為研修を修了した看護師)は、医師・歯科医師の包括的指示の下で、手順書(プロトコル)に基づいて38行為(21分野)の診療の補助(特定行為)を実施することが可能となります(関連記事はこちらとこちら)。また、2020年度からは「領域別のパッケージ」研修(領域・分野に該当する特定行為をパッケージにし、重複する研修等を整理して研修を受講しやすくする)が始まり、これまでに▼在宅・慢性期領域▼外科術後病棟管理領域▼術中麻酔管理領域▼救急領域▼外科系基本領域▼集中治療領域―の6領域のパッケージが設けられています。
医師の業務負担軽減を図るための「タスク・シフティング先」として、また医師不足地域での医療提供の担い手として重要な意味を持ち、厚生労働省は「2025年度までに10万人の看護師が特定行為研修を修了する」旨の目標を掲げています。
養成機関数(研修施設)は、今年(2020年)8月25日時点で宮崎県を除く46都道府県に222施設が設置されるなど、育成環境は徐々に整ってきていますが、研修修了者数は今年(2020年)7月時点で2646名にとどまっています。
この点、日慢協の武久会長および矢野諭副会長は、「特定行為研修を修了した看護師は在宅医療や介護など、医師の関与が少ない分野でこそ十二分に力を発揮できる」と強調します。しかし、上述のように研修修了者数はまだ限られており、しかも▼パッケージ研修等の育成環境は「急性期分野」に偏っている▼在宅領域の研修修了者は約7%にとどまっている▼在宅・介護領域の医師は「特定行為研修」制度の理解が十分でなく、包括的指示を出さないことが多い―状況です。
日慢協では、制度創設当初から「特定行為研修の指定研修施設」となっており、これまでに222名の研修修了者を輩出。今般、研修修了者を対象にしたアンケート調査から、「特定行為研修制度が導入されるまで、在宅医療等の分野で実施されることのなかった『褥瘡等における壊死組織の除去』や『創傷への陰圧閉鎖療法』などが相当程度実施され、褥瘡管理の成績が一気に向上している」(矢野副会長)などの効果が上がっています。
一方、特定行為を実施する上での課題として▼医師や家族の理解が得られにくい▼周辺の診療所医師への制度浸透が不十分▼医師が「そばで仕事をしているわけでなく、研修修了というだけで直接、看護師の力量を把握できないので不安である」と感じている―ことなども浮上しています。
これらの課題を解決する第一歩として武久会長・矢野副会長は、「特別養護老人ホームにおいて、特定行為研修を修了した看護師が常駐する」ことを目指してはどうかと提言しています。要介護高齢者において終の棲家である特別養護老人ホーム(指定介護老人福祉施設)には、医師の常駐は求められておらず、看護職員または介護職員の3対1配置が求められているのみで「医療的ケアの実施体制」が必ずしも十分でないと指摘されます。このため、例えば入所者の状態が夜間に悪化した場合には施設内での対応が難しく、救急搬送を要請するケースが多くなってきます。
この点、「特別養護老人ホームにおいて、特定行為研修を修了した看護師が常駐し、配置医(日中の特別養護老人ホームに勤務する医師)や連携先のクリニック医師から包括的指示を受ける」ことで、高度かつ専門的な医療的ケアの実施が可能となり、利用者・家族の信頼度も飛躍的に高まります。
もちろん、「特定行為研修を修了した看護師」の配置には相応のコストがかかります。このため武久会長は、「介護報酬の中で、特定行為研修を修了した看護師の配置を検討する必要がある」と強く訴えています。ただし、現在、来年度(2021年度)の介護報酬改定論議が社会保障審議会・介護給付費分科会で行われていますが、そこでは、まだ「特定行為研修を修了した看護師の配置・活動」への介護報酬上の評価は論点にあがってきていません。武久会長は将来も睨み、「介護報酬上の評価」を厚労省に働きかけていく考えを強調しています。
なお、診療報酬では、今年度(2020年度)改定において、例えば「総合入院体制加算(特定機能病院並みの高度医療を提供する一般病院を評価する加算)における要件の1つ」に「特定行為研修を修了した看護師の配置」を盛り込むなど、徐々に評価が拡大されてきています。
あわせて池端幸彦副会長は「包括的指示は手順書(プロトコル)に沿って行うことが必要であり、手順書に対する配置医やクリニック医師の理解をさらに進めてもらう必要がある」とも付言。矢野副会長も「特定行為研修を修了した看護師の普及が進まない背景には、医師やケアマネジャー(介護支援専門員)の制度への理解が進んでいないことが背景にある」と指摘しています。武久会長は「クリニック医師の理解を深めてもらうために、日本医師会にも働きかけていく必要がある」との考えも示しています。
さらに、自施設で複数の研修修了者を配置する田中志子常任理事は「研修修了者がラウンドで一般看護師にレクチャーを行ったり、勉強会を開催するなどして、看護の質をボトムアップしている。特定行為研修を修了した看護師が、今後のチーム医療の要になる」と期待を寄せています。
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