新専門医制度スタート後、地域の基幹病院で専攻医(研修医)数は激減―日病・末永副会長
2019.2.27.(水)
新専門医制度がスタートし、地域の基幹病院での専攻医数は激減した。大学病院での研修が増加していると考えられ、新専門医制度の改善に向けた幅広い議論が今なお必要である―。
日本病院会の末永裕之副会長は、2月26日の定例記者会見で、こういった考えを明らかにしました(日病のサイトはこちら)。
日本病院会の役員病院を対象に緊急アンケートを実施
今年度(2018年度)から新専門医制度が全面スタートしました。従前、各学会が独自に行っていた専門医の養成・認定について、学会と日本専門医機構が協働して、統一的な基準で行うことで、「専門医の質の担保」「国民への分かりやすさ」を目指すものです。
もっとも、「質を追求するあまり、専門医を養成する施設の基準が高くなり、地域間・診療科間の医師偏在が助長されてしまうのではないか」との声が医療現場に根強く、日本専門医機構、学会、都道府県、厚生労働省が重層的に「医師偏在の助長を防ぐ」こととしています。例えば、「従前、後期研修施設であった医療機関を、新制度下での連携施設等に組み込む」「東京都、神奈川県、愛知県、大阪府、福岡県の5都府県では、基本領域ごとの専攻医採用数に上限を設ける」などの対策が図られています。
ただし、こうした対策にもかかわらず、医療現場では「新専門医制度により、医師の地域偏在等が進んでいるのではないか」との指摘が後を絶ちません。このため日本病院会では「感覚ではなく、データに基づいて新専門医制度を検証する必要がある」と考え、日病役員が所属する病院を対象にアンケート調査を実施。73病院(回答率9割超)からの回答を分析した結果が、末永副会長から発表されたものです。
まず、2017年度の後期研修医(専門医資格取得を目指す研修医)数と、2018年度の専攻医(新専門医資格取得を目指す研修医)数とを比較すると、次のように大きく減少していることが分かりました。
【全体】2017年度:615名 → 2018年度:387名(マイナス228名・37.1%)
【内科】2017年度:238名 → 2018年度:151名(マイナス87名・36.6%)
【小児】2017年度:49名 → 2018年度:27名(マイナス22名・44.9%)
【皮膚科】2017年度:11名 → 2018年度:4名(マイナス名7名・63.6%)
【精神科】2017年度:7名 → 2018年度:4名(マイナス3名・42.9%)
【外科】2017年度:99名 → 2018年度:67名(マイナス32名・32.3%)
【整形外科】2017年度:39名 → 2018年度:20名(マイナス19名・48.7%)
【産婦人科】2017年度:28名 → 2018年度:18名(マイナス10名・35.7%)
【眼科】2017年度:18名 → 2018年度:8名(マイナス名10名・55.6%)
【耳鼻咽喉科】2017年度:15名 → 2018年度:2名(マイナス13名・86.7%)
【泌尿器科】2017年度:17名 → 2018年度:12名(マイナス5名・29.4%)
【脳神経外科】2017年度:14名 → 2018年度:13名(マイナス1名・7.1%)
【放射線科】2017年度:14名 → 2018年度:9名(マイナス5名・35.7%)
【麻酔科】2017年度:19名 → 2018年度:10名(マイナス9名・47.4%)
【病理】2017年度:3名 → 2018年度:5名(プラス2名・66.7%)
【臨床検査】2017年度:0名 → 2018年度:0名(プラスマイナス0名)
【救急科】2017年度:29名 → 2018年度:21名(マイナス8名・27.6%)
【形成外科】2017年度:8名 → 2018年度:8名(プラスマイナス0名)
【リハビリテーション科】2017年度:1名 → 2018年度:2名(プラス1名・50%)
【総合診療】2017年度:6名 → 2018年度:6名(プラスマイナス0名)
この大幅減少について末永副会長は、「従前は地域の病院で専門研修(後期研修)を受けていたが、相当数が大学病院で研修を受けるようになったと考えられる。特に内科と外科の減少は大きく、このままでは地域で内科・外科を担う医師がいなくなってしまう。非常に大きな危機感を持っており、待ったなしの対策が必要である」と強調しました。
