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2020年度予算、「医療介護総合確保基金の大幅増」「医師少数地域に赴任する医師への補助」など実施せよ―日医

2019.5.21.(火)

 来年度(2020年度)政府予算においては、例えば医師や看護師等の「働き方改革」に向けて、准看護師の養成を強化し「医師からタスク・シフティングを受ける看護師」の業務が過剰にならないよう配慮する必要がある。また、2025年度の地域医療構想実現を目指し、地域医療介護総合確保基金の「医療分」について、大幅な増額と柔軟な運用を実現すべきである。さらに、医師偏在の是正に向けて、例えば「医師少数の地域に赴任する医師」への経済インセンティブ付与なども検討する必要がある―。

 日本医師会は5月15日に、こうした要望内容(2020年度概算要求要望)を明らかにしました(日医のサイトはこちら(概要)こちら(詳細)こちら(新規項目の抜粋))。

がんゲノム医療の推進に向け、我が国でもリキッドバイオプシー確立など目指せ

 日医の2020年度予算編成に向けた要望内容は、(1)予防・健康(2)働き方改革(3)オリンピック・パラリンピック対策(4)地域医療(5)ICT・AI・IoT活用(6)災害対策(7)薬務対策への予算確保(8)介護保険(9)医療の国際貢献推進(10)医学・学術(11)医療安全(12)医療保険―の12項目と非常に多岐にわたります。このうち(12)の「医療保険」は、2020年度の診療報酬改定とも密接に絡み、今後、別枠で要望が行われることになります。(1)から(11)の項目の中から、気になるものを拾ってみましょう。

まず(1)の予防・健康に関しては、妊娠・出産から高齢者までの「切れ目のない健康長寿社会」の構築を求めるとともに、これを下支えする「生涯を通じた患者個人の健診データをかかりつけ医等が参照し、診断補助や保健指導に活用するための健診標準フォーマット」を運用するための財政支援を求めています。

また、我が国の死因第1位を独走する「がん」への効果的かつ効率的な治療法選択・開発に向けた「がんゲノム医療」推進に向けた取り組みの強化も求めています。具体的には、リキッドバイオプシー検査(唾液や血液などを検体として、低侵襲で実施するがんの診断)など「ゲノム情報を活用した、安全で精度の高い、かつ簡便な検査法」の確立や、「遺伝カウンセリングなどの相談体制」の構築、「治療に結びつかなかったゲノム治療難民のフォローアップ体制」構築などを要望しています。現時点では、がんゲノム医療によって最適な抗がん剤等が見つかる可能性は10-20%程度にとどまっており、残り8-9割の患者の落胆は大きくなることから、そのフォローが非常に重要となるでしょう(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。

さらに、▼妊産婦健康診査の公費負担増▼出産育児一時金の42万円から55万円への引き上げ▼不妊治療に関する公費負担制度の在り方見直し(所得制限の撤廃)▼病児・病後児保育の充実と、小児デイケア・ショートステイ施設の整備▼妊産婦医療費助成制度の整備▼▼治療と仕事の両立支援の推進(中小・零細企業への助成など)▼特定健康診査・特定保健指導実施体制の充実(特定健診とがん検診との同時実施体制整備など)▼糖尿病性腎症の重症化予防への支援▼アレルギー疾患対策の充実▼がん対策の充実(がん診断時からの緩和ケア実施など)▼難病対策の充実(難病拠点病院と地域医療機関との連携補助等、関連記事はこちらこちら)―など幅広い、保健医療の充実を求めています。

医師から業務移管される看護師が負担過剰にならないよう、准看護師育成も強化せよ

 また(2)の働き方改革に関しては、医師から多職種へのタスク・シフティングの推進支援などを要望しています。

 厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」では、勤務医の時間外労働上限を2024年4月から原則960時間以下とし、地域医療の確保に欠かせない救急病院等について特例的・暫定的に1860時間以下にするなどの方針を明確化。これを実現するために、今後、5年間で▼医療機関における労務管理の実施(勤務環境マネジメントの強化)▼医師から多職種へのタスク・シフティング(業務移管)等による労働時間の短縮―などを強力に推し進めることとしています(関連記事はこちら)。

 ただし、医師から、例えば看護師へのタスク・シフティングを進めるにとどまらず、すでに多忙な看護師の業務が過剰とならないよう、「看護師から多職種(准看護師や看護補助者など)へのタスク・シフティングを進め、看護師は『看護師でなければ実施できない業務』に特化する」ことが必要で、他の職種についても全く同じことが言えます。

