体内の「鉄」量が「持続的な過剰、不足」のいずれも健康にとって良くない、「鉄の状態・量の調節」が重要—長寿医療研究センター
2025.4.17.(木)
体内の「鉄」量が「持続的に過剰状態」になることも、「不足状態」になることも、いずれも健康にとって良くない。「鉄」の状態・量の調節が重要である—。
国立長寿医療研究センターが4月14日に、こういった研究結果を示しました(センターのサイトはこちら)。
体内における鉄の過剰状態・不足状態のいずれもが健康問題につながる
2022年度から、人口の大きなボリュームゾーンを占めるいわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、今年度(2025年度)には全員が後期高齢者となります。高齢者の急増は「要介護者、要支援者の増加」につながるため、介護予防や重度化防止などの取り組みが非常に重要となってきます。
そうした中で「栄養」が極めて重要である点が昨今、強く意識されています。例えば「口から栄養を摂取する」ことの重要性が科学的にも明らかにされ、診療報酬改定・介護報酬改定では「リハビリ・口腔管理・栄養管理の一体的実施」の評価が行われてきています関連記事はこちらとこちら)。
さらに今般、長寿医療研究センターでは「鉄」と「老化」の関係について、過去の研究結果を踏まえた整理を行っています。
まず、イギリス・ドイツ・オランダの研究グループでは、100万人以上のデータから「健康寿命」「親の寿命」「長寿命」に関連する遺伝子に関する統計情報を用いて、この3つすべてに影響を及ぼす遺伝子群を同定し、そこで、これら3点に最も深い関係を持つものが「ヘムの代謝」であることを明らかにしました。
「ヘム」は、ミトコンドリアで合成される「鉄を中心とした鉄の輸送体」で、ヘモグロビンやミオグロビンといった鉄タンパク質の活性を担います。
ヘムの合成は加齢とともに低下するため、「細胞内へ鉄が蓄積される」ことや「酸化ストレスが増加する」ことを引き起こします。
また▼「血清の鉄の濃度が高い」と、上記の3つの寿命が短くなる▼逆に鉄に結合して酸化ストレスを抑える「トランスフェリン」というタンパク質の濃度が高いと、上記の3つの寿命は伸びうる—との試算結果も得られています。
ここから、「適切な鉄のコントロール」が、長寿命や健康寿命に関わる可能性が伺えます。
一方、「局所的な細胞外の鉄」が、▼細胞の老化▼組織の線維化—の引き金になることも報告されています。スペインの研究グループは、細胞や動物を用いた実験から、▼炎症やそれに伴う溶血により、赤血球から漏れ出したヘモグロビンや鉄が、細胞の老化や線維化を引き起こす▼局所的な鉄の増加は、全身レベル(血液など)の鉄の濃度と関係なく、線維化組織や老化細胞に鉄の蓄積を招くため、組織の線維化や老化の目印(マーカー)となる可能性がある▼薬剤によって鉄を除去(キレート)することで、実験的に線維化を抑制できる—ことを報告しています。
ここから、「全身もしくは局所的な鉄の増加」が「寿命や細胞の老化」などに関わる可能性が伺えます。
さらに、最近では「認知症や心疾患、関節疾患など、様々な加齢性の変性疾患」に「鉄」が関係している可能性があるという報告も増えてきています(「鉄に依存した細胞の死」(フェロトーシス)によって、認知症などが引き起こされている可能性がある)。
この「鉄に依存した細胞の死」(フェロトーシス)を抑制するためには「ビタミンK」が有効ではないか、との知見も得られています。
一方、高齢者等では「鉄欠乏性貧血」が多く見られ、この原因は栄養障害や慢性出血です。
長寿医療研究センターでは、▼体内で「鉄」が「持続的な過剰状態」になることも、「不足する状態」になることも健康にとって良くない▼体内の「鉄」の状態・量の調節は重要で、諸刃の剣となりえる—とコメント。今後、「どの程度の『鉄』量が体内に蓄積されていることが好ましいのか」という研究が進み、そのためには「どのような食事等を摂取すればよいのか」の基準などが定められることに期待が集まります。
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