2022年度医療費の詳細分析、2022年度生まれの人は生涯2755万円の医療費がかかり、うち83.5%が医療保険給付—社保審・医療保険部会(2)
2025.5.2.(金)
2022年度生まれの人は、生涯2755万円の医療費がかかり、うち455万円が患者自身の負担となる(83.5%が医療保険から給付される)—。
また、2022年度に55歳の人は、今後、死亡するまでに1955万円の医療費がかかり、うち患者負担は237万円となる—。
5月1日に開催された社会保障審議会・医療保険部会には、こうした状況報告が厚生労働省保険局調査課の鈴木健二課長から、こうした状況報告も行われています(同日の高額療養費制度を考える専門委員会設置、マイナンバーカードの電子証明書機能の有効期限に関する議論の記事はこちら)。

5月1日に開催された「第194回 社会保障審議会 医療保険部会」
医療保険の将来を国民全体が「我が事」と捉えられるよう、医療費の諸データを分析公表
▽医療保険の将来を国民全体が「我が事」と捉えられるように、医療費の諸データを分かりやすい形で公表していく—。
こうした方針が2020年10月28日の医療保険部会で固められました(関連記事はこちら)。
我が国では「医療費の膨張」が続く一方で、支え手となる現役世代が減少し、医療保険財政が厳しさを増していきます。
まず「医療技術の高度化」により、医療費が高騰していきます。例えば、脊髄性筋萎縮症の治療薬「ゾルゲンスマ点滴静注」(1億6707万円)、白血病等治療薬「キムリア」(3350万円)などの超高額薬剤の保険適用が相次ぎ、さらにキムリアに類似したやはり超高額な血液がん治療薬も次々に登場してきています。さらに、新たな認知症治療薬「レケンビ」が保険適用され、さらに新たな認知症治療薬「ケサンラ」の保険適用も行われました。患者数が膨大なことから、医療保険財政に及ぼす影響が非常に大きくなる可能性があります。
大企業の会社員とその家族が主に加入する健康保険組合の連合組織「健康保険組合連合会」では、こうした高額薬剤によって超高額レセプトの発生が増加し、医療保険財政を圧迫している状況を強く懸念しています(関連記事はこちら)。
あわせて「高齢化の進展」による医療費高騰も進みます。ついに2022年度から、人口の大きなボリュームゾーンを占める団塊世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、今年度(2025年度)には全員が後期高齢者となります。後期高齢者は若い世代に比べて、傷病の罹患率が高く、1治療当たりの日数が非常に長く、結果、1人当たり医療費が若年者に比べて2.3倍と高くなります(関連記事はこちら(2023年度の市町村国保医療費は平均40万2157であるのに対し、後期高齢者では93万1637円)。このため、高齢者の増加は「医療費の増加」を招きます(医療費は1人当たり医療費×人数で計算できる)。
その一方で、支え手となる現役世代人口は2025年度から2040年度にかけて急速に減少していきます。
「減少する一方の支え手」で「増加する一方の高齢者・医療費」を支えなければならないために医療保険の制度基盤が極めて脆弱になり、さらに今後も厳しさを増してくと考えられるのです。
こうした中では「医療費を我々国民が負担できる水準に抑える」ことが重要で(医療費適正化)、そのためには「まず医療費の実態を分かりやすく国民に提示する必要がある」と考えられたものです。
5月1日の医療保険部会では、この方針に沿って鈴木調査課長が次のような2022年度の医療費データを提示しました(端数処理の関係で合計が合わないことがある)。
▽医療費全体は43兆7000億円で、うち患者の自己負担が6兆5000億円(14.8%)、保険から支払われる分(保険給付)が37兆3000億円(85.2%)
▼後期高齢者以外(75歳未満)では、医療費が25兆8000億円で、うち患者の自己負担が5兆円(19.3%)
▼後期高齢者以外(75歳以上)では、医療費が18兆円で、うち患者の自己負担が1兆5000億円(8.4%)
→「高額療養費」制度(1か月間の患者負担が一定額を超えた場合、超過分が保険から給付される仕組み)があるため、患者の自己負担分(実行負担率)は「3割」(現役世代)・「1割」(後期高齢者)よりも小さい

