【2020年度診療報酬改定総点検4】がんゲノム医療の推進、がん治療と仕事の両立支援などを診療報酬でもポート!
2020.1.3.(金)
2020年度の次期診療報酬改定に向けた議論が、近く中央社会保険医療協議会で大詰めを迎えます。
Gem Medでは、これまでの中医協論議についてポイントを絞ってお浚いしています(第1回は入院医療、第2回は医療従事者の働き方改革、第3回は各種加算の見直しポイントを整理)。今回は「がん対策」について見ていきましょう。
目次
がんゲノム医療拠点病院を診療報酬でも評価
2020年度の診療報酬改定では、がん対策の診療報酬でのサポートとして大きく次の5つの見直しが予定されています。
(1)がんゲノム医療拠点病院の評価
(2)遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)への画期的対応
(3)治療と仕事の両立支援
(4)緩和ケアの推進
(5)外来化学療法の見直し
まず(1)と(2)は「がんゲノム医療の推進」を診療報酬でサポートするものと言えます。がんゲノム医療とは、例えば「Aという遺伝子変異の生じているがん患者にはαという抗がん剤投与が効果的である」などといった知見に基づき、患者に最適な治療法を選択するものです。
遺伝子変異の情報を解釈する専門家会議(エキスパートパネル)を設置して自らがんゲノム医療を完結でき、かつ人材育成等の役割を持つ【がんゲノム医療中核拠点病院】が11か所設置(2018年2月に指定)されていますが、多数の遺伝子変異を一括で調べられる遺伝子パネル検査の保険適用が進む中では、中核拠点病院だけでは患者ニーズに対応しきれません。そこで、昨年(2019年)9月に新たに遺伝子変異の情報を解釈する専門家会議(エキスパートパネル)を設置して自らがんゲノム医療を完結できる34施設を(1)の【がんゲノム医療拠点病院】として指定したものです。
診療報酬上は、来年4月より中核拠点病院と同じく、【がん拠点病院加算】の「がんゲノム医療を提供する保険医療機関に対する加算」(入院初日に250点)を算定できることになります。
がん未発症部位の予防的切除を保険適用する画期的な仕組みを導入
また(2)は「がんが未発症の部位について予防的に切除する」ことを保険診療で認める、極めて画期的な仕組みを創設するものです。
健康保険法等では「予防」を保険診療の給付対象としていません(例えばインフルエンザの予防接種など)。ただし遺伝子解析技術等が進展する中で「病気になる可能性が高く、しかも命にかかわる」遺伝子変異の存在が明らかになってきており、その1つに「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」(HBOC:Hereditary Brest and Ovarian Cancer Syndrome)があります。生殖細胞系列のBRCA1遺伝子・BRCA2遺伝子が変異することで、乳がんや卵巣がんなどの発症リスクが上昇(一般女性に比べて乳がんでは4-10倍程度、卵巣がんでは16-63倍程度)する疾患概念で、家族歴のある乳がん・卵巣がん患者の30%はBRCA1遺伝子・BRCA2遺伝子に変異を有することが分かっています。
2020年度の次期診療報酬改定では、HBOC患者について次のような予防的治療を行うことを保険適用することになりました。
(a)家族歴のある乳がん患者について、BRCA遺伝子変異が見つかった場合に、がん未発症の「対側の乳房」「卵巣・卵管」切除を行う
(b)家族歴のある乳がん患者について、BRCA遺伝子変異が見つかった場合に、がん未発症の「乳房」切除を行う
(c)家族歴のある乳がん・卵巣がん患者について、BRCA遺伝子変異が見つかった場合に、がん未発症の「乳房」「卵巣・卵管」のフォローアップ検査(MRIなど)を行う
詳細な要件等設定はこれからですが、がんゲノム医療中核拠点病院(11施設)やがんゲノム医療拠点病院(34施設)、がんゲノム医療連携病院(122施設)でのみ実施が認められることになるでしょう。
がん等の治療と仕事の両立を目指し、療養・就労両立指導料を算定しやすく
また(3)は、がん患者の治療と仕事の両立に向けた支援を評価する【療養・就労両立支援指導料】(1000点)・【相談体制充実加算】(500点)の算定要件等を大きく見直すものです(関連記事はこちら)。