新専門医制度のスタート前には病院団体を中心に、「大学病院が、地域の基幹病院からも医師(指導医)を引き挙げ、また研修医の確保もままならなくなるのではないか」との危惧がありましたが、これを裏付けるデータとなってしまいました。地域の基幹病院で医師確保がさらに難しくなっている状況が明らかになったと言えるでしょう。なお、ここからは地域偏在が進んでいるのかを見ることはできません。
基本・サブスペシャリティ領域、そもそもの「専門医の在り方」など改めて議論すべき
このように、病院団体の懸念が一部実際のものとなっていることも手伝い、新専門医制度に対し、病院経営者は次のように厳しい評価を行っています。
▼43.8%が新専門医制度の開始は「時期尚早」と考えている
▼74.0%が新専門医制度で「地域偏在・診療科偏在が進む」と考えている
▼43.1%が新専門医制度の「新整備指針」(基本規定)を全面的に見直すべきとし、52.8%が修正の必要ありと考えている(問題なしはわずか4.2%)
▼基本領域については84.9%が、サブスペシャリティ領域については86.1%が、「見直し」「再検討」が必要と考えている
▼78.1%が「日本専門医機構に問題あり」と考えており、具体的には「学会主導である」「事務局体制に不備がある」などと考えている
また「専門医」の在り方については、現在、3年間の基本領域に関する研修を終えた医師から「専門医」を名乗れる(広告できる)方向で検討が進められていますが、26.4%は「サブスペシャリティ領域を終えてから名乗るべきではないか」と考え、中には「少なくとも10年以上の臨床経験がなければ『専門医』を名乗るべきではない」「基本領域の専門医と、サブスペシャリティ領域の専門医を分けた呼称とすべきではないか」との指摘もあります。
一般国民からすれば、専門医という呼称からは、どうしても「エキスパート医師」を想像しがちであり、今般のアンケート結果からも、「国民に分かりにくい部分がある」と考えている医師も相当程度いることが分かりました。今後の、広告に関する検討(医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会での議論)においても、こうした問題・課題が浮上してくる可能性があります。
もっとも批判ばかりではありません。今回のアンケートでは、新専門医制度の改善に向けて、次のような提案も行われています。相反する提案もありますが、まさに「意見が割れている」部分であり、医道審議会・医師分科会「医師専門研修部会」も含めた検討が期待されます。
▼地域・診療科偏在を解消するために、「地域ごとの、基本診療科ごとの医療需要把握を行う」「医師の計画的配置を行う」「総合医を育成する」「自由開業を制限する」ことなどを検討すべき
▼専門医はどのような医師かと言う議論を、「国民から見て理解しやすい専門医」といった原点に立ち返って議論するべき(あわせて能力に応じた呼称設定なども)
▼専門医や指導医にも診療上の利点(診療報酬上の加算など)を付与すべき
▼専門医制度と地域偏在対策とは切り離して考えるべき
▼各領域の地域ごとのニーズを算出し、それに合わせた専攻医の定員上限を設けるべき
▼専攻医数のせいぜい1.1-1.2倍を定員上限とすべき(現在は2倍超)
▼3年の研修で、本当に専門医レベルに達しているのか疑問も残り、十分に検討すべき
▼専攻医の給与体系を含めた処遇の在り方を明確にし、身分保障を行うべき
【関連記事】
医師の働き方改革論議、「地域医療をどう確保するか」などの議論なく遺憾―日病・相澤会長
新専門医制度は「地域で必要とされる優れた臨床医の養成」に主眼を置くべき―日病・相澤会長
消化器内視鏡や老年病、新専門医制度のサブスペシャリティ領域認証に「待った」―医師専門研修部会
新専門医制度、プログラム制の研修にも関わらず2・3年目の勤務地「未定」が散見される―医師専門研修部会
新専門医制度、「シーリングの遵守」「迅速な情報提供」「カリキュラム制の整備」など徹底せよ―医師専門研修部会
新専門医制度、2019年度の専攻医登録を控えて「医師専門研修部会」議論開始
90学会・領域がサブスペシャリティ領域を希望、2019年9月には全体像固まる見込み―日本専門医機構
カリキュラム制での新専門医研修、必要な単位数と経験症例を基本領域学会で設定―日本専門医機構
新専門医制度、サブスペシャリティ領域は事前審査・本審査を経て2019年9月に認証―日本専門医機構
2019年度からの新専門医目指す専攻医の登録は順調、1次登録は11月21日まで―日本専門医機構
新専門医制度、2019年4月から研修始める「専攻医」募集を正式スタート―日本専門医機構
