鳥関連の過敏性肺炎、全身性脂肪萎縮症、クロウ・深瀬症候群の診断補助する検査を6月1日から保険適用―厚労省
2021.6.2.(水)
▼鳥関連の過敏性肺炎▼指定難病である「全身性脂肪萎縮症」▼指定難病である「クロウ・深瀬(POEMS)症候群」—の診断を補助する検査を、それぞれ保険適用し、診療報酬算定上の留意点を整理する―。
厚生労働省は5月31日に通知「検査料の点数の取扱いについて」を示し、こうした点を明確にしました。6月1日から適用されています(厚労省のサイトはこちら)。
目次
「鳥」を抗原とする過敏性肺炎の診断補助する検査を保険適用
今般の通知は5月12日の中央社会保険医療協議会総会で「新たな検査手法について保険適用を行うこととして差し支えない」と判断されたことを受けたものです。
まず「鳥関連過敏性肺炎の診断補助」に用いる検査です。
過敏性肺炎の治療では、徹底的な抗原の回避が重要であり、その前提として「原因抗原」の特定が極めて重要となります。この点、新たな検査手法では血清中・血漿中の鳥抗原に対する特異的免疫グロブリンG(IgG)を測定することで、「鳥が抗原となる過敏性肺炎」を高精度に鑑別することが可能であり、その有用性から「保険適用することが妥当」と中医協で判断されました。
保険診療の中では、「診察または画像診断などにより鳥関連過敏性肺炎が強く疑われる患者」に対して、EIA法によって「鳥特異的IgG抗体」を測定した場合に、D012【感染症免疫学的検査】の「52 抗トリコスポロン・アサヒ抗体」の所定点数(873点)を準用して算定できます。
請求に当たっては、レセプトの摘要欄に「本検査が必要と判断した医学的根拠」を記載することが求められます。
指定難病「全身性脂肪萎縮症」の診断補助に用いる検査を保険適用
次に、指定難病である「全身性脂肪萎縮症」(告示番号265)の診断の補助をする検査(レプチン測定)です。
全身性脂肪萎縮症は、全身の脂肪組織が消失する疾患で、脂肪組織が消失するとともに「重度のインスリン抵抗性糖尿病や高中性脂肪血症、非アルコール性脂肪肝炎」などの代謝異常を発症する予後不良な難治性疾患です。根治療法は未開発ですが、脂肪萎縮に伴うインスリン抵抗性を中心とする代謝異常に対しては「レプチン」(脂肪細胞から分泌されるホルモンで、食意欲を抑制させる働きを持つ)の有効性が証明されています。
また、全身性脂肪萎縮症患者では「レプチン濃度が低下する」との知見が得られています。そこで「血清中のレプチン濃度測定」が当該疾病の診断補助検査として開発され、臨床試験では良好な成績をおさめました。5月12日の中医協総会でその有用性が確認され、今般、保険適用となったものです。
保険診療においては、▼脂肪萎縮▼食欲亢進▼インスリン抵抗性▼糖尿病▼脂質異常症—のいずれをも有する患者に対し「全身性脂肪萎縮症」の診断補助を目的として、ELISA法によって、「血清中のレプチン」測定を行った場合に、D014【自己抗体検査】の「43 抗アクアポリン4抗体」の所定点数(1000点)を準用して、患者1人につき1回に限り算定することが認められます。
なお、本検査の実施に当たっては、関連学会が定める指針を遵守すること、レセプトの摘要欄に▼脂肪萎縮の発症時期▼全身性脂肪萎縮症を疑う医学的な理由―を記載すること―が求められます。
指定難病「クロウ・深瀬(POEMS)症候群」の診断補助に用いる検査を保険適用
さらに、指定難病の1つである「クロウ・深瀬(POEMS)症候群」(告示番号16)の診断補助に用いる検査法の保険適用も行われています。
クロウ・深瀬(POEMS)症候群は、「免疫グロブリンを産生する形質細胞の異常」を基礎として、異常な形質細胞増殖に伴って産生される特殊なタンパク質(血管内皮増殖因子:VEGF)が生じ、さまざまな症状を出現させるものと考えられています。主な症状としては、▼末梢神経障害▼手足のむくみ▼皮膚の変化(色素沈着、剛毛、血管腫)▼胸水・腹水—などが知られており、「骨病変に対する切除や放射線照射」「副腎皮質ホルモン投与」「全身化学療法」「自己末梢幹細胞移植を伴う大量化学療法」などが行われています。
なお、我が国では、疾患報告者の名前に由来して「クロウ・深瀬症候群」と呼びますが、欧米では症状の頭文字から「POEMS syndrome」(POEMS症候群)と呼びます。
今般、血清中の血管内皮増殖因子(VEGF)を測定する検査手法が開発され、クロウ・深瀬(POEMS)症候群の診断を的確に補助できることが分かり、中医協総会で保険適用が認められました。
保険診療においては、「クロウ・深瀬症候群」(POEMS症候群)の診断、または診断後の経過観察を目的に、ELISA法によって「血管内皮増殖因子(VEGF)測定」を行った場合、D014【自己抗体検査】の「39 抗GM1IgG抗体」の所定点数(460点)を準用し、月1回を限度に算定できます。
指定難病は、▽発症の機構が明らかでない▽治療方法が確立していない▽希少な疾病である▽長期の療養が必要である—という要件を満たす「難病」のうち、▼患者数が我が国で一定数(現在は18万人、人口の0.142%未満)に達していない▼客観的な診断基準、またはそれに準ずる基準が確立している—という要件を満たしたもので、これまでに「333疾患」が認められています(現在、さらなる追加を検討中、関連記事はこちら)。罹患者では社会生活に大きな影響が出るため、一定の重症度を満たす場合には「医療費助成」が行われるため、「診断されるか否か」は患者の生活・治療にとって非常に大きな要素となります。
