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GemMed塾 2024年度版ぽんすけリリース

指定難病等の医療費助成を「重症化した日」まで遡る画期的な見直し、登録者証やデータベースなどの詳細決定―難病対策委員会

2023.7.21.(金)

重症の難病等患者に対する医療費助成について、「患者が重症化した時点」にまで遡って医療費助成を行うことになる。その際、行政の事務負担も考慮し「申請から1か月前まで遡る」ことを原則とするが、症状悪化や災害などのやむを得ない理由がある場合には「3か月前まで遡る」ことも可能とする—。

医療費助成がなされない軽症患者の診療データ蓄積、軽症患者の福祉サービス利用促進などを目指し、「登録者証」をマイナンバーと連携して発行する—。

7月10日に開催された厚生科学審議会・疾病対策部会「難病対策委員会」と、社会保障審議会・小児慢性特定疾病対策部会「小児慢性特定疾病対策委員会」との合同会議(以下、単に「合同会議」とする)で、このような方針が固められました。

また、合同会議では難病・小児慢性特定疾病対策の「基本方針」改訂論議も進めます。年内(2023年内)に告示改正を行い、来年(2024年)4月から適用する予定です。

なお、児童関連施策が「子ども家庭庁」に移管されたことを踏まえた、審議会体制の見直し(社会保障審議会に、新たに「小児慢性特定疾病対策部会」と「小児慢性特定疾病対策委員会」を設置)が行われています(関連記事はこちら)。

7月10日開催された、「第70回 厚生科学審議会 疾病対策部会 難病対策委員会」と「第1回 社会保障審議会 小児慢性特定疾病対策部会 小児慢性特定疾病対策委員会」との合同会合

医療費助成を「重症化時点」まで遡る画期的な制度改正を実施する

「指定難病等への医療費助成」や「難病医療体制の構築」「難病治療法の研究推進」などの総合的な難病対策、小児慢性特定疾患対策について、2021年7月の合同会合で「制度見直し」内容が固められ、昨年(2022年)12月に改正法が成立しました(コロナ禍で見直し論議が遅れてしまっていた、関連記事はこちらこちら)。

改正法の最重要ポイントは次の3点です。
(1)医療費助成の開始を「申請時点」から「重症化時点」にまで遡及する(医療費の前倒し支給)
(2)「登録者証」の発行制度を設け、医療費助成の対象とならない「軽症者」等のデータ登録を推進を目指す
(3)難病・小児慢性特定疾病データベースを法律に位置付け、他のデータベース(NDB:National Data Baseや障害福祉関連データベースなど)との連結解析や第三者提供などの利活用規定を設ける

難病・小児慢性特定疾患対策の見直し(難病対策委員会1 230710)



7月10日の合同会議では、改正法の施行に向け、上記(1)-(3)に関する運用などの詳細を固めました。

まず(1)の医療費前倒し支給は、これまで「申請時点に遡って医療費助成を行っていた」ところ、「さらに重症化時点まで遡って医療費助成を行う」もので、本年(2023年)10月から施行されます。行政機関からの給付は「最長でも申請時点にまで遡る」ことが基本ですが、難病患者等の状況に鑑み、特例的に「重症化時点にまで遡れる」こととしたもので、「極めて画期的な仕組み」と言えます。

もっとも、「何年も遡る」こととしたのでは行政の事務が混乱するため、「原則として『最長1か月』まで遡る。ただし、やむを得ない理由がある場合には『最長3か月』まで遡る」こととされました(関連記事はこちら)。

医療費助成の前倒し(難病対策委員会2 230710)



このうち「やむを得ない理由」について、次のような詳細内容が固められました。難病患者等の意見を踏まえたものです。

▽「やむを得ない理由」は、当初、次の4項目とするが、運用する中で「拡大の必要性」などを検討していく
(i)臨床調査個人票(臨個票)受領に時間を要した
→例えば、▼臨個票の記載内容について指定医と患者の認識の相違や誤り等があり、説明や再発行などを依頼した▼診断を受けた指定医の勤務する医療機関が遠方にあり、臨個票・医療意見書の受領に4週間要した▼病院のルールにより臨個票・医療意見書を郵送等で受け取ることができず、対面で受け取る必要があるが、次回の診察予約が取れず、臨個票・医療意見書の受領に4週間要した—など

