エストロゲン(女性ホルモン)関連受容体(ERR)が、アルツハイマー型認知症を防ぐ働きを持つことを解明—都健康長寿医療センター
2024.9.6.(金)
アルツハイマー型認知症に悪影響を及ぼす「タウタンパク質のリン酸化」を進行させるDKK1タンパク質の量を、本症の脳で不足するエストロゲン関連受容体(ERR)が抑えている。つまり、エストロゲン関連受容体(ERR)がアルツハイマー型認知症を防ぐ働きを持つ—。
東京都健康長寿医療センター研究所(東京都板橋区)が9月3日に、こうした研究成果を発表しました(研究所のサイトはこちら)。アルツハイマー型認知症の発症を防御する仕組みを理解する上でとても重要な成果であるとともに、「新たなアルツハイマー型認知症の予防・治療方法の手がかり」になると期待されます。
アルツハイマー型認知症を防ぐエストロゲン(女性ホルモン)関連受容体の働きを解明
認知症患者数は、高齢化の進行に伴い増加していきます。2018年には500万人を超え、65歳以上高齢者の「7人に1人が認知症」となり、2025年には675万人、2040年には802万人になると推計されています。このため、2019年には認知症施策推進大綱が、2023年には認知症基本法が制定され、認知症患者の意向を十分に踏まえた総合的な対策(認知症との共生、認知症予防など)を進めることとされています。
認知症の中で最も多いのはアルツハイマー型認知症で、早期診断方法や予防・治療法の開発が強く求められ「アルツハイマー型認知症がどのような仕組みで起こるのか」を理解することが重要となります。
アルツハイマー型認知症の脳では、▼アミロイドβペプチドの蓄積(アミロイド斑、老人斑)▼リン酸化したタウタンパク質の蓄積(神経原線維変化と呼ばれる)—という2大病理変化が生じることが特徴です。
また、アルツハイマー型認知症では「女性での発症率が高い」ことが知られており、その原因の1つとして「閉経などによって女性ホルモン(エストロゲン)が減少してしまう」ことが考えられ、更年期以降の女性にとって大きな健康問題となっています。エストロゲンは、エストロゲン受容体へ結合して、さまざまな遺伝子の発現をコントロールします。また、エストロゲン受容体と構造が似ているエストロゲン関連受容体(Estrogen-related receptor, ERR)と呼ばれるタンパク質も、生体内で重要な機能を担っています。
しかし、この「ERR」が▼脳や神経細胞の中でどう働いているのか▼どのような遺伝子・タンパク質の量をコントロールすることで脳や神経細胞で役立っているのか▼アルツハイマー型認知症の発症にどう関わっているのか―などは、十分に明らかにされていません。
そこで都健康長寿医療研究センターの研究チームでは、脳で多く作られている2つのエストロゲン(女性ホルモン)関連受容体(▼ERRα▼ERRγ—)に着目し、ヒトの神経モデル細胞の中で「ERRα」と「ERRγ」が結合するDNAを網羅的に調査・分析。
その結果、これら「がアルツハイマー型認知症を含む神経変性疾患の発症に関わる多くの遺伝子の発現量をコントロールするDNA」へ結合していることが分かりました。
とくに、アルツハイマー型認知症発症を抑えるための仕組みとして「Wntシグナル伝達経路 の活性を低下させるDickkopf-1(DKK1)という遺伝子」を特定。
活性化した「Wntシグナル伝達経路」は、アルツハイマー型認知症の特徴の1つである「タウタンパク質のリン酸化」を抑える(つまり認知症発症を抑える)機能がありますが、DKK1タンパク質はそれを阻害してしまい、結果、「タウタンパク質のリン酸化が増える」→「神経細胞中でのタウタンパク質の蓄積、アルツハイマー型認知症を引き起こす」と考えられます。
また研究チームは、「ERRα」と「ERRγ」はDKK1の発現量をコントロールするDNA領域へ結合し、神経細胞の中でDKK1が作られることを防いでいることも明らかにしました。
実際のアルツハイマー型認知症患者の脳サンプルを使用した検証においても、アルツハイマー型認知症患者の脳では▼「ERRα」と「ERRγ」の産生量が低下している▼DKK1の量が増えている—ことが明らかにされています。
本研究結果からは、「ERRがアルツハイマー型認知症発症を予防する働きを持つ」ことが明らかにされたといえます。
「Wntシグナル伝達経路」や「DKK1」は、アルツハイマー型認知症の特徴の1つである「タウタンパク質のリン酸化」を防ぐ仕組みとして注目されており、今回解明されたメカニズムが「新たなアルツハイマー型認知症の予防・治療方法を開発する手がかり」になると期待されます。
また、ERRは女性ホルモンの働きとも関連する可能性があり、女性がアルツハイマー型認知症になりやすい背景にある仕組みを理解するための手助けになり、今後の認知症治療の進歩に貢献すると強く期待されます。
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