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2020年5月の医療事故は15件、新型コロナで入院患者減・手術減等が生じている影響か―日本医療安全調査機構

2020.6.11.(木)

今年(2020年)5月に医療事故調査・支援センター(以下、センター)に報告された医療事故は15件。2015年10月の医療事故調査制度発足から累計1744件の医療事故が報告され、このうち82.2%で院内調査が完了している―。

日本で唯一のセンターである「日本医療安全調査機構」が6月9日に公表した「医療事故調査制度の現況報告(5月)」から、こうした状況を明らかになりました(機構のサイトはこちら)。

なお今年(2020年)3月までは、1か月平均「32件弱」(2015年10月の制度発足から54か月間で1710件)の医療事故報告がありましたが、4月には19件、5月は15件と減少しており、新型コロナウイルス感染症に重点対応するために、各医療機関で患者減(外来・入院ともに)、手術減(予定手術の延期など)が生じていることが影響していると考えられます。

2020年5月の医療事故報告件数、外科、内科、小児科で各2件など

2015年10月から、すべての医療機関等(病院、診療所、助産所)には、院長などの管理者が予期しなかった「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産」のすべてをセンターに報告する義務が課せられています【医療事故調査制度】。事故の原因や背景を調査・分析して「再発防止策」を構築するとともに、それを医療現場に広く共有することで、医療安全の確保を目指す制度です(制度創設に関する記事はこちら、制度改正に関する記事はこちらこちら)。

医療事故調査制度の大枠は、次のような流れです。

▽医療事故発生を確認した際、院長などの管理者は、速やかにセンターへ事故発生を報告する

▽事故が発生した医療機関が自ら事故原因を調査【院内調査】し、調査結果をセンターに報告する

▽当該医療機関は、調査結果に基づいて事故の内容や原因を遺族に説明する(調査結果報告書の提示までは義務付けられていない)

▽センターで事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを練る

医療事故調査制度の概要



センターでは重大事故について詳細を分析し、再発防止策として提言を行っており、これまでに下記11本の提言が公表されています。
(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―
(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析
(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析
(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析
(5)腹腔鏡下胆嚢摘出術に係る死亡事例の分析
(6)栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析
(7)一般・療養病棟における非侵襲的陽圧換気(NPPV)及び気管切開下陽圧換気(TPPV)に係る死亡事例の分析
(8)救急医療における画像診断に係る死亡事例の分析
(9)入院中に発生した転倒・転落による頭部外傷に係る死亡事例の分析(関連記事はこちら
(10)大腸内視鏡検査等の前処置に係る死亡事例の分析
(11)肝生検に係る死亡事例の分析



さらに我が国唯一のセンターである日本医療安全調査機構は、毎月、医療事故報告の状況を公表しています(前月の状況はこちら、前々月の状況はこちら)。今年(2020年)5月には、新たに15件の医療事故が報告され、制度発足からの累計報告件数は1744件となりました。

冒頭に述べたとおり、前月(2020年4月、19件)から報告数が大幅に減少しており、背景には新型コロナウイルス感染症の影響によって「入院、外来ともに患者数が減少し、予定手術も減少(延期)している」ことがあると考えられるでしょう(関連記事はこちらこちらこちらこちらこちらこちらこちらこちらこちら)。

今年(2020年)5月に新たに報告された医療事故15件の内訳は、病院から14件、診療所から1件でした。制度発足(2015年10月、以下同)からの累計では、病院から1645件(事故全体の94.3%)、診療所から99件(同5.7%)となっています。

今年(2020年)5月に新たに報告された事故を診療科別に見ると、▼外科:2件▼内科:3件▼小児科:2件―などで多くなっています。制度発足からの累計では、▼外科:285件(事故全体の16.3%)▼内科:224件(同12.8%)▼整形外科:147件(同8.4%)▼循環器内科:141件(同8.1%)▼消化器科:137件(同7.9%)―などで多くなっています。

2020年5月の医療事故報告件数(医療事故の現況(2020年5月)1 200609)

