回復期リハ入院料にリハビリ料を包括する際には、患者の疾患・状態や資源投入量など踏まえたきめ細やかな対応を—日慢協・橋本会長(2)
2022.12.9.(金)
今後、「回復期リハビリテーション病棟入院料に、疾患別リハビリテーション料を包括していく」ような検討が仮に行われる際には、安易に包括点数を設定するのではなく、「患者の疾患・状態、医療資源投入量などを踏まえたきめ細やかな検討」を行う必要がある—。
日本慢性期医療協会の橋本康子会長は、12月8日の定例記者会見で、こうした考えも強調しました。
同日には「医療費・介護費を抑えるために、まず寝たきり高齢者・重度の要介護者の発生防止に力を入れる必要がある」との考えも橋本会長は強調しています。
疾患により、同じリハビリ効果を上げるための医療資源投入量等は大きな違いがある
回復期リハビリ病棟では、「ベースとなる入院料」と「疾患別リハビリ料」を組み合わせて、診療報酬を請求する仕組みとなっています。つまり、入院料の中にリハビリ料は包括されていません。
しかし、2014年度診療報酬改定で創設された地域包括ケア病棟入院料等には疾患別リハビリ料が包括評価されており、今後の診療報酬改定論議の中で「回復期リハビリ病棟入院料の中で、疾患別リハビリ料を包括評価すべき」との議論が行われる可能性も否定できません。橋本会長は「安易な包括点数の設定を避けるために、今から基本的な考え方を提言しておく」必要があると考えています。
上述のように、回復期リハビリ病棟の評価は、大きく「入院料」+「疾患別リハビリ料」という構成ですが、両者には次のような違いがあります。
【回復期リハビリ病棟入院料】
▼疾患による点数区分はなされていない
▼人員配置等の体制や、アウトカム(リハビリの効果を見るリハビリ実績指数)による点数区分がなされている
【疾患別リハビリ料】
▼疾患による点数区分はなされている(心大血管疾患、脳血管疾患、廃用症候群、運動器、呼吸器)
▼アウトカムによる点数区分はなされていない
仮に両者を包括評価する点数設定を検討する際には、「疾患の違い」「アウトカム(リハビリの効果)」をどう考えていくべきなのかが気になります。
この点について橋本会長は、脳血管疾患と整形外科疾患(運動器リハの適用)を例にとって比較し、患者の疾患等によってリハビリの量・内容等に大きな差があることを強調しました。データは回復期リハビリテーション病棟協会による調査が用いられています。
【リハビリの効果(FIM利得)】
▼脳血管疾患:24.4(入棟時FIMは59.5と低い)
▼整形外科疾患:25.3(同71.4と高い)
→現場ではリハビリの効果に大きな差はでないように対応している
【1日当たりのリハ提供単位数】
▼脳血管疾患:6.94単位
▼整形外科疾患:5.85単位
→脳血管疾患が15.7%多い(濃密なリハ提供が必要)
【入棟期間】
▼脳血管疾患:83.1日
▼整形外科疾患:55.0日
→脳血管疾患が33.8%長く、「運動器疾患の患者が3か月で到達できる改善度合い」が、脳血管疾患では6か月かかる(長期間のリハが必要)
【リハ専門職以外のケア提供時間】(食事介助、口腔ケア、入浴介助・清拭、更衣、排泄)
▼脳血管疾患:95.4時間(また、時間が経過しても長時間のケアが必要)
▼整形外科疾患:63.7時間(1か月経過時点でケア提供時間は激減する)
→脳血管疾患が33.2%長い(疾患別リハ以外のケアも長時間・長期間必要)
ここから、脳血管疾患と整形外科疾患とを比較すると「同じリハビリの効果(アウトカム)を得るためには、脳血管疾患リハ適用患者では、運動器リハ適用患者に比べて、より濃密かつ長期間のリハビリが必要であり、またリハ専門職以外のケアもより多く必要である」ことが分かります。つまり「医療資源投入量」に大きな差があるのです。
他の心大血管疾患や廃用症候群、呼吸器でも、それぞれに特徴があります。
にもかかわらず、もし「回復期リハビリ病棟入院料の中に、一律でリハビリ実施料相当を包括する」こととなれば、例えば「脳血管疾患の患者を受ければ収益が上がらない。運動器疾患の患者だけを受け入れよう」というクリームスキミングが生じる可能性もあります。また、志の高い回復期リハビリ病棟が脳血管疾患患者を積極的に受け入れたとしても、十分な収益が得られず、現場が疲弊し、受け入れをいずれストップしてしまうでしょう。