前者の【療養・就労両立支援指導料】は、がん患者の主治医が、患者の職場の産業医から助言を得て、患者の就労の状況を踏まえて治療計画の見直し・再検討を行うことを評価するもの(後者の【相談体制充実加算】は、専任の看護師等が、がん患者に対し就労を含む療養環境の調整等に係る相談窓口を設置した場合の上乗せ加算)です。つまり、主治医側から情報提供をどれだけ行っても、▼患者の職場に産業医等がいない▼産業医がアクションを起こさない―ような場合には、算定できません。
そこで2020年度改定では、算定要件を大きく見直し、▼主治医側が診療情報提供・療養上の必要な指導実施の段階で算定可能とする▼連携先を産業医だけでなく、保健師や安全衛生推進者等にも広げる▼算定対象疾患をがんだけでなく、脳血管疾患・肝疾患・難病にも広げる―ことが検討されています。中医協委員からはさまざまな提案もなされており、具体的な姿は今後の議論を待つ必要がありますが、「算定しやすくなる」ことは確実です。もっとも「算定しやすくする」ことは手段であり、その目的は、がん等の患者が「治療と仕事を両立しやすくする」ことが目的である点を忘れてはいけません。
緩和ケア診療加算の算定要件を整理し、緩和ケア病棟入院料の要件を厳格化
また(4)は【緩和ケア診療加算】(一般病床に入院する末期がん患者や後天性免疫不全症候群(AIDS)患者に対して、緩和ケアチームによる診療を評価する診療報酬項目)について要件等の整理が行われます(関連記事はこちら)。
具体的には、2018年度の前回改定で「末期心不全患者」が算定対象に加わりましたが、施設基準では、緩和ケアチームの医師について「悪性腫瘍患者または後天性免疫不全症候群の患者を対象とした症状緩和治療を主たる業務とした3年以上の経験を有すること」とされ、「心不全患者を対象とした症状緩和治療経験」については不問となっているのです。こうした不整合の見直しを具体的に検討するものです。
あわせて【緩和ケア病棟入院料】について、外来・在宅緩和ケア提供の要件化(厳格化)も行われる予定で、例えば▼外来・在宅との連携を行う【緩和ケア病棟入院料1-1】▼現行の入院料1並みの【緩和ケア病棟入院料1-2】▼【緩和ケア病棟入院料2】―の3区分とすることなどが考えられるでしょう。
がん患者指導管理料で「外来でも化学療法実施可能」な旨の説明を要件化
さらに(5)は、外来での化学療法を推進するために、【がん患者指導管理料】について「外来での化学療法に関する説明」などを要件化するものです。化学療法の入院・入院外実施の状況を見ると、病院間で極めて大きなバラつきがあります。「外来で化学療法を実施できる」ことを知らない患者も少なくないことから、2020年度改定では「外来でも化学療法を実施できる」旨を患者に説明することを通じての推進が図られますが、状況を見て2022年度改定以降、より大きな見直しが行われることも予想されます(関連記事はこちら)。
このほか、2020年度以降に出現可能性のある「特殊型のがん診療連携拠点病院」(要件を満たさなくなったがん診療連携拠点病院、次回更新までに要件クリアがなされなければ指定が取り消される)について【がん拠点病院加算】を低く設定する(通常は500点を算定できるが、特殊型は「地域がん診療病院」並みの300点とする)などの見直しが予定されています(関連記事はこちら)。
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急性期一般1の「重症患者30%以上」等の施設基準、中医協の支払側委員は「低すぎる」と強調
「医師働き方改革」に向けたマネジメントコスト、診療報酬で評価すべきか否かで激論―中医協総会(1)
慢性腎疾患患者への「腎移植の選択肢もある」などの情報提供を促進せよ―中医協総会(2)
緩和ケア病棟入院料を厳格化、「緩和ケアチームによる外来・在宅医療への関与」求めてはどうか―中医協総会(1)
薬局業務の「対物」から「対人」への移行促すため、14日以内の調剤料を引き下げてはどうか―中医協総会(2)
「働き方改革」への診療報酬でのサポート、人員配置要件緩和を進める方向は固まるが・・・―中医協総会(1)
リンパ浮腫指導管理料等、2020年度改定に向け「算定対象の拡大」を検討―中医協総会(2)
入院患者のポリファーマシー対策、減薬の成果だけでなく、減薬に向けた取り組みも評価してはどうか―中医協総会(1)
かかりつけ医機能を評価する【機能強化加算】、要件を厳格化すべきか―中医協総会
