介護医療院に入所する前の急性期段階、要介護認定段階での「ACP」推進が重要である—日慢協・橋本会長、介護医療院協会・鈴木会長
2022.10.19.(水)
介護医療院の入所者は重度者(要介護4・5)が多く、入所してから「人生の最終段階において、どのような医療介護を受けたいか、受けたくないか」の意思を本人を交えて確認することは難しい。急性期の段階、要介護認定の段階など、より早期のACPが重要となる—。
介護医療院でも介護職員・看護職員の確保に苦心している。この点、併設病院の看護補助者の給与などを考慮し「介護職員処遇改善加算を取得できない」なども背景にある点に留意が必要である—。
日本慢性期医療協会の橋本康子会長と日本介護医療院協会の鈴木龍太会長が10月13日に定例記者会見を行い、このような状況報告を行いました。橋本・日慢協会長は「寝たきり患者を作らないために、医療・介護スタッフのコミュニケーションを強化していくべき」との提言も行われています。
目次
老健施設からの介護医療院転換が増えている、加算廃止で入所者単価は若干低下
2018年度の介護報酬改定で、▼医療▼介護▼住まい―の3機能を併せ持つが新たな介護保険施設「介護医療院」について、単位数や人員・設備に関する基準が設定されました。「介護療養」や「4対1以上の看護配置を満たせない医療療養」の設置根拠が消滅することを受け、移行・転換先候補の1つとして創設されたものです。
介護医療院協会では、会員・非会員を含めた介護医療院を対象に定期的なアンケート調査を行っており、今般、今年(2022)年6月の調査結果が公表されました。
まず、今年(2022年)6月時点の開設状況を見ると、全国で727施設・4万3323床(機能強化型介護療養並みの人員配置が求められるI型が3万1837床、転換老健並みの人員配置で良いII型が1万1486床)となりました。鈴木・介護医療院協会会長は▼従来型老人保健施設からの転換(黄緑色部分の一部)▼大型施設の新規開設(臙脂色部分の一部)—が目立つとコメントしています。
また、入所者の平均単価(1人・1日当たり)を見ると次のような状況です。
【全体】
▽20年:1万5212円 →(648円減)→ ▽21年:1万4564円 →(187円減)→ ▽22年:1万4377円
【I型】(機能強化型介護療養並みの人員配置、介護報酬も高い)
▽20年:1万5802円 →(640円減)→ ▽21年:1万5162円 →(307円減)→ ▽22年:1万4855円
【II型】(転換老健並みの人員配置、介護報酬はやや低い)
▽20年:1万3220円 →(569減)→ ▽21年:1万2651円 →(240円増)→ ▽22年:1万2891円
2021年度の介護報酬改定で【移行定着支援加算】(介護療養や医療療養などから転換した介護医療院において、最初に転換した日から起算して1年間に限り1日につき93単位を算定)が廃止されたことに伴い、単価が下がっていますが、今後は安定していくと見込まれます。
介護医療院、死亡退所が多いが、自宅復帰する入所者も1割程度存在する
次に、「入所者が、どこから介護医療院に入所してきたのか」を見ると、病院(併設・他施設)からが圧倒的に多い状況に変化はありません。
一方、「介護医療院からどこに退所したのか」を見ると、死亡(I型は62.0%、II型は50.7%)が多い状況にも変化はありません。II型では夜間・休日に医師が不在なことから、「夜間・休日に急変する→病院に移る→病院で死亡」となるケースが多く、I型よりも死亡退所割合が低くなっています。
また鈴木・介護医療院協会会長は「自宅や自宅系の老人施設(有料老人ホームなど)への対処が1割程度ある」点に着目。「介護医療院でもリハビリをしっかり行い、自宅復帰が可能である」「地域包括ケア病棟や回復期リハビリ病棟の入院患者が、算定日数を過ぎたのちに介護医療院にうつり、そこでリハビリを行い自宅復帰を目指すというルートが確立されてきている」とコメントしています。
介護医療院でのLIFE利活用、さらに積極的に進む
さらに、2021年度介護報酬改定における目玉の1つである「LIFE」については、介護医療院での積極的な活用が進んでいる状況が報告されています。
