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費用対効果評価、「ICER閾値の妥当性」「保険適用時価格への反映」などどう考えていくか―中医協・費用対効果評価専門部会

2021.4.21.(水)

2019年4月から制度化された「医薬品、医療機器に関する費用対効果評価」の仕組みについて、今後、事例を積み重ねながら「改善すべき点」を整理していく―。

4月21日に開催された中央社会保険医療協議会の費用対効果評価専門部会では、こうした方針を確認しました(同日開催の薬価専門部会に関する記事はこちら)。

支払側委員からは「保険適用の可否判断や、保険適用時の価格設定に費用対効果評価結果を活用すべき」「費用対効果評価に携わる人材を拡充すべき」との指摘も出ており、今後の論点整理に注目が集まります。

費用対効果評価制度、事例を積み重ねながら改善すべき点を整理へ

我が国の公的医療保険制度では、安全性・有効性の確認された医療技術は「すべて保険適用する」ことが原則です。しかし、医療技術の高度化(例えば脊髄性筋萎縮症の治療薬「ゾルゲンスマ点滴静注」(1億6707万円)白血病等治療薬「キムリア」(3350万円)といった超高額薬剤の保険適用など)が進み、医療保険財政が厳しくなる中では、新規の医療技術を保険適用する際などに「経済面を考慮する」ことが不可欠となってきています。

そこで、中医協では2012年度から「費用対効果評価」の導入に向けた検討を進め、試行錯誤を経て2019年4月から制度化(本格運用)されました。

費用対効果評価の仕組みは非常に複雑ですが、「高額である」「医療保険財政に大きな影響を及ぼす」などの要件を満たした新薬・新医療機器について、「類似の医薬品・医療技術等に比べて、費用対効果が優れているのか、あるいは劣っているか」をデータに基づいて判断。「費用対効果が優れている」と判断されれば価格(薬価、材料価格)は据え置きとなり、「費用対効果が劣っている」と判断されれば価格の引き下げが行われます。また、「費用が少なくなる一方で、効果が優れている・あるいは同じである」という、いわば「きわめて費用対効果が優れている」製品については、価格の引き上げも行われます。従前の「安全性」「有効性」に加えて、新たに「経済性」の評価軸を設けるものです。

費用対効果評価制度の大枠(中医協・費用対効果評価専門部会2 210421)



これまでに、▼COPD(慢性閉塞性肺疾患)等治療薬の「テリルジー100エリプタ」▼白血病等治療薬の「キムリア」▼発作性夜間ヘモグロビン尿症等治療薬の「ユルトミリス」▼うつ病等治療薬の「トリンテリックス」▼慢性心不全等治療薬の「コララン」▼腎細胞がん等治療薬の「カボメティクス」▼乳がん等治療薬の「エンハーツ」▼脊髄性筋萎縮症の「ゾルゲンスマ」▼偏頭痛治療薬の「エムガルディ」—などが「費用対効果評価」の対象品目に設定され(例えば、有用性加算が設定された市場規模100億円以上の医薬品、市場規模が1000億円以上の医薬品、著しく薬価が高額であり中医協で「費用対効果評価の必要あり」と判断された医薬品、これらの類似品など)、テリルジーやキムリアについては「費用対効果評価に基づく薬価の再算定(引き下げ)」が実施されます。

費用対効果評価の対象となっている医薬品一覧(中医協・費用対効果評価専門部会1 210421)



費用対効果評価は、英国等の制度を参考にし、「我が国の医療制度・医療の実情にマッチした仕組み」として長い時間をかけて確立されましたが、初めて導入された仕組みでもあり、「完璧な制度」ではありません。中医協で検討する中では「実情が明らかでないために、今後の検討に委ねるべき」部分が判明し、また制度を運用する中で「浮上してきた」課題なども存在します。

4月21日の費用対効果評価専門部会では、「今後、関係業界や費用対効果評価専門組織からの意見聴取も行いつつ、検討項目を整理した上で、改善に向けた議論を深めていく」方針が確認されました。

診療側・支払側の双方とも、この方針を「是」としていますが、考え方には若干の差がありそうです。

診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)は「現時点では、将来の制度改善に向けて事例を収益している段階であり、根本論議を行うにはあまりにデータが不足している。これから課題が浮上し、それが積み重なってきた時点で『どのような改善を行えるのか』を検討すべき」と主張しました。

これに対し支払側の安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)や幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は「現時点で明らかになっている課題もあり、その点は改善に向けて検討を進めるべき」と提案しました。

例えば、▼ICERの閾値の妥当性検証▼医薬品と医療機器がセットになった医療技術についての費用対効果評価の実施▼薬剤等の使用に関する「患者割合」好評の推進▼社会的価値の評価—などが具体的な論点として挙げられました。

このうち「ICER」とは、「費用対効果が優れているか、劣っているか」を判断するための、いわば「物差し」と言えます。医薬品の「費用」については「価格」という基準で、「効果」については例えば「QALY」(質調整生存年、完全に健康な状態で1年間生存期間が延びた場合を1QALY、死亡をゼロQALYとして数値化する)という基準を用いて評価します。

そのうえで、英国など費用対効果評価を古くから導入している国に倣い、「ICER」(増分費用効果)という概念を用いて、異なる医薬品・医療技術の「費用対効果」を統一基準で数値化し「費用対効果が優れているのか、劣っているのか」を判断する仕組みが我が国でも採用されています。

ICERは、「類似技術βの費用(b)と新規医療技術αの費用(a)との差(つまりb-a)」を「類似技術βの効果(B)と新規医療技術αの効果(A)との差(つまりB-A)」で除したもので、いわば「高い効果を得るために、どれだけ余分な費用がかかるのか」と表現することができます。

