2021年11月までに2223件の医療事故あり85.9%で院内調査が完了、再発防止に向けた動き加速―日本医療安全調査機構
2021.12.15.(水)
今年(2021年)11月に医療事故調査・支援センター(以下、センター)に報告された医療事故は22件。2015年10月の医療事故調査制度発足から累計2223件の医療事故が報告され、このうち85.9%で院内調査が完了。医療機関サイドの「事故防止に向けた院内調査」スピードがますますアップしている―。
日本で唯一のセンターである「日本医療安全調査機構」が12月9日に公表した「医療事故調査制度の現況報告(11月)」から、こうした状況が明らかになりました(機構のサイトはこちら)。
目次
2021年10月、22件の医療事故が報告され、うち5件は循環器内科
2015年10月から【医療事故調査制度】が始まっています。すべての医療機関等(病院、診療所、助産所)に対し、すべての「院長などの管理者が予期しなかった、医療に起因(疑いを含む)する死亡・死産」をセンターに報告することを義務付けるものです。事故の原因・背景を詳しく調査・分析し「再発防止策」を構築して、それを医療現場に広く共有することで医療安全の確保・向上を狙う仕組みです。
医療事故調査制度の大枠は次のような流れで進められます。
▽医療事故が発生した場合、医療機関等の管理者(院長など)は、速やかにセンターへ事故発生を報告する
↓
▽事故が発生した医療機関等が「自ら」事故原因を調査【院内調査】し、調査結果をセンターに報告する
↓
▽当該医療機関等は、調査結果に基づいて事故の内容や原因を遺族に説明する(調査結果報告書の提示までは義務付けられていない)
↓
▽センターで事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを構築し、公表する
センターは精力的に「再発防止策」を検討しており、これまでに次の14本の再発防止策を公表しています。
(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―
(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析
(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析
(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析
(5)腹腔鏡下胆嚢摘出術に係る死亡事例の分析
(6)栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析
(7)一般・療養病棟における非侵襲的陽圧換気(NPPV)及び気管切開下陽圧換気(TPPV)に係る死亡事例の分析
(8)救急医療における画像診断に係る死亡事例の分析
(9)入院中に発生した転倒・転落による頭部外傷に係る死亡事例の分析(関連記事はこちら)
(10)大腸内視鏡検査等の前処置に係る死亡事例の分析
(11)肝生検に係る死亡事例の分析
(12)胸腔穿刺に係る死亡事例の分析
(13)胃瘻造設・カテーテル交換に係る死亡事例の分析
(14)カテーテルアブレーションに係る 死亡事例の分析
センターは毎月、医療事故報告の状況も公表しています(前月の状況は こちら、前々月の状況はこちら)。今年(2021年)11月には新たに22件の医療事故が報告され、制度発足からの累計報告件数は2223件となりました。
今年(2021年)11月に新たに報告された医療事故22件はすべて病院からのもので、制度発足(2015年10月、以下同)からの累計では、病院から2103件(事故全体の94.6%)、診療所から120件(同5.4%)となっています。
また今年(2021年)11月に新たに報告された医療事故27件を診療科別に見てみると、▼循環器内科:5件▼内科:3件—などで多くなっています。制度発足からの累計では、▼外科:347件(事故全体の15.6%)▼内科:281件(同12.6%)▼整形外科:189件(同8.5%)▼消化器科:187件(同8.4%)▼循環器内科:186件(同8.4%)―などで多い状況です。
一般国民への制度周知には、やはりまだ時間が必要か
医療機関等は「すべての死亡・死産」をセンターへ報告しなければならないわけではありません。上述のとおり報告対象は死亡・死産事例のうち「院長などの管理者が『予期せず』、かつ『医療に起因し、または起因すると疑われる』もの」に限定されます。
例えば、交通事故などで瀕死の重症を負った方が救急搬送され、懸命な治療が行われたにもかかわらず残念ながら死亡してしまったケースなどでは、一般に「死亡が予期」されることからセンターへの報告は必要ないと考えられるでしょう。ただし明らかな処置上のミスなどがあり、通常の経過とは異なるプロセスで当該患者が死亡したような場合には、「予期しなかった」医療事故となりセンターへの報告が必要となってくるでしょう。
もっとも「どこまでが予期された医療事故なのか」の切り分け・判断は難しく、医療現場では「不幸にも患者が死亡したが、報告すべき医療事故に該当するのか分からない」という疑問が生じます。また、医療機関等には「初めての医療事故で、センターへどのように報告すればよいのか分からない」といった疑問が生じることもあるでしょう。
一方、遺族の中には「家族が医療機関等で死亡したが、医療事故として報告されていない。事故を隠蔽しようとしているのではないか?」との疑念を持つ方もおられることでしょう。
そこでセンターでは個別事例に対する相談対応を行っており、今年(2021年)11月には、新たに151件の相談がセンターに寄せられました。制度発足からの累計では1万1440件となりました。
今年(2021年)11月に新たにセンターへ寄せられた相談の内訳は、▼医療機関等から53件▼遺族などから95件▼その他・不明3件―でした。
医療機関等からの相談内容を見てみると、最も多いのは「報告の手続き」に関するもので34件(医療機関等からの相談全体の58.6%)、次いで「報告すべきか否かの判断に迷う」ケース13件(同22.4%)、「院内調査」に関するもの4件(同6.9%)、という状況です。
一方、遺族などからの相談内容を見ると、「医療事故に該当するか否かの判断」が83件(遺族などからの相談全体の76.9%)です。前月には「判断関連事例のシェアが小さくなり、一般国民への正しい情報の浸透が進んできたか」とも思われましたが、判断が早計だったようです。今後の状況を注視することが重要です。
「院内調査」のスピードさらにアップ、事故全体の85.9%で院内調査完了
医療事故調査制度は上述のとおり「再発防止策の構築と周知」が目的で、「犯人捜し」や「特定個人の責任追及」などをする仕組みではありません。
このため、事故が生じた医療機関等が自ら事故の内容や背景を調査する【院内調査】が重視されています。調査の過程で「自院の体制・手続き・ルールなどに問題がなかったか」を検証し、その過程で自ら「自院の課題」を発見し、自ら「再発防止策構築」に繋げることが重要と考えられているためです。
今年(2021年)11月に新たに院内調査が完了した事例は35件で、制度発足からの累計では1909件となりました。これまでに報告されたすべての医療事故2223件のうち85.9%(前月から0.8ポイント増)で院内調査が完了している格好です。
ただし、遺族の中には「院内調査結果に納得がいかない」「院内調査が遅い、何かを隠そうとしているのではないか」といった疑念を持つ方もおられるかもしれません。
また、診療所や助産所などの小規模施設では、「自前で院内調査を実施することが難しい」ケースもあることでしょう(医師会や病院団体、大学病院などが調査をサポートする体制が整えられている)。
そこでセンターでは、「遺族や医療機関等からの調査依頼を受け付ける」体制も敷いています【センター調査】。センター調査では「センターが最初から調査しなおす」のではなく、「院内調査が時期・内容ともに適切に実施されているか」という観点での調査が行われます。
今年(2021年)11月にセンターへ寄せられた調査依頼は3件で、すべて遺族からのものでした。制度発足からの累計調査依頼件数は171件(遺族から144件・84.2%、医療機関等から27件・15.8%)。センター調査の進捗状況を見ると、91件で調査が完了しています(前月から2件増加)。
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