医療の消費税問題、「法人税で個別医療機関の補填過不足を調整する」仕組みは認められない―日病協
2018.11.30.(金)
医療における「控除対象外消費税」問題を抜本的に解決するために、現在の「特別の診療報酬プラス改定による補填」を維持した上で、個別医療機関等ごとに「補填の過不足に対応する」仕組みの創設が必要だが、その際「法人税によって控除対象外消費税を控除する」ことは、法人税非課税となっている公立病院や社会医療法人病院などにおいて問題は解消されないため、認められない―。
多くの病院団体で構成される日本病院団体協議会の代表者会議は、11月30日にこういった声明「控除対象外消費税問題解消に向けての考え方」を取りまとめました。近くまとまる2019年度の税制改正に向けて、自由民主党などに早急に働きかけていくことになります。
法人税での対応では、法人税非課税の公立病院や社会医療法人病院では補填がなされない
保険医療については「消費税は非課税」となっているため、医療機関等が納入業者から物品等を購入する際に支払った消費税は、患者や保険者に転嫁することはできず、医療機関等が最終負担しています(いわゆる「控除対象外消費税」と呼ばれる)。このため、物価や消費税率が上がれば、医療機関等の負担が大きくなるため、1989年の消費税導入時から「医療機関等の消費税負担を補填するために、特別の診療報酬プラス改定を行う」(以下、消費税対応改定)こととなっています(消費税導入時の1989年度、消費税率引き上げ時の1997年度、2014年度)。
しかし、診療報酬による対応では、例え初再診料や入院基本料などの「基本料」に増点を行ったとしても、算定状況が個別医療機関で異なるために、「個別医療機関の補填の過不足」を解消することはできません。今般、2019年10月予定の消費税率引き上げ(8%→10%)に向けて、消費税対応改定の精緻化が中央社会保険医療協議会で議論され、「病院種別の補填の過不足」には相当程度対応できることが明らかになりましたが、「個別医療機関の補填の過不足」は調整のしようがないのです(関連記事はこちら)。
このため三師会(日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会)と四病院団体協議会(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院会協会で構成、以下、四病協)は、「医療界が一致団結できる具体的対応」として次のような仕組みを導入することを今年(2018年)8月29日に提言しました(関連記事はこちら)。厚生労働省も同様の税制改正要望を行っています(関連記事はこちら)。
(1)特別の診療報酬プラス改定(消費税対応改定)による補填を維持する
(2)個別の医療機関ごとに、▼診療報酬本体に含まれる消費税補填相当額▼控除対象外消費税の負担額(医薬品・特定保険医療材料を除く)—を比較し、医療機関の申告に基づいて「個別の過不足」に対応する
このうち(2)の「個別の過不足への対応」について、一部では「法人税によって控除対象外消費税負担を控除する仕組み」が議論されているようです。しかし、法人税が「非課税」となっている公立病院や社会医療法人など、「公益性が高く、地域医療確保の中核をなす医療機関」では、この仕組みによっては対応がなされないことは火を見るよりも明らかです。
そこで四病協に加えて、国立大学附属病院長会議や全国公私病院連盟、全国自治体病院協議会、国立病院機構、日本慢性期医療協会なども参画する「日本病院団体協議会」の代表者会議では、「すべての医療機関が不公平とならないような実効性のある対策が必要」との声明をとりまとめました。さらに、こうした実効性のある対策が実現しない場合には、「引き続き、控除対象外消費税問題の抜本的な解決に向けて検討する」よう求めています。
2019年度の税制改正大綱が近く取りまとめられるため、日病協では、早急に自由民主党(12月3日に党としての税制改正大綱をまとめる予定)をはじめとする関係者に、この声明を伝達し、対応を求める考えです。
なお、医師の働き方改革に向けて、厚生労働省は11月19日の「医師の働き方改革に関する検討会」において、勤務医の行う「研鑽(自己研鑽)」と「労働」とを峻別するとともに、「勤務終了後に病院内にとどまり、研鑽を行う場合には、上司の許可を得る」などといった手続きを行うことで、過重労働に歯止めをかける考え方を提示しました(関連記事はこちら)。しかし、日病協の代表者会議では「現場が混乱しかねない」という意見が相次ぎ、厚労省に「より簡便な手続きについて、具体的な案を提示してもらうよう、再考を求めていく」点で一致しました(関連記事はこちら)。
【関連記事】
病院間の情報連携が求められる中で「電子カルテの標準化」が必要―日病協
医療に係る消費税、2014年度の補填不足を救済し、過不足を調整する仕組み創設を―日病協
控除対象外消費税問題、「2014年度改定での補填不足」への対応も国に要望する―日病協
消費増税補填不足問題、次回増税時には同様の事態が生じないような対策を―日病協
CT・MRIの多数配置による、疾病の早期発見等のメリットも勘案せよ―日病協
消費増税への適切な対応求め、医療界の一本化が必要―日病協
