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GemMed塾 病院ダッシュボードχ 病床機能報告

2021年3月で医療事故報告が2000件台に乗る、85.1%で院内調査が完了―日本医療安全調査機構

2021.4.12.(月)

今年(2021年)3月に医療事故調査・支援センター(以下、センター)に報告された医療事故は40件。2015年10月の医療事故調査制度発足から累計2018件の医療事故が報告され、このうち85.1%で院内調査が完了している―。

日本で唯一のセンターである「日本医療安全調査機構」が4月9日に公表した「医療事故調査制度の現況報告(3月)」から、こうした状況が明らかになりました(機構のサイトはこちら)。

3月に入ると事故報告や相談の件数は「通常の水準」に戻っていますが、第4波の到来が指摘されており、今後も、状況を注意深く見守る必要があります。

2021年3月の医療事故報告、内科で8件、整形外科で5件

2015年10月から【医療事故調査制度】が始まりました。

すべての医療機関等(病院、診療所、助産所)には、「管理者(院長など)が予期しなかった、医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産」のすべてをセンターに報告することが求められます。事故の原因・背景を詳しく調査・分析して「再発防止策」を構築し、それを医療現場に広く共有することにより医療安全を確保・向上させることが目的です。

医療事故調査制度は、大きく次のような流れで進められます。

▽医療事故が発生した場合、医療機関等の管理者(院長など)は、速やかにセンターへ事故発生を報告する

▽事故が発生した医療機関等が「自ら」事故原因を調査【院内調査】し、調査結果をセンターに報告する

▽当該医療機関等は、調査結果に基づいて事故の内容や原因を遺族に説明する(調査結果報告書の提示までは義務付けられていない)

▽センターで事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを構築し、公表する

医療事故調査制度の概要



センターは精力的に「再発防止策」を検討しており、これまでに次の13本の再発防止策を公表しています。
(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―
(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析
(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析
(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析
(5)腹腔鏡下胆嚢摘出術に係る死亡事例の分析
(6)栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析
(7)一般・療養病棟における非侵襲的陽圧換気(NPPV)及び気管切開下陽圧換気(TPPV)に係る死亡事例の分析
(8)救急医療における画像診断に係る死亡事例の分析
(9)入院中に発生した転倒・転落による頭部外傷に係る死亡事例の分析(関連記事はこちら
(10)大腸内視鏡検査等の前処置に係る死亡事例の分析
(11)肝生検に係る死亡事例の分析
(12)胸腔穿刺に係る死亡事例の分析
(13)胃瘻造設・カテーテル交換に係る死亡事例の分析



センターは毎月、医療事故報告の状況を公表しています(前月の状況は こちら、前々月の状況はこちら)。今年(2021年)3月には、新たに40件の医療事故が報告され、制度発足からの累計報告件数は2018件となりました。ついに「報告件数が2000件台に乗った」状況です。

新型コロナウイルス感染症の第3波により12月・1月と報告件数が再び減少しましたが、3月には「通常の水準」に持ったように見えます。ただし、感染力の強い「変異株」による第4波が生じ始めており、今後の状況を注視していく必要があるでしょう。

新型コロナウイルス感染症の蔓延時には、「予定入院・予定手術の延期」や「患者の受診控え」などが生じ、結果として「重大な医療事故の減少」につながると考えられます。



今年(2021年)3月に新たに報告された医療事故40件の内訳は、病院から37件、診療所から3件でした。制度発足(2015年10月、以下同)からの累計では、病院から1908件(事故全体の94.5%)、診療所から110件(同5.5%)となっています。

また今年(2021年)3月に新たに報告された医療事故40件を診療科別に見てみると、▼内科:8件▼整形外科:5件▼外科:4件▼循環器内科:4件▼消化器科:4件―などで多くなっています。制度発足からの累計では、▼外科:321件(事故全体の15.9%)▼内科:257件(同12.7%)▼整形外科:165件(同8.4%)▼循環器内科:167件(同8.3%)▼消化器科:164件(同8.1%)―などで多くなっています。内科の報告件数が多い点が気になります。

2021年3月の医療事故報告件数(医療事故の現況(2021年3月)1 210409)

センターへの相談件数も通常水準に戻る、「一般国民の理解」が継続した重要課題

センターへは、すべての死亡・死産を報告しなければならないわけではありません。上述したとおり、死亡・死産事例のうち「管理者(院長などの)が『予期せず』、かつ『医療に起因し、または起因すると疑われる』もの」に限定されます。

例えば、火災などで重度かつ広範囲の熱傷を負った方が救急搬送され、懸命な治療が行われたにもかかわらず残念ながら死亡してしまったケースなどでは、一般に「死亡が予期」されることから、センターへの報告は必要ないと考えられそうです。ただし明らかな処置上のミスなどがあり通常の経過とは異なるプロセスで死亡した場合には、「予期しなかった」医療事故となり、センターへの報告が必要となってくるでしょう。

この点、「どこまでが予期された医療事故なのか」の判断は難しく、医療現場では「不幸にも患者が死亡したが、報告すべき医療事故に該当するのか分からない」という疑問が生じます。また、医療機関等には「初めての医療事故で、センターへどのように報告すればよいのか分からない」といった疑問が生じることもあるでしょう。

一方、遺族の中には「家族が医療機関等で死亡したが、医療事故として報告されていない。事故を隠蔽しようとしているのではないか?」との疑念を持つ方もおられるかもしれません。

