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「利用者に価値のあるサービス」を提供する訪問介護事業所、2024年度介護報酬改定が経営の後押しとなる可能性—WAM

2024.8.16.(金)

訪問介護事業所の経営は厳しく、2024年度介護報酬改定における「基本報酬の引き下げ」によって、経営が厳しかった事業所が、さらに打撃を受けることが懸念される—。

一方、介護職員等処遇改善加算や口腔連携強化加算、特定事業所加算を取得し、「利用者にとって価値のあるサービスを提供する事業所」では、2024年度介護報酬改定が経営の後押しとなる可能性がある—。

福祉医療機構(WAM)が8月9日に公表した「2022 年度 訪問介護の経営状況について」から、こうした状況が明らかになりました(WAMのサイトはこちら)。

2021から22年度にかけて、訪問介護事業所の経営状況は若干悪化

WAMでは、経営資金を融資している貸付先から財務データ等の提供を受け、法人経営分析を行い、その結果を公表しています。今般、2022年度決算に係る訪問介護の経営状況分析結果が明らかにされました。

「訪問看護事業所全体」の経営状況(2021年度:1846事業所→2022年度:1901事業所)を眺めると、次のような状況が明らかになりました。

▽1事業所当たりのサービス活動収益
2021年度:4025万3000円 → 2022年度:4128万9000円
⇒103万6000円の増加

▽1事業所当たりのサービス活動費用
2021年度:3729万8000円 → 2022年度:3887万5000円
⇒157万6000円の増加

▽サービス活動増減差額比率
2021年度:7.3% → 2022年度:5.8%
⇒1.5ポイントの低下

▽赤字事業所割合
2021年度:40.1% → 2022年度:42.8%
⇒2.7ポイントの増加

こうしたWAMデータを眺めると「訪問介護事業所の経営は2021年度から22年度にかけて悪化している」ことが分かります。



もう少し詳しい状況を見ると、次のような点が明らかになりました。

▽1か月当たりのサービス提供回数
2021年度:829.6回 → 2022年度:850.3回
⇒20.6回の増加

▽収入単価(1回訪問当たりの単価)
2021年度:4043円 → 2022年度:4047円
⇒3円の増加

▽人件費比率
2021年度:74.3% → 2022年度:74.2%
⇒0.0ポイントの微減

▽従事者1人当たりのサービス活動収益
2021年度:4903円 → 2022年度:4965円
⇒62円の増加

ここからは、「若干」ですが、「サービス提供が効率的に行われている」状況を見ることもできますが、WAMでは「物価高騰へ対応するための各事業所の経営努力が伺えるが、経費の増加(経費率、2021年度:15.4→2022年度:16.8%)を埋めることは難しく、「依然として厳しい経営状況が続いている」と見ています。

訪問介護事業所の経営状況

「訪問回数の多い、少ない」が黒字・赤字経営を大きく分ける

また、赤字事業所と黒字事業所を比較すると、次のような特徴が浮かび上がってきました。

▽1事業所当たりのサービス活動収益
⇒黒字(5189万6000円)と赤字(2712万4000円)とでは、2477万3000円の差がある

▽1事業所当たりのサービス活動費用
⇒黒字(4443万7000円)と赤字(3144万7000円)とでは、1299万円の差がある

▽1か月当たりのサービス提供回数
⇒黒字(1090.8回)と赤字(529.1回)とでは、561.7回の差がある

▽1事業所当たり従事者数
⇒黒字(9.4人)と赤字(6.9人)とでは、2.5人の差がある

▽利用実人員10人当たりの従事者数
⇒黒字(1.23人)と赤字(1.25人)とでは、「マイナス0.02」の僅かな差

▽人件費率
⇒黒字(66.7%)と赤字(93.6%)とでは、「マイナス26.9ポイント」の差がある

▽従事者1人当たりのサービス活動収益
⇒黒字(5537円)と赤字(3928円)とでは、1609円の差がある

黒字・赤字別の経営状況



これらの状況を見てWAMでは、「職員の配置や処遇に差は少ない一方で、黒字事業所はサービス提供回数が多く、従事者1人当たりサービス活動収益に差がある。こうした状況が人件費率や経営状況の違いにつながっている」と分析しています。



