難病の診断を補助する新検査法を10月から保険適用、診療報酬請求上の留意点を整理―厚労省
2021.10.6.(水)
先天性疾患が疑われる患者について、染色体変異を網羅的に調べる新検査「染色体ゲノムDNAのコピー数変化、およびヘテロ接合性の喪失」を、また、自己免疫疾患であるAPS(抗リン脂質抗体症候群)の診断を補助する新検査3種類(抗カルジオリピンIgM抗体、抗β2グリコプロテインIIgG抗体、抗β2グリコプロテインIIgM抗体)を、それぞれ保険診療の中で実施することを認める―。
厚生労働省は9月30日に通知「検査料の点数の取扱いについて」を発出し、こうした点を明らかにしました(厚労省のサイトはこちら)。10月1日から適用されており、難病患者にとっては朗報の1つとなります。
染色体変異を網羅的に調べる新検査を保険適用
9月15日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では難病診断を補助する2つの新たな検査を保険適用することが了承されました(中医協資料はこちら(厚労省のサイト))。
その1つ目が、「染色体ゲノムDNAのコピー数変化、およびヘテロ接合性の喪失」を測定する検査です。
先天性疾患が疑われる患者の染色体変異を網羅的に調べるもので、従前の主流検査法(染色 体G分染法)に比べて染色体異常の検出率が高い(従前の検査法で3%にとどまるところ、新検査法では15-20%)ため、診断・治療法の確定や合併症への対応などがより迅速に行えると期待されます(従前は検出率が低いため、追加検査などが必要であった)。こうした有用性が中医協で高く評価されて保険適用が了承され、今般の通知で、保険診療の中で本検査を実施する際の留意事項が整理されたものです。
本検査は後述する染色体異常疾患が疑われる患者が対象となります。また保険検査を保険診療の中で実施するためには、D026【検体検査判断料】の「遺伝カウンセリング加算」の施設基準に係る届け出を行う必要があります(施設基準は後述)。
対象患者に対して、要件を満たした医療機関において、薬事承認を得ている体外診断用医薬品を用いて、アレイCGH法により「染色体ゲノムDNAのコピー数変化・ヘテロ接合性の喪失」を測定した場合に、D006-4【遺伝学的検査】の「3 処理が極めて複雑なもの」(8000点)を準用し、患者1人につき1回に限り算定することが認められます。この場合、関連学会が定める指針を遵守し、「本検査を実施する医学的な理由」をレセプトの摘要欄に記載することが求められます。
●本検査の対象は、以下の疾患が疑われる患者である
▽12q14欠失症候群
▽15q13.3欠失症候群
▽15q24反復性微細欠失症候群
▽15q26過成長症候群
▽16p11.2重複症候群
▽16p11.2-p12.2欠失症候群
▽16p11.2-p12.2重複症候群
▽16p13.11反復性微細欠失症候群
▽16p13.11反復性微細重複症候群
▽17q21.31反復性微細欠失症候群
▽1p36欠失症候群
▽1q21.1反復性微細欠失症候群
▽1q21.1反復性微細重複症候群
▽1q21.1領域血小板減少-橈骨欠損症候群
▽22q11.2欠失症候群
▽22q11重複症候群
▽22q11.2遠位欠失症候群
▽22q13欠失症候群(フェラン・マクダーミド症候群)
▽2p15-16.1欠失症候群
▽2p21欠失症候群
▽2q33.1欠失症候群
▽2q37モノソミー
▽3q29欠失症候群
▽3q29重複症候群
▽7q11.23重複症候群
▽8p23.1微細欠失症候群
▽8p23.1重複症候群
▽8q21.11欠失症候群
▽9q34欠失症候群
▽アンジェルマン症候群
▽ATR-16症候群
▽22qテトラソミー症候群(キャットアイ症候群)
▽シャルコー・マリー・トゥース病
▽5p-症候群
▽遺伝圧脆弱性ニューロパチー
▽レリー・ワイル症候群
▽ミラー・ディカー症候群
▽NF1欠失症候群
▽ペリツェウス・メルツバッハ病(先天性大脳白質形成不全症)
▽ポトキ・ルプスキ症候群
▽ポトキ・シェイファー症候群
▽プラダー・ウィリ症候群
▽腎嚢胞-糖尿病症候群
▽16p12.1反復性微細欠失症候群
▽ルビンシュタイン・テイビ症候群
▽スミス・マギニス症候群
▽ソトス症候群
▽裂手/裂足奇形1
▽ステロイドスルファターゼ欠損症
▽WAGR症候群
▽ウィリアムズ症候群
▽ウォルフ・ヒルシュホーン症候群
▽Xp11.22連鎖性知的障害
▽Xp11.22-p11.23重複症候群
▽MECP2重複症候群
▽ベックウィズ・ヴィーデマン症候群
▽シルバー・ラッセル症候群
▽第14番染色体父親性ダイソミー症候群(鏡-緒方症候群)
▽14番染色体母親性ダイソミー
▽これらの類縁疾患
●D026【検体検査判断料】の「遺伝カウンセリング加算」の施設基準
