費用対効果評価の分析前協議に、条件付きで「企業側の専門家」参画認める―中医協・費用対効果評価専門部会
2021.9.22.(水)
費用対効果評価制度について、分析の枠組みをきちんと固めたうえで企業が費用・効果に関する分析に入ることが重要であり、枠組みに関する協議が十分に整わないままに企業分析がスタートすることは好ましくない。このため分析枠組みを決める協議の段階で、企業・公的分析班双方の合意があれば、企業側が要請した専門家の出席を認めることとしてはどうか―。
費用対効果評価の対象品目に選定された後に、効能追加が行われた場合の取り扱いとして、▼分析枠組み決定前の効能追加では、原則として「追加された効能を含めた分析」を行うこととするが、それにより分析に大幅な遅延が生じる場合には除外する(評価後の改めての費用対効果評価を検討する)▼分析枠組み決定後の効能追加では、追加時期にもよるが「追加された効能を含めずに分析」し、評価後の改めての費用対効果評価を検討する―こととしてはどうか―。
9月15日に開催された中央社会保険医療協議会の費用対効果評価専門部会(以下、専門部会)では、こういった議論が行われています。
「迅速な費用対効果評価」という視点で分析プロセスを見直し
我が国の公的医療保険制度においても、「費用対効果評価」制度が2019年4月から導入されています。
医療技術の高度化(例えば脊髄性筋萎縮症の治療薬「ゾルゲンスマ点滴静注」(1億6707万円)、白血病等治療薬「キムリア」(3350万円)といった超高額薬剤の保険適用など)が進み、医療保険財政が厳しくなる中で、「医薬品や医療材料の価格設定において、経済面を考慮する」ことが不可欠となってきているためです。
費用対効果評価の仕組みは非常に複雑ですが、「高額である」「医療保険財政に大きな影響を及ぼす」などの要件を満たした新薬・新医療機器について、「類似の医薬品・医療技術等に比べて、費用対効果が優れているのか、あるいは劣っているか」をデータに基づいて判断。「費用対効果が優れている」と判断されれば価格(薬価、材料価格)は据え置きとなり、「費用対効果が劣っている」と判断されれば価格の引き下げが行われます。また、「費用が少なくなる一方で、効果が優れている・あるいは同じである」という、いわば「きわめて費用対効果が優れている」製品については、価格の引き上げも行われます。従前の「安全性」「有効性」に加えて、新たに「経済性」の評価軸を設けたものです(関連記事はこちら)。すでに、いくつかの薬剤で費用対効果評価結果に基づく価格調整も行われています((関連記事はこちら)。
事例を集積する中で課題を抽出し、2年に一度の診療報酬改定に合わせて、制度改革を進めていくことになります(関連記事はこちら)。すでに中医協の下部組織である「費用対効果評価専門組織」(以下、専門組織)では11項目の改善案提示、製薬メーカーや医療機器メーカーなどの業界団体から「制度改善に向けた意見」聴取が行われ、具体的な改革案論議に入ってきています。
9月15日の専門部会では、「分析プロセス」の見直しを議論しました。今後、「価格調整方法」や「分析体制」の見直しを議論していきます。
費用対効果評価は、現在、大きく次のような流れ(分析プロセス)で進められています。
(A)中医協で対象品目が設定する
↓
(B)企業と公的分析班(厚労省・国立保健医療科学院)との間で分析の枠組みを協議する(分析前協議)
↓
▼専門組織で分析枠組みを確認する(専門組織(i))
↓
(C)この枠組みに基づいて企業で分析を行う
↓
▼専門組織で企業分析を確認する(専門組織(ii))
↓
(D)公的分析班で企業分析結果の検証等を行う
↓
(E)専門組織で、総合的評価(アプレイザル)を行う(専門組織(iii))
↓
(F)中医協で評価を行い、価格調整の内容を決定する
このうち「専門組織による確認」には、例えば▼企業分析の確認(専門組織(ii))では、相対的な観点からの企業分析評価が行えない▼総合的評価(専門組織(iii))の段階で追加分析が必要と判断された場合には、分析期間が長くなってしまう―と言う問題点があります。そこで、厚生労働省保険局医療課医療技術評価推進室の中田勝己室長は、▼企業分析終了後、速やかに公的分析を実施する▼公的分析による企業分析の検証結果が出た段階で専門組織(ii)を開催する▼専門組織(ii)(企業分析の確認)の時点で総合的評価(アプレイザル)が可能な場合には、専門組織(iii)の開催方法を見直せる―などの見直し行うことを提案しています。1か月程度の評価期間短縮が可能になると見込まれます。
また、(B)の分析前協議に関しては、「企業と公的分析班との間で意見の隔たりが大きく(例えば、比較対象の技術をどう設定するか、分析集団の設定をどう考えるかなど)、その後の分析等に悪影響が出る(分析期間が短くなってしまうなど)」などの課題が指摘されています。分析の枠組みがきっちりと固められることが最も重要である点は、述べるまでもありません。
そこで中田医療技術評価推進室長は、「1回目の分析前協議から、企業・公的分析側の合意が得られた場合には、臨床の専門家等の参加を可能とする」などの見直しを行う考えを示しました。企業等からのヒアリング内容なども勘案した、見直し案です。
あわせて、分析前協議の結果、「分析対象集団があまりに小さくなってしまう」ケースが出てきますが、その際には、▼患者数や疾患の性質等を勘案しつつ、全体の評価への影響の程度について専門家の意見も参考に、理由を明らかにした上で「分析対象集団の一部を分析対象から除外できる」取り扱いとする▼分析対象集団の一部が分析不能となった場合の取り扱いは、個別の事例ごとの検討を行いながら事例を収集し、必要に応じて検討する―というルールの明確化が行われます。
また、次のようなルールの明確化・見直しも行われる見込みです。
▽「評価終了後の再評価」に当たっては、▼国立保健医療科学院において、海外評価機関での評価結果や、医学誌のレビュー等を踏まえつつ「候補となる品目」を選定する▼選定された品目について、専門組織で基準該当性の評価を行い、中医協総会で決定する―というプロセスで「H3区分」への該当性を判断する
▽費用対効果評価の対象となった品目に効能追加がなされた場合、▼分析枠組みの決定前に効能追加では、原則として「追加された効能を含めて分析枠組みを決定」する▼追加された効能を含めて分析枠組みを決定することで分析全体が大幅に遅延する場合には、当該効能を含めずに分析を進め、費用対効果評価案の決定後に上記の「H3区分への該当性」を検証する―こととする(分析枠組み後の効能追加では、その時期にもよるが、上記の「H3区分への該当性」を検証する方向で検討する)
「迅速な費用対効果評価」という視点での見直し案で、中医協委員からは特段の反対意見は出ていません。
ただし、「販売量が大きく増加する効能追加などが行われた場合には、迅速にH3区分への該当性を検証する仕組みとすべきである」(診療側の城守国斗委員:日本医師会常任理事)、「科学的根拠に基づいた分析・評価が重要であり、企業側に希望があれば、都度不服意見を聴取してもらえるようにしてほしい」(赤名正臣専門委員:エーザイ株式会社常務執行役)などの注文がついています。今後、制度改革案をまとめていく中で、こうした意見も勘案していくことになります。
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