2020年度に「稼働病床数を1割以上削減」した病院、国費で将来の期待利益を補助―厚労省
2019.12.17.(火)
医療法上の病床について、稼働病床数ベースで1割以上の削減を行った病院に対し「将来、当該病床を稼働させていれば得られたであろう利益」の補助を全額国費で行うこととし、全国での病床数削減を狙う。このために国費84億円を2020年度予算に計上する―。
救急医療の提供実績が一定以上の病院について「勤務医に対する働き方改革」に向けて診療報酬上の対応を行うために公費126億円を投じる―。
2020年度の予算編成に向けて、12月17日に加藤勝信厚生労働大臣と麻生太郎財務大臣が折衝を行い、こうした点が決定されました。
「医療法上の病院病床から介護医療院への転換」などは補助の対象外に
2025年には、いわゆる団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者となることから、今後、急速に医療・介護ニーズが増加していきます。こうしたニーズに効果的かつ効率的に対応するために、「医療提供体制改革」や「地域包括ケアシステムの構築」が進められています。
前者の医療提供体制改革に関しては「地域医療構想の実現」が重要テーマとなり、都道府県の策定した「2025年度の医療提供体制の姿」(高度急性期、急性期、回復期、慢性期等の必要病床数などを規定)に向けて、地域の病院が膝を突き合わせて話し合い(地域医療構想調整会議)、自主的に機能転換を進めていくことが期待されています。
こうした動きを経済的に支援するために、厚生労働省は「地域医療介護総合確保基金」のメニューの1つとして「医療機関のダウンサイジング」に向けた▼建物の改修(病院病棟から他用途への転換等)▼不要となる建物・機器の処分▼早期退職制度—などを2018年度に創設しました。
しかし基金は「国費3分の2」「都道府県3分の1」という財源構成となっているため、例えば「病床削減をしたいが、それには3億円が必要である」という医療機関が現れた場合、理論的には都道府県が1億円を負担する形になり、都道府県の財政状況によって「基金の活用」に温度差が生じることが指摘されています。
そこで加藤厚労相は今般、「病床数の削減」に着目した補助を全額国費で実施することが必要(都道府県の財政状況等によらず補助が行われる)と考え、2020年度予算に84億円を計上することとしたものです。
具体的には、医療法上の病床(急性期病床に限らず)について稼働病床数ベースで1割以上の削減を行った病院に対し、「将来、当該病床を稼働させていれば得られたであろう利益」(逸失利益)を補助するものです。逸失利益の補助ゆえ、より多くのベッドを削減すれば、補助額も大きくなります。
次の3パターンが想定されており、(1)<(2)<(3)の順で補助が大きくなる見込みです。
(1)個々の病院でベッド数を1割以上削減した場合(500床のA病院が450床以下にダウンサイジングするなど)
(2)複数の病院が合併し、ベッド数を1割以上削減した場合(400床のB病院と300床のC病院が合併し、630床以下のD病院となるなど)
(3)重点地域(国が医療提供体制の再編に向けた直接の指導を行う地域、今後、指定される)においてベッド数を1割以上削減した場合(今後、指定される重点地域に存在する150床のE病院が135床以下にダウンサイジングするなど)
「補助率はどの程度になるのか」(逸失利益のすべてが補助されるのか、一部にとどまるのか)、「そもそも逸失利益をどう把握するのか」、「稼働病床をどう定義するのか」(1年に1日だけ利用されれば稼働と考えてよいのか)など詳細な交付要綱は今後、検討されます。
例えば「一般病床から介護医療院に転換したケース」などでは「介護医療院での利益が考えられるため、補助の対象にはしない」との考えを厚労省医政局総務課の佐々木裕介課長は説明しています。
なお、この新設される補助と、上述した地域医療介護総合確保基金とは「併用」することが可能です。新設される補助で「病床削減」そのものの逸失利益が補填され、基金で「職員の早期退職などを促す」ことなどが想定されます。
ところで、この補助は2020年度限りとなり、2021年度以降は「消費税財源を用いた、病床ダウンサイジングを支援する新たな仕組み」が創設される見込みです。今後、必要な法整備を行うこととなり、現時点で「基金とするのか」「国費による補助とするのか」などは全くの未定です。
