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2020年8月の医療事故は24件、医療現場は平時に戻りつつあるが、さらなる観察が必要―日本医療安全調査機構

2020.9.14.(月)

今年(2020年)8月に医療事故調査・支援センター(以下、センター)に報告された医療事故は24件。2015年10月の医療事故調査制度発足から累計1824件の医療事故が報告され、このうち82.7%で院内調査が完了している―。

日本で唯一のセンターである「日本医療安全調査機構」が9月9日に公表した「医療事故調査制度の現況報告(8月)」から、こうした状況を明らかになりました(機構のサイトはこちら)。

なお今年(2020年)3月までは、1か月平均「32件弱」(2015年10月の制度発足から54か月間で1710件)の医療事故報告がありましたが、4月には19件、5月は15件と減少していました(関連記事はこちら(5月)こちら(4月))。新型コロナウイルス感染症に重点対応するために、各医療機関で患者減(外来・入院ともに)、手術減(予定手術の延期など)が生じていることが影響していると考えられます。ただし、6月の報告件数は26件に、7月には30件に、8月は24件に増加しており、「医療機関等の状況が平時に戻りつつある」状況が伺えます。もっとも、「完全に戻っている」とは言い難く、今後の状況を見守る必要があります。

2020年8月の医療事故報告、内科で4件、外科・消化器科で各3件など

2015年10月から、すべての医療機関等(病院、診療所、助産所)に、「院長などの管理者が予期しなかった、医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産」のすべてをセンターに報告する義務が課せられています【医療事故調査制度】。事故の原因・背景を詳しく調査・分析して「再発防止策」を構築し、それを医療現場に広く共有することで、医療安全の確保を目指す仕組みです(制度創設に関する記事はこちら、制度改正に関する記事はこちらこちら)。

医療事故調査制度は、概ね次のような流れで進められます。

▽医療事故発生を確認した際、院長などの管理者は、速やかにセンターへ事故発生を報告する

▽事故が発生した医療機関等が自ら事故原因を調査【院内調査】し、調査結果をセンターに報告する

▽当該医療機関等は、調査結果に基づいて事故の内容や原因を遺族に説明する(調査結果報告書の提示までは義務付けられていない)

▽センターで事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを練る

医療事故調査制度の概要



センターでは、これまでに報告された重大医療事故について詳細を分析。すでに次の11本の再発防止策を提言しています。
(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―
(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析
(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析
(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析
(5)腹腔鏡下胆嚢摘出術に係る死亡事例の分析
(6)栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析
(7)一般・療養病棟における非侵襲的陽圧換気(NPPV)及び気管切開下陽圧換気(TPPV)に係る死亡事例の分析
(8)救急医療における画像診断に係る死亡事例の分析
(9)入院中に発生した転倒・転落による頭部外傷に係る死亡事例の分析(関連記事はこちら
(10)大腸内視鏡検査等の前処置に係る死亡事例の分析
(11)肝生検に係る死亡事例の分析



さらにセンターでは毎月、医療事故報告の状況を公表しています(前月の状況はこちら、前々月の状況はこちら)。今年(2020年)8月には、新たに24件の医療事故が報告され、制度発足からの累計報告件数は1824件となりました。

冒頭に述べたとおり、新型コロナウイルスの影響で今年(2020年)4月(19件)・5月(15件)には、事故報告数が大幅に減少。「入院、外来ともに患者数が減少し、予定手術も減少(延期)している」ために、事故も減少していると考えられました(関連記事はこちらこちら)。しかし、6月(26件)・7月(30件)・8月(24件)と事故報告数が増加に転じており、「新型コロナウイルス感染症の影響が落ち着き、医療現場が平時に戻りつつある(患者数・手術件数も増加してきている)」ことが伺えます。

今年(2020年)8月に新たに報告された医療事故24件は、すべて病院からでした。制度発足(2015年10月、以下同)からの累計では、病院から1723件(事故全体の94.5%)、診療所から101件(同5.5%)となっています。

