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小規模病院や療養病床持つ病院で「社会的入院」が増加、背景を地域ごとに探る必要あり―2020年受療行動調査

2021.9.15.(水)

入院患者の55.5%、外来患者の38.7%が、「医師による紹介」によって病院を選択しており、病院が新規患者を獲得するには「かかりつけ医との連携」が不可欠なことが分かる―。

患者の病院に対する満足度は上がっているが、入院では食事や設備、外来では診療待ち時間に不満を感じる患者が少なくない。設備については改築等の折に十分に検討する必要がある―。

介護保険創設から20年が経つが、いわゆる社会的入院が増加し入院患者の25%に達している。療養病床を持つ病院で増加が目立ち、各地域で「地域包括ケアシステム」の構築と稼働を急ぐ必要がある―。

こういった状況が、厚生労働省が9月13日に公表した2020年の「受療行動調査(概数)の概況」から明らかになりました(厚労省のサイトはこちら)(2017年の前回調査に関する記事はこちら(確定数)こちら(概数)、2014年調査の記事はこちら(各定数)こちら(概数))。

外来患者の4割、入院患者の5割超が「医師の紹介」で病院を選択、かかりつけ医と連携が重要

受療行動調査は、3年に一度、一般病院の患者を対象に「受療の状況」や「医療への満足度」などを調べるものです(前回調査は2017年に実施)。

昨年(2020年)10月に、10万5648人(入院4万667人、外来6万4981人)を対象に調査が行われており、患者が受診している病院の内訳は、次のとおりです。
▼特定機能病院:23.0%(入院28.0%、外来19.9%)
▼500床以上の大病院:32.1%(入院32.5%、外来31.8%)
▼100-499床の中病院:27.8%(入院23.9%、外来30.3%)
▼99床未満の小病院:8.3%(入院5.7%、外来9.9%)
▼療養病床を有する病院:8.8%(入院10.0%、外来8.1%)

まず「病院を選んだ理由」については、入院患者・外来患者のいずれにおいても「医師による紹介」が最も多く、外来患者では38.7%、入院患者では55.5%にのぼっています(複数選択)。

このほかに入院患者では、▼専門性の高い医療の提供:26.5%▼医師・看護師が親切:21.5%▼交通の便:20.7%—といった点を、外来患者では▼交通の便:27.9%▼専門性の高い医療の提供:27.0%▼家族や友人・知人の勧め:17.5%―といった点を重視して病院を選択している状況が確認できました。3年前の調査から大きな変化はありません。

病院選択の理由(2020年受療行動調査1 210913)



また、医療機関情報をどこから入手しているかを見ると、入院外来ともに「家族・知人・友人の口コミ」が圧倒的(入院69.4%、外来71.1%)で、次いで「医療機関が発信するネット情報」(入院18.3%、外来23.5%)、「SNSや電子掲示板、ブログ情報など」(入院11.6%、外来14.0%)などと続いています(複数選択)。

この点、従前より「患者の大病院志向」が問題視され、来年度(2022年度)からは、「一定の機能を持つ200床以上の病院」を紹介状なしに受診した場合には特別負担(初診時には7000円以上など)が徴収されることになっています(大学病院などや、200床以上の地域医療支援病院ではすでにこの仕組みが導入され、2022年度から拡大される、関連記事はこちらこちらこちらこちら)。このため、病院を受診するには「まず、身近なかかりつけ医機能を持つクリニックなどを受診する」ことが求められます。そこでは、病状だけでなく、患者の意向等も十分に勘案して「どの病院を紹介すべきか」を慎重に検討することが期待されます。

患者の満足度は上がっているが、入院では食事や設備、外来では待ち時間に不満多し

次に、患者の「満足度」について見てみましょう。

全体では、入院患者の68.9%(前回調査に比べて2.0ポイント増)、外来患者の64.5%(同5.4ポイント増)が「満足」と答え、「不満」を感じた人は入院患者の4.9%(同増減なし)、外来患者の3.8%(同0.5ポイント減)にとどまっています。

「満足」と感じた入院患者の割合を病院の種類別に見ると、▼特定機能病院:80.3%(前回調査に比べて3.6ポイント増)▼大病院:78.7%(同4.2ポイント増)▼中病院:73.3%(同3.6ポイント増)▼小病院:75.0%(同6.1ポイント増)▼療養病床を有する病院:61.7%(同0.3ポイント減)—となっています。逆に「不満」と感じた割合は、▼特定機能病院:3.2%(同0.3ポイント減)▼大病院:3.1%(同0.5ポイント減)▼中病院:3.9%(同0.3ポイント減)▼小病院:3.2%(同1.2ポイント減)▼療養病床を有する病院:6.3%(同0.5ポイント増)—となっています。全体に満足度が向上しており、病院サイドの努力が強く伺えます。ただし、療養病床を有する病院では3年前に比べて満足度が下がっており、改善点の把握から始める必要があるでしょう。