東京都における2019年度の専攻医定員、外科など除き5%削減を決定―日本専門医機構
2019年度新専門医研修、「東京のみ」「東京・神奈川のみ」で完結する研修プログラムの定員を削減―日本専門医機構
2019年度、東京都の専攻医定員数は2018年度から5%削減―日本専門医機構
日本専門医機構、新理事長に帝京大の寺本民生・臨床研究センター長が就任
がん薬物療法専門医、サブスペシャリティ領域として認める―日本専門医機構
2019年度の専攻医登録に向け、大阪や神奈川県の状況、診療科別の状況などを詳細分析―日本専門医機構
東京の専攻医、1年目に207名、2年目に394名、4年目に483名が地方勤務―日本専門医機構
新専門医制度、東京で専攻医多いが、近隣県を広くカバーする見込み―日本専門医機構
新専門医制度によって医師の都市部集中が「増悪」しているのか―医師養成と地域医療検討会
新専門医制度、偏在対策の効果検証せよ―医師養成と地域医療検討会
医学生が指導医の下で行える医行為、医学の進歩など踏まえて2017年度に再整理―医師養成と地域医療検討会
新専門医制度、専門研修中の医師の勤務地を把握できる仕組みに―日本専門医機構
地域医療構想調整会議での議論「加速化」させよ―厚労省・武田医政局長
新専門医制度で医師偏在が助長されている可能性、3県では外科専攻医が1名のみ—全自病
新専門医制度の専攻医採用、大都市部の上限値などの情報公開を―四病協
新専門医制度、東京で専攻医多いが、近隣県を広くカバーする見込み―日本専門医機構
新専門医制度、現時点で医師偏在は助長されていない―日本専門医機構
新専門医制度のサブスペシャリティ領域、国民目線に立ち「抑制的」に認証すべき―四病協
新専門医制度、専攻医の1次登録は10月10から11月15日まで—日本専門医機構
新専門医制度、都道府県協議会・厚労省・検討会で地域医療への影響を監視—医師養成と地域医療検討会
新専門医制度、地域医療への影響を厚労省が確認し、問題あれば対応—塩崎厚労相
2018年度からの新専門医制度に備え、10月から専攻医の仮登録—日本専門医機構
新専門医研修プログラム、都道府県協議会で地域医療を確保する内容となっているか確認―厚労省
専門医機構、地域医療への配慮について「必ず」都道府県協議会の求めに応じよ—厚労省検討会
新整備指針の見直し、総合診療専門医の研修プログラム整備基準を決定—日本専門医機構
専門医整備指針、女性医師に配慮した柔軟な対応などを6月2日の理事会で明記—厚労省検討会
地域医療へ配慮し、国民に分かりやすい専門医制度を目指す—日本専門医機構がQ&A
専門医取得が義務でないことやカリキュラム制の設置、新整備指針の中で対応—日本専門医機構
新専門医制度、整備指針を再度見直し「専門医取得は義務でない」ことなど明記へ―厚労省検討会
新専門医制度、見直しで何が変わったのか、地域医療にどう配慮するのかを分かりやすく示す―日本専門医機構
必要な標準治療を集中的に学ぶため、初の基本領域での研修は「プログラム制」が原則―日本専門医機構
新専門医制度、東京・神奈川・愛知・大阪・福岡では、専攻医上限を過去3年平均に制限―日本専門医機構
専門医制度新整備指針、基本理念に「地域医療への十分な配慮」盛り込む―日本専門医機構
地域医療に配慮した、専門医制度の「新整備指針」案を大筋で了承―日本専門医機構
消化器内科や呼吸器外科など、基本領域とサブスペ領域が連動した研修プログラムに―日本専門医機構
総合診療専門医、2017年度は「日本専門医機構のプログラム」での募集は行わず
新専門医制度、18基本領域について地域医療への配慮状況を9月上旬までにチェック―日本専門医機構
【速報】専門医、来年はできるだけ既存プログラムで運用、新プログラムは2018年目途に一斉スタート―日本専門医機構
新専門医制度、学会が責任もって養成プログラムを作成、機構が各学会をサポート―日本専門医機構
【速報】新専門医制度、7月20日に「検討の場」、25日の総会で一定の方向示す見込み―日本専門医機構
新専門医制度、各学会がそろって同じ土俵に立ってスタートすることが望ましい―日本専門医機構・吉村新理事長
【速報】新専門医制度、日本専門医機構の吉村新理事長「7月中に方向性示す」考え
新専門医制度で地域の医師偏在が進まないよう、専門医機構・都道府県・国の3層構造で調整・是正―専門医の在り方専門委員会
新専門医制度、懸念払しょくに向けて十分な議論が必要―社保審・医療部会