小規模な急性期一般1で認知症患者が多い背景、回復期リハの実績評価の妥当性など検討を―中医協・基本小委
2020年度診療報酬改定に向けた議論整理、地域医療構想の実現・働き方改革・オンライン診療などで意見対立―中医協総会
スタッフの8割以上が理学療法士の訪問看護ステーション、健全な姿なのか―中医協総会
2040年にかけて人口が70%減少する地域も、医療提供体制の再構築に向け診療報酬で何ができるのか―中医協総会
CT・MRIの共同利用、医療被曝防止に向けたガイドライン活用などを診療報酬でどう進めるか―中医協総会(2)
ポリファーマシー対策を診療報酬でどう進めるか、フォーミュラリの報酬評価には慎重意見―中医協総会(1)
新規の医療技術、安全性・有効性のエビデンス構築を診療報酬で促し、適切な評価につなげよ―中医協総会(2)
オンライン診療、「有効性・安全性のエビデンス」に基づき算定要件などを議論―中医協総会(1)
医師の働き方改革、入院基本料や加算の引き上げなどで対応すべきか―中医協総会(2)
がんゲノム医療の推進に向け、遺伝子パネル検査を6月から保険収載―中医協総会(1)
外来医療の機能分化に向け、「紹介状なし患者の定額負担」「かかりつけ医機能の評価」など議論―中医協総会(2)
画期的な白血病治療薬「キムリア」を保険収載、薬価は3349万円―中医協総会(1)
高齢者へのフレイル・認知症・ポリファーマシ―対策、診療報酬でどうサポートすべきか―中医協総会(3)
診療報酬で生活習慣病の重症化予防、治療と仕事の両立をどう進めていくか―中医協総会(2)
遺伝子パネル検査の保険収載に向けた検討進む、C-CATへのデータ提出等を検査料の算定要件に―中医協総会(1)
「院内助産」「外来での妊産婦対応」を診療報酬でどう支援していくべきか―中医協総会(2)
2020年度改定論議スタート、小児疾患の特性踏まえた診療報酬体系になっているか―中医協総会(1)
2020年度診療報酬改定に向け、「医師働き方改革」等のテーマ別や患者の年代別に課題を議論―中医協総会
中医協・基本小委、支払側が「看護必要度や地域包括ケア病棟などの厳格化」を強く要望
2020年度診療報酬改定に向け、「看護必要度」「地域包括ケア病棟」などの課題を整理―入院医療分科会
ICU、看護必要度とSOFAスコアを組み合わせた「新たな患者評価指標」を検討せよ―入院医療分科会(2)
A項目1点・B項目3点のみ患者、療養病棟で該当患者割合が高いが、急性期の評価指標に相応しいか―入院医療分科会(1)
病院病棟への「介護福祉士配置とその評価」を正面から検討すべき時期に来ている―入院医療分科会(3)
ICUの「重症患者」受け入れ状況、どのように測定・評価すべきか―入院医療分科会(2)
DPC病棟から地域包括ケア病棟への転棟、地ケア病棟入院料を算定すべきか、DPC点数を継続算定すべきか―入院医療分科会(1)
総合入院体制加算、地域医療構想の実現や病床機能分化を阻害していないか?―入院医療分科会(3)
救命救急1・3は救命救急2・4と患者像が全く異なる、看護必要度評価をどう考えるべきか―入院医療分科会(2)
「急性期一般2・3への移行」と「看護必要度IIの義務化」を分離して進めてはどうか―入院医療分科会(1)
【短期滞在手術等基本料3】、下肢静脈瘤手術などは外来実施が相当数を占める―入院医療分科会(4)
診療データ提出を小規模病院にも義務化し、急性期病棟にも要介護情報等提出を求めてはどうか―入院医療分科会(3)
資源投入量が少なく・在院日数も短いDPC病院、DPC制度を歪めている可能性―入院医療分科会(2)
看護必要度の「A1・B3のみ」等、急性期入院医療の評価指標として妥当か―入院医療分科会(1)
回復期リハ病棟でのFIM評価、療養病棟での中心静脈栄養実施、適切に行われているか検証を―入院医療分科会(2)
入院で実施されていない「免疫抑制剤の内服」「膀胱脱手術」など、看護必要度の評価対象から除くべきか―入院医療分科会(1)
回復期リハビリ病棟から退棟後の医療提供、どのように評価し推進すべきか―入院医療分科会(3)
地域包括ケア病棟の実績評価要件、在宅医療提供の内容に大きな偏り―入院医療分科会(2)
点数が「DPC<地域包括ケア」時点にDPC病棟からの転棟が集中、健全なのか―入院医療分科会(1)
療養病棟に入院する医療区分3の患者、退院患者の8割弱が「死亡」退院―入院医療分科会(2)
