血液検査をもとに、「レビー小体型認知症」の発症前に、神経障害を検出できる可能性—長寿医療研究センターほか
2024.8.8.(木)
レビー小体病(パーキンソン病患者とレビー小体型認知症患者)では、併存アルツハイマー病変化は、発症前の段階では見られず、「発症後」から生じると考えられる—。
血液中の神経変性マーカーである「ニューロフィラメント軽鎖」を測定することで、レビー小体型認知症の原因物質である「α-シヌクレイン」による神経障害を、発症前の段階で検出できる可能性がある—。
国立長寿医療研究センターが7月30日に、こうした研究成果を公表しました(センターサイトはこちら)。名古屋大学大学院医学系研究科神経内科学、量子科学技術研究開発機構との共同研究です。
将来、血液検査からレビー小体型認知症の予備軍を早期発見できる可能性
認知症患者数は、高齢化の進行に伴い増加していきます。2018年には500万人を超え、65歳以上高齢者の「7人に1人が認知症」となり、2025年には675万人、2040年には802万人になると推計されています。
認知症を含む神経変性疾患では「脳における異常タンパク質の蓄積」が、臨床症状が現れる20年以上前から生じることが明らかになってきており、「発症前に病態を抑制する」ことが重要です。
「レビー小体病」は、α-シヌクレインの神経細胞内蓄積を病理学的特徴とする神経変性疾患で、「パーキンソン病(国内患者20万人程度と推定)とレビー小体型認知症(同じく60-90万人程度と推定)を含む疾患」概念です。レビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症に次いで頻度の高い認知症で、「幻視などの認知機能障害」と「パーキンソン病に似た症状」を呈します。
近年、レビー小体病の「前触れ」症状として、▼便秘などの自律神経障害▼嗅覚低下▼レム睡眠行動異常症—などが認められる(運動症状や認知機能障害が出現する10-20年前から認められる)ことが注目され、「将来レビー小体病を発症する人」を未病の段階で発見することに重要と考えられています。先行研究では「50歳以上の健常者の5.7%が、2つ以上のレビー小体病『前触れ』症状を有している」ことが分かっており、これらの人は「レビー小体病発症リスクが高い」と言えます(ハイリスク者、予備軍)。
ところで、パーキンソン病とレビー小体型認知症では、「α-シヌクレイン」と呼ばれる異常タンパク質(レビー小体の主成分)が認知症に関与していることが知られていますが、先行研究では「レビー小体型認知症患者の70%以上、パーキンソン病認知症患者の約50%でアルツハイマー病理の合併があり、アルツハイマー病の変化も認知機能障害の出現や進行に関与する」ことが示されています。
アルツハイマー病に対する抗体医薬(「レカネマブ」、販売名「レケンビ」)が保険適用されており、今後「レビー小体病のアルツハイマー併存病理も治療標的となる」可能性があります。
この点、アルツハイマー病では、認知症を発症する20年以上前から異常タンパク「アミロイドβ」が脳に蓄積することが知られていますが、レビー小体病における併存アルツハイマー病理がいつから出現するのかは明らかになっていません。
そこで研究グループは、▼パーキンソン病患者(84名)▼レビー小体型認知症患者(16名)▼レビー小体病発症リスクの高い者(予備軍、82名)▼リスクの低い者(健康な者、37名)—を対象に、血液中の「アルツハイマー病のバイオマーカー(アミロイドβ、リン酸化タウ181)と神経変性マーカー(ニューロフィラメント軽鎖)」を測定。その結果、次のような状況が明らかになりました。
▽▼パーキンソン病患者▼レビー小体型認知症患者—では、アルツハイマー病に関連したバイオマーカーに変化が見られた
▽未発症のハイリスク者では、アルツハイマー病関連の血液バイオマーカーに変化が見られなかった
▽神経変性マーカーはハイリスク者、パーキンソン病患者、レビー小体型認知症患者のいずれにおいても上昇していた
▽アミロイドβ(A)、タウ(T)、神経変性(N)の有無(+/−)を評価し、アルツハイマー病理の進展状態を分類すると、▼パーキンソン病患者とレビー小体型認知症患者ではローリスク者と比較して「A+ T+ (N)+」、つまり「併存アルツハイマー病理を有する患者」が多い▼ハイリスク者では「A- T- (N)+」、つまり「併存アルツハイマー病理は認めないものの、神経変性が認められる患者」が多い—
▽パーキンソン病患者では、▼アミロイドβは認知機能と▼リン酸化タウ181は運動症状、非運動症状と▼ニューロフィラメント軽鎖は認知機能、運動症状、非運動症状と—関連しており、アルツハイマー病変化が認知・運動機能に影響していると考えられる
▽ハイリスク者では、これらの臨床症状との関連は認められないが、神経変性マーカーであるニューロフィラメント軽鎖の高い人は、MIBG心筋シンチグラフィ画像異常率が高い
こうした結果を踏まえ、研究グループでは▼パーキンソン病やレビー小体型認知症の併存アルツハイマー病変化は、「発症前の段階」では見られず、「発症後の段階」になってから生じ始める▼神経変性マーカーであるニューロフィラメント軽鎖を用いることで、「α-シヌクレイン」(レビー小体型認知症の原因物質)による神経障害を「発症前の段階」から検出できる可能性がある—と分析しています。
研究グループでは「レビー小体病ハイリスク者の1年毎の評価」を継続しており、今後、「レビー小体病の併存アルツハイマー病理がいつから出現し、神経機能の予後にどのような影響を与えるのか」を明らかにする考えも示しています。
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