ざっくりと、次のような整理ができそうです。上述のように【病床削減による逸失利益の補填】と【病床削減に伴う改築や早期離職等の費用補助】とは別個の補助で、「併用」が可能となる見込みです。
【病床削減による逸失利益の補填】
▽2020年度:全額「国費」による補助を実施(今回の対応)
▽2021年度以降:消費税財源を活用した新たな仕組みを検討
【病床削減に伴う改築や早期離職等の費用補助】
▽地域医療介護総合確保基金
救急医療実績の高い医療機関に着目した、特例の診療報酬改定財源を準備
12月17日の大臣折衝では、2020年度の次期診療報酬改定の改定率も正式決定しました。
まず診療報酬本体については、0.55%のプラス改定となります。このうち0.47%分が「通常の本体改定」分で、0.08%が「医師の働き方改革への特例対応」分となります。
0.47%の「通常の本体改定分」の内訳は、医科がプラス0.53%、歯科がプラス0.59%、調剤がプラス0.16%で、従前の「医科:歯科:調剤の比率=1:1.1:0.3」(技術料の比率に応じている)が維持された格好です。
また0.08%の「医師の働き方改革への特例対応」分は、「救急病院における勤務の働き方改革」に対応するものと加藤厚労相は説明。あわせて、地域医療介護総合確保基金に「医師の働き方改革」対応として143億円(公費ベース)を積み増しており、次のような棲み分けがなされる模様です。
(i)救急医療の実績が極めて高い医療機関への支援:診療報酬プラス0.08%で対応(公費ベースで126億円)
(ii)(i)ほどではないが「救急医療を相当程度提供し、過酷な勤務状況にある」と都道府県知事が認めた医療機関への支援:基金で対応(公費ベースで143億円)
(i)について、▼対象病院をどう考えるのか(いわゆるB水準と目される1500病院とするのか)▼どのような点数を設定するのか―などは、今後、中央社会保険医療協議会で議論されます。すでに中医協では救急搬送患者を極めて多く受け入れる病院への「新たな加算」を検討しており、ここにこの財源が充当されるのか、興味深いところです。
なお、「使途が特定された財源」が付与されるのは、消費増税対応を除いて、極めて異例です(2010年度改定では病院と診療所で財源が別個に用意されたが、改定内容にまでは踏み込んでいない)。この点、「財源の縛りが、中医協論議をどこまで拘束する」のか、今後の中医協総会に注目が集まります。
一方、薬価についてはマイナス0.99%(うち今般の実勢価改定(引き下げ)等分がマイナス0.43%、市場拡大再算定などの制度改正分がマイナス0.01%、ほか消費税対応改定時の実勢価格改定等分)、医療材料についてはマイナス0.02%(うち今般の実勢価改定(引き下げ)等分がマイナス0.01%)―の価格引き下げが行われます。
通常であれば、「診療報酬本体プラス0.55%」「薬価マイナス0.99%」「医療材料マイナス0.02%」を合算して「2020年度にはネット(全体)でマイナス0.46%」となるところですが、厚労省保険局総務課の宮崎敦文課長は、「財源が異なる(特例分のみ消費税財源)ため、すべてを合算して『ネットで●%』と言いにくい」と説明しています。
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2020年度診療報酬改定に向け、「看護必要度」「地域包括ケア病棟」などの課題を整理―入院医療分科会
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ICUの「重症患者」受け入れ状況、どのように測定・評価すべきか―入院医療分科会(2)
DPC病棟から地域包括ケア病棟への転棟、地ケア病棟入院料を算定すべきか、DPC点数を継続算定すべきか―入院医療分科会(1)
総合入院体制加算、地域医療構想の実現や病床機能分化を阻害していないか?―入院医療分科会(3)
救命救急1・3は救命救急2・4と患者像が全く異なる、看護必要度評価をどう考えるべきか―入院医療分科会(2)
「急性期一般2・3への移行」と「看護必要度IIの義務化」を分離して進めてはどうか―入院医療分科会(1)
【短期滞在手術等基本料3】、下肢静脈瘤手術などは外来実施が相当数を占める―入院医療分科会(4)
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資源投入量が少なく・在院日数も短いDPC病院、DPC制度を歪めている可能性―入院医療分科会(2)