ICERは、「費用の増加分」を「効果の増加分」で除して計算する。費用には主に公的医療費が含まれ、効果のある医療技術で生存年が伸びれば、その分、医療費が増加し、費用が増加することになる点も考慮される



同じ効果を得るために大きな費用がかかる(ICERが高い)技術は、「費用対効果が劣っている」と判断され、逆に小さな費用で済む(ICERが低い)技術は「費用対効果が優れている」と判断し、その基準は次のように設定されています。

▽ICERが500万円未満の場合(総合的評価で指定難病等の適応がある場合には750万円未満に緩める):「費用対効果が優れている」と判断し、価格を維持する(試行段階と同じ)

▽ICERが500万円以上750万円未満の場合(同750万円以上1125万円未満に緩める):「費用対効果が劣っている」と判断し、有用性等加算部分については価格を30%、営業利益部分については17%引き下げる

▽ICERが750万円以上1000万円未満の場合(同1125万円以上1500万円未満に緩める):「費用対効果がさらに劣っている」と判断し、有用性等加算部分については価格を60%、営業利益部分については33%引き下げる

▽ICERが1000万円以上の場合(同1500万円以上に緩める):「費用対効果が非常に劣っている」と判断し、有用性等加算部分については価格を90%、営業利益部分については50%引き下げる

支払側の安藤委員は、このICERをもとに「費用対効果が優れているのか、劣っているのか」を判断する基準値(500万円、750万円、1000万円など)が妥当であるのか否かを検証すべきと提案するものです。



また、安藤委員・幸野委員ともに「費用対効果評価の体制強化・充実」を合わせて強く求めています。費用対効果評価は極めて複雑な仕組みで、専門知識・技術を持つ人材の育成等が進まなければ「限定的な運用」しか望めず、「評価の軸」としては不安定なものとなりかねません。

この点、厚生労働省保険局医療課医療技術評価推進室の岡田就将室長は、▼国立保健医療科学院の保健医療経済評価研究センターのスタッフ数が、2019年4月の「6名」から、この4月(2021年4月)には「9名」に▼公的分析班のメンバーが、2019年4月の「2大学・6名」から、この4月には「3大学・20名」—に増員されていることを紹介(計12名→26名)。徐々に「体制強化」が進んでいる状況が明らかになっており、将来「より多くの品目を対象に、迅速に費用対効果評価が行われ、価格調整に反映される」ことが期待されます。

費用対効果評価、「保険適用時の価格設定、保険適用の可否判断」などに活用すべきか

また、現在、費用対効果評価結果は「薬価等の再算定」に用いられています。費用対効果評価には「データの集積」「慎重な分析」等に相当の時間がかかることから、「新薬等の保険適用時の活用」が極めて困難であること、また「保険適用の可否を判断するにあたって、費用対効果評価を活用すれば、患者の新薬等へのアクセスを阻害してしまう」ことなどを考慮したものです。

診療側の松本委員は「保険適用の可否判断に費用対効果評価結果は用いず、保険適用後の価格再算定にのみ活用する」という現行ルールを維持することを強く要請。これに対して、支払側委員の安藤委員は「超高額な再生医療等製品が相次いで出現する中では、保険適用時の価格設定、保険適用の可否判断も含めて、費用対効果評価結果を活用する仕組みを検討していく必要がある」と提案しています。

現在、保険適用から費用対効果評価結果に基づく価格調整までには「1年半から2年」程度の期間がかかっており、「この間に高い薬価等が設定され続けていることは、医療保険財政の悪化につながっている」と支払側委員は考えています。ただし、「保険適用時に費用対効果評価結果を用いる」仕組みを導入するとなれば、「患者のアクセス」を阻害しないように、極めて手厚い「評価体制」を敷くことが求められ、人材育成・確保のコスト等捻出も考えなければなりません。現時点では「現実性に欠ける提案」と言えそうです。

費用対効果評価は「薬価等を引き下げる」ことを目的とした仕組みではない

また、支払側の幸野委員は「費用対効果評価制度」の費用対効果を検証すべきと提案しています。

費用対効果評価には、多くの人材が関わり、多くの時間を使ってデータ収集・分析などを行っています。当然、莫大なコストがかかっています。しかし、その結果を踏まえた価格調整の状況を見ると、 COPD(慢性閉塞性肺疾患)等治療薬の「テリルジー100エリプタ」では「0.55%程度の価格引き下げ」、白血病等治療薬の「キムリア」でも「4.3%の価格引き下げ」にとどまっており、幸野委員は「投入したコストに比べて、得られた効果(価格調整の効果)が限定的すぎる」と指摘したのです。

これに対し診療側の池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)は「費用対効果評価は薬価等の引き下げを目的とした仕組みではない」と強く反論しました。

上述のとおり費用対効果評価は「医薬品等の効果と費用(価格)を踏まえた」第3の評価軸です。費用対効果が優れていなければ「価格の引き下げ」が、費用対効果に優れていれば「価格の維持」が、さらに費用対効果が極めて優れて(例えば費用が小さくなり、効果が大きくなるなど)いれば「価格の引き上げ」も行われる仕組みです。つまり「価格と費用とのバランスが適正か否か」をチェックするもので、池端委員の指摘どおり「薬価等を引き下げる」ことを目的とした仕組みでない点を再確認する必要があるでしょう(もちろん、仕組みを操作することで、「医療保険財政を維持するために、薬価等を引き下げる」目的に使用できる点にも留意が必要)。



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