誤嚥性肺炎等の救急搬送は「慢性期多機能病院」が受けよ、「看護補助者」の呼称は廃止せよ―日慢協・武久会長
2022.1.17.(月)
手術等を要しない誤嚥性肺炎や尿路感染症患者については、療養病棟(慢性期多機能病院)で受け入れ、救命救急センターへの救急患者集中を解消する必要がある。その際、救急患者を多く受け入れる慢性期多機能病院については、診療報酬での評価を適切に行う必要がある―。
病院の介護職員について、「看護補助者」という呼称を廃止し、専門性を踏まえた適切な評価(●対1介護、●対1リハビリの基準設定など)を行うべきである―。
日本慢性期医療協会の武久洋三会長は、1月13日の定例記者会見でこのような考えを述べました。
手術等を要しない誤嚥性肺炎や尿路感染症患者、療養病棟でしっかり受け入れるべき
救急搬送患者の状態(重症度)については総務省・消防庁が毎年、分析結果を示しています。
例えば2020年には、345万人余りの「急病」患者が救急搬送されており、死亡が1.8%、重症(長期入院が必要)が8.2%に過ぎず、中等症(入院診療が必要)が44.9%、軽症(外来診療で良い)が45.1%を占めています。
また年齢区分別に見ると、高齢者が多く(2020年の「急病」患者では64.4%)、そのシェアは今後も高まっていく(高齢者人口そのものの増加、高齢者世帯の増加など)と予想されます(関連記事はこちら(2019年のデータに関する記事)。
武久会長は、こうした軽症・中等症の患者が3次救急を担う救命救急センターに搬送されれば「真に救命救急医療が必要な重症患者の受け入れが阻害されてしまう」とし、「状態に応じた救急搬送先の区分け」を明確化する必要があると提言しました。現在でも、現場の救急救命士や消防署が判断をしていますが、例えば「制度」としてより明確にする必要があると武久会長は強調しています。
【重症緊急救急患者】
→高度急性期病院(救命救急センター)
【軽中度の緊急処置が必要な高齢患者、手術の必要のない患者】
→地域多機能病院(急性期多機能病院、慢性期多機能病院)
「慢性期多機能病院」とは、2005年に医療法人社団永生会の安藤高朗理事長(前衆議院議員、日本慢性期医療協会副会長)が提唱した概念で、例えば慢性期疾患等で療養中の患者が、▼誤嚥性肺炎▼尿路感染症▼低栄養▼脱水▼褥瘡▼その他感染症―などで急性増悪した場合の受け入れを行う慢性期治療病棟です。武久会長は、この提唱を継承し「日慢協会員病院は、慢性期多機能病院として地域の高齢者や慢性期の軽中度急変患者に対応すべき」との考えを常々訴えています(関連記事はこちら)。
ところで、救急患者を受け入れた場合、病院では初期の検査や処置等に多くの医療資源を投入しなければなりません。例えば意識が不明な患者、自身の容体を正確に説明できない患者では、多くの検査を行って原因疾患などを探らなければならず、応急処置などにも多くのコストが発生します。
このため厚生労働省は、こうした「救急患者受け入れに必要なコスト」を手当手するための診療報酬を設けており、例えば次のような加算が目を引きます。診療報酬による評価がなければ「手間・コストのかかる救急患者」の受け入れを病院サイドが躊躇しかねないためです。
▽A205【救急医療管理加算】(一般病棟における重篤な患者受け入れを評価する加算)
▽A252【地域医療体制確保加算】(救急搬送受け入れ2000件以上で、医療従事者の働き方改革に力を入れている病院を評価する加算)
▽【救急搬送看護体制加算】(B001-2-6【夜間休日救急搬送医学管理加算】の上乗せ加算、加算1は救急搬送受け入れ1000件以上、加算2は同じく200件以上で、救急対応する看護体制を手厚く敷いている体制を評価する加算)
もっとも、各種加算については「不合理や改善すべき点がある」との指摘が現場からなされ、例えば【救急医療管理加算】について「重症患者の定量的基準」導入が(現在、重症患者の定義が曖昧ゆえ「必ずしも重症・重篤でない患者」でも加算が算定されている可能性がある、関連記事はこちらとこちらとこちら)、【地域医療体制確保加算】について「小児・周産期救急を担う患者でも算定可能とする」案が(救急搬送2000件に満たずとも、極めて多忙な医療機関がある、関連記事はこちら)浮上し、中央社会保険医療協議会で見直し論議が行われています。
この見直し論議に向けて武久会長は、次のような提言を行っています。【救急医療管理加算】の対象とならない「慢性期多機能病院」について、別途の診療報酬上の評価を行うことで、「誤嚥性肺炎や尿路感染症などの急性増悪患者をより積極的に地域医療機関が受け入れる」→「3次救急の負担を軽減し、重症・重篤な患者への対応を充実させる」ことが実現できると考えられます。
▽診療報酬見直しへの提言1
→【地域医療体制確保加算】について、年間救急搬送患者数の基準を「2000件以上」から「1000件以上」に緩和してはどうか。(地域の急性期病院では1日・3件程度(1年で3×365=1095件程度)の救急搬送患者を受け入れているため)
▽診療報酬見直しへの提言2
→病床規模が200床未満の中小病院を中心として、「地域救急」患者の受け入れを手厚く評価してはどうか
「看護補助者」の呼称をやめ、専門性に鑑みた「介護職員」「介護福祉士」と呼ぶべき
また、武久会長は「医療機関に勤務する介護職員」についての処遇改善が急務とし、次のような提案も行っています(関連記事はこちら)。
▽「看護補助者」との呼称を直ちにやめ、「介護職員」「介護福祉士」など専門性を評価する名称とする
▽入院基本料・特定入院料において「介護配置」「リハビリ職員配置」の基準を設け(20対1介護、50対1リハビリなど)、診療報酬での評価を行う
武久会長は「医療機関に勤務する介護職員について、その専門性を適切に評価しなければ、モチベーションがそがれ、医療機関に勤務する介護職員がいなくなってしまう。急性期病棟でも患者の多数が高齢者を占めている日本において、それでよいのか」と強調しています。
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