看護必要度の「A1・B3のみ」等、急性期入院医療の評価指標として妥当か―入院医療分科会(1)
回復期リハ病棟でのFIM評価、療養病棟での中心静脈栄養実施、適切に行われているか検証を―入院医療分科会(2)
入院で実施されていない「免疫抑制剤の内服」「膀胱脱手術」など、看護必要度の評価対象から除くべきか―入院医療分科会(1)
回復期リハビリ病棟から退棟後の医療提供、どのように評価し推進すべきか―入院医療分科会(3)
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2020年度改定、入院医療では「救急」や「認知症対策」なども重要論点に—入院医療分科会(2)
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2018年度改定で新設された【急性期一般入院料1】を選択する理由はどこにあるのか―入院医療分科会
2020年度の次期診療報酬改定に向け、急性期一般入院料や看護必要度などを調査―入院医療分科会
妊産婦の診療に積極的な医師、適切な要件下で診療報酬での評価に期待―妊産婦保健医療検討会
2020年度診療報酬改定、「ネットで2%台半ば以上のマイナス、本体もマイナス」改定とせよ―財政審
医師働き方改革、「新たな医療提供体制に向かうチャンス」の可能性も―社保審・医療部会
2020年度診療報酬改定に向け、「入院時食事療養費」の引き上げを求める声も―社保審・医療部会
「医師の働き方改革」を診療報酬でどうサポートするか、基本方針策定段階でも激論―社保審・医療部会
2020年度診療報酬改定「基本方針」論議始まる、病院薬剤師の評価求める声多数―社保審・医療部会
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2020年度診療報酬改定、「医師働き方改革」だけでなく「効率化」や「機能分化」なども重点課題ではないか―社保審・医療保険部会
2020年度診療報酬改定、「効率化・合理化の視点」「働き方改革の推進」「費用対効果評価」なども重要視点―社保審・医療保険部会
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424の公立病院・公的病院等の再編統合再検証、厚労省が地方に出向き趣旨等を丁寧に説明―国と地方の協議の場
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公立・公的病院等の再編・統合、国が「直接支援」する重点地域を2019年夏に策定―厚労省・医療政策研修会
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公立病院等、診療実績踏まえ「再編統合」「一部機能の他病院への移管」を2019年夏から再検証―地域医療構想ワーキング
公立病院等の機能、▼代表的手術の実績▼患者の重症度▼地理的状況―の3点で検討・検証せよ―地域医療構想ワーキング
CT・MRIなどの高額機器、地域の配置状況を可視化し、共同利用を推進―地域医療構想ワーキング(2)
主要手術の公民比率など見て、構想区域ごとに公立・公的等病院の機能を検証―地域医療構想ワーキング(1)
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大阪府、急性期度の低い病棟を「地域急性期」(便宜的に回復期)とし、地域医療構想調整会議の議論を活性化—厚労省・医療政策研修会
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公立・公的病院と民間病院が競合する地域、公立等でなければ担えない機能を明確に―地域医療構想ワーキング(1)
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都道府県ごとに「急性期や回復期の目安」定め、調整会議の議論活性化を―地域医療構想ワーキング(1)
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「医療の質」を追求していけば、診療報酬のほうが病院を追いかけてくる―GHC15周年感謝祭(2)
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