2021年8月までに2156件の医療事故・84.8%で院内調査完了、コロナ第5波の影響は小さいか―日本医療安全調査機構
2021.9.13.(月)
今年(2021年)8月に医療事故調査・支援センター(以下、センター)に報告された医療事故は30件。2015年10月の医療事故調査制度発足から累計2156件の医療事故が報告され、このうち84.8%で院内調査が完了している―。
日本で唯一のセンターである「日本医療安全調査機構」が9月9日に公表した「医療事故調査制度の現況報告(8月)」から、こうした状況が明らかになりました(機構のサイトはこちら)。
目次
2021年8月の医療事故報告、内科・循環器内科で各4件など
2015年10月から【医療事故調査制度】が始まっています。
すべての医療機関等(病院、診療所、助産所)に対して、「管理者(院長など)が予期しなかった、医療に起因する(疑いを含む)死亡・死産」のすべてをセンターに報告することを義務付ける制度です。事故の原因・背景を詳しく調査・分析し、「再発防止策」を構築して、それを医療現場に広く共有することで医療安全の確保・向上を狙うものです。
医療事故調査制度は、大枠では次のような流れで進められます。
▽医療事故が発生した場合、医療機関等の管理者(院長など)は、速やかにセンターへ事故発生を報告する
↓
▽事故が発生した医療機関等が「自ら」事故原因を調査【院内調査】し、調査結果をセンターに報告する
↓
▽当該医療機関等は、調査結果に基づいて事故の内容や原因を遺族に説明する(調査結果報告書の提示までは義務付けられていない)
↓
▽センターで事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを構築し、公表する
センターは精力的に「再発防止策」を検討しており、これまでに次の14本の再発防止策を公表しています。
(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―
(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析
(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析
(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析
(5)腹腔鏡下胆嚢摘出術に係る死亡事例の分析
(6)栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析
(7)一般・療養病棟における非侵襲的陽圧換気(NPPV)及び気管切開下陽圧換気(TPPV)に係る死亡事例の分析
(8)救急医療における画像診断に係る死亡事例の分析
(9)入院中に発生した転倒・転落による頭部外傷に係る死亡事例の分析(関連記事はこちら)
(10)大腸内視鏡検査等の前処置に係る死亡事例の分析
(11)肝生検に係る死亡事例の分析
(12)胸腔穿刺に係る死亡事例の分析
(13)胃瘻造設・カテーテル交換に係る死亡事例の分析
(14)カテーテルアブレーションに係る 死亡事例の分析
さらにセンターは毎月、医療事故報告の状況も公表しています(前月の状況は こちら、前々月の状況はこちら)。今年(2021年)8月には、新たに30件の医療事故が報告され、制度発足からの累計報告件数は2156件となりました。
これまでに新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴い、「予定入院・予定手術の延期」や「患者の受診控え」などが生じ、結果として「重大な医療事故(死亡につながる医療事故)の減少」につながっている状況が見えてきました。ただし7月下旬から「第5波」が到来していますが、事故報告件数の大きな減少は見られていません。
今年(2021年)8月に新たに報告された医療事故30件は、すべて病院からのものでした。制度発足(2015年10月、以下同)からの累計では、病院から2041件(事故全体の94.7%)、診療所から115件(同5.3%)となっています。
また今年(2021年)8月に新たに報告された医療事故30件を診療科別に見てみると、▼内科:4件▼循環器内科:4件▼外科:3件▼消火器化:3件▼脳神経外科:3件—などで多くなっています。制度発足からの累計では、▼外科:343件(事故全体の15.9%)▼内科:272件(同12.6%)▼整形外科:184件(同8.5%)▼消化器科:178件(同8.3%)▼循環器内科:178件(同8.3%)―などで多い状況です。
