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GemMed塾 病院ダッシュボードχ 病床機能報告

2020年4-9月の医療事故、3月以前に比べて18%減少、新型コロナによる患者減の影響か―日本医療安全調査機構

2020.10.7.(水)

今年(2020年)9月に医療事故調査・支援センター(以下、センター)に報告された医療事故は23件。2015年10月の医療事故調査制度発足から累計1847件の医療事故が報告され、このうち83.3%で院内調査が完了している―。

日本で唯一のセンターである「日本医療安全調査機構」が10月6日に公表した「医療事故調査制度の現況報告(9月)」から、こうした状況を明らかになりました(機構のサイトはこちら)。

今年(2020年)3月までは、1か月平均「32件弱」(2015年10月の制度発足から54か月間で1710件)の医療事故報告がありましたが、▼4月:19件(平均の60%)5月:15件(同47%)6月:26件(同82%)7月:30件(同95%)8月:24件(同76%)▼9月:23件(同73%)―となっています。今年(2020年)4-9月の平均は「23件弱」で、今年(2020年)3月までに比べて72.1%(17.9%減)という状況です。事故報告件数の減少は、患者減(予定手術・入院の減少など)によるものと考えられ、今後の状況を見守る必要があります。



なおセンターでは、遺族向けの「病理解剖について」の資料を作成・公表しました。死亡事故直後には「病理解剖など考えられない」と思われる遺族でも、時間が経過する中で「病理解剖を依頼しておけばよかった」と悔やまれるケースが少なくありません。「病理解剖とは何か、その手続きはどのようなものか」などが分かりやすく示されています(機構のサイトはこちらこちら(簡易版))。

2020年9月の医療事故報告、内科・外科で各3件など

2015年10月から、すべての医療機関等(病院、診療所、助産所)に対して、「院長などの管理者が予期しなかった、医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産」のすべてをセンターに報告する義務が課せられています【医療事故調査制度】。事故の原因・背景を詳しく調査・分析して「再発防止策」を構築し、それを医療現場に広く共有することで、医療安全の確保を目指すことが狙いです(制度創設に関する記事はこちら、制度改正に関する記事はこちらこちら)。

医療事故調査制度は、次のような流れで進められます。

▽医療事故が発生した場合、院長などの管理者は、速やかにセンターへ事故発生を報告する

▽事故が発生した医療機関等が自ら事故原因を調査【院内調査】し、調査結果をセンターに報告する

▽当該医療機関等は、調査結果に基づいて事故の内容や原因を遺族に説明する(調査結果報告書の提示までは義務付けられていない)

▽センターで事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを構築し、公表する

医療事故調査制度の概要



センターでは、これまでに11本の再発防止策を公表。医療安全確保に向けて重要な提言となっています。
(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―
(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析
(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析
(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析
(5)腹腔鏡下胆嚢摘出術に係る死亡事例の分析
(6)栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析
(7)一般・療養病棟における非侵襲的陽圧換気(NPPV)及び気管切開下陽圧換気(TPPV)に係る死亡事例の分析
(8)救急医療における画像診断に係る死亡事例の分析
(9)入院中に発生した転倒・転落による頭部外傷に係る死亡事例の分析(関連記事はこちら
(10)大腸内視鏡検査等の前処置に係る死亡事例の分析
(11)肝生検に係る死亡事例の分析



さらにセンターでは毎月、医療事故報告の状況を公表(前月の状況はこちら、前々月の状況はこちら)。今年(2020年)9月には、新たに23件の医療事故が報告され、制度発足からの累計報告件数は1847件となりました。

冒頭に述べたとおり、新型コロナウイルスの影響で今年(2020年)4月以降、「患者の減少→事故報告数の減少」が生じています。徐々に「新型コロナウイルス感染症の影響が落ち着き、医療現場が平時に戻りつつある(患者数・手術件数も増加してきている)」ことが伺えますが、秋冬には▼第3波の到来▼季節性インフルエンザとの並走―も予想され、今後の状況を注視する必要があります。

今年(2020年)9月に新たに報告された医療事故23件の内訳は、病院から21件、診療所から2件でした。制度発足(2015年10月、以下同)からの累計では、病院から1744件(事故全体の94.4%)、診療所から103件(同5.6%)となっています。

また今年(2020年)9月に新たに報告された事故23件を診療科別に見ると、▼内科:3件▼外科:3件▼整形外科:2件▼産婦人科:2件―などで多くなっています。制度発足からの累計では、▼外科:298件(事故全体の16.1%)▼内科:238件(同12.9%)▼整形外科:154件(同8.3%)▼循環器内科:148件(同8.0%)▼消化器科:145件(同7.9%)―などで多くなっています。

2020年9月の医療事故報告件数(医療事故の現況(2020年9月)1 201006)

センターへの相談件数は累計9467件、ただし対象外の相談も

センターへの報告が義務付けられ医療事故は、医療機関等で生じたすべての死亡・死産事例ではありません。前述のとおり、死亡・死産事例のうち「院長などの管理者が『予期せず』、かつ『医療に起因し、または起因すると疑われる』もの」に限定されます。

例えば、交通事故で極めて重度の損傷を負った被害者が救急搬送され、適切な治療が行われたにもかかわらず、残念ながら死亡してしまったケースなどでは、一般に「死亡が予期」されることからセンターへの報告は必要ないと考えられます。もっとも、明らかな処置上のミスなどがあり通常の経過とは異なるプロセスで死亡した場合には、「予期しなかった」医療事故としてセンターへの報告が必要となってくると考えられます。