入退院支援加算1の「病棟への入退院支援スタッフ配置」要件、緩和すべきか―入院医療分科会(1)
介護医療院の整備など進め、患者・家族の「退院後の介護不安」解消を図るべき―入院医療分科会(2)
急性期一般1では小規模病院ほど認知症入院患者が多いが、看護必要度への影響は―入院医療分科会(1)
看護必要度IとIIとで重症患者割合に大きな乖離、要因を詳しく分析せよ―中医協・基本小委
自院の急性期患者の転棟先として、地域包括ケア病棟を選択することは「問題」なのか―入院医療分科会(2)
7対1から急性期2・3への移行は3%強にとどまる、看護必要度IIの採用は2割弱―入院医療分科会(1)
2020年度改定、入院医療では「救急」や「認知症対策」なども重要論点に—入院医療分科会(2)
DPC対象病院の要件を見直すべきか、入院日数やDPC病床割合などに着目して検討―入院医療分科会(1)
2018年度改定で新設された【急性期一般入院料1】を選択する理由はどこにあるのか―入院医療分科会
2020年度の次期診療報酬改定に向け、急性期一般入院料や看護必要度などを調査―入院医療分科会
妊産婦の診療に積極的な医師、適切な要件下で診療報酬での評価に期待―妊産婦保健医療検討会
2020年度診療報酬改定、「ネットで2%台半ば以上のマイナス、本体もマイナス」改定とせよ―財政審
医師働き方改革、「新たな医療提供体制に向かうチャンス」の可能性も―社保審・医療部会
2020年度診療報酬改定に向け、「入院時食事療養費」の引き上げを求める声も―社保審・医療部会
「医師の働き方改革」を診療報酬でどうサポートするか、基本方針策定段階でも激論―社保審・医療部会
2020年度診療報酬改定「基本方針」論議始まる、病院薬剤師の評価求める声多数―社保審・医療部会
2020年度診療報酬改定を了承、「医師の働き方改革推進」を重点課題に据える―社保審・医療保険部会
2020年度診療報酬改定、「医師の働き方改革」だけでなく「制度の持続可能性」も重点課題とせよ―社保審・医療保険部会
2020年度診療報酬改定、「医師働き方改革」だけでなく「効率化」や「機能分化」なども重点課題ではないか―社保審・医療保険部会
2020年度診療報酬改定、「効率化・合理化の視点」「働き方改革の推進」「費用対効果評価」なども重要視点―社保審・医療保険部会
2020年度に「稼働病床数を1割以上削減」した病院、国費で将来の期待利益を補助―厚労省
がんゲノム医療拠点病院、都立駒込病院やがん研有明病院など34施設選定―厚労省
新設される「がんゲノム医療拠点病院」、初回の申請は8月14日まで―厚労省
新設される【がんゲノム医療拠点病院】要件固まる、3年で100人以上の治験等実績が「望ましい」―がんゲノム医療拠点病院等指定要件ワーキング
新設される「がんゲノム医療拠点病院」、中核病院なみの診療体制を敷きゲノム医療を自院で完結―がんゲノム医療拠点病院等指定要件ワーキング
がんゲノム医療、自分に最適な抗がん剤見つかる可能性は10-20%にとどまることなど説明を―がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議
がんゲノム医療を牽引する「中核拠点病院」として11病院を選定―がんゲノム医療中核拠点病院等指定検討会
がんゲノム医療を提供できる中核病院を、本年度(2017年度)中に7-10施設指定—がんゲノム医療懇談会
がんゲノム医療、当面は新設する「がんゲノム医療中核拠点病院」で提供―がんゲノム医療懇談会
がんとの闘いに終止符打つため、広く関係者が集い世界水準の「ゲノム医療」推進―厚労省
群馬大病院、2019年7月から「都道府県がん診療連携拠点病院」に復帰―厚労省
都道府県がん拠点病院50施設、地域がん拠点病院339施設など4月1日から新指定―がん拠点病院指定検討会
地域がん診療連携拠点病院、機能・実績に応じ「高度型」「特殊型」など3分類に―がん診療提供体制検討会
がん携拠点病院の新要件固まる、2019年4月から新要件に基づくがん体制始まる―がん診療提供体制検討会
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拠点病院にABCの区分設け、補助金などに反映―拠点病院の指定要件ワーキング
第3期がん対策推進基本計画を閣議決定、ゲノム医療推進や希少・難治がん対策など打ち出す
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