(ii)症状悪化等により申請書類の準備や提出に時間を要した
→例えば、▼診断の前後で体調が悪化し4週間入院した▼入院はしなかったものの、体調が悪く申請までに時間を要した▼医療機関から患者への説明はあったものの、家族への説明がなく、高齢であったり気が動転した患者が家族に手続きを依頼するまでに時間がかかってしまった—など

(iii)大規模災害に被災したこと等により申請書類の提出に時間を要した

(iv)その他(自由記載)
→上記(i)—(iii)に当てはまらないが「1か月以内に申請を行わなかったことについてやむを得ない理由がある」ときは、別途申請書に自由記載とする

▽医療費助成の申請書に「やむを得ない理由あり」の旨のチェックボックスを設け、申請者(患者、家族)が該当事項を選択する形とする(添付書類は不要)



関連して、医師が記載する「臨個票」に、新たに「診断年月日」(重症化を診断した日)を記載する欄が設けられます。



自治体間でバラつきが生じないよう、近く(遅くとも本年(2023年)8月中)関連の通知や事務連絡などが示されます。委員からは「やむを得ない理由があれば、最長3か月間、医療費助成が遡及されることを自治体サイドに周知し、患者・家族サイドが『1か月の遡及しか認められない』と諦めてしまわないようにすべき」(福島慎吾委員:難病のこども支援全国ネットワーク専務理事)、「患者・家族サイドが記載しやすいような配慮を十分に行ってほしい」(成田友代委員:東京都保健医療局技監)などの注文がついています。

こうした声を踏まえ、厚労省健康局難病対策課の簑原哲弘課長は「重症化の診断日や、軽症高額(重症ではないものの「年に3月以上、月の医療費総額が3万3330円を超える患者」、医療費負担に配慮した助成が行われる)の該当性など、記載しやすいフローチャート等を検討していく。また杓子定規にならず、一方で現場が混乱しないように対応していく」考えを示しています。

指定難病軽症者にも「登録者証」を発行、難病・小児慢性特定疾患の法定データベース構築

また(2)の「登録者証」は、「指定難病、小児慢性特定疾患の罹患者であることを証明する」ものです。

重症者では医療費助成の「受給者証」が交付され、ハローワークでの難病患者就職サポーター、市町村での障害福祉サービスなどを利用する際に、受給者証を提示するることで「指定難病、小児慢性特定疾患の罹患者である」ことの証明が可能です。

しかし、医療費助成の対象とならない軽症者では、これらサービスを受給する際には「診断書」を提示する必要があり、大きな負担となっていました(利用申請の都度に診断書を入手する手間と費用がかかる)。このため、新たに「登録者証」を発行し、軽症者でも障害福祉サービス等を利用しやすくするものです。

これに伴い、多くの軽症者が、後述する難病等のデータベースに登録されることが予想され、「データベースの精緻化」にも一役買うと期待されます。

登録者証発行事業(難病対策委員会3 230710)



登録者証は来年(2024年)4月1日から発行され、合同部会では▼患者等からの申請に基づいて発行する▼原則としてマイナンバー連携したアプリで発行する(紙での交付も可)▼有効期限は設けない▼「指定難病、小児慢性特定疾患の罹患者である」ことを証明するのみで、病名は表示しない▼自治体関係者に制度内容を周知する—ことなどを固めています。

登録者証の詳細(難病対策委員会4 230710)



今後の運用等に向けて、委員からは「登録者証で各種サービスの利用が確約されるわけではなく、各種サービス利用には別にも要件があることなどを丁寧に周知する必要がある」(柏木明子委員:有機酸・脂肪酸代謝異常症の患者家族会ひだまりたんぽぽ代表)、「小児慢性特定疾患では対象者が極めて幅広いが、将来的に軽症者の登録者証発行も考えていくべき」(福島委員)、「登録者証の発行時に『重症化した場合には医療費助成の対象となる』などの説明を十分に行ってほしい」(成田委員)などの意見が出ています。

