オプジーボ、費用対効果評価の制度化骨子など踏まえ、2019年5月に改めて価格調整―中医協総会(3)
2019.3.29.(金)
オプジーボについて、費用・効果等に関するデータ範囲などを企業・公的分析班で協議して設定するとともに、費用対効果評価の制度化骨子に踏まえた評価を行うと、2018年度の試行時点での価格調整(引き下げ)とは異なる結果が得られた。これを踏まえて2019年5月に、オプジーボについて改めての価格調整を行う―。
3月27日に開催された中央社会保険医療協議の「総会」および、「費用対効果評価専門部会」「薬価専門部会」「保険医療材料専門部会」の合同部会(以下、合同部会)で、こういった点が了承されました(関連記事はこちらとこちら)。
ただし、医療機関等の在庫を考慮し、新価格適用までには2か月間程度の猶予期間が設けられる見込みです。
2018年度の費用対効果評価の試行、企業と分析班の分析結果が異なった7品目を検証
医薬品・医療機器をはじめとする医療技術の値決めにあたり、費用対効果評価結果を活用する仕組みが導入されます。「安全性」「有効性」というこれまでの評価軸に、新たに「費用対効果評価」という評価軸を加え、価格設定を行う仕組みです。
高額な医薬品・医療機器や、市場規模が非常に大きい医薬品・医療機器を主な対象として、「類似の医薬品・医療機器と比べて費用対効果が優れているのか、劣っているのか」を分析。費用対効果が劣っている場合には価格の引き下げを行い、優れている場合には価格の引き上げを行うものです(関連記事はこちらとこちら)。
これまでに、既収載品13品目等を対象に費用対効果評価を試行導入するとともに、先般、制度化(本格導入)に向けた骨子が取りまとめられました。
前者の「試行」については、一部品目(7品目)に関して、「企業側の分析」と「専門家で構成される分析班による再分析」とで分析結果が異なることが判明。2018年度の薬価・材料価格改定では「暫定的な値決め(再算定)」を実施するにとどめ、併せて結果の検証(再検証)を行うことになっていました(関連記事はこちら)。
「費用」や「効果」をどう捉え、どう分析するかについては、試行段階でもガイドラインが定められていましたが、企業側と分析班側とでデータの取り方などに違いがあったことが齟齬の原因です。例えば、「オプジーボ」(ニボルマブ製剤)については、企業側が投与期間を「最大24か月」と設定して分析を行ったのに対し、公的分析チーム(再分析チーム)では一律の投与期間上限を設けずに分析を行ったため、結果に齟齬が出てしまいました。制度化に向けては、こうした齟齬が出ないように、事前に企業側と分析班側とで協議(事前協議)を十分に行うことになっています。
今般、暫定的に価格設定が行われた試行7品目について結果検証(再検証)が終了し、その内容が3月27日の中医協に報告されました。検証結果に基づき、オプジーボのみについて「改めての価格見直しが必要」と結論付けられています。
検証対象となったのは、次の7品目です。
【医薬品】
▼ハーボニー(C型慢性肝炎治療薬)▼ヴィキラックス(C型慢性肝炎治療薬)▼ダクルインザ(C型慢性肝炎治療薬)▼スンベプラ(C型慢性肝炎治療薬)▼オプジーボ(肺がん等治療薬)
【医療機器】
▼サピエンXT(経カテーテルウシ心のう膜弁)▼カワスミ Najuta 胸部ステントグラフトシステム(大動脈用ステントグラフト)
オプジーボについては、企業側・分析側で取扱いデータを協議した上で、費用対効果を判断するための指標である「ICER」(いわば「高い効果を得るために、どれだけ余分な費用がかかるのか」を見る指標。数値が小さいほど費用対効果が良いと判断される)を計算。
その結果を、制度化骨子で定められた判断基準に当てはめると、「試行時点」とは異なる薬価引き下げ幅が算出され、改めて薬価見直しを行うことが中医協で了承されました。
【ICERの値の判断基準】
▽ICERが500万円未満の場合(総合的評価で指定難病等の適応がある場合には750万円未満に緩める):「費用対効果が優れている」と判断し、価格を維持する(試行段階と同じ)
