若年性認知症、診断名(アルツハイマー、血管性認知症等)と初期症状(物忘れ、怒りっぽい等)に一定の関係—都健康長寿医療センター研究所
2025.3.6.(木)
「若年発症のアルツハイマー病」(EO-AD)では「もの忘れが多くなった」症状が特徴的である—。
「若年発症の血管性認知症」(EO-VaD)および「若年発症の前頭側頭型認知症」(EO-FTD)では「言葉がうまく出なくなった」症状が特徴的である—。
また、「若年発症の前頭側頭型認知症」(EO-FTD)では「何事にもやる気がなくなった」症状、「職場や家事などでミスが多くなった」症状、「それ以外の今までにない行動・態度が出るようになった」症状も特徴的である—。
東京都健康長寿医療センター研究所(東京都板橋区)が3月4日に、こうした研究成果を発表しました(研究所のサイトはこちら)。こうした情報・知見を社会に発信することで「若年性認知症の早期発見・早期診断→適切な治療・支援」につながることが期待されます。
若年性認知症の診断名ごとに初期症状の頻度や出方が大きく異なる
認知症患者数は、高齢化の進行に伴い増加していきます。2018年には500万人を超え、65歳以上高齢者の「7人に1人が認知症」となり、2025年には675万人、2040年には802万人になると推計されています。このため、2019年には認知症施策推進大綱が、2023年には認知症基本法が制定(2024年1月施行)され、認知症患者の意向を十分に踏まえた総合的な対策(認知症との共生、認知症予防など)を進めることとされています。

認知症高齢者数の推移(介護保険部会3 220516)
ところで、認知症は高齢者にだけ発症するものではありません。認知症の中でも比較的若い世代(65歳未満)で発症するものを「若年性認知症」といい、高齢期の認知症と比べて▼「親世代の介護」や「子の養育」が重なる▼就業の継続など複合的な課題がある—など「経済的困難」や「将来への不安、葛藤」、「社会的孤立」に直面する場面が多くなります。
この点、例えば「職場において上司や同僚が「症状に気づいた際に適切な支援につなげられるようにする」「地域生活の場で誰かが気付けるように、社会全体に若年性認知症の症状を知ってもらう」といったことが重要ですが、若年性認知症患者は高齢期認知症患者と比べて非常に少なく、地域社会での認知度も十分でないことから、研究所では「地域社会を構成する1人1人が正しく若年性認知症を理解しておく」ことが重要であると指摘。今般、「若年性認知症に関する社会の理解を広める」ことに役立つ研究を紹介しました。
この研究は「診断前の初期症状」に焦点を合わせ、18-64歳で若年性認知症と診断された人を対象に、▼若年性認知症の人の医療や介護、相談支援などを行っている医療機関や介護施設等に質問票調査を行い、協力を要請する▼医療機関や介護施設等から若年性認知症の本人または家族に対して詳細な質問票を配布してもらう—形で実施されました(質問票には年齢、性別、発症時の職業、診断前の初期症状、認知症の診断名などの情報も含む)。
また「診断前の初期症状」については、▼もの忘れが多くなった▼言葉がうまく出なくなった▼怒りっぽくなった▼何事にもやる気がなくなった▼職場や家事などでミスが多くなった▼それ以外の今までにない行動・態度が出るようになった—といった、家族や本人が簡単に回答できる形で評価しました。
調査対象者は、4大認知症(アルツハイマー病、血管性認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症)の診断を受けた770名の若年性認知症患者で、その内訳は▼若年発症のアルツハイマー病(EO-AD):576名▼若年発症の血管性認知症(EO-VaD):80名▼若年発症の前頭側頭型認知症(EO-FTD):83名▼若年発症のレビー小体型認知症(EO-DLB):31名—となっています。
認知症発症時を振り返ると、▼57.4%が就労していた▼64.4%で、配偶者が初期症状に気づいていた▼初期症状としては「もの忘れが多くなった」(69.6%)、「職場や家事などでミスが多くなった」(43.8%)が多い—という状況です。
認知症の診断名ごとに初期症状の頻度をみてみると、次のような状況も分かりました。
▽「もの忘れが多くなった」症状
→若年発症のアルツハイマー病(EO-AD)で最も頻度が高い(75.7%)
▽「言葉がうまく出なくなった」症状
→若年発症の血管性認知症(EO-VaD、41.3%)と、若年発症の前頭側頭型認知症(EO-FTD、31.3%)でより多かく認められた
▽「何事にもやる気がなくなった」症状
→若年発症の前頭側頭型認知症(EO-FTD、34.9%)で多く認められたが、若年発症の血管性認知症(EO-VaD、26.3%)や若年発症のレビー小体型認知症(EO-DLB、29.0%)との間に統計学的に意味のある差はなかった
▽「職場や家事などでミスが多くなった」症状
→若年発症の前頭側頭型認知症(EO-FTD、49.4%)および若年発症のアルツハイマー病(EO-AD、46.5%)でより多かった
▽「それ以外の今までにない行動・態度が出るようになった」症状
→若年発症の前頭側頭型認知症(EO-FTD)で統計学的に有意に高かった(34.9%)

