「8月」分データ、平均在院日数短縮に新規患者獲得が追い付かず―病院報告、2019年8月分
2019.12.2.(月)
「8月分」のデータを追いかけると、病院の一般病床では2012年以降「平均在院日数の短縮」に「病床利用率の向上」が追い付いていない―。
こうした状況が、厚生労働省が11月27日に公表した今年(2019年)8月分の病院報告から分かりました(厚労省のサイトはこちら)。
2019年8月、前月に比べて入院患者は微増、外来患者は大幅減
厚労省は毎月、日本全国の病院における(1)1日平均患者数(2)平均在院日数(3)月末病床利用率―を把握し、「病院報告」として公表しています(前月の記事はこちら)。
今年(2019年)8月の(1)「1日平均患者数」は、病院全体で▼入院:123万8341人(前月と比べて5873人・0.5%増)▼外来:130万6935人(同7万2717人・5.3%減)―となりました。
医療法上の病床種別に入院患者数を見てみると、▼一般病床:68万3064人(前月比5224人・0.8%増)▼療養病床:27万467人(同64人・0.0%減)▼精神病床:28万3213人(同670人・0.2%増)▼結核病床:1519人(同33人・2.2%増)―などという状況です。
また(2)「平均在院日数」は、病院全体では26.7日で、前月から0.4日延伸してしまいました。病床種別に見ると、▼一般病床:15.6日(前月から0.2日延伸)▼療養病床:138.5日(同2.3日延伸)▼介護療養病床:330.3日(同5.4日延伸)▼精神病床:268.1日(同15.3日延伸)▼結核病床:66.8日(同4.3日延伸)―となりました。全病床種別で、前月よりも在院日数が延伸しています。
さらに(3)「月末病床利用率」を見ると、病院全体では78.0%で、前月から2.6ポイント低下しました。病床種別に見ると、▼一般病床:72.3%(前月比4.5ポイント低下)▼療養病床:87.0%(同増減なし)▼介護療養病床:90.2%(同増減なし)▼精神病床:86.0%(同0.2ポイント低下)▼結核病床:34.8%(同0.7ポイント向上)―という状況です。前月からの「低下」が目立ちます。
一般病床の8月分データ、平均在院日数短縮に新規患者獲得が追い付かず
次に「暦月の変動」を除外するために、一般病床における「8月分」の平均在院日数の動向を見てみましょう。2012年以降「概ね短縮」傾向にありましたが、2017年以降「横這い」状況です。
▼2012年:16.9日(厚労省のサイトはこちら)
↓
(0.2日短縮)
↓
▼2013年:16.7日(厚労省のサイトはこちら)
↓
(0.2日短縮)
↓
▼2014年:16.5日(厚労省のサイトはこちら)
↓
(0.3日短縮)
↓
▼2015年:16.2日(厚労省のサイトはこちら)
↓
(0.4日短縮)
↓
▼2016年:15.8日(厚労省のサイトはこちら)
↓
(0.2日短縮)
↓
▼2017年:15.6日(厚労省のサイトはこちら)
↓
(0.1日短縮)
↓
▼2018年:15.5日(厚労省のサイトはこちら)
↓
(0.1日延伸)
↓
▼2019年:15.6日(厚労省のサイトはこちら)
一方、月末病床利用率は、次のような状況です。増減を繰り返しており、傾向を読むことは難しそうです。
▼2012年:74.3%(厚労省のサイトはこちら)
↓
(2.8ポイント低下)
↓
▼2013年:71.5%(厚労省のサイトはこちら)
↓
(1.6ポイント低下)
↓
▼2014年:69.9%(厚労省のサイトはこちら)
↓
(2.9ポイント向上)
↓
▼2015年:72.8%(厚労省のサイトはこちら)
↓
(1.8ポイント向上)
↓
▼2016年:74.6%(厚労省のサイトはこちら)
↓
(0.6ポイント向上)
↓
▼2017年:75.2%(厚労省のサイトはこちら)
↓
(0.6ポイント低下)
↓
▼2018年:74.6%(厚労省のサイトはこちら)
↓
(2.3ポイント低下)
↓
▼2019年:72.3%(厚労省のサイトはこちら)
このように「8月分」データを見ると、「2012年以降、大きく見れば平均在院日数は短縮してきているが、病床利用率の向上は実現できていない」ことが分かります。
Gem Medで繰り返しお伝えしていますが、平均在院日数の短縮は、▼急性期一般病棟(旧7対1・10対1一般病棟)等における「重症患者割合」(重症度、医療・看護必要度の基準を満たす患者の割合)の向上▼DPC特定病院群(旧II群)要件の1つである「診療密度」の向上▼「院内感染」や「ADL低下」などのリスク軽減▼患者のQOL向上(例えば職場への早期復帰を果たし、生活の安定を取り戻す)—といった経営の質・診療の質の向上に直結する要素です。
ただし、「在院日数の短縮」は、▼空床の発生・増加→▼病床利用率の低下→▼病院経営の悪化―にも繋がる、両刃の剣であることも事実です(出来高・DPCのいずれにおいても入院料が「1日当たり」で設定されているため)。
このため、「在院日数の短縮」によって医療の質向上を図るとともに、同時に「病床利用率を向上」させ、病院経営を安定させる必要があります。具体的には、▼かかりつけ医等と密接に連携して紹介患者を確保する▼救急搬送患者を積極的に受け入れる―などし、「重症の新規入院患者」獲得に力を入れなければなりません。この点、「8月分」の状況を見れば、「在院日数の短縮に対し、病院の集患対策が実を結んでいない」ことが分かります。
地域によっては人口減少モードに入っており(日本全国では人口減少が進んでいるが、大都市では増加しているところもある)、多くの地域で「患者数そのものの減少」が進んでいます。近い将来、大都市部でも多くで人口減少(=患者数減少)が始まります。そうなれば「減少する患者を、多くの病院で奪い合う」状況が生じ、個別病院の「集患努力」が結実しないケースが多くなってきます。
客観的に▼地域の医療ニーズ▼競合病院の状況▼自院の機能やリソース―を分析し、病床の機能転換(急性期から回復期・慢性期)や、「ダウンサイジング」(病床の削減)、さらに共倒れを防ぐための「近隣病院との再編・統合」なども検討していく必要があります。厚労省は、公立病院・公的病院等の一部(424病院)について「再編統合の再検証が特に強く要請される」との考えを示しており、これを機会に自院の状況・地域の状況を再確認してみることが重要でしょう。
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