センターへの相談件数は累計8965件、一般国民の正しい制度理解はまだ道半ば

医療機関内で生じたすべての死亡・死産事例について、センターへの報告が義務付けられるわけではありません。前述のとおり、死亡・死産事例のうち「院長などの管理者が、『予期せず』かつ『医療に起因し、または起因すると疑われる』もの」に限定されます。

例えば、火災に巻き込まれ極めて重度の熱傷を負った被害者が救急搬送され、適切な治療が行われたにもかかわらず、残念ながら死亡してしまったケースなどでは、一般に「死亡が予期」されることからセンターへの報告は必要ないでしょう。もっとも、そうしたケースでも明らかな処置上のミスなどがあり通常の経過とは異なるプロセスで死亡した場合には、「予期しなかった」医療事故としてセンターへの報告が必要となってくるでしょう。

もちろん、どこまでが「予期された」医療事故なのかの判断は難しく、医療現場では「患者が死亡したが報告すべき医療事故に該当するのだろうか?」という疑問が生じます。また、医療機関には「初めての医療事故で、センターへどのように報告すればよいのか分からない」といった疑問が生じることがあります。

一方、遺族の中には「家族が医療機関で死亡したが、医療事故としていまだに報告されていないようだ。事故を隠蔽しようとしているのではないか?」との疑念をもつ方もおられるでしょう。

こうした疑問・疑念に答えるため、センターでは相談対応を行っています。今年(2020年)5月には新たに91件の相談がセンターに寄せられ、制度発足からの累計では8965件となりました。今年(2020年)5月に新たに寄せられた相談の内訳は、▼医療機関から:48件▼遺族などから:33件▼その他・不明:10件―でした。

医療機関からの相談内容を見てみると、最も多いのは「報告の手続き」に関するもので32件(医療機関からの相談全体の65.3%)。次いで「院内調査に関するもの」7件(同14.3%)、「報告すべき医療事故か否かの判断」6件(同12.2%)などとなっています。医療現場においては「制度が正しく浸透している」と言えるでしょう。

一方、遺族などからの相談内容を見てみると、「医療事故に該当するか否かの判断」が27件(遺族などからの相談全体の81.8%)で、圧倒的多数を占めています。また「制度開始前の事故事例」「生存事例」など、報告対象とならない事例に関する相談件数も依然少なくありません。一般国民に対する「正しい情報提供」の重要性が再認識できます。

2020年5月のセンターへの相談件数(医療事故の現況(2020年5月)3 200609)

センターへの調査依頼は新たに遺族から1件

医療事故調査制度の目的は、事故を起こした犯人捜しや特定個人等への責任追及ではありません。「再発防止策構築のための調査・分析」が創設目的にあります。そこで、事故が生じた医療機関等が自ら事故の内容や背景を調査し、自院の体制・手続き・ルールなどに問題がなかったかを検証していく中で「自院の課題」を発見し、そこから「再発防止策構築」に繋げることが重要と考えられています。

このため、「まず事故が発生した医療機関が自ら原因究明に向けた調査【院内調査】を行う」ことが求められているのです。

今年(2020年)5月に新たに院内調査が完了した事例は25件で、制度発足からの累計では1433件となりました。これまでに報告されたすべての医療事故1744件のうち、82.2%(前月から0.8ポイント増)で院内調査が完了している計算で、院内調査のスピードがさらに高まっています。

2020年5月の院内調査件数(医療事故の現況(2020年5月)2 200609)



ただし、遺族側には「院内調査結果が納得できない」「院内調査が遅いが、何かを隠そうとしているのでは」といった疑念が生じることがあるでしょう。一方で、診療所や助産所などの小規模施設では、「自前で院内調査を実施することが難しい」ケースもあります(医師会や病院団体、大学病院などが調査をサポートする体制が整えられている)。

このためセンターでは「遺族や医療機関等からの調査依頼を受け付ける」体制も敷いています。もっとも、「センターが最初から調査しなおす」ものではなく、「院内調査が時期・内容ともに適切に実施されているか」という観点での調査です。

今年(2020年)5月にセンターへ寄せられた調査依頼は遺族からの1件でした。制度発足からの累計調査依頼件数は125件(遺族から103件・82.4%、医療機関から22件・17.6%)となり、センター調査の進捗状況を見ると41件で調査が完了しています(前月から2件増加)。



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