センターへの相談件数が累計1万1000件を超える、一般国民への情報提供が重要課題
医療機関等は「すべての死亡・死産をセンターへ報告しなければならない」、というわけではありません。上述のとおり、死亡・死産事例のうち「管理者(院長などの)が『予期せず』、かつ『医療に起因し、または起因すると疑われる』もの」が報告対象となります。
例えば、火災などで重度かつ広範囲の熱傷を負った方が救急搬送され、懸命な治療が行われたにもかかわらず残念ながら死亡してしまったケースなどでは、一般に「死亡が予期」されることから、センターへの報告は必要ないと考えられるでしょう。ただし明らかな処置上のミスなどがあり、通常の経過とは異なるプロセスで死亡したような場合には、「予期しなかった」医療事故となり、センターへの報告が必要となってくるでしょう。
もちろん、「どこまでが予期された医療事故なのか」の判断は難しく、医療現場では「不幸にも患者が死亡したが、報告すべき医療事故に該当するのか分からない」という疑問が生じます。また、医療機関等には「初めての医療事故で、センターへどのように報告すればよいのか分からない」といった疑問が生じることもあるでしょう。
一方、遺族の中には「家族が医療機関等で死亡したが、医療事故として報告されていない。事故を隠蔽しようとしているのではないか?」との疑念を持つ方もおられるかもしれません。
そこでセンターでは相談対応を行っており、今年(2021年)8月には、新たに123件の相談がセンターに寄せられました。制度発足からの累計では1万1017件となりました。
今年(2021年)8月に新たにセンターへ寄せられた相談の内訳は、▼医療機関等から62件▼遺族などから54件▼その他・不明7件―でした。
医療機関等からの相談内容を見てみると、最も多いのは「報告の手続き」に関するもので41件(医療機関等からの相談全体の65.1%)、次いで「院内調査」に関するもの9件(同14.3%)、「報告すべきか否かの判断に迷う」ケース9件(同9.5%)となりました。
一方、遺族などからの相談内容を見ると、「医療事故に該当するか否かの判断」が43件(遺族などからの相談全体の65.2%)で、依然として大部分を占めています。さらに「制度開始前の事故事例」「生存事例」など、報告対象とならない事例に関する相談件数も少なくありません。「一般国民への正しい情報の浸透」に向けて、再度、取り組みのてこ入れなどをすることが、制度の信頼につながっていきます。
センターへの調査依頼は遺族から1件、センター調査は累計83件で完了
医療事故調査制度は、冒頭に述べたとおり「再発防止策の構築と周知」を目的としており、「犯人捜し」や「特定個人の責任追及」などをする仕組みではありません。
sこで、事故が生じた医療機関等が自ら事故の内容や背景を調査する【院内調査】が重視されています。調査の過程で「自院の体制・手続き・ルールなどに問題がなかったか」を検証し、その中で自ら「自院の課題」を発見し、自ら「再発防止策構築」に繋げることが重要と考えられているためです。
今年(2021年)8月に新たに院内調査が完了した事例は24件で、制度発足からの累計では1828件となりました。これまでに報告されたすべての医療事故2156件のうち84.8%(前月から0.1ポイント低下)で院内調査が完了している格好です。
もっとも、遺族の中には「院内調査結果に納得がいかない」「院内調査が遅い、何かを隠そうとしているのではないか」といった疑念を持つ方もおられるかもしれません。
また、診療所や助産所などの小規模施設では、「自前で院内調査を実施することが難しい」ケースもあることでしょう(医師会や病院団体、大学病院などが調査をサポートする体制が整えられている)。
そこでセンターでは、「遺族や医療機関等からの調査依頼を受け付ける」体制も敷いています【センター調査】。センター調査では「センターが最初から調査しなおす」のではなく、「院内調査が時期・内容ともに適切に実施されているか」という観点での調査となります。
今年(2021年)8月にセンターへ寄せられた調査依頼は、遺族からの1件でした。制度発足からの累計調査依頼件数は161件(遺族から134件・83.2%、医療機関等から27件・16.8%)。センター調査の進捗状況を見ると、83件で調査が完了しています(前月から4件増加)。
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