レビー小体型認知症に関連する新たな遺伝子を発見、さらなる研究で個別化医療・ゲノム医療につながる可能性も—長寿医療研究センター
2025.3.7.(金)
日本人を含む東アジア人に特徴的な、新たなレビー小体型認知症リスク遺伝子座位が同定できた。さらなる研究で個別化医療・ゲノム医療につながると期待できる—。
国立長寿医療研究センター(以下、研究センター)が3月6日に、こうした共同研究成果を発表しました(研究センターのサイトはこちら)。
日本人を含む東アジア人に特徴的な、新たなレビー小体型認知症リスク遺伝子座位を同定
認知症患者数は、高齢化の進行に伴い増加していきます。2018年には500万人を超え、65歳以上高齢者の「7人に1人が認知症」となり、2025年には675万人、2040年には802万人になると推計されています。このため、2019年には認知症施策推進大綱が、2023年には認知症基本法が制定(2024年1月施行)され、認知症患者の意向を十分に踏まえた総合的な対策(認知症との共生、認知症予防など)を進めることとされています。

認知症高齢者数の推移(介護保険部会3 220516)
ところで、認知症は▼アルツハイマー病(Alzheimer’s disease: AD)▼血管性認知症▼前頭側頭型認知症▼レビー小体型認知症(DLB)—など、さまざまな疾患の総称です。このうちレビー小体型認知症は、アルツハイマー病や血管性認知症に次いで患者数が多くなっています。
レビー小体型認知症は、「α-シヌクレインタンパク質が脳内にレビー小体と呼ばれる塊となって蓄積する」→「神経細胞死が引き起こされる」→「認知機能が低下する」ものです。現状では効果的な治療法がなく、アルツハイマー病患者よりも死亡率が高いため、レビー小体型認知症の詳細な病態解明と新たな治療法の開発が強く望まれています。
この点、欧米の大規模なゲノム研究により、レビー小体型認知症のリスク因子として「APOE遺伝子」(脂質代謝に関わるアポリポタンパク質Eを作る遺伝子)や「SNCA遺伝子」(α-シヌクレインタンパク質を作る遺伝子)などの遺伝子多型(ゲノム上の置換、挿入、欠失などのDNA配列の違いのうち集団における頻度がある程度多い(概ね1%以上)もの)が報告されています。今般、研究センターでは「日本人における状況」についての研究を行いました。
具体的には、研究センターバイオバンクに登録されている日本人のレビー小体型認知症患者211名と認知機能正常高齢者6113名のDNAを用いて「どういった遺伝子がレビー小体型認知症に関連する可能性があるのか」を分析。その結果、▼19番染色体に存在する既知のAPOE座位▼2つの新たなレビー小体型認知症関連座位—を同定することができました。
後者の1つ「10番染色体のDHTKD1遺伝子領域に存在する座位のSNP(rs138587229)」は、とくにレビー小体型認知症との関連性が強く、東アジア人にしかみられません。
また、後者のもう一つ「2番染色体のrs74866774」もレビー小体型認知症との関連性が伺えます。

日本人におけるレビー小体型認知症関連遺伝子の特定
さらに、1つ目の「rs138587229」はSEC61A2 遺伝子の発現量にも強く関与することが分かりました。このSEC61A2遺伝子はレビー小体型認知症やアルツハイマー病などの神経変性疾患における異常タンパク質の蓄積を防ぐメカニズムとの関連が示唆されており、今後「レビー小体型認知症の病態解明と効果的な治療法の開発」につながる可能性があります。

10番染色体のDHTKD1遺伝子領域に存在する座位のSNP(rs138587229)
また、上記の3つの関連座位(19番染色体に存在するAPOE座位、10番染色体のDHTKD1遺伝子領域に存在する座位のrs138587229、2番染色体のrs74866774)と、血液検査結果などの臨床情報との関連を調べると、「DHTKD1座位が血中コリンエステラーゼとの因果関係がある」ことが分かりました。認知症治療薬として、神経伝達物質のアセチルコリンの働きを阻害するコリンエステラーゼ阻害薬(塩酸ドネペジルなど)が使用されていることから、「DHTKD1座位の遺伝子多型は、コリンエステラーゼに作用し、レビー小体型認知症のリスクを引き起こす」と考えられます。

レビー小体型認知症関連の遺伝子座位と、臨床情報との関連
このように、欧米の先行研究ではみられなかった「日本人を含む東アジア人に特徴的な、新たなレビー小体型認知症リスク遺伝子座位」が同定されました。今後、解析データ数をさらに増やすことで、日本人に特徴的なレビー小体型認知症リスク遺伝因子群のさらなる発見も期待でき、認知症の個別化医療やゲノム医療などにつながる可能性があります。
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