生活範囲が広く、そこでの活動性が高い高齢者ほど認知症発症リスクが低下する—長寿医療研究センター
2025.3.3.(月)
生活範囲が広く、そこでの活動性が高い高齢者ほど、認知症発症割合が低い—。
国立長寿医療研究センターが2月26日に、こうした共同研究成果を発表しました(研究センターのサイトはこちら)。
WHO(国際保健機関)のガイドラインなどでも「認知機能低下や認知症発症のリスクを低減するために活動性を高める」ことが推奨されており、本研究結果もこれと合致。今後、生活範囲を拡大し、活動を促進するために、どのような介入方法が効果的なのかなどの研究が進むことに期待が集まります。
「生活範囲の拡大・活動促進のため、どのような介入が効果的なのか」の研究にも期待
認知症患者数は、高齢化の進行に伴い増加していきます。2018年には500万人を超え、65歳以上高齢者の「7人に1人が認知症」となり、2025年には675万人、2040年には802万人になると推計されています。このため、2019年には認知症施策推進大綱が、2023年には認知症基本法が制定(2024年1月施行)され、認知症患者の意向を十分に踏まえた総合的な対策(認知症との共生、認知症予防など)を進めることとされています。

認知症高齢者数の推移(介護保険部会3 220516)
そうした中、研究センターでは「生活範囲における活動」と「認知症発症リスク」との関係に着目した研究を実施しました。
「生活範囲」は「個人と周囲の環境との関係にもとづき、家から移動できる範囲」と定義されます。生活範囲を広くし、そこでの活動性を高く維持することは「健康増進」に寄与すると考えられています。
調査研究では、大規模コホート研究(National Center for Geriatrics and Gerontology Study of Geriatric Syndromes:NCGG-SGS)のデータを用いて「最初の調査時に認知症ではない2740名の高齢者」を対象に分析(平均年齢:74.4歳、女性の割合:58.8%)。
まず「生活範囲、そこでの活動」に関しては、研究センターの開発したActive Mobility Indexで評価。具体的には、「生活範囲別(戸外-1km、1-10km、10km以上)に、移動の目的・手段・内容などに応じた配点を行い、その合計点数で評価を行う」ものです(0-216点)。点数が高いほど活動性が高くなります(Active Mobility Indexの算出シートはこちら(研究センターサイトからエクセルシートをダウンロードできる))。

Active Mobility Indexの構成
また「認知症の発症」に関しては、医療診療情報と介護保険情報を用いて、「活動の評価から何か月後に認知症の発症がみられたか」をデータ化。
最大5年間、平均53.7カ月(4年6か月弱)追跡してActive Mobility Indexの値を見ると、「Active Mobility Indexの値が高い者の群(上位3分の1)では、低い者に比べて認知症発症割合が小さい」ことが明らかとなりました。

認知症発症とActive Mobility Indexとの関係
研究センターでは、この結果から「高齢者では、活動性が高いほど、認知症の発症リスクが低い」可能性があると判断。WHO(国際保健機関)のガイドラインなどでも「認知機能低下や認知症発症のリスクを低減するために活動性を高める」ことが推奨されており、本研究結果もこれを支持する内容となっています。今後、「生活範囲拡大や活動促進のためには、どのような介入方法が効果的なのか」などの研究がさらに進むことに期待が集まります。
【関連記事】
脳卒中により「脳血流の低下」が生じると、アルツハイマー病の原因とされる「タウタンパク質の蓄積」が減少する—長寿医療研究センター他
コロナ感染症やインフルエンザ等、「メトホルミンによる唾液腺タンパク発現制御」が感染予防・拡大予防法になり得る—長寿医療研究センター他
加齢により「学習記憶を保持する能力が低下する」より先に、「新しい学習を行う速度が低下」する—都健康長寿医療センター研究所
老化に伴い睡眠の量と質が低下するが、そこには「栄養」が大きく関係し、「必須アミノ酸の追加摂取」で改善する—長寿医療研究センター
認知症の最大の原因である「アルツハイマー病」の脳内で生じる炎症状態を検出する血液バイオマーカー候補発見—長寿医療研究センター
アルツハイマー病の治療薬開発につながる「脳の免疫細胞を捉える新しい臨床イメージング技術」開発—長寿医療研究センター