病院別の患者満足度(外来)(2020年受療行動調査2 210913)

病院別の患者満足度(入院)(2020年受療行動調査3 210913)



また「満足」と感じた患者の割合の推移を見ると、入院・外来ともに「増加している」ことが分かります。

また、項目別の満足度(「満足」と答えた患者の割合)を見てみると、入院では▼医師以外のスタッフの対応:72.0%(前回調査に比べて2.0ポイント向上)▼医師による診療・治療内容:71.5%(同0.8ポイント向上)▼医師との対話:67.0%(同1.1ポイント向上)―で高く、▼食事内容:46.1%(同2.6ポイント向上)▼病室・浴室・トイレ等:56.1%(同0.9ポイント悪化)▼病室でのプライバシー保護:58.2%(同2.1ポイント向上)―では、やや低めになっています。設備については老朽化等もあり、満足度が下がることは「やむを得ない」というべき面もあるでしょう。改築や建て替え等の際には、こうした点の改善検討も重要になってきそうです。

外来では、▼医師以外のスタッフの対応:63.3%(前回調査に比べて4.4ポイント向上)58.8%▼医師との対話:61.0%(同3.8ポイント向上)▼医師による診療・治療内容:59.6%(同4.1ポイント向上)―で満足度が高くなっていますが、入院に比べるとやや低めです。

また、外来で満足度の低い項目として、依然として「診療までの待ち時間」があげられます。満足しているは32.8%(ただし、前回調査に比べて3.9ポイント向上している)にとどまり、23.9%が「不満」(ただし同じく2.7ポイント減)と答えています。

項目別の患者満足度(外来)(2020年受療行動調査4 210913)

項目別の患者満足度(入院)(2020年受療行動調査5 210913)



病院の種類別に「診察までの待ち時間に不満を感じている人」の割合を見ると、▼特定機能病院:35.1%(前回調査に比べて7.4ポイント悪化)▼大病院:30.6%(同4.6ポイント改善)▼中病院:25.7%(同2.1ポイント改善)▼小病院:17.8%(同0.9ポイント改善)▼療養病床を有する病院:16.0%(同2.5ポイント改善)—となっています。大規模病院になるほど「待ち時間に不満を感じる人が多い」傾向にありますが、「特定機能病院で待ち時間に不満を感じる人が大きく増加している」点が気になります。

昨今では、大病院において予約システムが導入され、待ち時間はかつてに比べて大幅に短縮していますが、「不満を持つ患者が増えている」背景に何があるのか、詳しく見ていく必要がありそうです。この点、大病院の外来は「紹介患者中心になっていく」ことに鑑みれば、「診察までの待ち時間に不満を感じる」人は減少していくことが期待されます。もちろん、患者サイドにも「予約した時間に遅れないようにする」「紹介状を持たずに大病院を受診することを避ける」といった努力が求められることは述べるまでもありません。

医師による治療方針等の説明、5-6%入院患者はやはり「不十分」と感じている

次に、入院患者が「医師からの説明の有無や程度」についてどのように感じているのかを見てみましょう。

診断や治療方針にについて「医師から説明を受けた」と答えた患者は、入院・外来ともに95%程度に達しますが、1-2%程度の患者は「説明を受けていない」と答えています。医師から説明がない事態はなかなか考えにくいですが、患者と医師とでは知識量等に圧倒的な差があり、医師が「説明した」と思っても、患者は「説明を受けていない」と感じるケースなどがありそうです。高齢化が進行し、認知機能や聴力等が低下した患者が増える中では、こうしたケースが増えることも想定され(小規模病院や療養病床を持つ病院で「説明を受けていない」と答える患者が比較的多い点からも、この点が強く想起される)、医師の負担も考慮した上で、「より分かりやすい説明」を工夫する必要があります。

医師からの説明状況(2020年受療行動調査6 210913)



また医師からなされた説明が「十分であったか」を見ると、「十分であった」と感じた患者は6-7割強にとどまり、2-3割の患者は「まあまあ十分であった」、4-7%の患者は「十分ではなかった」と答えています。医師の多忙さを考慮すれば、看護師や薬剤師などの多職種と協力し、説明に関する「役割分担」を進めるなどし、「十分に説明を受けた」と感じる患者の増加(つまり患者の満足度が高まる)につなげることが重要と思われます。

医師へ疑問等を伝えられているか(2020年受療行動調査7 210913)



医療内容が高度化し(それだけ医師等と患者との知識の乖離が大きくなる、つまり患者にとって分かりにくなる)、患者の高齢化が進む中で、「分かりやすい説明、患者が納得できる説明」が重要さを増していきます。



