乳房外パジェットへのカドサイラ投与、患者申出療養をきっかけに医師主導治験も始まり適応拡大に期待―患者申出療養評価会議
2025.11.26.(水)
9番目の患者申出療養である HER2陽性の手術不能または再発の乳房外パジェット病患者に対する「トラスツズマブ エムタンシン(カドサイラ点滴静注用)静脈内投与療法」については、これまでに6症例が実施された。症例数が限られるため有効性・安全性の厳密な評価は困難だが、有効性が示唆されるデータも得られている―。
また、本技術をきっかけに「HER2陽性の進行期乳房外パジェット病に対する『トラスツズマブ エムタンシン』(カドサイラ点滴静注用)または『トラスツズマブ デルクステカン』(エンハーツ点滴静注用)治療」に関する医師主導治験も走っており、今般のデータも参考に、適応拡大に向けた検討が進むことに期待が集まる―。
11月20日に開催された患者申出療養評価会議で、こういった総括報告書が了承されました。
乳房外パジェット病は希少がんであるために「標準治療」が確立されていません。今回の患者申出療養の結果も活用して「治療法の開発」が待たれます。

11月20日に開催された「第63回 患者申出療養評価会議」
9番目の患者申出療養「乳房外パジェットへのカドサイラ投与」の総括報告
患者申出療養は、傷病と闘う患者の「海外で開発された未承認(保険外)等の医薬品や医療機器を使用してみたい」という希望・申し出を起点に、当該医療技術(未承認の医薬品等)に一定の安全性・有効性があることを評価会議で確認した上で、保険診療との併用を許可する仕組みです(2016年4月スタート)。
これまでに、次の18種類の患者申出療養が認められています(ただし「1」「2」「3」「4」「5」「6」「7」「9」「10」「11」「12」「13」の技術がすでに新規患者の登録を終了)。
(1)腹膜播種・進行性胃がん患者への「パクリタキセル腹腔内投与および静脈内投与ならびにS-1内服併用療法」
(2)心移植不適応な重症心不全患者への「耳介後部コネクターを用いた植込み型補助人工心臓による療法」(関連記事はこちら)
(3)難治性天疱瘡患者への「リツキシマブ静脈内投与療法」(関連記事はこちら)
(4)髄芽腫、原始神経外胚葉性腫瘍または非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍患者への「チオテパ静脈内投与、カルボプラチン静脈内投与およびエトポシド静脈内投与ならびに自家末梢血幹細胞移植術の併用療法」(関連記事はこちら)
(5)ジェノタイプ1型C型肝炎ウイルス感染に伴う非代償性肝硬変患者への「レジパスビル・ソホスブビル経口投与療法」(関連記事はこちら)
(6)進行固形がん(線維芽細胞増殖因子受容体に変化を認め、従来治療法が無効、かつインフィグラチニブによる治療を行っているものに限る)患者への「インフィグラチニブ経口投与療法」(関連記事はこちら)
(7)早期乳がん患者への「ラジオ波熱焼灼療法」(関連記事はこちら)
(8)遺伝子パネル検査でactionableな遺伝子異常を有すると判断された固形腫瘍に対する「マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療」(関連記事はこちらとこちら)
(9)HER2陽性の手術不能または再発の乳房外パジェット病患者に対する「トラスツズマブ エムタンシン(カドサイラ点滴静注用)静脈内投与療法」(関連記事はこちら)
(10)ROS1融合遺伝子陽性の進行性小児脳腫瘍患者に対する「エヌトレクチニブ(販売名:ロズリートレクカプセル)の経口投与療法」(関連記事はこちら)
(11)免疫グロブリンGサブクラス4自己抗体陽性難治性慢性炎症性脱髄性多発神経炎患者に対する「リツキシマブ追加投与療法」(関連記事はこちら)
(12)BRAFV600変異陽性の進行性神経膠腫を有する小児を対象とした「ダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法」(関連記事はこちら)
(13)BRAFV600変異陽性の局所進行・転移性小児固形腫瘍に対する「ダブラフェニブ・トラメチニブの第II相試験」(関連記事はこちら)
(14)EZH2阻害薬の有効性が期待される標準治療がない、または治療抵抗性の小児・AYA悪性固形腫瘍に対する「タゼメトスタット療法」(関連記事はこちら)
(15)胸部悪性腫瘍に対する「経皮的凍結融解壊死療法」(関連記事はこちらとこちら)
(16)筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する「EPI-589再投与」の安全性に関する研究こちら)
