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効果が同じで費用が高い製品・企業分析が遅延した製品は「最も厳しい評価」対象―中医協・費用対効果評価専門部会

2021.10.15.(金)

費用対効果評価制度において、▼効果が同じで費用が高い製品▼合理的な理由なく企業分析が遅延した製品―は、「最も厳しい評価」対象とする―。

また複数適応症がある場合などには、適応症毎の患者割合を示し、それに基づいて価格調整を行う。こうした価格調整の透明性を確保するために、患者割合データは原則として「公表可能なもの」を用いることとし、データを示せない場合には「その理由」を明示することを求める―。

費用対効果評価の体制充実にも力を入れ、より多くの製品について、迅速な評価を行っていく―。

10月15日に開催された中央社会保険医療協議会の費用対効果評価専門部会(以下、専門部会)で、こういった議論が行われました。

論点について一通りに議論が終わった格好で、今後、業界団体とのヒアリングを経て、改革骨子作成論議に移っていく見込みです。

効果が同じで費用が高い製品、分析が遅延した製品は「最も厳しい評価」対象に

2019年4月から公的医療保険制度に「費用対効果評価」制度が導入されています。

医療技術の高度化(例えば脊髄性筋萎縮症の治療薬「ゾルゲンスマ点滴静注」(1億6707万円)白血病等治療薬「キムリア」(3350万円)といった超高額薬剤の保険適用など)が進み、医療保険財政が厳しくなる中で、「医薬品や医療材料の価格設定において、経済面を考慮する」ことが不可欠となってきているためです。

費用対効果評価の仕組みは非常に複雑ですが、「高額である」「医療保険財政に大きな影響を及ぼす」などの要件を満たした新薬・新医療機器について、「類似の医薬品・医療技術等に比べて、費用対効果が優れているのか、あるいは劣っているか」をデータに基づいて判断します。「費用対効果が優れている」と判断されれば価格(薬価、材料価格)は据え置きとなり、「費用対効果が劣っている」と判断されれば価格の引き下げが行われます。また、「費用が少なくなる一方で、効果が優れている・あるいは同じである」という、いわば「きわめて費用対効果が優れている」と言える製品については、価格の引き上げも行われます。

従前から継続した評価軸である「安全性」「有効性」に加えて、新たに「経済性」の評価軸を設けたものです(関連記事はこちら)。

費用対効果評価制度の大枠(中医協・費用対効果評価専門部会2 210421)



もっとも新しく我が国で創設された仕組みゆえ「課題」「問題点」も少しずつ明らかになってきており、2年に一度の診療報酬改定に合わせて制度改革を進めていくことが重要です(関連記事はこちら)。この点、中医協の下部組織である「費用対効果評価専門組織」(以下、専門組織)では11項目の改善案提示製薬メーカーや医療機器メーカーなどの業界団体から「制度改善に向けた意見」聴取が行われ、具体的な改革案論議に入ってきています。

10月15日の専門部会では、「価格調整方法」と「分析体制」の見直しを議論。厚生労働省保険局医療課医療技術評価推進室の中田勝己室長から見直し方向が提示されました。見直し方向に異論は出ておらず、今後、詳細を詰めていくことになりますが、それに向けて委員からはいくつかの注文・提案も行われています(見直し第1弾論議の記事はこちら)。



まず「価格調整方法」については、次のような見直し方向が確認されています。

(1)「比較対照技術と比べて効果が同等で、費用が増加する」製品について、現行制度ではルールが存在しないところ、新たに「最も小さな価格調整係数を用いる」ルールを設ける

(2)「企業が分析期間を超過した場合」の取り扱いについて、現行制度ではルールが存在しないところ、新たに「企業に対して遅れた理由を確認し、その理由が妥当性を欠く場合には最も小さな価格調整係数を用いる」ルールを設ける

(3)「患者割合」に係るデータについて、現行制度ではルールが存在しないところ、新たに「原則として公表可能なデータを用いることとし、公表が困難な場合にはその理由に係る説明を求める」ルールを設ける

(4)効果に「公的介護費」を勘案するか否かについて、諸外国における取組みを参考にしながら、引き続き研究班による研究を実施し、その進捗を踏まえて検討していく



上述のとおり、「費用対効果が優れている」場合(ICERという費用対効果を図る指標が500蔓延未満)には価格を維持し、「費用対効果がそれほど優れているわけではない」場合(ICERが500万円以上)には価格を引き下げる、というのが費用対効果評価制度の基本的な考えです。この点、「効果が同じで、費用が高い」製品については登場が想定されていませんでしたが、そうした製品が実際に登場したことを踏まえて「最も厳しい評価」(ICERが1000万円以上の場合には、有用性等加算部分については価格を90%、営業利益部分については50%引き下げる)とするものです。

費用と効果の指標であるICERをもとに「費用対効果が良い」場合には価格維持(価格調整率は1.0)、「費用対効果が良くない」場合には価格引き下げ(価格調整率は0.7-0.1)が行われる(費用対効果評価専門部会1 211015)



この点、幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)から「効果が同じであれば、安い製品を使うべきであり、あえて高い製品を使うことが理解できない」との指摘が改めて示されましたが、厚労省提案は概ね了承されています。

もっとも赤名正臣専門委員(エーザイ株式会社常務執行役)は「費用対効果評価は患者のQOLをベースに費用対効果を判断する。しかしQOLだけでは当該医薬品の有用性を評価できないケースもある。完全に効果が同等な医薬品と、そうした医薬品とは峻別し、後者では『中間的な評価』とするなど、丁寧な制度設計を行ってほしい」と要望しています。