2019年10月の消費増税に向け、「病院団体のメッセージ」をまとめる―日病協
急性期入院医療、重症患者割合等に応じて自由に行き来できる報酬とせよ―日病協
急性期一般入院料1の重症患者割合「30%以上」は厳しい―日病協・原澤議長
外来における患者相談窓口の設置、診療報酬での支援を―日病協
入院基本料、全病棟で「大幅引き上げが不可欠」―日病協が2回目の要望書を提出
7対1などの重症患者割合、看護必要度と診療報酬請求区分との相関を検証し、負担軽減を進めよ—日病協
地域包括ケア病棟の2分論、少なくとも2017年度データを見てから議論すべき—日病協
回復期機能、報告病床数は少ないが、機能は果たしている—日病協・原澤議長
DPCの激変緩和措置や重症度係数などに代わる措置を早急に検討すべき—日病協
日病協が2018年度改定で第1弾の総論的要望、第2弾要望に当たっては事前に厚労省と協議も
2018年度改定に向け、看護必要度における内科系疾患の評価充実など8項目を要望―日病協
看護必要度や在宅復帰率など、7対1入院基本料の見直し論議は最低限にすべき―日病協
病院による在宅医療提供、設立母体で可否を定めることは問題―日病協・神野議長
介護給付費分科会に、療養病床特別部会の病院代表委員の参画を求める―日病協
病棟群単位の入院基本料は厳しい、ICU廃止し7対1に統合するような動きを懸念―日病協
7対1の重症者割合25%は厳しすぎる、「病棟群別の入院料」は恒久措置にすべき―日病協・楠岡議長
7対1病院、10対1などへの移行見据え「病棟群単位の入院基本料」を認める―中医協総会
16年度診療報酬改定に向け、「病棟群単位の入院基本料」や「救急の評価充実」を改要望―日病協
病棟群単位の入院料や夜勤72時間ルールの見直しなどを要望―日病協
日病協、16年度報酬改定に向け「病棟群単位の入院基本料」要望を固める
16年度診療報酬改定に向け「病棟群単位の入院基本料」要望へ―日病協
消費税対応改定の方針固まる、病院種別間の補填バラつき等は解消する見込み―消費税分科会
消費税対応改定、「入院料への財源配分」を大きくし、病院の補填不足等を是正―消費税分科会
2014年度消費増税への補填不足、入院料等の算定回数や入院料収益の差などが影響―消費税分科会
医療に係る消費税、2014年度の補填不足を救済し、過不足を調整する仕組み創設を―日病協
医療に係る消費税、「個別医療機関の補填の過不足」を調整する税制上の仕組みを―2019年度厚労省税制改正要望
控除対象外消費税問題、「診療報酬で補填の上、個別に過不足を申告する」仕組みを提言―三師会・四病協
勤務医の時間外行為、「研鑽か、労働か」切り分け、外形的に判断できるようにしてはどうか―医師働き方改革検討会
医師の健康確保、「労働時間」よりも「6時間以上の睡眠時間」が重要―医師働き方改革検討会
「医師の自己研鑽が労働に該当するか」の基準案をどう作成し、運用するかが重要課題―医師働き方改革検討会(2)
医師は応召義務を厳しく捉え過ぎている、場面に応じた応召義務の在り方を整理―医師働き方改革検討会(1)
「時間外労働の上限」の超過は、応召義務を免れる「正当な理由」になるのか―医師働き方改革検討会(2)
勤務医の宿日直・自己研鑽の在り方、タスクシフトなども併せて検討を―医師働き方改革検討会(1)
民間生保の診断書様式、統一化・簡素化に向けて厚労省と金融庁が協議―医師働き方改革検討会(2)
医師の労働時間上限、過労死ライン等参考に「一般労働者と異なる特別条項」等設けよ―医師働き方改革検討会(1)
医師の働き方改革、「将来の医師の資質」なども勘案した議論を―社保審・医療部会(1)
勤務医の時間外労働上限、病院経営や地域医療確保とのバランスも考慮―医師働き方改革検討会 第7回(2)
服薬指導や診断書の代行入力、医師でなく他職種が行うべき―医師働き方改革検討会 第7回(1)
業務移管など「勤務医の労働時間短縮策」、実施に向けた検討に着手せよ―厚労省
医師の労働時間規制、働き方を変える方向で議論深める―医師働き方改革検討会(2)
勤務医の負担軽減目指し、業務移管など緊急に進めよ―医師働き方改革検討会(1)
タスク・シフティングは段階的に進める方向で議論―医師働き方改革検討会
医師の勤務実態を精緻に調べ、業務効率化方策を検討―医師働き方改革検討会
罰則付き時間外労働規制、応召義務踏まえた「医師の特例」論議スタート—医師働き方改革検討会
医師への時間外労働規制適用に向けて検討開始、診療報酬での対応も視野に—厚労省
医師も「罰則付き時間外労働の上限規制」の対象とするが、医療の特殊性も検討―働き方改革
医療・介護従事者の意思なども反映した供給体制の整備を—働き方ビジョン検討会
医師偏在是正の本格論議開始、自由開業制への制限を求める声も―医師需給分科会
医師の地域偏在解消に向けた抜本対策、法律改正も視野に年内に取りまとめ—医師需給分科会(2)
地域枠医師は地元出身者に限定し、県内での臨床研修を原則とする—医師需給分科会(1)
医師偏在対策を検討し、早期実行可能なものは夏までに固め医療計画に盛り込む—医療従事者の需給検討会
医師の働き方改革、細部論議の前に「根本的な議論」を改めて要請―四病協
医師の働き方改革に向け、議論の方向を再確認してもらうための提言行う—四病協