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身元保証人がいても医療費支払いや遺体引き取りがなされないトラブル、公的支援体制の検討を―日病・相澤会長

2019.7.3.(水)

 入院患者に身元保証人がいても、連絡がつかず、医療費の支払いがなされなかったり、遺体や遺品の引き取りがなされないトラブルが生じている。独居高齢者が増える中では、こうしたトラブルを個々の病院に「自身で解決せよ」と求めることは酷であり、何らかの「公的な相談・支援体制」を検討する必要があるのではないか―。

 日本病院会の相澤孝夫会長は7月2日に記者会見を行い、このような考えを示しました。

7月2日の定例記者会見に臨んだ、日本病院会の相澤孝夫会長(社会医療法人財団慈泉会相澤病院理事長)

7月2日の定例記者会見に臨んだ、日本病院会の相澤孝夫会長(社会医療法人財団慈泉会相澤病院理事長)

 

身元保証人がいても、連絡がつかず、医療費支払いや遺体引き取りがなされない

 病院に入院するにあたり「身元保証人」が必要なケースがあります。医療費(自己負担)の支払いを保証するため、手術など医療行為の実施にあたって同意が必要なため、不幸にも亡くなった場合に遺体や遺品を引き取ってもらうため、などさまざまな背景があります。

 厚生労働省は昨年(2018年)5月に通知「身元保証人等がいないことのみを理由に医療機関において入院を拒否することについて」を発出し、「身元保証人等がいない」ことのみをもって入院を拒否した場合、医師法第19条第1項(いわゆる応召義務)違反となる旨を明確にしています(関連記事はこちら)。

 ところで、神奈川県病院協会の調べ(94病院が回答)によれば、97%の病院が入院に当たって身元保証人を求めていますが、うち74%では「身元保証人がいてもトラブルになったことがあった」といいます。具体的には、▼連絡がとれない:73.9%▼不払い:91.3%▼遺体・遺品の引き取り:18.8%―などです(複数回答)。「患者が関係の希薄な親族等の名前を、本人の了承を得ずに記載している」ケースや、「入院に関しては同意したが、以降の関係は拒否するケース」、「電話でも郵便でも一向に連絡がとれない」ケースなどさまざまで、医療費の支払いがなされず「未収金」として計上せざるを得ないことや、遺体の引き取りがなく行政に相談せざるを得ないことが生じています(神奈川県病院協会のサイトはこちら
神奈川県病院協会調査(日病会見)1 190702

神奈川県病院協会調査(日病会見)2 190702

神奈川県病院協会調査(日病会見)3 190702
 
 人口の高齢化に伴って、1人暮らしの高齢者が増加し「同居家族以外に身元保証を求めざるを得ない」ケース、高齢者夫婦のみの世帯で「同居家族の認知機能が衰えてしまう」ケースなどが増加することから、このような「身元保証人がいてもトラブルが生じる」場面も増えていくと考えられます。

 
 相澤会長は、まず、こうしたトラブルが「都会に限ったこと」なのか(今回は神奈川県病院協会の調査)、「全国に共通することなの」か、実態調査をする必要があるとの考えを提示。都市部での地域コミュニティ崩壊が指摘されて久しいですが、地方でも同様の問題が生じているのか、あるいはまだ地域コミュニティが機能し、こうした問題は稀なのか、自治体や都道府県の病院団体が調べ、傾向を探ることが重要でしょう。

さらに相澤会長は、こうしたトラブルを「個々の病院で解決すべき問題」として放置するのではなく、何らかの「公的な相談・支援体制」を検討する必要があるのではないか、とも指摘します。とりわけ「緊急の手術などが必要だが、身元保証人と連絡がとれない」「遺体や遺品の引き取り先が見つからない」など、複雑な法律問題が関係する事項等については、個別病院に「自身で解決せよ」と求めることは酷でしょう。今後、日病として、さらに多くの病院団体で具体的な検討が進むことが期待されます。

 
 
関連して相澤会長は、「改正民法」などにも触れ、「迅速な対応が求められる医療分野については、緩やかな運用などを考える必要がある」ともコメントしています。

2020年4月から施行される改正民法では、例えば「個人根保証契約について、極度額を定めなければその効力を生じない」などの見直しが行われます(法務省のパンフレットはこちら)。根保証とは、一定の限度額(極度額)の範囲で「継続的に生じる債務を、将来にわたり保証する」契約です。医療で言えば、患者Aが入院し長期間の治療を受けるにあたり、病院側と保証人Bとの間で例えば「一定の限度額(極度額)の範囲で、退院までに生じる医療費(自己負担)を、保証人Bが患者Aと連帯して支払います」などと契約するイメージです。

この点、改正民法では「個人が根保証人となる場合には、極度額(上記の「一定の限度額」)を事前に定めておかなければ、その契約は効力を生じない」としています。つまり、事前に「100万円の範囲で医療費を連帯して支払います」などと決めておかなければ、病院側は保証人Bに「医療費を支払ってください」と請求することが一切できなくなってしまうということです。

しかし相澤会長は、「入院の時点で、医療費がどの程度になるか分からないケースも少なくない」と指摘。極度額(一定の限度額)設定が小さければ(保証人側は当然、極度額を低く抑えたいと考える)、それだけ未収金が生じる可能性が高くなってしまうのです。

また厚労省は「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」を作成し(2018年度厚生労働科学研究)、例えば身元保証について「成年後見制度」(これも民法に規定)を活用する手法もあることなどを提示しています。しかし、相澤会長は「自分自身も親族の後見人になるための手続きを行ったことがあるが、非常に複雑で大変である。財産管理など比較的時間に余裕がある場合は成年後見制度は機能するのだろうが、迅速な意思決定が求められる医療現場では、成年後見制度は必ずしも十分に機能しないのかもしれない」と指摘。

こうした民法上の規定などを「医療分野では緩やかに適用・運用する」ことが必要ではないかと問題提起しています。高齢化が進む中では、今後の重要な検討テーマとなりそうです。

 

 

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