2021年2月までに医療事故の84.8%で院内調査完了、新型コロナ第3波の落ち着きとともに事故報告・相談なども増加―日本医療安全調査機構
2021.3.10.(水)
今年(2021年)2月に医療事故調査・支援センター(以下、センター)に報告された医療事故は28件。2015年10月の医療事故調査制度発足から累計1978件の医療事故が報告され、このうち84.8%で院内調査が完了している―。
日本で唯一のセンターである「日本医療安全調査機構」が2月9日に公表した「医療事故調査制度の現況報告(12月)」から、こうした状況が明らかになりました(機構のサイトはこちら)。
新型コロナウイルス感染症の第3波について、2月に入ると若干の落ち着きが見られ、医療事故の報告件数も増加に転じています。今後も、状況を注意深く見守る必要があります。
目次
2021年2月の医療事故報告、整形外科で4件、外科や内科などで各3件
2015年10月から【医療事故調査制度】が始まっています。すべての医療機関等(病院、診療所、助産所)に対して、「管理者(院長など)が予期しなかった、医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産」のすべてをセンターに報告することを義務づけるものです。事故の原因・背景を詳しく調査・分析して「再発防止策」を構築し、それを医療現場に広く共有することにより医療安全を確保・向上させることが目的です。
医療事故調査制度は、大きく次のような流れで進められます。
▽医療事故が発生した場合、医療機関等の管理者(院長など)は、速やかにセンターへ事故発生を報告する
↓
▽事故が発生した医療機関等が「自ら」事故原因を調査【院内調査】し、調査結果をセンターに報告する
↓
▽当該医療機関等は、調査結果に基づいて事故の内容や原因を遺族に説明する(調査結果報告書の提示までは義務付けられていない)
↓
▽センターで事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを構築し、公表する
センターでは、これまでに次の12本の再発防止策を公表し、医療現場に注意をよびかけています。
センターは精力的に「再発防止策」を検討しており、これまでに次の12本の再発防止策が公表されています。
(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―
(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析
(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析
(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析
(5)腹腔鏡下胆嚢摘出術に係る死亡事例の分析
(6)栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析
(7)一般・療養病棟における非侵襲的陽圧換気(NPPV)及び気管切開下陽圧換気(TPPV)に係る死亡事例の分析
(8)救急医療における画像診断に係る死亡事例の分析
(9)入院中に発生した転倒・転落による頭部外傷に係る死亡事例の分析(関連記事はこちら)
(10)大腸内視鏡検査等の前処置に係る死亡事例の分析
(11)肝生検に係る死亡事例の分析
(12)胸腔穿刺に係る死亡事例の分析
センターは毎月、医療事故報告の状況を公表しています(前月の状況は こちら、前々月の状況はこちら)。今年(2021年)2月には、新たに28件の医療事故が報告され、制度発足からの累計報告件数は1978件となりました。
新型コロナウイルス感染症の第3波により12月・1月と報告件数が再び減少しましたが、2月に入り報告件数は増加に転じました。新型コロナウイルス感染症の蔓延時には、「予定入院・予定手術の延期」や「患者の受診控え」などが生じ、結果として「重大な医療事故の減少」につながると考えられます。2月に入り、新型コロナウイルス感染症の新規患者増が落ち着いてきたことから、「入院・手術件数などの増加」→「医療事故の増加」という状況になっていると思われます。今後も継続的に状況をウォッチしていく必要があります。
今年(2021年)2月に新たに報告された医療事故28件の内訳は、病院から26件、診療所から2件でした。制度発足(2015年10月、以下同)からの累計では、病院から1871件(事故全体の94.6%)、診療所から107件(同5.4%)となっています。
また今年(2021年)2月に新たに報告された医療事故28件を診療科別に見てみると、▼整形外科:4件▼外科:3件▼内科:3件▼循環器内科:3件▼消化器科:3件―などで多くなっています。制度発足からの累計では、▼外科:317件(事故全体の16.0%)▼内科:249件(同12.6%)▼整形外科:165件(同8.3%)▼循環器内科:163件(同8.2%)▼消化器科:160件(同8.1%)―などで多くなっています。