LIFEは、「介護施設・事業所がリハビリや栄養・介入などのデータを提出する」→「LIFEデータベースに蓄積され、集計・解析が行われる」→「LIFEから各施設・事業所にデータ解析結果がフィードバックされる」→「各施設・事業所でフィードバック結果をもとにサービス内容の改善を行う」ことにより、全体としてケア・サービスの質が向上していくことを目指すもので、科学的根拠に基づいて「効果的かつ効率的なサービス提供」が進むことに期待が集まっています。この点、介護事業所・施設では「データの収集・記録に不慣れである」「データの利活用が難しい」との声も出ていますが、介護医療院の多くは、もともと「病院」であり、データの収集・利活用を得意としていることでしょう。今後、介護医療院が「LIFEの牽引役・リーダー役」となることも期待できそうです。
このLIFE利活用を評価する加算の1つに【自立支援促進加算】があります。寝たきり防止・重度化防止に向けた取り組みを評価するものですが、要件にある「尊厳の保持に資する取り組み」や「本人を尊重する個別ケア」について「具体的にどのような取り組みをすれば要件をクリアできるのかが分かりにくい」という声があります。
この点、今般の調査では、介護医療院において▼意地悪をしない▼身体拘束ゼロ▼手洗い介護をしない▼意思決定などの代理人を決める—といった点に積極的に取り組んでいることが分かりました。逆に、▼ACPの実施▼お金の管理▼選挙権の行使▼生理現象を我慢させる▼子ども扱いしない—といった点での取り組みがやや遅れていることも明らかになりました。各事業所・施設において、こうした「よその施設でどういった取り組みを行っているのか」という結果を踏まえ、自施設等での取り組み内容を検討することが可能となることでしょう。貴重な資料と言えます。
介護医療院の入所者は重度者が多い、ACPは急性期の段階で行っておくべきでは
さらに、やや取り組みが遅れている「ACP」については、2021年度から22年度に比べて「取り組みが進んできた」ものの、意思決定カンファレンス全体の6.0%にとどまっていることが確認されました。
ACPは、自分が人生の最終段階において「どのような医療・介護を受けたいか」「受けたくないか」(例えば心肺蘇生を行ってほしいか、ほしくないかなど)を、医療・介護関係者や家族・友人らと、繰り返し何度も話し合い、可能であれば、それを文章にしておく取り組みをさします。この点、介護医療院入所者の平均要介護度はI型で4.29、II型で3.96という状況です(今般の介護医療院協会調べ)。また、厚生労働省の2021年度「介護給付費等実態統計」では、介護医療院入所者の8割超が要介護4以上の重度者(要介護5が45.0%、要介護4が38.7%)であることが分かっています(関連記事はこちら)。つまり、介護医療院に入所してからACPによる意思確認を行うことは難しいのです。このため鈴木・介護医療院協会会長は「例えば急性期医療の段階や、要介護認定の段階など、意思表示ができる段階でACPを十分に行うべき」「またACPではないが、意思表示できる段階で『自分が意思表示できなくなった場合の代諾者』などを決めておくべき」と強く訴えています。
介護医療院でも介護職・看護職確保に苦労、処遇改善加算を取得できない事情もある
ところで、現場で苦労していることとしては、▼介護スタッフの確保▼看護師の確保—などが上位を占めていることが再確認されました。
人材確保への対策として、介護保険の世界では「処遇改善加算」(2012年度からの介護職員処遇改善加算、2019年度からの特定処遇改善加算、2022年度からのベースアップ等支援加算)が設けられていますが、介護医療院では、他の介護サービスに比べて取得状況が低くなっています(2021年度における全体の処遇改善加算取得率は94.1%だが、今般の介護医療院調査では85.0%にとどまっている)。
その背景には「併設病院の看護補助者との給与バランス確保」があります。介護医療院で処遇改善加算を取得すれば「介護医療院の介護職員の給与が上がる」ことになります。一方、併設病院の看護補助者では、こうした給与増がない(2022年10月からの看護職員処遇改善評価料は一部の救急病院でしか取得できない、関連記事はこちら)ため、法人内で「同じ仕事をしているのに給与が異なる」という格差が生じてしまうのです。
このため、「介護職員の処遇改善加算を取得しない」あるいは「介護職員の処遇改善加算を取得する場合、併設病院が自前で看護補助者の給与増を行う」という事態が生じており、鈴木・介護医療院協会会長は「多くの病院が苦労している」点を強調しています。今後の2024年度診療報酬・介護報酬改定論議において、こうした問題も重要論点の1つになってきそうです。
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