医療費の財源(社保審・医療保険部会(2)1 250501)
▽制度別に見ると、全体では「現役世代(75歳未満)から後期高齢者世代(75歳以上)への財政支援」が行われ(緑色の矢印、後期高齢者支援金)、現役世代では「70-74歳の前期高齢者の少ない被用者保険(健康保険組合、協会けんぽなど)から、その多い国民健康保険への財政支援」が行われている(紫色の矢印、前期調整)

制度別の医療保険財政(社保審・医療保険部会(2)2 250501)
▽実行給付率(医療保険から支払われる分、上記の実行負担率の裏返し)は高齢化の進展(医療費増)に伴って上昇傾向にあるが、2022年度には若干低下している
→「2022年10月に後期高齢者のうち一定以上の所得者への2割負担」を導入したことなどが影響している(関連記事はこちら)

実行給付率の推移(社保審・医療保険部会(2)3 250501)
▽年齢別に医療費の「給付」と「負担」の状況をみると、若いころには負担が大きいが、年を重ねると給付が大きくなる

年齢による医療費と負担額(社保審・医療保険部会(2)4 250501)
▽2022年度に生まれた人の生涯医療費(生涯にかかると想定される医療費)は2755万円で、うち2300万円(約83.5%)は医療保険から給付される(裏返すと16.5%・455万円が自己負担)

生涯医療費(社保審・医療保険部会(2)5 250501)
▽年齢別に「今の年齢から死亡するまでにかかる医療費」を見ると、次のようになる
▼40歳:2208万円(うち自己負担(患者負担)297万円)
▼45歳:2133万円(うち自己負担(患者負担)280万円)
▼50歳:2051万円(うち自己負担(患者負担)260万円)
▼55歳:1955万円(うち自己負担(患者負担)237万円)
▼60歳:1839万円(うち自己負担(患者負担)209万円)
▼65歳:1703万円(うち自己負担(患者負担)176万円)
▼70歳:1540万円(うち自己負担(患者負担)139万円)
▼75歳:1343万円(うち自己負担(患者負担)112万円)
▼80歳:1112万円(うち自己負担(患者負担)90万円)
▼85歳:866万円(うち自己負担(患者負担)67万円)
▼90歳:627万円(うち自己負担(患者負担)47万円)
▼95歳:419万円(うち自己負担(患者負担)30万円)

余命にかかる医療費(社保審・医療保険部会(2)6 250501)
こうしたデータについて医療保険部会委員からは、▼現役世代からの「後期高齢者を支える負担金(支援金)」が非常に大きなことが再確認できる(村上陽子委員:日本労働組合総連合会副事務局長)▼医療保険制度も「若い世代が高齢世代を支える」という支え合いの色彩が強まっていることを再確認できる。今の現役世代も高齢になった暁には「その時の現役世代」に支えられるようになることを理解しなければならない(伊奈川秀和委員:国際医療福祉大学医療福祉学部教授)▼これまで、ともすれば「世代間対立」を煽るような議論が行われてきたが、「今の現役世代も、将来は高齢者となり、支えられる側にまわる」ことを再認識できる(袖井孝子委員:高齢社会をよくする女性の会理事)▼実行給付率・実行負担率などの考え方をより分かりやすく説明し、国民全員が皆保険の成り立ちなどを理解できるようになると良い。「医療費増=病院は儲かる」との誤解があるが、病院経営の厳しさを公表してほしい(島弘志委員:日本病院会副会長)—などのコメントが寄せられました。
「今、現時点」だけに着目すると「現役世代は負担が大きく、高齢者が支えられる側に過ぎない」ようにも見えます。しかし、委員が指摘するように、「今の現役世代は負担が大きいものの、年齢を重ねるにつれて高齢になり、支えられる側に回る」点を十分に理解したうえで、医療保険改革論議をしなければならない点に留意が必要です。
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