こうした疑問・疑念を放置すれば、制度への信頼が揺らいでしまうため、センターでは相談対応を行っています。今年(2021年)3月には、新たに185件の相談がセンターに寄せられ、制度発足からの累計では1万348件となりました。相談件数も「通常の水準」に戻っています。

今年(2021年)3月に新たにセンターへ寄せられた相談の内訳は、▼医療機関等から:84件▼遺族などから:89件▼その他・不明:12件―でした。

医療機関等からの相談内容を見てみると、最も多いのは「報告の手続き」に関するもので55件(医療機関等からの相談全体の58.5%)、次いで「院内調査に関するもの」15件(同16.0%)となっており、「報告すべきか否かの判断に迷う」ケースは少数派(同14.9%)です。医療現場に制度が根付きている状況が伺えます。

他方、遺族などからの相談内容を見ると、「医療事故に該当するか否かの判断」が72件(遺族などからの相談全体の75.0%)で、依然として大部分を占めています。さらに「制度開始前の事故事例」「生存事例」など、報告対象とならない事例に関する相談件数も稀ではなく、制度発足から5年以上が経過した現在でも「一般国民には、なかなか正しい情報が浸透しない」ことが課題となっています。医療事故調査制度は、一般国民にとっても極めて重要な仕組みであり、「正しくわかりやすい情報提供」をさらに進める必要があるでしょう。

2021年3月の相談件数(医療事故の現況(2021年3月)3 210409)

センターへの調査依頼は遺族から2件、センター調査は累計60件で完了

医療事故調査制度の目的は、冒頭に述べたとおり「再発防止策の構築と周知」で。犯人捜しや特定個人の責任追及などではありません。この観点から、事故が生じた医療機関等が自ら事故の内容や背景を調査する【院内調査】が重視されています。なぜなら、調査の過程で「自院の体制・手続き・ルールなどに問題がなかったか」を検証し、その中で自ら「自院の課題」を発見し、自ら「再発防止策構築」に繋げることが重要と考えられるためです。

今年(2021年)3月に新たに院内調査が完了した事例は39件で、制度発足からの累計では1717件となりました。これまでに報告されたすべての医療事故2018件のうち85.1%(前月から0.3ポイント上昇)で院内調査が完了している格好です。

2021年3月の院内調査結果報告(医療事故の現況(2021年3月)2 210409)



もっとも、遺族の中には「院内調査結果には納得がいかない」「院内調査が遅いが、何かを隠そうとしているのでは」といった疑念を持つ方もおられるかもしれません。

また、診療所や助産所などの小規模施設では、「自前で院内調査を実施することが難しい」ケースもあります(医師会や病院団体、大学病院などが調査をサポートする体制が整えられている)。

そこでセンターでは、「遺族や医療機関等からの調査依頼を受け付ける」体制も敷いています【センター調査】。センター調査では「センターが最初から調査しなおす」のではなく、「院内調査が時期・内容ともに適切に実施されているか」という観点での調査である点に留意が必要です。

今年(2021年)3月にセンターへ寄せられた調査依頼は2件で、いずれも遺族からでした。制度発足からの累計調査依頼件数は148件(遺族から123件・83.1%、医療機関等から25件・16.9%)。センター調査の進捗状況を見ると、60件で調査が完了しています(前月から3件増加)。



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医療事故に該当するかどうかの判断基準統一に向け、都道府県と中央に協議会を設置―厚労省
医療事故調査制度、早ければ6月にも省令改正など行い、運用を改善―社保審・医療部会

医療事故調査制度の詳細固まる、遺族の希望を踏まえた事故原因の説明を―厚労省



中心静脈穿刺は致死的合併症の生じ得る危険手技との認識を—医療安全調査機構の提言(1)
急性肺血栓塞栓症、臨床症状に注意し早期診断・早期治療で死亡の防止—医療安全調査機構の提言(2)
過去に安全に使用できた薬剤でもアナフィラキシーショックが発症する—医療安全調査機構の提言(3)
気管切開術後早期は気管切開チューブの逸脱・迷入が生じやすく、正しい再挿入は困難—医療安全調査機構の提言(4)
胆嚢摘出術、画像診断・他診療科医師と協議で「腹腔鏡手術の適応か」慎重に判断せよ—医療安全調査機構の提言(5)
胃管挿入時の位置確認、「気泡音の聴取」では不確実—医療安全調査機構の提言(6)
NPPV/TPPVの停止は、自発呼吸患者でも致命的状況に陥ると十分に認識せよ―医療安全調査機構の提言(7)
救急医療での画像診断、「確定診断」でなく「killer diseaseの鑑別診断」を念頭に―医療安全調査機構の提言(8)
転倒・転落により頭蓋内出血等が原因の死亡事例が頻発、多職種連携で防止策などの構築・実施を―医療安全調査機構の提言(9)
「医療事故再発防止に向けた提言」は医療者の裁量制限や新たな義務を課すものではない―医療安全調査機構
大腸内視鏡検査前の「腸管洗浄剤」使用による死亡事例が頻発、リスク認識し、慎重な適応検討を―医療安全調査機構の提言(10)
「肝生検に伴う出血」での死亡事例が頻発、「抗血栓薬内服」などのハイリスク患者では慎重な対応を―医療安全調査機構の提言(11)



人口100万人あたり医療事故報告件数、2017・18・19と宮崎県がトップ、地域差の分析待たれる―日本医療安全調査機構