(17)線維芽細胞増殖因子受容体阻害薬投与歴のある進行固形がん患者に対するペミガチニブ経口投与療法(関連記事はこちら)
(18)小児・AYAがんに対する遺伝子パネル検査結果等に基づく複数の分子標的治療(関連記事はこちら)
11月20日の会合では、まず「9」の技術(HER2陽性の手術不能または再発の乳房外パジェット病患者に対する「トラスツズマブ エムタンシン(カドサイラ点滴静注用)静脈内投与療法」)に関する総括報告書を議題としました。
乳房外パジェット病は、皮膚(腋下や陰部など)に生じる希少がんで、主に▼切除可能な場合には手術療法▼切除不能な場合には放射線療法▼転移が認められる場合などには化学療法―が選択されます。ただし、希少がんゆえに「標準治療」が確立されておらず、化学療法等については手探りで進められている状況です。
「トラスツズマブ エムタンシン」(販売名:カドサイラ点滴静注用)は、HER2陽性の手術不能または再発の乳がん治療に対する効能・効果が認められており、今般、「乳房外パジェット病への効果も期待されるのではないか」との患者の希望を踏まえて、慶應義塾大学病院で患者申出療養として実施されています。
この技術は2023年8月まで(当初の「2022年9月まで」から延長)に6症例に実施され、有効性・安全性に関する次のようなデータが得られました。
【有効性】
●奏効率(主要評価項目)
→33.3%(両側90%CI:6.3%、72.9%)で、いずれも部分奏効(partial response:PR)
→奏効率の信頼下限(6.3%)がプロトコールで事前に設定した閾値(5%)を上回っている
●無増悪生存期間(副次評価項目):中央値6.44か月(両側95%CI:1.84、-)
●全生存期間(副次評価項目):中央値15.7か月(両側95%CI:5.98、-)
●全期間での最良総合効果(副次評価項目):50%(両側95%CI:11.8、88.2)
●病勢コントロール率(副次評価項目):83.3%(両側95%CI:41.8、99.2)
●奏効期間(副次評価項目):中央値6.14か月(両側95%CI:0.95、-)
●奏効に至るまでの期間(副次評価項目):中央値4.73か月(両側95%CI:1.91、-)
【安全性】
●有害事象の種類・頻度・重症度
→未知かつ重篤な事象の発現・治療関連死:なし
→主な有害事象:AST上昇(100%に発生)、血小板数減少(83.3%)、ALT上昇(88.3%)、倦怠感(66.7%)、食欲不振(50%)、ALP上昇、胃腸炎、体重減少、発熱(各33.3%)
→Grade 3以上の有害事象:2件(高血圧の悪化、血小板数減少)
→投与中止に至った有害事象:1件
こうしたデータについて次のような総括評価が行われ(主担当:佐藤典宏構成員(北海道大学病院医療・ヘルスサイエンス研究開発機構機構長)、副担当:山崎力構成員(国際医療福祉大学教授、未来研究支援センターセンター長))、患者申出療養評価会議として了承されています。
▽有効性
→標準治療は存在せず、実施症例数も6例と少ないことから、有効性を従来の医療医術と比較して論じることは困難(佐藤構成員)
→「予定16例」のところ6例しか登録できなかったことは、臨床試験の評価において非常に重要な制約となる。奏効率の両側90%信頼区間の下限6.3%は、事前設定閾値5%を上回るが、探索的観察レベルに留まる(山崎構成員)
▽安全性
→全例に有害事象が発生し、うち2件のGrade3有害事象が発生しており「問題あり」(佐藤構成員)
→未知・重篤な事象の発現・治療関連死は認められなかったが、6例しか登録されておらず、「問題なし」とすることはできない(山崎構成員)
患者申出療養は、臨床研究の一環として行われますが、どうしても症例数が限定されるため、「有効性、安全性」を厳密に評価することは困難です。したがって上記のような「判断は困難」との結論に至らざるを得ません。
しかし、本技術をきっかけに「HER2陽性の進行期乳房外パジェット病に対する『トラスツズマブ エムタンシン』(カドサイラ点滴静注用)または『トラスツズマブ デルクステカン』(エンハーツ点滴静注用)治療」に関する医師主導治験が始まっている点について、主担当の佐藤構成員は「医師主導治験の結果によっては、本患者申出療養の結果を参考資料として適応拡大に利用し得る可能性があるのではないか」と期待を寄せています。
上述のように、乳房外パジェット病は希少がんであるために「標準治療」が確立されていません。今回の患者申出療養の結果も活用して「治療法の開発」が進むことに期待が集まります。