ただし「どこまでが予期された医療事故なのか」の判断は難しく、医療現場では「不幸にも患者が死亡したが、報告すべき医療事故に該当するのだろうか?」という疑問が生じます。また、医療機関等には「初めての医療事故で、センターへどのように報告すればよいのか分からない」といった疑問が生じることもあります。

他方、遺族の中には「家族が医療機関等で死亡したが、医療事故としていまだに報告されていない。事故を隠蔽しようとしているのではないか?」との疑念を持つ方もおられるでしょう。

こうした疑問・疑念を放置すれば、制度への信頼が揺らいでしまうため、センターでは相談対応を行っています。今年(2020年)9月には新たに160件の相談がセンターに寄せられ、制度発足からの累計では9467件となりました。4月(90件)・5月(91件)に比べ、相談件数も増加(6月:117件、7月:118件、8月:107件、9月:160件)してきており、平時の水準に戻りつつあります。

今年(2020年)9月に新たに寄せられた相談の内訳は、▼医療機関等から:58件▼遺族などから:95件▼その他・不明:7件―でした。

医療機関等からの相談内容を見てみると、最も多いのは「報告の手続き」に関するもので41件(医療機関等からの相談全体の66.1%)。次いで、「報告すべき医療事故か否かの判断」9件(同14.5%)、「院内調査に関するもの」7件(同11.3%)などとなっています。制度の内容が医療現場に相当程度浸透してきていることが伺えます。

一方、遺族などからの相談内容を見ると、「医療事故に該当するか否かの判断」が80件(遺族などからの相談全体の79.2%)で、依然として圧倒的多数を占めています。さらに「制度開始前の事故事例」「生存事例」など、報告対象とならない事例に関する相談件数も少なくなく、一般国民への「正しい情報提供」が重要課題である点に変わりはなさそうです。

2020年9月の相談件数(医療事故の現況(2020年9月)3 201006)

センターへの調査依頼、新たに遺族から3件、医療機関等から1件

医療事故調査制度の目的は、先に述べたとおり、犯人捜しや特定個人等の責任追及ではありません。「再発防止策の構築と周知」が目的であり、この観点から、事故が生じた医療機関等が、自ら事故の内容や背景を調査する【院内調査】こととされています。調査の中で自院の体制・手続き・ルールなどに問題がなかったかを検証し、その過程で「自院の課題」を発見し、自ら「再発防止策構築」に繋げることが重要と考えられるためです。

今年(2020年)9月に新たに院内調査が完了した事例は30件で、制度発足からの累計では1539件となりました。これまでに報告されたすべての医療事故1847件のうち83.3%(前月から0.6ポイント増)で院内調査が完了している計算です。



もっとも、遺族の中には「院内調査結果が納得できない」「院内調査が遅いが、何かを隠そうとしているのでは」といった疑念を持つ方もおられることでしょう。また、診療所や助産所などの小規模施設では、「自前で院内調査を実施することが難しい」ケースもあります(医師会や病院団体、大学病院などが調査をサポートする体制が整えられている)。

このためセンターでは「遺族や医療機関等からの調査依頼を受け付ける」体制も敷いています【センター調査】。ただし、「センターが最初から調査しなおす」のではなく、「院内調査が時期・内容ともに適切に実施されているか」という観点での調査である点に留意が必要です。

今年(2020年)9月にセンターへ寄せられた調査依頼は4件で、遺族から3件、医療機関等から1件でした。制度発足からの累計調査依頼件数は135件(遺族から111件・82.2%、医療機関等から24件・17.8%)。センター調査の進捗状況を見ると46件で調査が完了しています(前月から1件増加)。

2020年9月の院内調査結果報告(医療事故の現況(2020年9月)2 201006)

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中心静脈穿刺は致死的合併症の生じ得る危険手技との認識を—医療安全調査機構の提言(1)
急性肺血栓塞栓症、臨床症状に注意し早期診断・早期治療で死亡の防止—医療安全調査機構の提言(2)
過去に安全に使用できた薬剤でもアナフィラキシーショックが発症する—医療安全調査機構の提言(3)
気管切開術後早期は気管切開チューブの逸脱・迷入が生じやすく、正しい再挿入は困難—医療安全調査機構の提言(4)
胆嚢摘出術、画像診断・他診療科医師と協議で「腹腔鏡手術の適応か」慎重に判断せよ—医療安全調査機構の提言(5)
胃管挿入時の位置確認、「気泡音の聴取」では不確実—医療安全調査機構の提言(6)
NPPV/TPPVの停止は、自発呼吸患者でも致命的状況に陥ると十分に認識せよ―医療安全調査機構の提言(7)
救急医療での画像診断、「確定診断」でなく「killer diseaseの鑑別診断」を念頭に―医療安全調査機構の提言(8)
転倒・転落により頭蓋内出血等が原因の死亡事例が頻発、多職種連携で防止策などの構築・実施を―医療安全調査機構の提言(9)
「医療事故再発防止に向けた提言」は医療者の裁量制限や新たな義務を課すものではない―医療安全調査機構
大腸内視鏡検査前の「腸管洗浄剤」使用による死亡事例が頻発、リスク認識し、慎重な適応検討を―医療安全調査機構の提言(10)
「肝生検に伴う出血」での死亡事例が頻発、「抗血栓薬内服」などのハイリスク患者では慎重な対応を―医療安全調査機構の提言(11)



人口100万人あたり医療事故報告件数、2017・18・19と宮崎県がトップ、地域差の分析待たれる―日本医療安全調査機構



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