フレイル(虚弱)高齢者はカフェインやビタミンB3等の血中濃度低い、フレイル防止の食事・栄養指針に期待—都健康長寿医療センター研究所
「ホルモン療法が効かない前立腺がん・乳がんへの新治療戦略」発見、他のがん種への応用にも期待—都健康長寿医療センター研究所
認知症早期発見・早期介入モデル確立に向けた大規模研究開始、「認知症リスク早期発見のための手引き」作成目指す—長寿医療研究センターほか
「耳の聞こえにくさ」への早期・適切な対応と「足腰の機能」維持のセット実施が転倒事故防止に重要—都健康長寿医療センター研究所
人々の「認知症に対する差別・偏見」を把握し、その結果をもとに正しい知識普及などに努めて「認知症との共生」目指せ—長寿医療研究センター
社会的孤立は認知機能低下等に関連するが、「孤立の種類」に応じた社会参加支援策等が重要—都健康長寿医療センター他
患者、家族、医療・介護従事者らが共同で「どの治療・介護方針が良いのか」を話し合い、定期的に見直すことが重要—国立長寿医療研究センター
「歯の本数」が「抑うつ」と深く関係、一度失った歯は取り戻せず「現在の歯の本数を保てる」ような取り組みが重要—国立長寿医療研究センター
カマンベールチーズの摂取、通常歩行速度が速い、嚥下機能の維持などが「認知機能の維持」と重要な関係—都健康長寿医療センター他
「社会参加」が高齢者の生活機能維持に寄与、ただし性別・年齢・社会参加の内容により効果が異なる点に留意—都健康長寿医療センター
「独りでいることを好む人」でも、社会的孤立による悪影響は緩和されない可能性が高い—都健康長寿医療センター
エストロゲン(女性ホルモン)関連受容体(ERR)が、アルツハイマー型認知症を防ぐ働きを持つことを解明—都健康長寿医療センター
血液検査をもとに、「レビー小体型認知症」の発症前に、神経障害を検出できる可能性—長寿医療研究センターほか
介護予防等に重要な筋トレ、「キツいプログラム」だけでなく、「長時間の軽い負荷のプログラム」でも効果期待—都健康長寿医療センター
薬物療法が奏功しない高齢者の慢性腰痛、「固有感覚機能」診断・向上装置の使用で改善が期待できる—国立長寿医療研究センター
魚介類の摂取等により「タウリンを摂取」することが、筋力維持に良い影響を与える—国立長寿医療研究センター
タンパク質不足の判断、従来の「血中アルブミンの濃度」よりも「血中アルブミンの酸化・還元バランス」が有用—都健康長寿医療センター研究所
運動が「慢性疾患を増悪させる細胞老化」を抑制することを解明、運動による新たな慢性疾患予防・治療に期待—都健康長寿医療センター研究所
適切な濃度の水素ガス吸入が、新生児手術における「麻酔薬による脳障害」を防止する新戦略に—都健康長寿医療センター研究所
抗酸化物質(ビタミンEなど)の過剰摂取は運動学習を阻害、活性酸素は運動記憶に必要な「善玉物質」でもある—都健康長寿医療センター研究所
アルツハイマー病等の新たな治療標的となる分子をPET検査で画像化、新たな治療法開発につながると期待—都健康長寿医療センター研究所
加齢に伴い「糖ヌクレオチド量変化→がん等の発症にも関与する『糖鎖』量変化」、加齢関連疾患予防に期待—都健康長寿医療センター研究所
継続的な生活習慣病管理・運動・栄養指導・認知トレーニングといった多因子介入で、認知機能改善が期待できる—国立長寿医療研究センター
「脳脊髄液アルツハイマー病バイオマーカー」測定で、より早期・高精度のアルツハイマー病鑑別診断の可能性—都健康長寿医療センター研究所
「中等度以上の認知症・ADL低下」の高齢入院患者は自宅退院が困難、早期の手厚い在宅復帰支援が重要―都健康長寿医療センター研究所
「チーズの摂取」「歩行の速度が速い」「ふくらはぎが太い」ことが認知機能の高さと強く関連―都健康長寿医療センター研究所
「耳の聞こえにくさ」に早期かつ適切に対応することが転倒等の傷害予防のために重要—都健康長寿医療センター研究所
「生活習慣病の管理、運動、栄養指導、認知トレーニング」が認知機能低下の抑制・フレイル予防に有効—長寿医療研究センター
後期高齢者健診で用いる「後期高齢者の質問票」、うち12項目で簡便に「フレイル」ハイリスク者を抽出可能—都健康長寿医療センター研究所
治療抵抗性の前立腺がんに対する「新たな治療法」の確立に向けた研究進む—都健康長寿医療センター研究所
定期の聴力チェック→耳鼻科等受診勧奨→早期の補聴器装着→認知症リスク低下防止—のシステム構築を―都健康長寿医療センター研究所