(1)遺伝カウンセリングを要する診療に係る経験を3年以上有する常勤の医師が1名以上配置されていること。なお、週3日以上常態として勤務しており、かつ、所定労働時間が週22時間以上の勤務を行っている非常勤医師(遺伝カウンセリングを要する診療に係る経験を3年以上有する医師に限る)を2名以上組み合わせることにより、常勤医師の勤務時間帯と同じ時間帯にこれらの非常勤医師が配置されている場合には、当該基準を満たしていることとみなすことができる。
(2)遺伝カウンセリングを年間合計20例以上実施していること
指定難病である抗リン脂質抗体症候群(APS)の診断を補助する新検査を保険適用
また2つ目の新検査は、▼MESACUP-2テスト カルジオリピン▼ステイシア MEBLu xスト β2GPI―で、自己免疫疾患であるAPS(抗リン脂質抗体症候群:Autoimmune polyendocrinopathy、指定難病の1つ(告示番号48))によくみられる「抗リン脂質抗体」(自己抗体(群))を検出するものです。
前者の「MESACUP-2テスト カルジオリピン」では、血清中の▼抗カルジオリピン抗体IgG▼抗カルジオリピン抗体IgM―を測定することで、また後者の「ステイシア MEBLu xスト β2GPI」では、血清中の▼抗β2グリコプロテインI抗体IgG ▼抗β2グリコプロテインI抗体IgM―を測定することで、APSの診断を補助します。
今般の通知では、本検査を保険診療の中で実施する際の留意点を次のように整理しました。
▽APS診断を目的として、ELISA法を用いた免疫学的検査で「抗カルジオリピンIgM抗体」
の測定を行った場合は、D014【自己抗体検査】の「27 抗カルジオリピン抗体」(232点)を準用して、一連の治療につき2回に限り算定する
・▼本検査▼D014【自己抗体検査】の「25 抗カルジオリピンβ2グリコプロテインI複合体抗体」(223点)▼同「抗リン脂質抗体検査(抗カルジオリピンIgG/IgM抗体、および抗β2グリコプロテインI IgG/IgM抗体の同時測定」(696点(232点×3))―のいずれか2つ以上をあわせて実施した場合は、主たるもののみ算定する
▽APS新打を目的として、CLEIA法を用いた免疫学的検査で「抗β2グリコプロテインIIgG抗体」の測定を行った場合は、D014【自己抗体検査】の「27 抗カルジオリピン抗体」(232点)を準用して、一連の治療につき2回に限り算定する
・▼本検査▼D014【自己抗体検査】の「25 抗カルジオリピンβ2グリコプロテインI複合体抗体」(223点)▼同「抗リン脂質抗体検査(抗カルジオリピンIgG/IgM抗体、および抗β2グリコプロテインI IgG/IgM抗体の同時測定」(696点(232点×3))―のいずれか2つ以上をあわせて実施した場合は、主たるもののみ算定する
▽APS診断を目的として、CLEIA法を用いた免疫学的検査で「抗β2グリコプロテインIIgM抗体」の測定を行った場合は、D014【自己抗体検査】の「27 抗カルジオリピン抗体」(232点)を準用して、一連の治療につき2回に限り算定する
・▼本検査▼D014【自己抗体検査】の「25 抗カルジオリピンβ2グリコプロテインI複合体抗体」(223点)▼同「抗リン脂質抗体検査(抗カルジオリピンIgG/IgM抗体、および抗β2グリコプロテインI IgG/IgM抗体の同時測定」(696点(232点×3))―のいずれか2つ以上をあわせて実施した場合は、主たるもののみ算定する
▽上記3種類の検査(抗カルジオリピンIgM抗体、抗β2グリコプロテインIIgG抗体、抗β2グリコプロテインIIgM抗体)と、D014【自己抗体検査】の「27 抗カルジオリピン抗体」を合わせて実施した場合には、主たるもの3つに限り算定する
難病の診断を補助する検査手法が増えたことで、「より迅速に確定診断がなされる」→「重症度要件を満たせば医療費助成がなされる」こととなります。近く国会に上程される予定の難病法等改正案では「医療費助成を重症化時点にまで遡って開始する」(現在は申請日に遡って助成されるが、これをさらに一歩進めた形)内容の見直しが行われており、患者・家族にとっては朗報と言えるでしょう。
【お詫びと訂正】併算定ルール中、「45 抗HLA抗体(抗体特異性同定検査)」(4850点)と記載しておりましたが、同「抗リン脂質抗体検査(抗カルジオリピンIgG/IgM抗体、および抗β2グリコプロテインI IgG/IgM抗体の測定」(232点を準用)「抗リン脂質抗体検査(抗カルジオリピンIgG/IgM抗体、および抗β2グリコプロテインI IgG/IgM抗体の同時測定」(696点(232点×3))の誤りです。大変失礼いたしました。お詫びして訂正いたします。記事は訂正済です。
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