さらに、社会福祉法人に限定して、「黒字事業所と赤字事業所とで、従事者1人当たりのサービス提供回数の差」を見てみると、下図のように▼「提供時間が長い」わりに単位数がそれほど高くない「生活援助45分以上」には大きな差がない▼単位数の低い「通院等乗降介助」は、赤字事業所のほうが多い▼その他の区分では、黒字事業所の提供回数が明らかに多い—ことが伺えます。「サービス提供回数の多寡が経営状況を分ける」と言えそうです。

社会福祉法人における従業者1人当たりのサービス提供回数内訳

介護職員の処遇改善にかかる加算、経営主体などによって取得率に差がある

他方、処遇改善加算について経営主体別に取得状況を見ると、【介護職員処遇改善加算I】については、▼社会福祉法人の平均や営利法人の黒字事業所では95%前後▼営利法人の赤字事業所では79.3%—と差があること、【介護職員等特定処遇改善加算I】(社会福祉士配置などを評価する)については、▼社会福祉法人の平均61.0%▼営利法人42.3%—と取得割合が低いことが分かりました。

2024年度介護報酬改定では、3種類の加算が【介護職員等処遇改善加算】に一本化されており、職員給与のベースアップに向け「加算をさらに活用する余地がある」とWAMは見ています。

営利法人事業所、「同一減算の対象外利用者」へのサービス提供を進める必要あり

さらに、「同一建物減算」に着目すると、次のような状況が分かってきました。

【社会福祉法人】(減算の有無別)
▽赤字事業所の割合に大きな差はない
▽サービス活動増減差額比率は「減算あり」のほうが2.4ポイント高い
▽「減算あり」では、収入単価が低いが、1か月当たりサービス提供回数が多く、1事業所当たりサービス活動収益も高い
▽「減算あり」では、「身体介護20分未満」の提供回数が著しく多いが、その他の区分のサービス提供回数には大きな差はない
▽平均訪問移動時間には一定の差があるが、「減算あり」でも13.1分と長く「同一建物減算の対象とならないサービス」提供も相当数行っていると考えられる(2024年度介護報酬改定で設けられた「12%減算」の新区分適用は少ないと考えられる)

社会福祉法人の経営状況(同一建物減算の有無別)



【営利法人】(減算の有無別)
▽「減算あり」のほうが、赤字事業所割合が低い
▽「減算あり」のほうが、サービス活動増減差額比率が高い
▽「減算あり」のほうが、利用実人員1人当たりサービス提供回数が非常に多く、「同じ利用者へ1日に複数回サービス提供を行う」事業所が一定数あることが分かる
▽「減算あり」のほうが収入単価は低いが、【特定事業所加算Ⅰ】の取得割合が高く、単価引き上げに取り組む事業所が一定数含まれていると考えられる
▽「減算あり」のほうが、「身体介護20分未満」の提供回数が多く、他の身体介護区分の提供回数も多い

営利法人の経営状況(同一建物減算の有無別)



なお、営利法人の「減算あり」は、社会福祉法人の「減算あり」よりも平均訪問移動時間が短く、WAMでは「営利法人のほうが、同一建物に居住する利用者へのサービス提供が多い傾向にある。こうした運営方針が継続されれば、2024年度介護報酬改定で設けられた厳しい同一建物減算が適用される事業所が一定数出てくるため、『減算対象外の利用者への訪問を増やす』などの対応が重要になる」と推測・アドバイスしています。



こうした状況を総合分析するとともに、2024年度介護報酬改定における「基本報酬の引き下げ」などを勘案し、WAMでは▼もともとサービス活動増減差額が少なかった事業所の経営への打撃が懸念される▼介護職員等処遇改善加算や口腔連携強化加算、特定事業所加算を取得するなど、職員の処遇改善に取り組み、質の高いケアを提供する「利用者にとって価値のあるサービスを提供する事業所」では、2024年度介護報酬改定が経営の後押しとなる可能性がある—と見通しています。



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