老化に伴い交感神経の筋肉サポート機能が弱まって「筋力が低下」、筋緊張が生じやすくなり「運動能力が低下」―都健康長寿医療センター研究所
腎機能が低下し「血中GDF15」の濃度が上昇すると、高齢者の死亡リスクが2倍に高まる—都健康長寿医療センター研究所
高齢期にむけた健康の維持にとって最適な食事のタンパク質比率は25-35%!―都健康長寿医療センター研究所
「お肉」を食べることが、高齢者のフレイル予防に有効である可能性!―都健康長寿医療センター研究所
皮膚へのやさしい刺激が肩こり症状を緩和する可能性—都健康長寿医療センター研究所
フレイル度の高い高齢者は就業中の転倒・転落事故が多い!フレイル度を踏まえた業務選択などが重要!―都健康長寿医療センター研究所
ペット、とりわけ犬の飼育が「運動の継続」→「要介護状態等の予防」→「介護費の軽減」につながる!—健康長寿医療センター研究所
「ペットの飼育」は介護予防だけでなく「介護費の軽減」にも効果あり!—健康長寿医療センター研究所
認知症患者が自由なテーマで話し合う本人ミーティングの実践が、地域共生社会の構築の第1歩—健康長寿医療センター研究所
糖尿病性認知症のバイオマーカー候補を発見、血液診断で「糖尿病性認知症の超早期鑑別」が可能な時代に—健康長寿医療センター研究所
血液診断によって「近く要介護・要支援状態に陥る可能性の高い人」を鑑別できる時代が来る—健康長寿医療センター研究所
後期高齢者、歯科受診により急性期疾患(肺炎、脳卒中、尿路感染症)での入院発生割合を抑制—都健康長寿医療センター
認知症の原因疾患を鑑別し、治療法選択・その効果測定を補助する「PET検査」の保険適用に強い期待—都健康長寿医療センター
食べ物を飲み込む際の「喉の刺激」によりサイロキシン・カルシトニン分泌が活性化され、心身の健康が高まる—都健康長寿医療センター
口腔状態に問題ある高齢者は要介護や死亡リスクが2倍超、地域で「オーラルフレイル改善」の取り組み強化を—都健康長寿医療センター
コロナ禍で「要介護1・2高齢者等を介護する家族」の介護負担が増し、メンタルヘルス不調を来す—都健康長寿医療センター
DHAやEPA、ARAを十分に摂取することで「認知機能を維持できる」可能性—長寿医療研究センター
「ゆっくりとした歩行」「軽い家事活動」などの低強度身体活動も、脳機能の維持に有用—長寿医療研究センター
治療抵抗性の前立腺がん、新治療法として「RNA分解酵素を標的とする薬剤」に期待—都健康長寿医療センター
男女ともビタミンC摂取不足で筋肉量・身体能力が低下するが、適切な摂取で回復可能—都健康長寿医療センター
自治体と研究機関が協働し「地域住民の健康水準アップ」を目指すことが重要—都健康長寿医療センター
日本人特有の「レビー小体型認知症の原因遺伝子」を解明、治療法・予防法開発に繋がると期待—長寿医療研究センター
日本人高齢者、寿命の延伸に伴い身体機能だけでなく「認知機能も向上」—長寿医療研究センター
フレイル予防・改善のため「運動する」「頭を使う」「社会参加する」など多様な日常行動の実施を—都健康長寿医療センター
「要介護度が低い=家族介護負担が小さい」わけではない、家族介護者の負担・ストレスに留意を—都健康長寿医療センター
奥歯を失うと、脳の老化が進む—長寿医療研究センター
介護予防のために身体活動・多様な食品摂取・社会交流の「組み合わせ」が重要—都健康長寿医療センター
高齢男性の「コロナ禍での社会的孤立」が大幅増、コロナ禍で孤立した者は孤独感・コロナへの恐怖感がとくに強い—都健康長寿医療センター
中等度以上の認知症患者は「退院直後の再入院」リスク高い、入院時・前から再入院予防策を—都健康長寿医療センター
AI(人工知能)用いて「顔写真で認知症患者を鑑別できる」可能性—都健康長寿医療センター
認知症高齢者が新型コロナに罹患した場合の感染対策・ケアのマニュアルを作成—都健康長寿医療センター
地域高齢者の「社会との繋がり」は段階的に弱くなる、交流減少や町内会活動不参加は危険信号―都健康長寿医療センター
新型コロナ感染防止策をとって「通いの場」を開催し、地域高齢者の心身の健康確保を―長寿医療研究センター
居住形態でなく、社会的ネットワークの低さが身体機能低下や抑うつ等のリスク高める―都健康長寿医療センター
孤立と閉じこもり傾向の重複で、高齢者の死亡率は2倍超に上昇―健康長寿医療センター
新型コロナの影響で高齢者の身体活動は3割減、ウォーキングや屋内での運動実施が重要―長寿医療研究センター