こうした点を踏まえて日医では、▼准看護師の養成を強化し、病院が多くの看護師を確保できるよう支援する(准看護師養成所の教育環境改善)▼看護補助者の処遇改善▼医療秘書当の養成推進▼タスク・シフティングなどに先進的に取り組む医療機関への必要経費補助▼タスク・シフティングに資する什器・備品やICT機器導入の支援―などを行うよう求めています。

さらに、▼医療機関における勤務環境マネジメントの強化支援▼医療勤務環境改善支援センター(勤改センター)における労務管理支援事業の充実▼女性医師の就業・復職支援―などの実施も求めています。

地域医療構想の実現目指し、医療介護総合確保基金の積み増しなど実現せよ

 一方、(4)の地域医療に関しては、地域医療構想の実現に向けて、▼地域医療介護総合確保基金の「医療分」の大幅増と柔軟な運用▼地域医療構想調整会議の活性化支援(外来、介護連携のための部会設置など)▼かかりつけ医機能・身近な入院機能を担う中小病院や有償診療所への支援▼在宅医療を担う診療所・中小病院の確保▼救急医療「後」の患者を受け入れる後方施設の整備▼病床機能の収斂(機能転換で必要な人材の確保養成や病棟整備の補助)―などを行うよう求めています。

地域医療構想は「2025年度の実現」を目指して進められていますが、地域で基幹となる公立病院や公的病院等の機能改革について、必ずしも十分な絵が描けていないことから、今後、「再検証」を行うこととなっています。残された6年間で、どのように各地域の議論を活性化させ、機能分化等を推進していくのか、各医療機関の動向はもちろん、厚労省や都道府県の舵取りにも注目が集まります(関連記事はこちらこちらこちら)。

 
また2020年度には、第7次医療計画(2018-23年度)の中間見直し作業を各都道府県で行うことになります(2019年度中に厚労省で見直し指針を策定し、2020年度に都道府県で見直し作業を行い、21年度から見直し後計画をスタートさせる)。この点について日医では、▼小児在宅ケアの支援▼在宅療養患者の最終段階における「家族等からかかりつけ医への連絡体制」構築▼在宅副主治医制の運用支援▼在宅医療を担う医師・看護職員等養成のための啓発事業(研修など)▼汎用性が高く、継続性の担保されたICT整備―などが必要と強調。

 
さらに2020年度からは、医師偏在を是正するために各都道府県で「医師確保計画」をスタートさせます(2019年度に計画を作成)。新たな指標に基づく「医師多数」地域から「医師少数」地域への医師派遣などを強力に進めるための「魅力的なキャリア形成プログラム」を作成したり、将来においても医師が不足する都道府県から大学医学部に「地域枠」「地元枠」の設定等を求めることなどを盛り込みます(関連記事はこちらこちらこちらこちらこちら)。

この「医師確保計画」を実効性あるものとするために、日医は▼医師少数の区域等に赴任した医師への経済的インセンティブ付与▼医師少数の区域等に赴任した医師の「子弟」への教育・進学支援▼医療機関の勤務環境改善支援▼ドクターバンクの設置促進と全国ネットワーク化▼看護学生への支援(就学資金貸与)の充実▼訪問看護師の育成―などを行ってはどうかと提案しています。医師確保計画等に基づいた医師偏在対策が功を奏しない場合には、より強力な対策(例えば開業制限など)が検討される可能性もある点には留意が必要です。

なお、医師の偏在状況(配置状況)をより正確に把握するために、▼医師・歯科医師・薬剤師調査の見直し▼必要医師数調査の実施―なども日医は求めています。

介護医療院への転換支援、介護従事者の確保などに注力せよ

 また(8)の介護保険関係では、▼介護医療院への転換助成▼介護従事者の確保(労務管理や、出産・妊娠・育児への支援、新たなケア手法の検討など)▼地域包括支援センターの機能充実▼在宅医療と介護サービスを一体的に提供する体制の構築(多職種共同研修など)▼科学的介護実現に向けたデータ収集やデータベース構築とその活用▼介護保険総合データベース(通称、介護DB)の活用促進▼認知症にかかる地域支援事業(認知症初期集中支援チームなど)の充実▼かかりつけ医と認知症サポート医との連携推進▼認知症疾患医療センターの整備▼認知症研究の推進―などに注力することを求めています(関連記事はこちらこちら)。

 2022年度からは、いわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になりはじめ、2025年度にはすべて後期高齢者となることから、今後、医療・介護ニーズが急速に増加していくと予想されます。こうしたニーズに的確に対応するために、主に医療分野では「地域医療構想の実現」が、主に介護分野では「地域包括ケアシステムの構築」が進められており(それぞれ連関する)、日医もこれを積極的にサポートしていく考えを明確にしています。

 
 
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