人々の「認知症に対する差別・偏見」を把握し、その結果をもとに正しい知識普及などに努めて「認知症との共生」目指せ—長寿医療研究センター
2024.11.8.(金)
人々の間には「認知症に対する差別・偏見」(認知症スティグマ)が少なからずあると考えられ、これを放置すれば「認知症との共生」が難しくなる—。
「認知症に対する差別・偏見」(認知症スティグマ)を評価する質問票を用いて、地域住民の意識調査などを行い、その結果をもとに「認知症に対する正しい理解・知識の普及啓発」などに努めることで、「認知症の人も含めた地域共生社会の実現」を目指す必要がある—。
国立長寿医療研究センターが11月1日に、こうした研究成果を発表しました(研究センターのサイトはこちら)。
「認知症との共生」を進めるためには、地域住民の意識を把握する必要がある
認知症患者数は、高齢化の進行に伴い増加していきます。2018年には500万人を超え、65歳以上高齢者の「7人に1人が認知症」となり、2025年には675万人、2040年には802万人になると推計されています。このため、2019年には認知症施策推進大綱が、2023年には認知症基本法が制定され、認知症患者の意向を十分に踏まえた総合的な対策(認知症との共生、認知症予防など)を進めることとされています(本年(2024年)1月施行)。
述べるまでもなく、「認知症との共生」においては、「認知症について正しく理解し、認知症の人への差別や偏見(認知症スティグマ)を解消していく」ことが極めて重要となります。認知症スティグマは「認知症の人の受診や治療の遅れ」「社会交流の減少」などにつながり、認知症の人と家族の生活の質を低下させてしまいます。
例えば、▼Aさんが、物忘れがひどくなったりしたため、Aさん家族が認知症を疑い、Aさんに医療機関受診を勧めても、Aさん自身が「認知症は恥ずかしい。私が認知症であるはずがない」と自分自身で医療機関受診を拒否するケース▼Bさんが、物忘れがひどくなったりしたため、近隣住民や親戚が、Bさんの認知症を疑い、Bさん家族に医療機関受診を勧めても、「家族が認知症だなんて恥ずかしい」と家族が医療機関を受診させないケース—などがままあります。これらも「認知症は恥ずかしい」などの認知症スティグマが背景にあると言えます。
ただし、「あなたは認知症の人を差別していますか?差別感情を持っていますか?恥ずかしいと思いますか?」などとダイレクトに質問したとして、「はい」と答える人は稀でしょう。また「自分は差別していない」と思っていても、誤解や知識不足などにより無意識に差別感情をもって、行動してしまっているケースもあると考えられます。つまり、「どの人が、認知症に対して差別や偏見の意識を持っているのか」を把握することは、非常に難しいのです。
ところで「認知症の人への差別や偏見」(認知症スティグマ)には、次のように大別されます。
(1)認知症の本人に生じるセルフスティグマ
(2)認知症ではない(または当事者家族でない)一般住民に生じる公的スティグマ
(3)認知症の本人の家族や友人などの「近しい人」に向けられる連合的スティグマ
この中でも、(2)の「一般住民の公的スティグマ」は、(1)のセルフスティグマや(3)の連合的スティグマを増大する要因となるため、▼公的スティグマの低減▼公的スティグマの評価ツール—の構築が重要となります。
こうした中、国立長寿医療研究センター・愛知東邦大学・東海学園大学では、オーストラリアで開発された「公的スティグマの質問票」(Phillipson Dementia Stigma Assessment Scale:PDSA)の日本語版(PSDA-J)を作成しました(▼全26項目からなるPSDA-J▼行政施策や地域診断などで使用しやすい12項目の短縮版(PDSA-J12)―)。
「公的スティグマの質問票」の日本語版(PSDA-J)は、人々の「認知症に対する信念や態度」について、(a)回避(b)診断の恐怖(c)尊重(d)差別の恐怖—の4要素で構成されています。
研究チームでは、この質問票(PDSA―J)が、高齢者への差別的信念・態度(エイジズム)などと相関関係を示しており、測定結果に妥当性があることを確認。
さらに、「認知症の人との交流経験や同居経験、認知症についての学習経験」と「認知症スティグマ」との関係を分析したところ、次のような状況も明らかになり、質問票(PDSA―J)の妥当性が裏付けられていると言えます。
▽「認知症の人と交流経験がある」人では、(a)回避(b)診断の恐怖(d)差別の恐怖—が低い
▽「認知症の人と同居経験がある人」では、(a)回避(d)差別の恐怖—が低い
▽「認知症についての学習経験がある」人では、「(a)回避」が低く、「(c)尊重」が高い
この質問票(PDSA―J、PDSA―J12)を用いることで「地域住民などが、認知症に対する差別や偏見をどの程度もっているのか」を把握することができます。そこから、「○○の地域では、認知症に対する差別・偏見が強い、認知症に対する正しい知識の普及に今以上に力を入れる必要がある」、「ある特徴の人(年代、性別、学歴など)では認知症に対する差別・偏見が強いようだ、認知症に対する正しい知識の普及に今以上に力を入れる必要がある」などの取り組みにつなげていくことができそうです。
研究チームでは、例えば「認知症施策の効果が、地域地域でどの程度現れているのか評価する」、「認知症にやさしいまちづくりとなっているか、地域診断を行う」ことができ、「認知症の人も含めた地域共生社会の実現に貢献する」ことに期待を寄せています。
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