このため、橋本会長は「将来、仮に回復期リハビリ病棟に、リハビリ料が包括評価される」場合には、次のような点を踏まえたきめ細やかな対応が必要であると強く訴えました。
(1)リハ単位数などの基準をきめ細やかに設けるべき
▽上記のように疾患・状態によって、同じ改善効果を得るために必要となる1日のリハビリ単位数は異なってくるため、現在のような「1日9単位まで」という大雑把な基準ではなく、回復期リハビリ病棟における調査結果等をもとに、きめ細やかな「1日当たりのリハビリ提供単位数の基準」を疾患別等で設定すべき
▽いずれの疾患でも、入院初期には効果的なリハビリ量を提供できる基準とすべき
▽上記のように疾患・状態によって、同じ改善効果を得るために必要となるリハビリ提供期間は異なってくるため、算定上限日数を疾患別等できめ細やかに設定すべき
(2)投入資源量に応じたきめ細やかな点数設定をすべき
▽リハビリやケアはリハビリ専門職だけでなく、看護職員を含めた他の専門職とチームで提供しており、上記のように疾患別に必要なケア量は異なっているため、きめ細やかに医療資源投入量を把握し、必要な点数設定を行うべき
さらに橋本会長は「脳血管疾患は不可逆性の疾患で、後遺症が残る。一方で骨折は一般にそうではなく、呼吸器疾患である肺炎もそうでない(回復する)。そうした違いは医療面では非常に大きく、将来の診療報酬でもきめ細やかに見て対応する必要がある」と訴えています。
【関連記事】
医療費・介護費の膨張抑えるためにも、「急性期病院での寝たきり」防止策に力点を置くべき—日慢協・橋本会長(1)
介護医療院に入所する前の急性期段階、要介護認定段階での「ACP」推進が重要である—日慢協・橋本会長、介護医療院協会・鈴木会長
医療の質向上のため、介護職のプライド確保のため、医療において「基準介護」「基準リハビリ」を制度化せよ—日慢協・橋本会長
「総合診療医」の育成進め、高齢患者の機能が落ち切る前の全身管理・リハビリにより「寝たきり防止」目指せ—日慢協・橋本会長
日慢協の新会長に橋本康子氏を選出!武久名誉会長「急性期病院は600病院程度に絞られ、それ以外は地域多機能病院に」
療養病床持つ病院、地ケア・回リハ病棟併設や2次救急指定うけ地域ニーズに応えられる多機能化を―日慢協・武久会長
要介護者の増加を抑えるため「急性期病院の介護力強化」が必要かつ喫緊の課題―日慢協・武久会長
コロナ感染高齢者、栄養・水分補給含めた総合的管理に慣れた回復期・慢性期病院への早期転院を―日慢協・武久会長
療養の地ケア病棟でも軽度救急患者を積極的に受け入れ、自治体も積極的に救急指定してほしい―日慢協・武久会長
誤嚥性肺炎等の救急搬送は「慢性期多機能病院」が受けよ、「看護補助者」の呼称は廃止せよ―日慢協・武久会長
看護必要度は廃止し「急性期から慢性期までの共通入院評価指標」、基準介護・基準リハの設定を―日慢協・武久会長
療養病床は今や「長期入院が必要な重症患者の治療病床」、介護施設と同列の扱いは見直しを―日慢協・武久会長
療養病棟でも「看護必要度」を導入すべき、介護医療院の多くが「スタッフの確保」に苦労―日慢協・武久会長、介護医療院協会・鈴木会長
療養病棟の死亡退院率の高さは患者状態から見て必然、逆に半数は「軽快退院」している点の評価を―日慢協、武久会長・池端副会長
リハビリの包括評価、疾患別リハビリ料の点数差解消など進めよ―日慢協・武久会長、橋本副会長
回リハ病棟におけるリハビリの効果測定、「FIM利得」から「BI利得」への切り替えを―日慢協・武久会長
コロナ宿泊療養施設での医療提供容認、急性期病院・後方病院・自治体の3者連携を強化せよ―日慢協
多臓器病変患者に適切な医療を行うため、医師臨床研修・新専門医研修を再編し「総合診療医」養成を―日慢協・武久会長
コロナ感染症の急性期段階から適切な栄養・水分管理を、データ提出拡大で介護保険は大きく様変わり―日慢協・武久会長
介護報酬でも「コロナ患者の診療」評価を行い、医療機関による介護施設への感染防止策支援の充実を―日慢協・武久会長
新型コロナの退院基準を満たした患者は早急に後方病床に転院を、療養病床でもコロナ患者を積極的に受け入れる—日慢協・武久会長
新型コロナ患者に対応する「一般病棟以外の病棟」にも何らかの支援を―日慢協・武久会長
介護医療院の大多数が「開設してよかった」、早期に介護医療院へ転換せよ―日慢協・武久会長、介護医療院協会・鈴木会長
