「12月」分、平均在院日数短縮と病床利用率向上を両立、ただし患者減等踏まえた病床戦略の必要性は変わらず―病院報告、2019年12月分
2020.3.27.(金)
「12月分」のデータを追いかけると、病院の一般病床では「平均在院日数の短縮」と「病床利用率の向上」とを一定程度、両立できている―。
こうした状況が、厚生労働省が3月26日に公表した昨年(2019年)12月分の病院報告から分かりました(厚労省のサイトはこちら)。
2019年12月、前月に比べて病床利用率は大幅に低下したが、例年通りの状況
厚労省は毎月末、日本全国の病院における(1)1日平均患者数(2)平均在院日数(3)月末病床利用率―を把握し、「病院報告」として公表しています(前月の記事はこちら)。
昨年(2019年)12月の(1)「1日平均患者数」は、病院全体で▼入院:122万237人(前月と比べて6544人・0.5%減)▼外来:132万3554人(同2万9568人・2.2%減)―となりました。
医療法上の病床種別に入院患者数を見てみると、▼一般病床:67万4383人(前月比5756人・0.8%減)▼療養病床:26万6045人(同398人・0.1%増)▼精神病床:27万8363人(同1117人・0.4%減)▼結核病床:1377人(同66人・4.6%減)―などという状況です。
また(2)「平均在院日数」は、病院全体では26.5日で、前月から0.4日短縮しました。病床種別に見ると、▼一般病床:15.5日(前月から0.4日短縮)▼療養病床:128.3日(同4.4日短縮)▼介護療養病床:315.1日(同13.9日延伸)▼精神病床:264.8日(同6.4日延伸)▼結核病床:60.8日(同1.6日短縮)―となりました。一般病床・医療療養病床等では短縮しましたが、介護療養病床と精神病床では延伸してしまいました。
さらに(3)「月末病床利用率」に目を移すと、病院全体では71.7%で、前月から6.4ポイントの大幅低下となりました。病床種別に見ると、▼一般病床:62.0%(前月比11.1ポイント低下)▼療養病床:86.5%(同0.2ポイント向上)▼介護療養病床:88.6%(同0.4ポイント低下)▼精神病床:85.1%(同0.1ポイント向上)▼結核病床:30.7%(同2.6ポイント低下)―という状況です。とりわけ一般病床において2桁の低下となっていますが、「年末年始はなんとか自宅で過ごしたい」という患者・家族の要請に応えているという背景もあり、例年も同様の傾向にあることから驚くには値しません。
一般病床の12月分データ、平均在院日数短縮と病床利用率向上とを両立
上記のような「暦月の変動」を除外するために、一般病床における「12月分」だけを取り上げ、平均在院日数の動向の経年変化を見てみましょう。すると、2015年から18年にかけて「踊り場」状態にありましたが、全体として「2012年以降、短縮傾向にある」ことが伺えます。
▼2012年:17.2日(厚労省のサイトはこちら)
↓
(0.3日短縮)
↓
▼2013年:16.9日(厚労省のサイトはこちら)
↓
(0.7日短縮)
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▼2014年:16.2日(厚労省のサイトはこちら)
↓
(0.3日短縮)
↓
▼2015年:15.9日(厚労省のサイトはこちら)
↓
(0.1日延伸)
↓
▼2016年:16.0日(厚労省のサイトはこちら)
↓
(0.2日短縮)
↓
▼2017年:15.8日(厚労省のサイトはこちら)
↓
(0.1日延伸)
↓
▼2018年:15.9日(厚労省のサイトはこちら)
↓
(0.4日短縮)
↓
▼2019年:15.5日(厚労省のサイトはこちら)
一方、月末病床利用率は、次のような状況です。増減を繰り返しながら「2012年から19年にかけて極めて緩やかながら、上昇傾向が伺える」と言えそうです。
▼2012年:61.4%(厚労省のサイトはこちら)
↓
(1.1ポイント低下)
↓
▼2013年:60.3%(厚労省のサイトはこちら)
↓
(0.6ポイント上昇)
↓
▼2014:60.9%(厚労省のサイトはこちら)
↓
(1.4ポイント低下)
↓
▼2015年:59.5%(厚労省のサイトはこちら)
↓
(1.3ポイント上昇)
↓
▼2016年:60.8%(厚労省のサイトはこちら)
↓
(1.9ポイント上昇)
↓
▼2017年:62.7%(厚労省のサイトはこちら)
↓
(0.7ポイント低下)
↓
▼2018年:62.0%(厚労省のサイトはこちら)
↓
(増減なし)
↓
▼2019年:62.0%(厚労省のサイトはこちら)
このように「12月分」データからは、2012年以降、「平均在院日数」が短縮する中で、「病床利用率」は何とか上昇していることが分かります。
Gem Medで繰り返しお伝えしていますが、平均在院日数の短縮は▼急性期一般病棟(旧7対1・10対1一般病棟)等における「重症患者割合」(重症度、医療・看護必要度の基準を満たす患者の割合)の向上▼DPC特定病院群(旧II群)要件の1つである「診療密度」の向上▼「院内感染」や「ADL低下」などのリスク低減▼患者のQOL向上(例えば職場への早期復帰を果たし、生活の安定を取り戻す)—といった「経営の質」「医療の質」双方の向上に直結する重要な事項です。
しかし、「在院日数の短縮」は▼空床の発生・増加 → ▼病床利用率の低下 → ▼病院経営の悪化―にも繋がってしまう「両刃の剣」でもあります(出来高・DPCのいずれにおいても入院料が「1日当たり」で設定されているため)。
このため、「在院日数の短縮」によって医療の質向上を図ることとあわせ、「病床利用率の向上」によって病院経営を安定させなければなりません。このためには、▼かかりつけ医等と密接に連携して紹介患者を確保する▼救急搬送患者を積極的に受け入れる―などし、「重症の新規入院患者」獲得に力を入れることが必要不可欠です。この点、「12月分」からは、難しい料率を実現できていることが分かります。
もっとも、地域によっては人口減少モードに入っており(日本全国では人口減少が進んでいるが、大都市では増加しているところもある)、多くの地域で「患者数そのものの減少」が進んでいます。近い将来、大都市部でも多くで人口減少(=患者数減少)が始まります。そうした中では、「減少する患者を、多くの病院で奪い合う」状況が生じ、個別病院の「集患努力」が結実しないことが珍しくなくなるでしょう。
客観的に▼地域の医療ニーズ▼競合病院の状況▼自院の機能やリソース―を分析し、病床の機能転換(急性期から回復期・慢性期)や、「ダウンサイジング」(病床の削減)、さらに共倒れを防ぐための「近隣病院との再編・統合」なども検討していく必要があります。厚労省は、公立病院・公的病院等の一部(当初424病院であったが、精査の結果440病院程度となった)に関して「再編統合の再検証が特に強く要請される」との考えを示しています(関連記事はこちらとこちらと こちらとこちら)。さらに2020年度予算では「医療法上の病床を稼働病床数ベースで1割以上削減する」病院について、病床削減割合に応じた補助金(全体で84億円)が創設されます(関連記事はこちらとこちら)。こうした動きも眺めながら、「自院の状況・地域の状況」を再確認してみることが重要です。
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