また今年(2020年)8月に新たに報告された事故24件を診療科別に見ると、▼内科:4件▼外科:3件▼消化器科:3件―などで多くなっています。制度発足からの累計では、▼外科:295件(事故全体の16.2%)▼内科:235件(同12.9%)▼整形外科:152件(同8.3%)▼循環器内科:147件(同8.1%)▼消化器科:144件(同7.9%)―などで多くなっています。

2020年8月の医療事故報告件数(医療事故の現況(2020年8月)1 200909)

センターへの相談件数は累計9307件、相談件数も6月以降、平時の水準に近づく

センターへの報告が義務付けられるのは、医療機関等で生じたすべての死亡・死産事例ではありません。前述のとおり、死亡・死産事例のうち「院長などの管理者が『予期せず』、かつ『医療に起因し、または起因すると疑われる』もの」に限定されます。

例えば、交通事故にあい極めて重度の損傷を負った被害者が救急搬送され、適切な治療が行われたにもかかわらず、残念ながら死亡してしまったケースなどでは、一般に「死亡が予期」されることからセンターへの報告は必要ないでしょう。ただし、そうしたケースでも明らかな処置上のミスなどがあり通常の経過とは異なるプロセスで死亡した場合には、「予期しなかった」医療事故としてセンターへの報告が必要となってきます。

ただし「どこまでが予期された医療事故なのか」の判断は難しく、医療現場では「不幸にも患者が死亡したが、報告すべき医療事故に該当するのだろうか?」という疑問が生じます。また、医療機関等には「初めての医療事故で、センターへどのように報告すればよいのか分からない」といった疑問が生じることがあります。

一方、遺族の中には「家族が医療機関等で死亡したが、医療事故としていまだに報告されていないようだ。事故を隠蔽しようとしているのではないか?」との疑念を持つ方もおられるでしょう。

こうした疑問・疑念を放置すれば、制度への信頼が揺らいでしまうため、センターでは相談対応を行っています。今年(2020年)8月には新たに107件の相談がセンターに寄せられ、制度発足からの累計では9307件となりました。4月(90件)・5月(91件)に比べ、相談件数も増加し(6月:117件、7月:118件、8月:107件)、平時の水準に戻りつつあります。

今年(2020年)8月に新たに寄せられた相談の内訳は、▼医療機関等から:44件▼遺族などから:56件▼その他・不明:7件―でした。

医療機関等からの相談内容を見てみると、最も多いのは「報告の手続き」に関するもので27件(医療機関等からの相談全体の54.0%)。次いで、「報告すべき医療事故か否かの判断」10件(同20.0%)、「院内調査に関するもの」8件(同16.0%)などとなっています。

一方、遺族などからの相談内容を見ると、「医療事故に該当するか否かの判断」が44件(遺族などからの相談全体の77.2%)で、圧倒的多数を占めています。さらに「制度開始前の事故事例」「生存事例」など、報告対象とならない事例に関する相談件数も依然少なくなく、一般国民に対する「正しい情報提供」が依然として重要課題となっています。

2020年8月の相談件数(医療事故の現況(2020年8月)3 200909)

センターへの調査依頼は新たに遺族から1件

医療事故調査制度の目的は、先に述べたとおり、事故を起こした犯人捜しや特定個人等の責任追及ではなく、「再発防止策の構築と周知」にあります。この観点から、事故が生じた医療機関等が、自ら事故の内容や背景を調査し【院内調査】、自院の体制・手続き・ルールなどに問題がなかったかを検証していく中で「自院の課題」を発見し、そこから「再発防止策構築」に繋げることが重要と考えられています。

今年(2020年)8月に新たに院内調査が完了した事例は27件で、制度発足からの累計では1509件となりました。これまでに報告されたすべての医療事故1824件のうち、82.7%(前月から0.4ポイント増)で院内調査が完了している計算です。



もっとも、遺族の中には「院内調査結果が納得できない」「院内調査が遅いが、何かを隠そうとしているのでは」といった疑念を持つ方もおられることでしょう。また、診療所や助産所などの小規模施設では、「自前で院内調査を実施することが難しい」ケースもあります(医師会や病院団体、大学病院などが調査をサポートする体制が整えられている)。