乳房外パジェット病に対するカドサイラ等投与技術(患者申出療養評価会議1 251120)
最適な抗がん剤治療を行う技術、薬剤毎に中間評価を実施し「技術継続の可否」を判断
また、(8)は「がんゲノム医療」を支える技術です。
我が国でも「がんゲノム医療」が推進されてきており、次のような流れで進められています。
▽患者の同意を得た上で、患者の遺伝子情報・臨床情報を「がんゲノム情報管理センター」(C-CAT、国立がん研究センターに設置)に送付する
↓
▽C-CATで、送付されたデータを「がんゲノム情報のデータベース」(がんゲノム情報レポジトリー・がん知識データベース)に照らし、当該患者のがん治療に有効と考えられる抗がん剤候補や臨床試験・治験などの情報を整理する
↓
▽がんゲノム医療中核拠点病院・がんゲノム医療拠点病院の専門家会議(エキスパートパネル)において、C-CATからの情報を踏まえて当該患者に最適な治療法を選択し、これに基づいた医療を提供する


ただし、遺伝子パネル検査により有効な抗がん剤が見つかる可能性は現時点では1割弱にとどまっており(関連記事はこちら)、また「有効な抗がん剤が見つかったものの、保険適応外(当該がん種への効能効果が薬事承認されていない)・未承認(本邦での使用が薬事承認されていない)であった」というケースも少なくありません。
適応外・未承認の抗がん剤を使用する場合には、原則として「一連の治療すべてが自己負担」となり(混合診療の禁止)、患者の経済的負担が非常に重くなります。このため治療をあきらめざるを得ないケースも生じえます。
そこで、2019年秋に8番目の患者申出療養として「遺伝子パネル検査でactionableな遺伝子異常を有すると判断された固形腫瘍に対する『マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療』」が設けられました(関連記事はこちら)。保険診療と保険外診療(患者申出療養)との併用を認めることで、患者の負担軽減を狙うものです。
抗がん剤ごと実施計画の雛形を準備しておき、標準治療を終えた、あるいは標準治療のないがん患者が希望した場合、迅速に「奏効する可能性がある」抗がん剤にアクセスできるような環境を整えておくものです。製薬メーカーの協力により、投与対象可能な抗がん剤の種類が増えてきています(メーカーから無償提供される)。
ところで、本技術に関しては「医薬品コホート毎に中間解析を実施し、その結果に応じてコホート毎の有効中止や無効中止の要否を検討する」こととされています(どの時点等で中間解析を実施するかは、それぞれの実施計画書に規定されている)。今般、この規定にのっとり次のような対応を図ることが患者申出療養評価会議で了承されています。
▽ザーコリカプセル(一般名:クリゾチニブ)
→有効中止・無効中止いずれの基準にも該当せず、新規患者登録について「継続」を認める
▽アイクルシグ錠(一般名:ポナチニブ塩酸塩)
→無効中止の要否を検討する閾値を下回った場合に該当したとの報告があり、新規患者登録を「終了」する
→今後、追跡を行った上で統計解析を実施する
このほか11月20日の会合では、次のような報告も行われています。
▽患者申出療養の実績は以下のとおりである。
▼本年(2025年)6月30日時点で5種類の技術が稼働し、昨年(2024年)7月から本年(2025年)6月の1年間で13施設において182症例に実施され、保険外併用療養費の総額(保険診療分)は約1億円・患者申出療養費用の総額は約7000万円となった

患者申出療養の実績報告(2024年7月-2025年6月)1(患者申出療養評価会議2 251120)

患者申出療養の実績報告(2024年7月-2025年6月)2(患者申出療養評価会議3 251120)
▼2016年4月から本年(2025年)6月末までに199件(昨年(2024年)7月から本年(2025年)6月末までに14件増)の「患者からの相談等」があり、うち18件(同2件増)で「患者申出療養」が実施されている
▼患者申出療養としての実施が行われなかった18167(同14件増)の状況を見ると、以下のとおり
・拡大治験(日本版コンパッショネートユース)等の治験、先進医療等、他の臨床試験へ参加:25件(同増減なし)
・既承認の患者申出療養に参加:5件(同増減なし)
・相談継続中:ゼロ件(同4件減)
・制度一般に関する照会など、具体的な技術に関する相談ではなかったもの:81件(同14件増)
・一度相談があったが、その後、現在までに相談がないもの:35件(同1件増)
・医療機関等で「患者申出療養として実施困難」と判断したもの:35件(同増減なし)

患者申出療養制度の運用状況・患者等からの相談事例の現状(患者申出療養評価会議4 251120)
▼相談窓口は多くの都道府県で設置されているが、依然として青森県では未設置(ただし青森県では設置検討中)であり、傷病と闘う患者に対する相談窓口設置が急がれる(厚労省サイトはこちら(相談窓口リスト))。
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