認知症含む老年疾患の要素となるライフスタイル(身体活動・文化活動)を簡便かつ適切に把握できる質問票を作成—長寿医療研究センター
2025.4.14.(月)
認知症を含む老年疾患の要素となるライフスタイル(身体活動・文化活動)が簡便かつ適切に把握できる質問票を、医療や福祉の現場で活用することで、適切な治療・ケアにつなげることが期待できるほか、若年期から役立てることによって「生活習慣の改善→生活習慣病・老年疾患の予防」にもつながる可能性がある—。
国立長寿医療研究センター(以下、研究センター)が4月11日に、こうした研究成果を発表しました(研究センターのサイトはこちら)。

身体活動質票票と文化活動質問票(長寿医療研究1 250411)
認知症含む老年疾患、遺伝因子・後天的危険因子・ライフスタイルの影響を受ける
認知症患者数は、高齢化の進行に伴って増加していきます。2018年には500万人を超え、65歳以上高齢者の「7人に1人が認知症」となり、2025年には675万人、2040年には802万人になると推計されています。
このため、2019年には認知症施策推進大綱が、2023年には認知症基本法が制定(2024年1月施行)され、認知症患者の意向を十分に踏まえた総合的な対策(認知症との共生、認知症予防など)を進めることとされています。

認知症高齢者数の推移(介護保険部会3 220516)
認知症をはじめとする老年疾患は、遺伝因子・後天的危険因子・ライフスタイルの影響を受けると考えられており、それらの情報を把握して、治療やケア(介護、生活支援等)に活かすことが重要です。
しかし、このうち「日常生活におけるライフスタイル(身体活動および文化活動)」の情報については、それを把握する簡便かつ有用な質問票がこれまでにありませんでした。このため各施設が独自の質問票を作成・使用しており、施設間や国内外での比較や定量的な評価が困難な状況です。
そうした中で、国立長寿医療研究センター・米国Barrow Neurological Institute、ドイツKarlsruhe Institute of Technology、東京都健康長寿医療センター(東京都板橋区)、東京大学(東京都文京区)、順天堂大学(東京都文京区)、にしき記念病院(兵庫県丹波篠山市)からなる共同研究チームは、米国のメイヨークリニックで長く使用されている「簡便なライフスタイル質問票(身体活動、文化活動)」に着目。
今般、多施設共同(オリジナル版の開発者とも共同)で、日本の風習・文化に合う形で適宜修正を行いながら、「ライフスタイル(身体活動および文化活動)質問票」の日本語版を研究・作成しました。
まず【身体活動の質問票】では、次のような運動等の頻度(月2-3回、週5-6回など)や、実施した日の1日の平均時間」などを把握します。
▽軽い身体活動(例:洗濯、家の掃除、台所仕事)
▽軽い運動(例:ゆっくりとした散歩、ストレッチ)
▽中強度の身体活動(例:庭仕事、日曜大工)
▽中強度の運動(例:早歩き、ハイキング)
▽強い身体活動(例:重いものを運ぶ、本格的な農業)
▽激しい運動(例:しっかりしたジョギング、山登り)
身体活動質問票に回答(10分程度)することで、得られた活動・運動頻度と時間から「総身体活動量」の算出(数値化)も可能です。なお、共同研究では、「質問票への回答情報から算出された総身体活動量」が、2週間後に聞いても同等の数値になり「再現性がある」ことを確認しています。

総身体活動量の計算(長寿医療研究2 250411)

総身体活動量の再現性確認(長寿医療研究3 250411)
さらに、現在は「質問票により算出された総身体活動量が、客観的な機器で計測した数値と合致するか」を研究する計画を立てているところです。
一方、【文化活動の質問票】では、次のような活動の頻度を把握します。
▽新聞を読む
▽雑誌を読む
▽本を読む
▽ゲームをする
▽音楽を自分で奏でる
▽芸術的活動
▽精神的活動
▽工芸
▽グループでの活動
▽社会活動
▽コンピュータ(スマホを含む)の操作
日本語版には、オリジナル版にはない「精神的活動」が加えられています。この中には瞑想や座禅、お祈り、読経を例示し、「より日本人の文化活動にフィットする」ように工夫されています。
これらの「ライフスタイル(身体活動および文化活動)質問票」の日本語版は、今後、日本の臨床や福祉の現場で大いに役立つと期待されます。具体的には、臨床研究、疫学研究、観察研究や介入研究に使用できるほか、日常の一般診療、健康診断や介護といった臨床の現場でも使用可能であり、さらに地方自治体や国の各種調査や、個人での活用も可能となります。
また、質問票を若年期から活用することで、「ライフスタイルの把握」→「自らの行動変容」→「生活習慣病や認知症を含む老年疾患の予防」につながることも期待されます。
今後の医療・介護現場等への普及が待たれます。
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