訪問看護STは増加・認デイは減少、特養・介護医療院の入所者は重度化、老健施設は軽度化―厚労省
2022.1.5.(水)
一昨年(2020年)における訪問看護ステーションの事業所数は前年から大きく増加した。その一方、認知症デイサービス事業所数は減少している。これらの増減の背景を詳しく分析する必要がある―。
介護保険施設はそれぞれ特性があり、特別養護老人ホームや介護医療院では入所者の重度化が進み、一方、介護老人保健施設では若干の軽度化が見られる―。
厚生労働省が昨年(2021年)12月28日に公表した2020年の「介護サービス施設・事業所調査」の概況から、こういった状況がわかりました(厚労省のサイトはこちら、詳細はこちら(政府統計の総合窓口e-Statホームページ))(前年(2019年)調査に関する記事はこちら、2018年調査に関する記事はこちら、2017年調査に関する記事はこちら、2016年調査に関する記事はこちら、2015年調査に関する記事はこちら)。
訪問看護ステーションの事業所数増加、認知症デイサービス事業所は減少
介護サービス施設・事業所調査は、毎年の介護サービスの提供体制・提供内容(施設数や事業所数、利用者の状況など)を把握するものです。ここから介護基盤整備の課題などが明らかになれば、介護保険制度・介護報酬の見直しにつなげていくことになります。
2020年の事業所数・施設数を見ると、前年(2019年)からの増加が目立つのは▼介護医療院:118.8%増▼看護小規模多機能型居宅介護(看多機):20.9%増▼定期巡回・随時対応型訪問介護看護:7.7%増▼介護予防訪問看護ステーション:7.2%増▼訪問看護ステーション:7.0%増—などです。介護医療院では「介護療養からの転換」(介護療養は2024年3月で廃止される)、定期巡回・随時対応型訪問介護看護や看多機では「比較的新しいサービスゆえに母数が少なく、増加率が大きくなる」という点が急増に影響しています。
一方、訪問看護については「医療ニーズの高い要介護者が増加している」ことが増加の背景にあることは述べるまでもありません。しかし、一部に「要支援者等の軽度者に対し、日中にのみリハビリサービスを行う」訪問看護ステーションが存在していることが従前より問題視され、これが事業所数増加に一役買っている可能性もあります。後者は「訪問看護ステーションに求められる本来の姿」からかけ離れており、2021年度の介護報酬改定でも厳しい対応が図られています。▼重度者対応▼24時間対応―に力を入れる訪問看護ステーションの重点的な資源投入を行っていくことが求められるでしょう。
また、▼介護療養:前年から33.3%減▼訪問入浴介護:同4.6%減▼予防介護訪問入浴介護:同4.0%減▼介護予防認知症対応型通所介護:同3.5%減▼夜間対応型訪問介護:同3.5%減▼認知症対応型通所介護(認デイ):同2.6%減▼居宅介護支援(ケアマネ)事業所:同2.1%減—などの減少も生じています。介護療養については、上述のとおり「介護医療院などへの転換」が進んでいますが、他のサービスについては「ほかのサービスへのニーズ移管が生じている」(つまり利用者が困る事態は生じていない)のか、それとも「経営が成り立たずに事業閉鎖などが生じている」(つまり利用者が困る事態が生じている)のかをしっかり分析し、必要な対応を検討する必要があるでしょう。
例えば、認デイについては「単価が高いために利用者が敬遠し、認知症であっても通常のデイサービス(通所介護)を選択しがちである」との指摘があります。つまり「利用者減→事業所の収益源→事業閉鎖」という事態が生じている可能性があるのです。しかし問題の解決は非常に困難です。例えば単価を上げれば「さらなる利用者減」につながり、逆に単価を下げれば利用者は増加するかもしれませんが、スタッフの負担が大きくなり、やはり経営維持が難しくなってくるでしょう。介護保険では「利用者の意向」を踏まえてサービスを選択することが重視されています。この視点と「良いサービスを受けるには、高い費用がかかる」という点とを、どう調和させていくべきか、今後の介護報酬改定などでも重要な検討テーマとなるでしょう。
特養、介護医療院で入所者がさらに重度化、老健はやや軽度化
次に、介護保険施設(特別養護老人ホーム、老人保健施設、介護医療院、介護療養型医療施設)の状況を見てみましょう。
1施設当たり定員は、次のようになっています。
【特別養護老人ホーム】(介護老人福祉施設)
▼平均は69.3人(前年から増減なし)
▼2020年9月末時点の利用率は96.0%(同0.4ポイント上昇)
【老健施設】(介護老人保健施設)
▼平均は86.9人(前年から0.5人増)
▼2020年9月末時点の利用率は88.5%(同0.7ポイント低下)
【介護医療院】
▼平均は63.0人(前年から2.0人減)
▼2020年9月末時点の利用率は93.9%(同0.8ポイント低下)
【介護療養】(介護療養型医療施設)
▼平均は34.4人(前年から6.7人減)
▼2020年9月末時点の利用率は85.2%(同3.1ポイント低下)
前年から目立った変化はありません。特養ホーム以外で「若干、利用率が低下している」ようにも見えますが、中長期的に評価していくことが必要です。
なお、介護療養については「大規模な施設(病院)から介護医療院への転換が進んでいる」ために小規模化が生じているのではないかと推察されます。介護医療院等に転換するに当たっては一定の施設・設備の改修などが必要となるため小規模病院・クリニックでは、「コストを勘案して、転換に二の足を踏んでいる」状況があるのかもしれません。
また介護保険施設別に入所者の要介護度を見ると、次のような状況です。
▽特養ホーム
▼要介護1:1.2%(前年から0.1ポイント減)▼要介護2:3.4%(同0.4ポイント減)▼要介護3:25.2%(同0.7ポイント増)▼要介護4:39.1%(同0.7ポイント増)▼要介護5:31.0%(同0.8ポイント減)
→要介護3以上が95.3%(同0.6ポイント増)で、入所者の「重度化」がさらに進んでいると言える
▽老健施設
▼要介護1:12.2%(前年から0.3ポイント増)▼要介護2:19.1%(同0.2ポイント増)▼要介護3:24.3%(同0.1ポイント減)▼要介護4:27.1%(同0.1ポイント増)▼要介護5:16.8%(同0.8ポイント減)
→要介護3以上が68.2%(同0.6ポイント減)で、入所者の状態が軽度化していると言える
▽介護医療院
▼要介護1:1.8%(前年から0.6ポイント減)▼要介護2:3.9%(同0.8ポイント減)▼要介護3:10.4%(同0.1ポイント増)▼要介護4:38.1%(同0.9ポイント増)▼要介護5:45.4%(同0.4ポイント増)
→要介護3以上が93.9%(同1.4ポイント増)で、重度化が進んでいる
▽介護療養
▼要介護1:1.8%(前年から0.4ポイント減)▼要介護2:3.2%(同0.3ポイント増)▼要介護3:8.5%(同0.3ポイント増)▼要介護4:36.7%(同0.6ポイント増)▼要介護5:49.4%(同1.6ポイント減)
→要介護3以上が94.6%(同0.7ポイント減)で、やや軽度化している
このように介護保険施設の種類によって、▼規模▼利用率▼要介護度―に特徴のあることが再確認できます。また介護療養から介護医療院へ転換が進んでも「非常に重度の要介護高齢者が入所する」という特性には、これまでのところ変化がないことも再確認できます。
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