看護師は「高度な看護業務」に特化し、病院病棟の介護業務は介護福祉士に移管せよ―日慢協・武久会長
2019.8.9.(金)
急性期病棟においても患者の高齢化が進み、看護師の担う業務の相当部分が「介護・介助」となっている実態がある。病棟への「介護福祉士」配置を義務化し、看護師は「看護師資格を保有していなければ実施できない高度な業務」に特化し、「介護業務」は介護福祉士が担うべきではないか―。
日本慢性期医療協会の武久洋三会長は、8月8日の定例記者会見でこういった考えを述べました。
急性期病棟においても「介護福祉士配置」を義務化し、寝たきりを防止せよ
医療法では、▼一般病院の一般病床は3対1以上(患者3人に対し1人以上)▼同じく療養病床は4対1以上▼特定機能病院は2対1以上―の看護師を配置する義務が定められています。さらに、診療報酬では、看護配置等に応じた入院基本料(例えば急性期一般病棟では看護配置7対1以上)が設定されています。入院医療における看護職の重要性を勘案した規定です。
しかし、高齢化が進む中では入院患者に占める高齢者の割合、要介護者の割合が高まっており、看護師の担う業務のうち、相当部分は「介護・介助」と呼ぶべきものに変化してきています。
例えば、厚生労働省の研究事業によれば、▼排泄介助(総看護業務時間に占める割合5.2%)▼食事の世話(同3.5%)▼体位交換(同2.8%)▼身体の清潔(同1.8%)▼身の回りの世話(同1.6%)▼話を聞く、寄り添うなどの心理的ケア(同1.2%)―などが一定の時間を占めています。
また、現場看護師が「他職種に移管(タスク・シフティング)可能」と考える業務としては、▼リネン交換(看護師の77%が移管可能と考えている)▼環境整備(同75%)▼更衣(同75%)▼身体の清潔(同75%)▼排泄介助(同75%)▼食事の世話(同75%)▼体位交換(同73%)▼身の回りの世話(同72%)▼患者の搬送・移送(同70%)▼安楽のための世話(同64%)▼話を聞く、寄り添うなどの心理的ケア(同61%)―などがあがっています。
こうした状況を踏まえて日慢協の武久会長は、「高齢化の進展で純然たる看護業務が相対的に減ってきている」と指摘。多忙な看護師の業務を整理し、看護師資格保有者(看護部長など)の指示の下、▼看護師は「看護師資格を保有していなければ実施できない高度な業務」に特化する▼「介護業務」は介護福祉士が担う―という切り分けを行い、回復期や慢性期の病棟はもちろん、急性期病棟においても「介護福祉士配置を義務付ける」べきと強調しました。
このような「介護福祉士の急性期病棟への配置」により、介護ケアがより濃厚に実施されることで、「寝たきり患者が減る」→「介護施設等のニーズも減少する」→「確保すべき介護人材も少なくすむ」という好循環が生まれる可能性があると武久会長は指摘します。
もちろん、「単に患者の話し相手になっているように見えるだけかもしれないが、患者の不安を取り除くための重要かつ高度な看護業務である」という側面もあると考えられ、業務の整理・仕分けは慎重に行う必要があります。
ところで医師の働き方改革を進めるために、看護師へのタスク・シフティングが注目を集めています。例えば「特定行為研修を修了した看護師の育成強化」「一般の看護師に実施可能な業務の拡大」「医師の指示がなくとも、一定の医行為を実施できるナースプラクティショナー(NP)の制度化検討」などを求める声が強くなってきています。
もっとも、医師から看護師にタスク・シフティングが行われれば、看護師の業務負担が「過重」になります。そこで「看護師から他職種へのタスク・シフティング」の重要性も認識されてきており、武久会長は「看護師から介護福祉士へのタスク・シフティングを進めるべき」とも提案しています。
今秋(2019年秋)から2020年度の次期診療報酬改定に向けた第2ラウンド論議が進みます。その中で、こうした「病棟への介護福祉士配置の義務化」が検討される場面があるかもしれません。
「患者の医療区分を高めるために中心静脈栄養を実施」するようなことはない
2020年度の診療報酬改定に向けて、診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」(以下、入院医療分科会)で「入院医療」(急性期・回復期・慢性期等)に関する調査や技術的課題の整理が進められています。
7月3日の入院医療分科会では、「療養病棟入院基本料」が検討テーマの1つとなりましたが、一部委員から「患者の医療区分を高めるために中心静脈栄養を実施しているケースが相当程度あるのではないか」といった旨の指摘がなされました(関連記事はこちら)。
この点について日慢協の池端幸彦副会長(入院医療分科会委員)は「憶測で発言すべきでない」と強く批判。さらに、「反論に向けたデータを揃える必要がある」とし、今般、日慢協役員関連病院における「療養病棟入院基本料1」患者の状況調査を実施しました。
その結果、6246名の療養1入院患者のうち、18.2%に中心静脈栄養が施されていることが分かりました。しかし、この18.2%の中には「経口での栄養・水分摂取では不十分なため、栄養・水分補給のために1日(あるいは数日)のみ中心静脈栄養を実施した患者」も含まれており、「継続して中心静脈栄養を実施している患者」はごく一部にとどまります。
また、中心静脈栄養実施患者18.2%のうち、39.6%は「療養1に入棟前(急性期病棟や自宅等)で既に中心静脈栄養を実施していた患者」、13.9%は「すでに中心静脈栄養を中止した患者」などで、「他の栄養補給方法があるにもかかわらず、中心静脈栄養を実施している患者」は、18.2%のうち1.5%にとどまります。さらにその内訳を見ると、▼家族等の要望で中心静脈栄養を実施:94.1%(16名)▼末梢血管の持続が困難で、点滴ライン確保もかねて中心静脈栄養を実施:5.9%(1名のみ)―となっています。
池端副会長は、こうしたデータを示し「医療区分を高めるために中心静脈栄養を実施していることなどない」旨を強調しました。
また同じ日の入院医療分科会では、やはり一部委員から「療養病棟では死亡退院患者が多い。医療よりも看取り機能(介護機能)が高いのではないか」といった旨の指摘もありました(関連記事はこちら)。
この点についても日慢協で調査を行ったところ、▼日慢協役員関連病院(療養1)からの退院患者1913名のうち、死亡退院は45.4%▼死亡退院のうち15.0%は「容態急変」▼死亡退院のうち39.9%は「回復を目指していた」が死亡▼死亡退院のうち44.3%は「医療継続と看取りのための入院」▼死亡退院のうち2.5%(22名)は「純粋な看取りのための入院」―であることが分かりました。
池端副会長は、「特別養護老人ホームなどでの看取りでも代替可能なのは、全死亡退院のうち2.5%に過ぎない。療養病棟は『医療を提供し、患者の状態を改善し、在宅復帰を目指す』病院である」点を強調しています。
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