センターへの相談件数も増加、「一般国民の理解」が継続した重要課題
センターへ報告しなければならない医療事故は、医療機関等で生じたすべての死亡・死産事例ではありません。上述したとおり、死亡・死産事例のうち「管理者(院長などの)が『予期せず』、かつ『医療に起因し、または起因すると疑われる』もの」に限定されます。
例えば、火災などで重度かつ広範囲の熱傷を負った被害者が救急搬送され、懸命な治療が行われたにもかかわらず残念ながら死亡してしまったケースなどでは、一般に「死亡が予期」されることから、センターへの報告は必要ないと考えられそうです。ただし明らかな処置上のミスなどがあり通常の経過とは異なるプロセスで死亡した場合には、「予期しなかった」医療事故となり、センターへの報告が必要となってくるでしょう。
この点、「どこまでが予期された医療事故なのか」の判断は難しく、医療現場では「不幸にも患者が死亡したが、報告すべき医療事故に該当するのだろうか?」という疑問が生じます。また、医療機関等には「初めての医療事故で、センターへどのように報告すればよいのか分からない」といった疑問が生じることもあります。
一方、遺族の中には「家族が医療機関等で死亡したが、医療事故として報告されていない。事故を隠蔽しようとしているのではないか?」との疑念を持つ方もおられるかもしれません。
こうした疑問・疑念を放置すれば、制度への信頼が揺らいでしまうため、センターでは相談対応を行っています。今年(2021年)2月には、新たに133件の相談がセンターに寄せられ、制度発足からの累計では1万163件となりました。相談件数も再び増加してきていることを確認できます。
今年(2021年)2月に新たにセンターへ寄せられた相談の内訳は、▼医療機関等から:56件▼遺族などから:66件▼その他・不明:11件―でした。
医療機関等からの相談内容を見てみると、最も多いのは「報告の手続き」に関するもので38件(医療機関等からの相談全体の60.3%)、次いで「院内調査に関するもの」11件(同17.5%)などとなっており、「報告すべきか否かの判断に迷う」ケースは少数派(同9.5%)です。医療現場に制度が根付きていることを再確認できます。
他方、遺族などからの相談内容を見ると、「医療事故に該当するか否かの判断」が57件(遺族などからの相談全体の81.4%)で、依然として大部分を占めています。さらに「制度開始前の事故事例」「生存事例」など、報告対象とならない事例に関する相談件数も一定数あり、制度発足から5年以上が経過した現在でも「一般国民には、なかなか正しい情報が浸透しない」ことが課題となっています。医療事故調査制度は、一般国民にとっても極めて重要な仕組みであり、「正しくわかりやすい情報提供」をさらに進める必要があります。
センターへの調査依頼は遺族から3件、センター調査は累計57件で完了
医療事故調査制度の目的は、冒頭に述べたとおり「再発防止策の構築と周知」で。犯人捜しや特定個人の責任追及などではありません。この観点から、事故が生じた医療機関等が自ら事故の内容や背景を調査する【院内調査】が重視されています。なぜなら、調査の過程で「自院の体制・手続き・ルールなどに問題がなかったか」を検証し、その中で自ら「自院の課題」を発見し、自ら「再発防止策構築」に繋げることが重要と考えられるためです。
今年(2021年)2月に新たに院内調査が完了した事例は24件で、制度発足からの累計では1678件となりました。これまでに報告されたすべての医療事故1978件のうち84.8%(前月と同水準)で院内調査が完了している格好です。
もっとも、遺族の中には「院内調査結果には納得がいかない」「院内調査が遅いが、何かを隠そうとしているのでは」といった疑念を持つ方もおられるかもしれません。
また、診療所や助産所などの小規模施設では、「自前で院内調査を実施することが難しい」ケースもあります(医師会や病院団体、大学病院などが調査をサポートする体制が整えられている)。
そこでセンターでは、「遺族や医療機関等からの調査依頼を受け付ける」体制も敷いています【センター調査】。センター調査では「センターが最初から調査しなおす」のではなく、「院内調査が時期・内容ともに適切に実施されているか」という観点での調査である点に留意が必要です。
今年(2021年)2月にセンターへ寄せられた調査依頼は3件で、いずれも遺族からでした。制度発足からの累計調査依頼件数は146件(遺族から121件・82.9%、医療機関等から25件・17.1%)。センター調査の進捗状況を見ると、57件で調査が完了しています(前月から1件増加)。
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