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脳卒中により「脳血流の低下」が生じると、アルツハイマー病の原因とされる「タウタンパク質の蓄積」が減少する—長寿医療研究センター他

2025.2.19.(水)

例えば脳梗塞・脳卒中によって「脳血流の低下」が生じると、アルツハイマー病の原因とされる「タウタンパク質の蓄積」が減少する—。

国立長寿医療研究センター、三重大学、東京都医学総合研究所、米国メイヨークリニック、香港科学技術大学が2月13日に、こうした共同研究成果を発表しました(研究センターのサイトはこちら)。

今回の研究結果からは「一部の血管病変」と「アルツハイマー病理」は相反する関係にあると考えられますが、血管病変・アルツハイマー病理のいずれもが認知機能低下や認知症の原因になることから、両者を満遍なく抑えることが認知症の予防には重要であると共同研究グループは強調しています。

ミクログリア細胞において活性化されたカテプシンDがタウタンパク質を分解する

認知症患者数は、高齢化の進行に伴い増加していきます。2018年には500万人を超え、65歳以上高齢者の「7人に1人が認知症」となり、2025年には675万人、2040年には802万人になると推計されています。このため、2019年には認知症施策推進大綱が、2023年には認知症基本法が制定(2024年1月施行)され、認知症患者の意向を十分に踏まえた総合的な対策(認知症との共生、認知症予防など)を進めることとされています。

認知症高齢者数の推移(介護保険部会3 220516)



今般、共同研究グループでは、認知症の代表的な原因である「脳卒中」に「アルツハイマー病」が合併するのかに注目した研究を実施。「脳卒中の既往がある場合、アルツハイマー病の原因とされるタウタンパク質の蓄積が少ない」ことを大規模なヒト臨床病理データから確認するとともに、マウスを用いて、その因果関係について「脳血流が低下するとタウタンパク質の蓄積が減る」を明らかにしました。

まず前者について、米国のNational Alzheimer’s Coordinating Center(NACC)のデータベースを用いて、健常人・認知症患者を含む4500名以上の剖検脳のデータを解析し、「脳卒中の既往があると、タウタンパク質の蓄積が少ない」ことを明らかにしました。

また、脳卒中の原因となる「脳の奥にある細い血管が詰まる脳梗塞」などについて、「梗塞のあるアルツハイマー病患者」と「梗塞のないアルツハイマー病患者」とでは、「梗塞あり」患者のほうがタウタンパク質蓄積が少ないことも明らかにしました。

脳卒中の既往があるとタウタンパク質蓄積が少ない(長寿医療研究センター1 250218)



次に後者の「脳卒中の既往があるとタウタンパク質の蓄積が少ない」ことの因果関係について動物モデルを用いて検討。

具体的には、人工的に凝集したタウタンパク質を脳に注入すると、神経回路を伝ってタウタンパク質が伝播するモデルマウスに「脳血流低下をきたす手術」を施すと「タウタンパク質の蓄積が減少する」ことを見出しました。

人工的な脳血流低下によりタウタンパク質蓄積が低下する(長寿医療研究センター2 250218)



さらに、「脳血流低下がタウタンパク質の蓄積を減少させる」メカニズムを明らかにするために、「脳内でタウタンパク質を分解する可能性のあるミクログリア細胞」に着目。すると、「脳血流が低下する手術を施したマウス」では「ミクログリア細胞の活性化」が起こっており、また実際にミクログリア細胞に取り込まれたタウタンパク質も観察されました。

脳血流低下によるミクログリア細胞が活性化(長寿医療研究センター3 250218)



あわせて、ミクログリア細胞に取り込まれたタウタンパク質がなぜ分解、減少するのかを明らかにするために、「タンパク質を分解する酵素であるカテプシン」に着目。すると「カテプシンD」という酵素が脳血流の低下によって活性化されること分かりました。実際、活性化されたミクログリア細胞内においてカテプシンDはタウと同じ場所に存在することが明らかとなり、「カテプシンがタウタンパクを分解している」可能性が示唆されました。

脳血流低下がタンパク質分解酵素であるカてプシンDを活性化する(長寿医療研究センター4 250218)



以上のことから、マウスにおいて「脳血流の低下はタウ蓄積を減少させる」ことが示され、共同研究グループでは▼ヒトにおいて「脳卒中の既往があるとタウタンパク質蓄積が少ない」という関係に因果関係が存在する▼「ミクログリア細胞において活性化されたカテプシンDがタウタンパク質を分解する」ことがそのメカニズムである可能性がある—との考えを示しました。さらなる研究により「認知症のメカニズム解明、効果的な治療法の開発」につながることに期待が集まります。

脳血流低下によるタウタンパク質蓄積低下のメカニズム想定(長寿医療研究センター5 250218)



加齢とともに動脈硬化などの血管病変や、アミロイドβやタウタンパク質というアルツハイマー病理が増加することが知られています。今回の研究結果からは「一部の血管病変」と「アルツハイマー病理」は相反する関係にあることが想定されます。

ただし、血管病変・アルツハイマー病理のいずれもが認知機能低下や認知症の原因になることから、両者を満遍なく抑えることが認知症の予防には重要であると考えられます。

また、近年「脳内でのタウタンパク質蓄積を可視化する技術」が臨床現場に導入されてきていますが、共同研究グループは「脳血管病変を考慮したうえでタウタンパク質蓄積を評価しなければならない」ことを示唆するものとコメントしています。



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