さらに、患者が「説明に対する疑問や意見」を医師に伝えられたかどうか、を見てみると、8-9割は「十分に伝えられた」と答えていますが、1割程度の患者は「伝えられなかった」と感じています。「伝えられなかった」背景には、時間や気おくれなど、さまざまな要素があると考えられます。「相談支援窓口」の設置や周知、さらに、患者に最も身近な看護師の気配りなども重要です(患者サイドには、どうしても「医師には言えないが、看護師さんや薬剤師さんには言える」という心理がある)。

いわゆる「社会的入院」がここに来て増加、全体では25%、特定機能病院でも6.7%に

他方、入院患者が「今後の治療・療養」についてどのような希望を持っているのかを見ると、「完治するまで今の病院にいたい」という声が特定機能病院でも40.7%、大病院でも40.9%あります。3年前の前回調査に比べて、そうした声は特定機能病院では3.9ポイント減、大病院では3.0ポイント減となっており、「病院の機能分担」について患者サイドの理解が進んでいることが伺えます。

しかし、4割が「完治するまで大学病院等に入院したい」と考えており、「他の病院や診療所、介護施設などへの転院・退院」を希望する声は1割にとどかない状況を考えれば、「医療提供体制の在り方」について一般国民・患者にも分かりやすく周知していくことが必要です。大規模病院では急性期治療を受け、回復やリハビリについては当該機能を持った病院(回復期リハビリ病棟や地域包括ケア病棟など)に転院等して受けるという流れについて、適切な説明がなければ「大病院に見捨てられた」と考える患者・家族も出てくることでしょう。

病院サイドはもちろん、保険者(健康保険組合や協会けんぽ、国民健康保険など)も「医療機能分化、連携の強化」について機会をとらえて情報提供することが必要です。

入院患者の今後の治療場所の希望(2020年受療行動調査8 210913)



なお、退院許可が出た場合でも「自宅療養ができない」患者の割合を見ると、全体では25.0%(前回調査から3.3ポイント増)。病院の種類別にみると、▼特定機能病院:6.7%(同1.4ポイント減)▼大病院:8.2%(同1.1ポイント減)▼中病院:12.6%(同0.8ポイント減)▼小病院:19.2%(同1.4ポイント増)▼療養病床を有する病院:39.7%(同7.6ポイント増)―となっています。

いわゆる社会的入院が、介護保険創設から20年も経つ中で、小規模病院や療養病床を持つ病院で「増加している」点は大きな問題でしょう。例えば「病床利用率低下に悩む小規模病院や療養病床を持つ病院が、在院日数をコントロールしている」可能性や、「地域で介護保険施設や事業所が不足しているために退院等できない」などの事態も考えられます。地域ごとに「課題抽出→改善方策の検討」に向けた議論を早急に進める必要があるでしょう。

また自宅療養できない大きな理由としては、▼家族の協力▼入浴や食事などの介助サービス▼通院手段の確保▼在宅医療▼療養のための指導(服薬・リハビリなど)—など、多岐にわたっていることが再確認されました。診療報酬でも入退院支援の充実が図られていますが、例えば「家族の協力」などは病院側ではいかんともしがたく、まさに「地域包括ケアシステム」(要介護度が高くなっても可能な限り住み慣れた地域で生活できるよう、地域において▼医療▼介護▼予防▼住まい▼生活支援―の各サービスを整備し、それを有機的に結合する体制)の構築を地域で進めることの重要性をここで再認識する必要があります。

社会的入院の状況(2020年受療行動調査9 210913)

特定機能病院でも、依然として3割近くの患者は「紹介状なし」で直接受診

最後に、外来患者が「最初にどの医療機関を受診したか」を病院種別に見てみましょう。

「最初から、今日来院した病院を受診した」、つまり「他院からの紹介などを受けていない患者」の割合は、▼特定機能病院:29.7%(前回調査から0.7ポイント減少)▼大病院:39.1%(同1.1ポイント減)▼中病院:56.0%(同0.2ポイント減)▼小病院:65.5%(同0.9ポイント増)▼療養病床を有する病院:63.4%(同0.7ポイント増)—となっており、特定機能病院や大病院では「他の医療機関からの紹介患者」が増加していることが確認できました。

外来患者の最初の受診場所(2020年受療行動調査10 210913)



外来の機能分化が進んでいる状況が伺えますが、依然として「3割の患者は、特定機能病院などの大病院を紹介状を持たずに受診している」ことも明らかとなりました。

上述のように「一定の機能を持つ200床以上の病院」については、紹介状を持たずに受診した場合に特別負担がかかることとなります。しかし、この仕組みは特定機能病院等には2016年度から導入されており、この結果は「特別負担を課してもなお、大学病院等に直接かかりたい」と考えている患者が少なくないことを意味します。

「なぜ、まず身近なかかりつけ医などを受診しないのか」「特別負担をどう感じているのか(負担にならないと感じているのか、いくらであれば負担と感じるのか)」などをさらに詳しく調べ、さらなる機能分化に向けた取り組みを進めることが必要かもしれません。



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