この点、難病制度を検討する厚生科学審議会・疾病対策部会の「指定難病検討委員会」や「難病対策委員会」などでは、「遺伝子検査が保険適用されておらず、指定難病の診断ができないケースがある。結果として医療費助成の対象とならない患者もいる」ことから、「遺伝子変異が診断基準となっている指定難病については、速やかに遺伝子検査を保険適用してほしい」との声も多数出ています(関連記事はこちら)。
今般の指定難病の診断を補助する検査の保険適用は、患者にとって大きな朗報と言え、また治療を行う医師や研究者にとっても重要な動きと言えます。さらなる優れた検査方法の開発に期待が集まります。
【関連記事】
百日咳菌を簡便・迅速・高精度に検出する新検査を5月1日から保険適用―厚労省
卵巣がんの診断を補助する新検査「血清中TFPI2測定」を4月1日から保険適用―厚労省
小児アトピーの重症度を評価する「血中のSCCA2測定」検査を2月1日から保険適用―厚労省
サイトカインストームの発生予測、多発性硬化症患者の薬剤投与量判断などの検査を1月1日から保険適用―厚労省
大腸がんの術後抗がん剤選択での「マイクロサテライト不安定性検査」、保険診療で実施可能に―厚労省
新型コロナと季節性インフルとを、唾液を用いて迅速に同時鑑別できる検査法を保険適用―厚労省
急性膵炎の診断を迅速・簡便に補助する検査を11月1日から保険適用―厚労省
新型コロナのPCR検査の検体は「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)病原体検査の指針」に沿う―厚労省
潰瘍性大腸炎等の診断補助・病態把握のための「カルプロテクチン量」測定、検査手法を拡大―厚労省
悪性リンパ腫の病型分類補助でも、「ALK融合タンパク」(2700点)を算定可能に―厚労省
大腸がん治療薬や脊髄性筋萎縮症(SMA)治療薬の事前効果判定をする検査を8月1日から保険適用―厚労省
新型コロナが医療現場・医療機関経営に及ぼす影響踏まえ、診療報酬と絡めて議論すべきか—中医協総会(2)
新型コロナと他疾患(季節性インフルエンザなど)とを同時鑑別できる新検査法を保険適用―厚労省
抗リン脂質抗体症候群(APS)の診断を的確に行う新検査方法を7月1日から保険適用―厚労省
潰瘍性大腸炎・クローン病の「活動期」を把握する新検査法を6月1日から保険適用―厚労省
潰瘍性大腸炎の病態把握を目的とする新検査法、5月から保険適用—厚労省
20種類の呼吸器感染症病原体を高精度・短時間に同定する新検査を11月から保険適用—厚労省
「FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症」の診断・治療効果判定を補助する検査を保険適用—厚労省
深在性真菌感染症の治療法選択等に用いる「(1→3)-β-D-グルカン」検査、8月から検査手法拡大—厚労省
昨冬に保険収載された「FLT3遺伝子検査」、点数算定の取り扱いを一部訂正—厚労省
骨粗鬆患者への薬剤治療方針選択を補助する検査、7月から検査手法を拡大—厚労省
大規模な院内感染を引き起こすCDI、鑑別診断のための検査法を2019年4月から保険収載—厚労省
急性白血病等の治療法選択に当たり、新たな遺伝子検査を、2019年2月から保険収載—厚労省
「膀胱がんの再発」「褐色細胞腫」を診断する新たな検査を、2019年1月から保険収載—厚労省
「画期的な抗がん剤」治療の効果を確認する遺伝子検査を12月から保険収載—厚労省
ヒト精巣上体蛋白4や淋菌核酸検出など、11月から新たな検査手法を保険診療に追加—厚労省
天疱瘡と水疱性類天疱瘡との鑑別診断補助のための新検査を10月から保険収載—厚労省
骨粗鬆症治療における薬剤治療方針の選択に当たり、新検査を9月から保険収載—厚労省
大腸がんの治療法選択等に重要なBRAF遺伝子検査、8月から保険収載—厚労省
肝臓の線維化ステージ診断のためのオートタキシン検査、6月から保険収載—厚労省
カルニチン欠乏症診断のための検査、2月から保険収載—厚労省
肺生検困難ながん患者のEGFR遺伝子検査、1月から初回治療前でも算定可能に―厚労省
潰瘍性大腸炎の診断補助する新検査法を12月から保険収載—厚労省
ヒトT細胞白血病ウイルス感染の有無を判断する新検査方法を11月から保険収載—厚労省
非小細胞肺がんのリンパ節転移診断を補助する検査などを10月から保険収載—厚労省
急速進行性糸球体腎炎の治療方針決定のため、新検査方法を9月から保険収載―厚労省
肺生検困難な肺がん患者について、血漿による遺伝子検査を7月から保険収載―厚労省
肺がん患者に抗がん剤「クリゾチニブ」投与が有効か調べる遺伝子検査、6月から保険収載―厚労省
ビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症診断の新検査法を5月1日から保険収載―厚労省
卵巣腫瘍が悪性か良性かを診断する「ヒト精巣上体蛋白4」を4月1日から保険収載―厚労省
急性腎障害の早期診断を行う尿中NGAL検査を2月1日から保険収載―厚労省
慢性好酸球性白血病患者、適切な治療法選択のための遺伝子検査を12月1日から保険収載―厚労省
百日咳の診断補助を行う新たな臨床検査を11月1日から保険収載―厚労省
2018年度改定に向けて、入院患者に対する「医師による診察(処置、判断含む)の頻度」などを調査―中医協総会
皮膚筋炎の診断補助を行う新たな臨床検査を10月1日から保険収載―厚労省