小児慢性特定疾患には「患者数が多い疾患」(例えば気管支喘息)も含まれ、すべての患者に登録者証を発行すれば自治体事務負担が膨大となるため、指定難病患者(軽症者にも登録者証を発行)と異なり「医療費助成を受けている者にのみ登録者証を発行する」こととなりました(関連記事はこちら)。後述のように「難病対策」と「小児慢性特定疾患対策」とには、さまざまな差異があり、「両者の取り扱いの齟齬等をどう考えていくべきか」(解消すべきか否か摸含めて)が今後の重要論点の1つとなります。



また(3)は、これまで予算事業で構築・運用されてきた「難病、小児慢性特定疾患のデータベース」について、根拠を法律に位置付け、安全管理措置や第三者提供などのルールを明確化するものです(来年(2024年)4月から)。簑原難病対策課長は「例えば障害福祉関係データベースと連結解析することで、どういった疾患の患者がどういったサービスを利用しているのか、逆に利用できていないのか、などを明らかにし、今後のサービス拡充を検討していくことができる」とデータベースの法定化に大きな期待を寄せています(法律上の根拠がない場合、データベースの連結解析などができない、関連記事はこちら)。

合同会議では、連結解析や第三者提供などに関するルール(ガイドライン)を定めるために、新たに「有識者会議」を設定することを決定しました。

データベースの法定化を行う(難病対策委員会5 230710)

難病対策・小児慢性特定疾患対策の基本方針、2023年中に見直し、24年4月から適用へ

7月10日の合同会議では、難病対策・小児慢性特定疾患対策の基本方針見直し論議も始まりました。

難病対策などのベースとなる法律が改正されたこと、小児慢性特定疾患時が成人になった場合の移行期医療支援体制構築ガイドが策定されたこと(2017年)、難病医療提供体制構築の手引きが策定されたこと(2018年)など、難病・小児慢性特定疾患対策を巡る環境が大きく変化しており、また、そもそも「基本方針は少なくとも5年毎に見直す」とされていたこと(コロナ禍で見直しができなかった)などを踏まえて見直しを行うもので、厚労省からは、例えば▼「就労支援を提供する者」を難病対策参画者の中に明確化する▼上述のように法定化されたデータベースの利活用に関する記載を行う▼移行期医療支援体制の構築に係るガイドを周知する▼新たな遺伝学的検査(次世代シークエンサーなど)を踏まえた早期診断を推進する▼画期的な治療法などの研究を推進する▼難病対策と小児慢性特定疾患対策との緊密な連携を促す—などの方向案が示されています。

難病・小児慢性特定疾患対策の各基本方針を見直す(難病対策委員会6 230710)



こうした方向に異論・反論は出ておらず、さらに委員からは「法定データベース構築は素晴らしい取り組みであるが、利用者がまだ少ない。データベースの利活用推進に向けたPR等を強化すべき」(竹内勤委員:埼玉医科大学副学長)、「就労に当たり、難病等患者特有の『痛み』や『疲れやすさ』などの問題がある。そうした点に配慮した取り組みを進めるべき」(倉知延章委員:九州産業大学人間科学部臨床心理学科教授)、「就労支援に当たり、企業側の理解も重要となる」(春名由一郎委員:高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター副統括研究員)、「遺伝学的診断が進むが、告知は非常にデリケートで有、そうした点への配慮も十分に行われるべき」(柏木委員)などの意見が出ています。

意見を踏まえて議論を重ね、「本年(2023年)11月頃に基本方針の改正に関する告示を行う」→「改正法全体が施行される来年(2024年)4月から改正基本方針を適用する」ことになります。

ところで、五十嵐隆委員(国立成育医療研究センター理事長)や滝田順子委員(京都大学大学院医学研究科発達小児科学教授)は「小児慢性特定疾患時が成人になった場合、当該疾病が指定難病に含まれず、医療費助成が受けられなくなる(とりわけ小児がん)。将来的には両制度は統合すべきであるが、そこにいくまでの間、例えば『小児慢性特定疾患時が成人移行した後、一定の要件を満たせば小児がんや2次がん、放射線障害などに対する支援を可能とする』などの対応を図るべきではないか。また現状の両制度の齟齬により生じている課題の把握を行うべきではないか」と強く要請しました。

両制度は成り立ちが異なることから、すぐに「両制度を統合する」ことは困難ですが、簑原難病対策課長は「合同部会で両者の間隙を少しでも埋めていく」考えを示しています。



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