若年性認知症の「初期症状」と「後の診断名」との関係
また、「初期症状」と「性別や年代、居住形態などの因子」との関連を分析すると、次のような点も明らかになりました。
▽「もの忘れが多くなった」症状
→女性でより多く観察された
▽「言葉がうまく出なくなった」症状
→1人暮らしの人でより多く認められた
▽「怒りっぽくなった」症状
→男性でより多かった
▽「職場や家事などでミスが多くなった」症状
→「若年群(58歳未満)」および「発症時に就労していた人」で多く認められた
さらに、▼初期症状▼診断名▼性別や年代など—をクロス分析すると、次のような結果が得られました。
▽「もの忘れが多くなった」症状
→「女性」で多く、その後「若年発症のアルツハイマー病」(EO-AD)と診断された人が多かった
▽「言葉がうまく出なくなった」症状
→「1人暮らしであった人」が多く、その後「若年発症の血管性認知症」(EO-VaD)や「若年発症の前頭側頭型認知症」(EO-FTD)と診断された人が多かった
▽「怒りっぽくなった」症状
→「男性」が多く、その後「若年発症の血管性認知症」(EO-VaD)と診断された人が多かった
▽「何事にもやる気がなくなった」症状
→その後「若年発症の前頭側頭型認知症」(EO-FTD)と診断された人が多かった
▽「職場や家事などでミスが多くなった」症状
→「発症時に就労していた人」が多く、その後「若年発症のアルツハイマー病」(EO-AD)や「若年発症の前頭側頭型認知症」(EO-FTD)と診断された人が多かった
▽「それ以外の今までにない行動・態度が出るようになった」症状
→その後「若年発症の前頭側頭型認知症」(EO-FTD)と診断された人が多かった

若年性認知症の「初期症状」と「後の診断名、性別など」との関係
こうした研究成果から「若年性認知症の診断名ごとに初期症状の頻度や出方が大きく異なる」ことが明らかになっています(▼「若年発症のアルツハイマー病」(EO-AD)では「もの忘れが多くなった」症状が特徴的である▼「若年発症の血管性認知症」(EO-VaD)および「若年発症の前頭側頭型認知症」(EO-FTD)では「言葉がうまく出なくなった」症状が特徴的である▼「若年発症の前頭側頭型認知症」(EO-FTD)では「何事にもやる気がなくなった」症状、「職場や家事などでミスが多くなった」症状、「それ以外の今までにない行動・態度が出るようになった」症状が特徴的である)。
さらに研究所は、こうした知見・情報を社会に発信することで▼同僚や家族(あるいは自分)に●●(怒りっぽくなった、物忘れが多くなったなど)の症状がある、もしかしたら何かの病気かもしれない、受診を促してはどうだろうか」という気づきを生む▼気づいたときに早い段階で受診して診断を受けることができれば、治療だけでなく、症状があっても暮らしやすいような職場や家庭での工夫ができる可能性がある▼心のケアが受けられる可能性、相談相手ができる可能性もある—と指摘。
企業への若年性認知症の知識の周知をすすめ、▼若年性認知症の症状への気付き促進▼合理的配慮(困りごとのある本人に合わせた支援や工夫や調整)の提供体制構築推進▼初期症状を考慮した産業医などの診断支援—の必要性も訴えています。
今後も研究を進め、「個々の若年性認知症患者に応じた、きめ細やかで丁寧な診断・支援」が行われることに期待が集まります。
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