また、(2)は理由なく企業分析が遅延した場合に、言わばペナルティとして「最も厳しい評価」(上述した、有用性等加算部分については価格を90%、営業利益部分については50%引き下げ)を行うものです。この方向にも異論は出ていませんが、幸野委員は「遅延が見込まれる場合には、改めて分析期限を定める」などの取り組みも検討してほしいと要望しています。

患者割合データは原則「公表可能なもの」を用い、示せない場合は理由を明確に

一方、(3)は費用対効果評価の透明性確保を目指すものです。

医薬品についてはさまざまな使い方があり、例えば「適応症が複数ある」場合には、比較対象となる医薬品も複数あり、「ICERの値が複数になる」ケースが生じえます。例えばA疾病治療において、新薬Xは既存薬に比べて費用対効果がそれほど良くないが、B疾病治療において、新薬Xは既存薬に比べて費用対効果が優れている、といったイメージです。

この場合、「それぞれの集団(上記例ではA疾病治療グループ、B疾病治療グループ)で費用対効果評価を分析し、集団の『患者割合』に応じた加重平均を行って、で価格調整を行う」というルールが設けられています。上記例で、例えば「A疾病の患者割合がとても大きい」場合には「費用対効果がそれほど高くない」評価のシェアが大きくなり、価格引き下げへの力が強くなります。逆に「B疾病の患者割合がとても大きい」場合には「費用対効果が優れている」評価のシェアが高まり、価格維持の力が大きく働くことになります。

このように「患者割合」は費用対効果評価に非常に大きな影響を及ぼしますが、製薬メーカーにおいては「患者割合が企業秘密となり、公表できない」ケースもあります(例えば、画期的な白血病等治療薬であるキムリア点滴静注)。

キムリアに関する費用対効果評価(中医協総会(2)4 210414)



そこで、費用対効果評価の透明性を確保するために中田医療技術評価推進室長は、「原則として公表可能なデータを用いることとし、公表が困難な場合にはその理由に係る説明を求める」ルールの新設を提案したものです。

この考え方も了承されましたが、▼「企業秘密である」というだけでは正当理由にあたらないのではないか、NDB(National Data Base、レセプトデータを全て格納している)の活用も検討すべき(幸野委員)▼患者割合が非公表であっても、費用対効果評価を行う専門組織にはデータは示されている。企業秘密であることに鑑み、すべてのデータを公表することは慎重に検討してほしい(林利史専門委員:エドワーズライフサイエンス社ガバメントアフェアーズ部長)―との注文がついています。

なお、前述した遅延も含めた「理由の妥当性」については、費用対効果評価専門組織で検討・判断し、その結果を中医協に報告する形になりそうです。



また(4)は「介護費用が削減することを『効果』と見込むか否かについて、研究を進めていく」方針で、こちらにも異論は出ていません。ただし、「介護費の削減を、医療保険の財源を用いて評価する」点について幸野委員は「慎重に検討すべき」と釘を刺しています。社会保障全体で見れば「費用削減」につながると思われますが、財政・会計が別扱いとなっている点を踏まえた幸野委員のコメントにも頷ける部分があります。今後、どういった方向に進むのか注目する必要があります。

費用対効果評価の体制充実、薬価算定組織との連携・情報共有など進める

「分析体制」については、▼計画的に評価分析体制の充実(研修体制の充実)を進めるとともに、資金確保や評価結果の論文化などを検討していく▼薬価算定組織・費用対効果評価専門組織の連携・情報共有を行う―方向が中田医療技術評価推進室長から提示されました。

このうち資金確保や評価結果の論文化とは、公的分析を行う大学サイドからの要望を踏まえたものです。▼安定的な資金確保をしてほしい(現在は1製品の分析終了ごとに経費が支払われているが、人材・設備コストを賄うために節目節目での資金確保が重要である)▼キャリアアップのために公的分析結果等を論文化することを認めてほしい▼利益相反規定を見直してほしい(現在は、対象企業とのかかわりがあれば一切の分析から除外されるが、一定基準であれば分析担当を許可してほしい)▼関係学会への周知を充実してほしい―との要望が出ている点を踏まえたものです。

公的分析体制は、2020年度には「16名」、21年度には「29名」、22年度には「30名」となる予定で、分析対象品目も「5品目」(20年度)→「7品目」(21年度)→「10品目予定」(22年度)と増加していく見込みです。上記要望を踏まえた見直しを行うことで、さらに「費用対効果評価に携わりたい」と考える人材が増加していくことに期待が集まっています。

また、薬価算定組織と費用対効果評価専門組織との連携は「一部製品について薬価算定時には有用性加算が認められたが、費用対効果評価時には『当該有用性がデータで示されていない』ために価格調整が行われた」点を踏まえたものです。両組織では評価の視点が異なるために、評価結果が異なることそのものには問題がありませんが、中田医療技術評価推進室長は「薬価算定の際のデータも理解したうえで費用対効果評価に係る分析が可能になる(費用対効果評価専門組織サイドのメリット)。費用対効果評価の手法を理解した薬価設定論議を行える(薬価算定組織サイドのメリット)」という相乗効果に期待を寄せています。



なお、メーカーサイドは「ドミナント」(言わば、費用が削減され、より大きな効果が得られる場合)の評価充実を求めています。ただし、これまでにドミナント該当製品が1つ(気管支喘息等治療薬のテリルジーで一部ドミナント)しかなく、論議の材料は揃っていない状況です(見直し論議は時期尚早)。

費用が削減され、より大きな効果が得られる(ドミナント)ケースなどでは価格引き上げも行われる(費用対効果評価専門部会2 211015)



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