▽ICERが500万円以上750万円未満の場合(同750万円以上1125万円未満に緩める):「費用対効果が劣っている」と判断し、有用性等加算部分については価格を30%、営業利益部分については17%引き下げる
▽ICERが750万円以上1000万円未満の場合(同1125万円以上1500万円未満に緩める):「費用対効果がさらに劣っている」と判断し、有用性等加算部分については価格を60%、営業利益部分については33%引き下げる
▽ICERが1000万円以上の場合(同1500万円以上に緩める):「費用対効果が非常に劣っている」と判断し、有用性等加算部分については価格を90%、営業利益部分については50%引き下げる
厚労省では、今年5月(2019年5月)の新薬収載のタイミングで、オプジーボについて改めての価格設定(新価格)を行います。ただし、医療機関等の在庫にも配慮し、新価格を適用するまでに2か月程度の猶予期間が設けられる見込みです。なお、新価格が、現在の薬価よりも低くなるのか否かについて、厚労省は明らかにしていません(2019年5月の告示を待つ必要がある)。
また、▼ダクルインザ▼スンベプラ―の2品目については、いずれもICERが500万円未満となり、上記基準に照らして「価格調整しない」こととなりました。
一方、▼ハーボニー▼ヴィキラックス―の2品目は、制度化骨子における「H5(類似品目)」に該当します。制度化骨子ではH5の品目について「費用対効果評価の分析は行わず、比較対照薬(代表品目)に準じた価格調整を行う」としています。両医薬品の比較対象薬である▼ダクルインザ▼スンベプラ―などについて上記のとおり「価格調整しない」と判断されており、制度化骨子の規定(比較対象薬に準ずる)に基づいて「価格調整しない」こととされました。
また、サピエンXTについてはICERが500万円未満となったことから、上記基準に照らして「価格調整しない」こととなりました。
さらに、カワスミ Najuta 胸部ステントグラフトシステムについては、「効果が同等で、かつ費用削減」(ICERは算出できない)となり、制度化骨子に沿っても、2018年4月の「価格引き上げ」と同じ結果が得られるため、「今回は新たな価格調整は行わない」こととされました。
中医協では、厚労省保険局医療課の古元重和企画官から示された、制度化骨子の内容を踏まえた通知案も了承しています(近く発出)。そこでは、▼過去に費用対効果評価の対象になった品目は、新たに「価格評価に大きな影響を与える」事項が判明した場合を除き、費用対効果の対象としない▼企業側は中医協決定までの間、分析データを公表せず、中医協決定内容なども公表しない―ことなどが明確化されています。
なお、医薬品・医療機器とは別に「高額な医療機器を用いる医療技術」についても、厚労省は費用対効果評価の手法を研究しています。
しかし、医療技術そのものについては、▼診療報酬の中に、医療機器の費用に加えて、医師の技術なども含めた評価が行われており、機器の費用が点数に占める割合はさまざまである▼新たな医療技術の保険収載に当たっては、有効性・安全性だけでなく、「普及性」「技術的成熟度」「施設基準の必要性」なども勘案して総合的な評価が行われている―などといった特性があることから、「医薬品や医療機器と同様の『一律の価格調整』方法設定は非常に難しい」ことが、3月27日の中医協総会と費用対効果評価専門部会で確認されました。
このため、「高額な医療機器を用いる医療技術」の費用対効果評価については、今後も手法を継続して検討していくことになりました。また医療技術については、先進医療会議や医療技術評価分科会(中医協の下部組織、学会等からの要望を踏まえて新医療技術の保険収載の是非を検討する)においても評価に向けた検討を行っており、これら会議体とも歩調を合わせて検討していくことになるでしょう。
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