特定行為研修を修了した看護師、在宅医療や介護の場でこそ力を十二分に発揮できる―日慢協・武久会長
2022年度診療報酬改定に向け「回復期リハビリ病棟」のリハビリについて包括評価を検討せよ―日慢協・武久会長
日慢協が武久会長を再任、2022年度診療報酬改定で「慢性期DPC」や「急性期病棟での介護・リハ職配置」など目指す
2020年度診療報酬改定、「中途半端な自称急性期病院」は急性期1から滑り落ちていく―日慢協・武久会長
急性期病棟にもリハビリ専門職を配置し、ADL改善効果を正面から評価せよ―日慢協・武久会長
看護必要度「A1・B3」継続し、高度急性期から慢性期まで「重症患者の受け入れ評価」の整合性確保を―日慢協・武久会長
老健施設の「在宅復帰率向上」と「稼働率向上」とをどう実現するか、好事例を分析―日慢協
急性期病棟へ介護福祉士配置し、排泄自立支援等で「寝たきり・要介護状態」防止せよ―日慢協・武久会長
看護師は「高度な看護業務」に特化し、病院病棟の介護業務は介護福祉士に移管せよ―日慢協・武久会長
介護医療院への転換手続き簡素化、移行定着支援加算の算定可能期間延長を―日慢協・武久会長
終末期医療、総合診療と介護を一体提供できる慢性期病棟、介護医療院、在宅医療が担うべき―日慢協・武久会長
病床稼働率の著しく低い病院、国の補助でダウンサイジングや機能転換を促進せよ―日慢協、武久会長・池端副会長
医療保険リハビリを受けるため「要介護等認定を辞退する」高齢者が現れないか危惧―日慢協、武久会長・橋本副会長
25対1の医療療養、介護医療院よりも「20対1医療療養」への転換望む―日慢協・武久会長
介護医療院の整備に向け「小規模介護保険者の集約化」や「移行定着支援加算の期限延長」などが必要―日慢協・武久会長
療養病棟の3割は看護必要度30%以上、2024年度同時改定に向け「一般・療養病棟の統合」を―日慢協・武久会長
病院建物は「社会的資源」、建築等の消費税は8%の軽減税率とせよ―日慢協・武久会長
4.3平米の一般病床、2024年度までに「廃止」または「大幅な減算」となろう―日慢協・武久会長
「看護師の特定行為」実施の拡大に向けて、日看協に全面協力―日慢協・武久会長
地域包括ケア病棟の在宅復帰先から老健施設を除外、ベッド稼働率が如実に悪化―日慢協・武久会長
「特定行為研修を修了した看護師」のスキルアップ・地位向上に向けた協会を設立―日慢協・武久会長
日慢協が武久会長を再任、「高度慢性期医療」の提供を目指す
医療療養から介護医療院へ転換進めるため、介護保険も「都道府県化を保険者」とせよ―日慢協・武久会長
一般病棟の長期入院患者、療養病棟入院基本料でなく「特別入院基本料」を算定せよ―日慢協・武久会長
25対1医療療養の5割超が20対1医療療養へ、介護療養の5割弱が介護医療院Iの1へ―日慢協調査
慢性期病院、介護療養から新類型への転換やリハ機能充実で大幅収益改善も―日慢協・武久会長
回復期リハ病棟1の「実績指数37」要件、摂食や排泄リハ推進のメッセージ―日慢協・武久会長
回復期リハ病棟のリハ専門職を急性期病棟に派遣し、早期リハを目指せ―日慢協・武久会長
療養病棟の死亡退院率を「半減させよ」―日慢協・武久会長
療養病床の入院患者に居住費相当の自己負担を求めるのは「理由なき差別」―日慢協・武久会長
一般・療養の区分を廃止し、連続的な診療報酬上の評価を―日慢協・武久会長
特養ホームでの適切な医療提供や、医療機関からの訪問看護の評価充実を―日慢協
人工呼吸器装着患者などに高度な慢性期医療を担う「慢性期治療病棟」を2018年度改定で創設せよ—日慢協
病棟看護師の大半は薬剤師などの病棟配置に期待、入院基本料での評価が必要—日慢協・武久会長
薬剤師など多職種の病棟配置、看護師と併せて入院基本料の中で評価せよ―日慢協・武久会長
急性期病院における栄養・水分補給の充実で、回復期・慢性期の入院期間短縮を—日慢協・武久会長
2018年度の同時改定でリハビリ革命を、急性期早期リハは報酬を2倍に引き上げよ―日慢協・武久会長
軽度な後期高齢入院患者は療養病棟などへ転院し、年間3兆円超の医療費縮減を行うべき―日慢協・武久会長
介護療養からの新たな転換先、現在の介護療養よりも収益性は向上する可能性―日慢協試算
リハビリ能力の低い急性期病院、入院から20日までに後方病院に患者を送るべき―日慢協・武久会長