このためセンターでは「遺族や医療機関等からの調査依頼を受け付ける」体制も敷いています【センター調査】。そこでは、「センターが最初から調査しなおす」のではなく、「院内調査が時期・内容ともに適切に実施されているか」という観点での調査が行われます。

今年(2020年)8月にセンターへ寄せられた調査依頼は遺族からの1件でした。制度発足からの累計調査依頼件数は131件(遺族から108件・82.4%、医療機関等から23件・17.6%)。センター調査の進捗状況を見ると45件で調査が完了しています(前月から2件増加)。

2020年8月の院内調査結果報告(医療事故の現況(2020年8月)2 200909)

病院ダッシュボードχ 病床機能報告MW_GHC_logo

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2016年11月に報告された医療事故は30件、全体の45%で院内調査が完了―日本医療安全調査機構
2016年10月に報告された医療事故は35件、制度開始からの累計で423件―日本医療安全調査機構
2016年8月に報告された医療事故は39件、制度開始からの累計で356件―日本医療安全調査機構
2016年7月に報告された医療事故は32件、制度開始からの累計で317件―日本医療安全調査機構
2016年6月に報告された医療事故は34件、制度開始からの累計では285件―日本医療安全調査機構
制度開始から半年で医療事故188件、4分の1で院内調査完了―日本医療安全調査機構



医療事故に該当するかどうかの判断基準統一に向け、都道府県と中央に協議会を設置―厚労省
医療事故調査制度、早ければ6月にも省令改正など行い、運用を改善―社保審・医療部会

医療事故調査制度の詳細固まる、遺族の希望を踏まえた事故原因の説明を―厚労省



中心静脈穿刺は致死的合併症の生じ得る危険手技との認識を—医療安全調査機構の提言(1)
急性肺血栓塞栓症、臨床症状に注意し早期診断・早期治療で死亡の防止—医療安全調査機構の提言(2)
過去に安全に使用できた薬剤でもアナフィラキシーショックが発症する—医療安全調査機構の提言(3)
気管切開術後早期は気管切開チューブの逸脱・迷入が生じやすく、正しい再挿入は困難—医療安全調査機構の提言(4)
胆嚢摘出術、画像診断・他診療科医師と協議で「腹腔鏡手術の適応か」慎重に判断せよ—医療安全調査機構の提言(5)
胃管挿入時の位置確認、「気泡音の聴取」では不確実—医療安全調査機構の提言(6)
NPPV/TPPVの停止は、自発呼吸患者でも致命的状況に陥ると十分に認識せよ―医療安全調査機構の提言(7)
救急医療での画像診断、「確定診断」でなく「killer diseaseの鑑別診断」を念頭に―医療安全調査機構の提言(8)
転倒・転落により頭蓋内出血等が原因の死亡事例が頻発、多職種連携で防止策などの構築・実施を―医療安全調査機構の提言(9)
「医療事故再発防止に向けた提言」は医療者の裁量制限や新たな義務を課すものではない―医療安全調査機構
大腸内視鏡検査前の「腸管洗浄剤」使用による死亡事例が頻発、リスク認識し、慎重な適応検討を―医療安全調査機構の提言(10)
「肝生検に伴う出血」での死亡事例が頻発、「抗血栓薬内服」などのハイリスク患者では慎重な対応を―医療安全調査機構の提言(11)



人口100万人あたり医療事故報告件数、2017・18・19と宮崎県がトップ、地域差の分析待たれる―日本医療安全調査機構



新型コロナの影響で全国の3分の2の病院が赤字転落、東京都のコロナ患者受け入れ病院では9割が赤字―日病・全日病・医法協
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新型コロナで病院収入は大幅減少、医業利益率はマイナス10%超に―日病・全日病・医法協
3月時点から新型コロナで外来・入院ともに患者減、白内障・ポリペク割合の高い病院で患者減目立つ―GHC分析
新型コロナ対応のために手術延期などして「病院の収益が減少」、国で補填を―医学部長病院長会議
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